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 自ら「開講する」と言った講義を、自ら中断するラミウムに、

「えぇ~~~!」

 納得いかないラディッシュが不満を露わにする中、
(相変わらずの奔放ですわねぇ)
 ドロプウォートは、いつもの気まぐれと呆れつつ、
(ですが……)
 ふと、

(天世様が使う天法……直に、この眼で見てみたいですわ!)

 闘技場ではソレどころではなかったが、今は十二分に時間がある。
 呆れ返るよりも、好奇心と探求心が勝り、

「今後の考察の為にも良いではないですか、ラミウム様ぁ!」
「はぁ?」

 むしろラミウムが呆れ返った顔して、
「何だい何だぁいアンタまでぇ? こぉんな時だけ、大仰しく「様付け」に戻してんじゃないよ!」
 すかさずラディッシュも便乗するように、

「何でダメなんだよぉ~ラミィ~~~」

 背に纏わり付き、
「アンタも大概しつっこいねぇ~」
 振りほどこうと、振り返ったその先に、

(ッ!?)

 せがむ子犬の様な顔が。
 超絶イケメンが見せる「ねだり顔」に、
(くぅ)
 またも女心をキュンと鷲掴みにされたが、

(こっ、コイツは顔だけぇコイツは顔だけぇ、コイツはヘタレ勇者ぁ!)

 自身の中の「乙女な一面」に、必死に抗い、、
「だっ、だぁ~もぅ鬱陶しいねぇ!」
 ダルそうに振りほどき、

「理由があんだよぉ! 理由がぁ!」

 体よく諦めさせようとしたが、むしろやぶ蛇の言い訳。
「「…………」」
 やかましく喚いていた二人が急に静かになり、
「ん?」
 何事かと思った次の瞬間、二人が純粋無垢な眼差しで、

「「どんな理由ぅ?!」」
「むくっ……」

 言葉に詰まるラミウム。
(そんな眼で見られたら無下に扱えないじゃないかぁい!)
 日頃は口が悪く、性格も荒く、他人を皮肉って悦ぶ「癖(へき)」を持つ彼女ではあるが、その実、基本的には心根が優しく、面倒見の良い、気のイイヤツなのである。
 キラキラした眼差しで迫る二人に、

(どぅしたモンかねぇコイツ等ぁ~)

 精神的に追い詰められるラミウム。
「…………」
 正しき言い訳を探し求めてしばし黙り込み、ひねり出した答えは、
「め……」
「「め?」」
 固唾を呑んで答えを待つ二人を前に、
「…………面倒臭いから」
「「…………」」
 いつもと変わらぬ、取るに足りない理由。

『『ハァ?!』』

 二人は強烈な不服のデュオ。
 しかし当のラミウムも、散々考えた末の苦し紛れに口から出たのが、言った本人すら赤面する「あまりに子供染みた言い訳」で、
「うっ、うるさねぇ、アタシの勝手だろぉ!」
 内心の羞恥を誤魔化す為に憤慨して見せ、

「あっ、アタシぁもぅ寝るよ! 武芸に関してはドロプから教わりなぁ! 以上ッ!」

 一方的に言うだけ言うと二人に背を向け、いつもの涅槃姿に、狸寝入りと思われるほどの早さで一瞬のうちに深い寝息を立て始めてしまった。
 瞬間爆睡。
 いつもながらの「凄技(すごわざ)」である。
 向けられた背を前に、

「…………」
「…………」

 取り残された感の二人。
 とは言え「寝息を立てるだけ背中」を、いつまでも見ている訳にはいかず、
「ラミィの気まぐれには、振り回されてばかりですわぁ~」
 ドロプウォートが呆れ笑いを浮かべ、
「本当に」
 ラディッシュもヤレヤレ顔を返したが、
「ね、ねぇドロプさん……」
「?」
 顔色を窺い、おずおずと、
「そ、その……ドロプさんも、その……「天法」を使える……?」
「え? ま、まぁ「それなりに」ですわぁ」
 問われて表向き謙遜して見せたが、内心では鼻高々のドヤ顔で、

(無論ですわぁ!)

 当然である。
 彼女は、四大貴族の血を受け継ぎ、秀でたチカラを持つ「先祖返り」であり、更には誓約者候補生の中で「首席」でもあり、そんな彼女が「それなりの使い手」な筈も無し。
 しかし気になる男子を前に、
(自信は(当然)ありますが、自慢に見えては、些か「品」がありませんですわよねぇ)
 品と言う言葉を立前に、好感度を気にして表面上は控え目に、
「わ、私たち中世の民が使用する天法は、天世様の恩恵を受けて行使する、言わば二次的な物ですのよ。ですから天世の方と比べれば、」
「うん!」
 尊敬の念を以って真っ直ぐ見つめる熱い眼差しに、

(ひぃやぁあぁあぁぁ! ラディに見つめられていますわぁあぁぁ!)

 心の中は有頂天。
「と、とは言え、その効果と威力は「個人の資質次第」で無限大なのですわ」
 さりげなく、首席である自身の力量をアピールすると、
「うんうん!」
 大きく身を乗り出すラディッシュから、

「僕ぅ! 「ドロプさんの天法」が見てみたいィ!」

 待っていた一言が。

(来ましたわぁあぁぁ! 「ワタクシの」ぉのぉっぉおおぉおぉぉぉおおぉっぉおぉ!)

 心の中で歓喜の咆哮を上げつつ、表面上は頬をほんのり桜色に染める程度に押し留め、
「そっ、そこまで言われてはぁ止むを得ませんですわぁ」
 さも仕方ない風を装い、多少芝居がかったオーバーアクションで右手を天にかざすと、

≪天世より授かりし恩恵を以って、我が眼前の敵を打ち滅ぼさん!≫

 全身が青白い輝きに包まれ、やがて弓を構える様な立ち姿に、
「凄いよぉドロプさぁん! カッコイイィイィ!!!」
 称嘆の声に心持は、

(ひぃやぁあぁぁぁ! ラディに注目されていますわぁーーーッ!)

 今にも昇天しそうであったが、顔はあくまで凛然を貫き、

「なっ、何をぉこの程度で騒いでいますですのぉ! 本番はこれからですわよぉお!」
≪火よ、木よ、鉄の恩恵よ、我が手に宿りなさぁい!≫

 周囲の木々や草花などから「赤い光の粒子」がドロプウォートの両手に集まり始め、やがて光は激しさを増して「赤き光の矢」を形作り、矢じりの輝きが一層強まった瞬間、

≪穿てぇえぇ!≫
 シャシャオォォーーーーーーン!

 解き放たれた「赤き光の矢」は立ち塞がる数々の巨木を物ともせずに一直線、何処までも突き進み、薙ぎ払われた木々は赤々と燃え上がり、やがて矢は垂直に切り立った崖の側面に激しく突き刺さると、

 バァオオオオオオオッ!!!

 巨大な火柱を吹き上げ、周辺一帯は火炎地獄と化した。
 逃げ惑う森の動物たち。
 惨状を目の当たりにラディッシュは、
「あ、あぁ…………」
 言葉を失い青ざめ、
「ど、ドロプさん……これって、大丈夫ぅ……なのぉ……」
 引きつり笑顔で振り向くと、

「調子乗ってぇやり過ぎてしまいましたわぁあぁっぁぁぁぁああぁ!」

 ドロプウォートが頭を抱えて屈み込んでしまった。
「えっ、えぇえぇぇえぇぇ?!」
(どっ、どうするのコレぇ!)
 驚愕するラディッシュ。
 すると今更ながら騒ぎに気付いたラミウムが、おっとりがてら眠気眼を擦りながら、
「ったく……なんだいなんだぁい騒々しいねぇアンタらぁはぁ~大人しくするって言葉を知らな……」
 起き上がって目の前の惨状に、

「ナァンジャコリャアァァァッァァアァ!!!」

 眠気も吹き飛んだ驚きで、

「何やってんだいアンタ等はァ!」

 跳ねる様に立ち上がると慌てふためき荷物をまとめだし、
「さっさとココからずらかるんだよォ!」
「「え!?」」
 ギョッとする、ラディッシュとドロプウォート。
「なっ、何言ってるのラミィ! 先ずは火を消さないとぉ!」
「そっ、そうですわぁ! ワタクシには消さなければならない責が!」
「責も癖も知ったこっちゃないねぇ! 今時分、火なんざぁ放っときゃそのうち勝手に消えるさぁね!」
 中世における神的存在のぶっちゃけに、

「「えぇ?!」」

 二人が批判交じりの驚きを見せると、ラミウムは焦りを露わ、
「それどころじゃないんだよォ!」
「「?」」
「ドロプゥ! アンタ過剰に強い天法を放ったろォ!」
「え? あ、はい……ですから……この様な有様にぃ……」
 反省しきり意気消沈、うつむく姿に、
「反省は後におしぃ!」
「へ?」
「いいからぁ死にたくなかったら今すぐココからずらかるんだよォ!」
 歯痒そうなラミウムは、ついに二人を置き去りに走り出し、

「「???」」

 訳も分からず荷物を手早くまとめ、ラミウムの後を追う二人。
 すると何処からともなく、

「「?」」

 聞き覚えのある地鳴りが。
「こっ、これって……!」
「まっ、まさか、ですわぁ……!」
 青ざめるラディッシュとドロプウォート。
 やがてそれは次第に大きく、揺れを伴い四方八方から。

「「汚染獣ぅううぅぅうっ?!」」

 血の気の引いた顔して急加速する二人。
 必死の形相で前を走るラミウムに追いつき、
「どういう事なのラミィ!」
「どう言う事ですのぉおぉ!」
「どうもこうもあるかァい! オマエ(ドロプウォート)が発した「強い天法」を感じ取って集まって来たに決まってんだろぅがぁ!」
「えぇ?!」
 無自覚な驚きに苛立ちは増し、

「オマエさんがやったのは汚染獣たちに「上質な餌(ドロプウォート)がココに居ますよ」と宣言したのと同じなのさぁねぇええぇ!」

 逃げ足を更に加速。二人を置き去りに、
「アタシぁヤツ等の糞になる気はないからねぇーーーッ!」
「ちょっと待ってよラミィーーー!」
「お待ちなさいラミィーーー!」
 二人も走るスピードを上げた途端、遥か後方、先程まで三人が居た辺りの木々が、

 バキバキバキバキバキィイィィィイ!

 豪快な音を立てて容赦なくなぎ倒され、

『『『『『『『『『『ガァルワァアァァーーーーーーーーーッ!!!』』』』』』』』』』

 赤黒い目をした無数の汚染獣たちが、組んず解れつ雪崩出た。

「「「出ぇたぁぁあぁあぁぁぁぁぁ!」」」

 魂が抜け出そうな悲鳴を上げて走る三人。
 汚染獣の皆様方はそんな三人をロックオン。極上のフルコース(天世人・先祖返り・異世界勇者)を求め、土煙を上げての猛追跡を開始した。

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