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数日後――
城がある筈の北東を目指し、今日も「不帰の森」を進むラディッシュ、ラミウム、ドロプウォートの三人。
どこまで行っても変わらぬ緑一色の景色にウンザリ顔のラミウムは、
「ドロプ……アンタぁ方角を間違えたりやしてないだろうねぇ」
ラディッシュも薄々感じていた不安ではあったが、当のドロプウォートはと言うと、
「私は星々から方角を読み取っていますの。首席誓約者(※誤:首席誓約者候補生)の私が、その様な至らぬ間違いを犯したりしませんわ♪」
鼻先でフンと笑い飛ばし、相も変らぬ何処から来る自信なのか、さも当たり前の様に言ってのけ、その迷いを感じさせない物言いに、
「確かに、アンタってば「知識だけ」なら一級の誓約者なのさぁねぇ」
知識以外は問題だらけである事を、暗に皮肉を込めて言ったつもりであったが、
「天世の方に「一級」と言われる事は、嬉しく存じますわ♪」
むしろ普通に喜ばれてしまい、
「さいですかぁ」
腑に落ちなさを滲ませるラミウムと、その横顔に苦笑いを浮かべるラディッシュ。
木々の切れ間に覗く青空を見上げ、
「あと、どれ位でお城に着くのかなぁ~?」
「さぁ……流石の私にもそこまでは……」
何の気なし、ドロプウォートも釣られて青空を見上げると、
「……ねぇドロプさん」
「何ですのラディ、改まって?」
「気が付いてる?」
「何を、ですの?」
「ドロプさんてさ、気持ちが落ち着てる時は自分の事を「私(ワタシ)」って言うのに、感情が高ぶったりすると「ワタクシ」って言ってるんだよ」
「ほへぇ?!」
感情が駄々漏れであった事実を唐突に指摘され、衝撃を受けるドロプウォート。
本人としては常在戦場、心は常に戦場(いくさば)にある心構えを以って、事変に動じず平常心、凛然たる気品を持ったクールビューティーを地で行く騎士のつもりであり、
「そっ、そんな「ワタクシ」はぁ!」
スグさま否定するも、
「ほらね♪」
「!」
(何と言う事ですのぉおぉぉぉおぉ!)
恥ずかしさから耳まで真っ赤に両手で顔を覆い隠すと、その初々しい反応に、ラディッシュは裏表を感じさせない笑顔で、
「何を考えてるか分からない「能面みたいな人」より全然良いと僕は思うけどなぁ~」
(ラディ……)
肩ひじ張っていた気持ちが少し軽くなり、羞恥の赤面交じりに笑顔を返すドロプウォートであったが、
「……ところで「ノウメン」って何ですの?」
「え? ノウメン?」
思い掛けないツッコミ返しに、
「えぇと………………」
しばし考え、
「何だろぉ?」
「いえ私に聞かれましてもぉ?」
首を傾げ合っていると、
『いつまで「ほのぼの空気」を出してんだい』
呆れ顔して話に割り込むラミウムであったが、ほんの少し開けた場所に出るなり、
「さぁて」
巨木の根元に座って幹に寄り掛かり、
「今日はココで休むよ」
「え!? で、でもまだ陽が高いよぉ?!」
驚いたラディッシュが太陽を指差し、
「そっ、そうですわぁ! 一刻も早く城に戻りませんとぉ!」
ドロプウォートも詰め寄ったが、
「だあぁ~もぅ、うるさいねぇ! アタシぁ、どっかの「おバカ」のせいで散々ぱら走らされてぇ、その疲れが抜けてないんだよぉ!」
ドロプウォートを見つめる恨めしそうな目に、
「あぁ~なるほどぉ~」
腑に落ちたラディッシュが悪気無くポンと手を打ち鳴らすと、
「もっ、申し開きもございませんですわぁあぁぁ……」
激しく落ち込むドロプウォート。
「あっ! ごっ、ごめんなさいドロプさぁん! 僕、そんなつもりじゃあぁ!」
慌てて取り繕っていると、その間に寝床籠の設置を済ませたラミウムが、いつも通りの涅槃姿でドロプウォートに右手を差し出し、
「よこしな」
「へ? 何を、ですの???」
きょとん顔に少しムッとした顔して、
「剣をよこしな」
「なぁ?!」
「何故も、へったくれも無いんだよ! アタシが起きるまで没収だって言ってんだ!」
「そんなぁ~これは誓約者(※誤:誓約者候補生)の魂ですわぁ~~~」
渡してなるものかと、剣を抱きかかえて半泣きで頬擦り。するとカチンと来たラミウムが不快感露わに眉間に深いシワを寄せ、
「その「魂」とやらを男におだてられた位で、ひょいひょいブンブン振り回されてたら、アタシぁおちおち寝てもいられないんだよォ!」
「で、でもラミィ、取り上げるのはあんまりじゃ……だって狩りをする時に必要、」
「バカァをお言いでないよラディ!」
「ひぃう!」
「コイツはねぇ、汚染獣よりずっと怖い「地世の連中」をその手で殴り倒せる「格闘の段位」も持ってんだよ!」
「えぇ!?」
(あの細腕でぇえぇぇ!?)
ギョッとした顔で振り向きドロプウォートを凝視するラディッシュであったが、何故か見つめられたドロプウォートはポッと恥ずかしそうに両頬を赤く染め、
(そこで照れる意味が、アタシにゃあ分からんよぉ)
ラミウムは困惑顔をしつつ剣をむしり取り、
「だからねぇラディ」
「?」
不敵な笑みを浮かべ、
「アンタは覚悟しとくんだねぇ」
「な、何のぉ?」
「ドロプが剣を持ってないからって甘く見て、デカ乳に発情してヤラシイ事でもしようモンなら「明日の朝陽は拝めない」って事をさぁね」
「すっ! す、す、す、すぅ、する訳ないでしょぅうぅ!」
真っ赤な顔しての全否定に、
「キッシッシッシッシッ」
イタズラっぽい笑みを見せるラミウムは、そこはとなく残念そうなドロプウォートの横顔に小さな笑みを浮かべ、
「まぁアンタらは若いんだ、アタシに迷惑掛からない範囲でなら好きにおやんなぁ」
((!?))
背を向けると、ギョッとした顔して固まる二人を残し、いつもと変わらぬ「秒」で寝息を立て始めてしまった。
「「…………」」
照れ臭そうな顔を、上目遣いで見合わせる二人。
気恥ずかしくもあり、正直チョット気まずい。
城がある筈の北東を目指し、今日も「不帰の森」を進むラディッシュ、ラミウム、ドロプウォートの三人。
どこまで行っても変わらぬ緑一色の景色にウンザリ顔のラミウムは、
「ドロプ……アンタぁ方角を間違えたりやしてないだろうねぇ」
ラディッシュも薄々感じていた不安ではあったが、当のドロプウォートはと言うと、
「私は星々から方角を読み取っていますの。首席誓約者(※誤:首席誓約者候補生)の私が、その様な至らぬ間違いを犯したりしませんわ♪」
鼻先でフンと笑い飛ばし、相も変らぬ何処から来る自信なのか、さも当たり前の様に言ってのけ、その迷いを感じさせない物言いに、
「確かに、アンタってば「知識だけ」なら一級の誓約者なのさぁねぇ」
知識以外は問題だらけである事を、暗に皮肉を込めて言ったつもりであったが、
「天世の方に「一級」と言われる事は、嬉しく存じますわ♪」
むしろ普通に喜ばれてしまい、
「さいですかぁ」
腑に落ちなさを滲ませるラミウムと、その横顔に苦笑いを浮かべるラディッシュ。
木々の切れ間に覗く青空を見上げ、
「あと、どれ位でお城に着くのかなぁ~?」
「さぁ……流石の私にもそこまでは……」
何の気なし、ドロプウォートも釣られて青空を見上げると、
「……ねぇドロプさん」
「何ですのラディ、改まって?」
「気が付いてる?」
「何を、ですの?」
「ドロプさんてさ、気持ちが落ち着てる時は自分の事を「私(ワタシ)」って言うのに、感情が高ぶったりすると「ワタクシ」って言ってるんだよ」
「ほへぇ?!」
感情が駄々漏れであった事実を唐突に指摘され、衝撃を受けるドロプウォート。
本人としては常在戦場、心は常に戦場(いくさば)にある心構えを以って、事変に動じず平常心、凛然たる気品を持ったクールビューティーを地で行く騎士のつもりであり、
「そっ、そんな「ワタクシ」はぁ!」
スグさま否定するも、
「ほらね♪」
「!」
(何と言う事ですのぉおぉぉぉおぉ!)
恥ずかしさから耳まで真っ赤に両手で顔を覆い隠すと、その初々しい反応に、ラディッシュは裏表を感じさせない笑顔で、
「何を考えてるか分からない「能面みたいな人」より全然良いと僕は思うけどなぁ~」
(ラディ……)
肩ひじ張っていた気持ちが少し軽くなり、羞恥の赤面交じりに笑顔を返すドロプウォートであったが、
「……ところで「ノウメン」って何ですの?」
「え? ノウメン?」
思い掛けないツッコミ返しに、
「えぇと………………」
しばし考え、
「何だろぉ?」
「いえ私に聞かれましてもぉ?」
首を傾げ合っていると、
『いつまで「ほのぼの空気」を出してんだい』
呆れ顔して話に割り込むラミウムであったが、ほんの少し開けた場所に出るなり、
「さぁて」
巨木の根元に座って幹に寄り掛かり、
「今日はココで休むよ」
「え!? で、でもまだ陽が高いよぉ?!」
驚いたラディッシュが太陽を指差し、
「そっ、そうですわぁ! 一刻も早く城に戻りませんとぉ!」
ドロプウォートも詰め寄ったが、
「だあぁ~もぅ、うるさいねぇ! アタシぁ、どっかの「おバカ」のせいで散々ぱら走らされてぇ、その疲れが抜けてないんだよぉ!」
ドロプウォートを見つめる恨めしそうな目に、
「あぁ~なるほどぉ~」
腑に落ちたラディッシュが悪気無くポンと手を打ち鳴らすと、
「もっ、申し開きもございませんですわぁあぁぁ……」
激しく落ち込むドロプウォート。
「あっ! ごっ、ごめんなさいドロプさぁん! 僕、そんなつもりじゃあぁ!」
慌てて取り繕っていると、その間に寝床籠の設置を済ませたラミウムが、いつも通りの涅槃姿でドロプウォートに右手を差し出し、
「よこしな」
「へ? 何を、ですの???」
きょとん顔に少しムッとした顔して、
「剣をよこしな」
「なぁ?!」
「何故も、へったくれも無いんだよ! アタシが起きるまで没収だって言ってんだ!」
「そんなぁ~これは誓約者(※誤:誓約者候補生)の魂ですわぁ~~~」
渡してなるものかと、剣を抱きかかえて半泣きで頬擦り。するとカチンと来たラミウムが不快感露わに眉間に深いシワを寄せ、
「その「魂」とやらを男におだてられた位で、ひょいひょいブンブン振り回されてたら、アタシぁおちおち寝てもいられないんだよォ!」
「で、でもラミィ、取り上げるのはあんまりじゃ……だって狩りをする時に必要、」
「バカァをお言いでないよラディ!」
「ひぃう!」
「コイツはねぇ、汚染獣よりずっと怖い「地世の連中」をその手で殴り倒せる「格闘の段位」も持ってんだよ!」
「えぇ!?」
(あの細腕でぇえぇぇ!?)
ギョッとした顔で振り向きドロプウォートを凝視するラディッシュであったが、何故か見つめられたドロプウォートはポッと恥ずかしそうに両頬を赤く染め、
(そこで照れる意味が、アタシにゃあ分からんよぉ)
ラミウムは困惑顔をしつつ剣をむしり取り、
「だからねぇラディ」
「?」
不敵な笑みを浮かべ、
「アンタは覚悟しとくんだねぇ」
「な、何のぉ?」
「ドロプが剣を持ってないからって甘く見て、デカ乳に発情してヤラシイ事でもしようモンなら「明日の朝陽は拝めない」って事をさぁね」
「すっ! す、す、す、すぅ、する訳ないでしょぅうぅ!」
真っ赤な顔しての全否定に、
「キッシッシッシッシッ」
イタズラっぽい笑みを見せるラミウムは、そこはとなく残念そうなドロプウォートの横顔に小さな笑みを浮かべ、
「まぁアンタらは若いんだ、アタシに迷惑掛からない範囲でなら好きにおやんなぁ」
((!?))
背を向けると、ギョッとした顔して固まる二人を残し、いつもと変わらぬ「秒」で寝息を立て始めてしまった。
「「…………」」
照れ臭そうな顔を、上目遣いで見合わせる二人。
気恥ずかしくもあり、正直チョット気まずい。
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