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更に数日後の昼食時――
ドロプウォートは木製スプーンでスープを一口頬張り、
「うぅ~ん、変わらず美味ですわぁ~~~」
至福の笑みに、
「ドロプさん、おかわりいる♪」
ラディッシュが嬉しそうな笑顔を返すと、
「お願いしますわぁ♪」
ためらいもなく器を差し出す。
異世界から来た勇者は、今や単なる料理人。
しかも手ぶらで闘技場から飛ばされた筈が、気が付けば「鍋」に「器」に「お玉」に「スプーン」と、木製調理器具が増えていた。そしてそれらを収納するカバンまで。
これらはドロプウォートが狩りに行っている間を使って、ラディッシュが木を削って作った物であり、カバンもドロプウォートが用意してくれた鹿の様な動物の皮を、植物の繊維の紐で簡素に縫い、リュックサック状に作った物である。
ラディッシュもスープを一口運び入れ、
「うぅ~~~ん! 僕ながら上出来ぃい~~~!」
満足げに自画自賛。
「…………」
そんな微笑ましい二人を、倒木の上から涅槃姿で見下ろすラミウム。
ため息交じりに、
「これがぁ魔王と戦う「勇者と誓約者」の姿なのかねぇ……」
皮肉をこぼすと、ドロプウォートが「皮肉には皮肉を以って」と言わんばかりに冗談も交え、
「何もしないでゴロゴロ寝ているダケの天世様より、ずぅ~~~っとマシですわぁ♪」
「フン、そうかいよぉ悪かったねぇ♪」
ラミウムも鼻先で笑って応え、ラディッシュは「ははは」と苦笑い。
三人の距離は以前よりもずっと近いものとなっていたが、闘技場から飛ばされて以降、結局ラミウムは「朝昼晩」と食事を取る事が無く、流石に体調を心配したラディッシュが怒らせない様に顔色を窺いつつ、
「食べなくて、本当に大丈夫なの?」
何度かお伺いを立ててはみたものの、返る言葉いつも同じで、
『何度も言わせんじゃないよ。アタシは、アンタ等と体の出来が違うのさぁね。まぁ天世に帰ったら、たらふく美味いモンを食うさぁ。言わば今は「ウマイ物を、よりウマく食う為の修業中」ってとこなのさぁね♪』
笑い飛ばすのが常であった。
しかし、
(でもそれって、逆を言えば「お腹は空いてる」って意味なんじゃ……)
一抹の不安を抱いていると、
『言うだけ時間の無駄ですわ、ラディ』
ドロプウォートの辟易声が返り、
「人の厚意を無下に扱うラミィなど放ぅって置けば良いのですわぁ」
「う、うん……」
「ケッ、言ってくれるねぇ~」
これがお決まりのコースであった。
本人が拒む以上、強要する事は出来なかったが、素人目にも日々やつれて行くように見えるラミウムに不安を拭い去る事が出来ず、
(口に合わないのかもだけど、体の為に食べて欲しいなぁ……)
悩めるラディッシュの「健気な模索」は今日も続いていた。
するとドロプウォートが唐突に、
「でも不思議ですわぁ……」
「?」
「以前に話しました通り、ここは『不帰の森』ですわ」
「え? あ、う、うん、そうだね」
(話がいきなり変わった?)
意図が読み取れず、とりあえずの愛想笑いを返したが、話に興味を持ったのか寝そべっていたラミウムが身を起こし、
「なんだいなんだぁい、ドロプぅ~アンタ、随分と話を勿体振るじゃないかぁい」
からかい交じりのしたり顔を見せたが、ドロプウォートはいつになく真剣な表情で静かに頷き、
「駆け出し程度の「勇者と誓約者(※誤:誓約者候補)」である私達が、今もまだ、こうして生きていますわぁ」
「「!」」
第六感的に危機の近づきを感じているのか、
「地世のチカラに汚染され、狂暴化した野生動物である「汚染獣」たちに何度か遭遇はしましたが……」
次第に視線を落とすと、
(オセンジュウ?)
ラディッシュの頭の上には初耳キーワードによる「?マーク」が浮かんだが、気弱な彼は話の腰を途中で折るのに気が引け、尋ねる事はせず、耳にした内容から、
(あの「異様に凶暴な動物達」って地世のチカラに汚染されてたんだ……)
独自に推測。
改めて知る「この世界の常識の一片」ではあったが、この世界の住人にとってはあまりに常識的な話なのか、彼の驚きに気付かないドロプウォートの懸念話は更に続き、
「上級者の組ですら戻って来なかった「この森」で、ですわよぉ?」
思わず息を呑むラディッシュ。
理由が分からない事が、妄想と言う名の恐怖心を否応なしに掻き立て、
「ら、ラミィは……ど、どう思うぅ?」
安心と言う名の答えを求めてラミウムにすがったが、何故か唐突に不機嫌顔になり、
「アタシの知ったこっちゃないねぇ」
突き放す物言いで背を向けごろ寝。
その態度の変わり様に、
「貴方、もしかして何か心当たりがありますの?」
何かを感じ取るドロプウォート。
女同士だから分かる「第六感」とでも言うべき物なのかも知れないが、ラミウムは背を向けたまま、
「さぁね」
素っ気なく言い放ち、
「とにかく、アタシぁ早く城下に戻って、教会から天世に帰れりゃソレで構いやしなのさぁね」
「相変わらずの非協力的な天世様なこと、ですわぁ」
皮肉交じりにボヤいてみせ、ラディッシュが苦笑いを浮かべると、向けられたままの背中から、
(三世(さんぜ:天世、中世、地世の意)は、互いの関わりを絶った方が良いのさぁね)
いつになくシリアスな声の呟きが返り、
「「?!」」
((どう言う意味(なんだろぉ・ですの)?))
見つめていると、背中に視線を感じたラミウムが肩越しにチラリと振り返り、
「何でもないぁね! 忘れな!」
不愉快そうにプイッと再び顔を背け、
「アタシぁ寝るぅ!」
声を荒げたと思ったら「秒」で深い寝息を立て始めてしまった。
まるで話を打ち切る為の、狸寝入りの様に。得も言われぬモヤモヤだけを二人の胸に残して。
「…………」
眠りの世界にエスケープした背中を、物言いたげな表情で見つめるドロプウォート。
何を思ったのか、ため息交じりの少し大きめの呟きで以って、
(この御方、仕事もしないで日増しに「寝る時間ばかり」が増えてますわねぇ)
「!?」
声の大きさに慌てるラディッシュ、
(しぃ! 起きちゃうからぁあぁ!)
潜める様にジェスチャーすると、
『聞こえてるよ』
寝たと思われたラミウムが肩越し不機嫌顔して振り返り、
「!」
毎度の「ケンカ勃発」の気配に青くなるラディッシュであったが、ドロプウォートは平然と、驚いた様子さえ見せず、
「当然ですわぁ♪ 聞かせる為に呟いたんですものぉ」
「ケエェ、言ってくれるよぉ」
皮肉った笑みだけ返すと再び顔を背け、静かな寝息を立て始めてしまった。
ドロプウォートは木製スプーンでスープを一口頬張り、
「うぅ~ん、変わらず美味ですわぁ~~~」
至福の笑みに、
「ドロプさん、おかわりいる♪」
ラディッシュが嬉しそうな笑顔を返すと、
「お願いしますわぁ♪」
ためらいもなく器を差し出す。
異世界から来た勇者は、今や単なる料理人。
しかも手ぶらで闘技場から飛ばされた筈が、気が付けば「鍋」に「器」に「お玉」に「スプーン」と、木製調理器具が増えていた。そしてそれらを収納するカバンまで。
これらはドロプウォートが狩りに行っている間を使って、ラディッシュが木を削って作った物であり、カバンもドロプウォートが用意してくれた鹿の様な動物の皮を、植物の繊維の紐で簡素に縫い、リュックサック状に作った物である。
ラディッシュもスープを一口運び入れ、
「うぅ~~~ん! 僕ながら上出来ぃい~~~!」
満足げに自画自賛。
「…………」
そんな微笑ましい二人を、倒木の上から涅槃姿で見下ろすラミウム。
ため息交じりに、
「これがぁ魔王と戦う「勇者と誓約者」の姿なのかねぇ……」
皮肉をこぼすと、ドロプウォートが「皮肉には皮肉を以って」と言わんばかりに冗談も交え、
「何もしないでゴロゴロ寝ているダケの天世様より、ずぅ~~~っとマシですわぁ♪」
「フン、そうかいよぉ悪かったねぇ♪」
ラミウムも鼻先で笑って応え、ラディッシュは「ははは」と苦笑い。
三人の距離は以前よりもずっと近いものとなっていたが、闘技場から飛ばされて以降、結局ラミウムは「朝昼晩」と食事を取る事が無く、流石に体調を心配したラディッシュが怒らせない様に顔色を窺いつつ、
「食べなくて、本当に大丈夫なの?」
何度かお伺いを立ててはみたものの、返る言葉いつも同じで、
『何度も言わせんじゃないよ。アタシは、アンタ等と体の出来が違うのさぁね。まぁ天世に帰ったら、たらふく美味いモンを食うさぁ。言わば今は「ウマイ物を、よりウマく食う為の修業中」ってとこなのさぁね♪』
笑い飛ばすのが常であった。
しかし、
(でもそれって、逆を言えば「お腹は空いてる」って意味なんじゃ……)
一抹の不安を抱いていると、
『言うだけ時間の無駄ですわ、ラディ』
ドロプウォートの辟易声が返り、
「人の厚意を無下に扱うラミィなど放ぅって置けば良いのですわぁ」
「う、うん……」
「ケッ、言ってくれるねぇ~」
これがお決まりのコースであった。
本人が拒む以上、強要する事は出来なかったが、素人目にも日々やつれて行くように見えるラミウムに不安を拭い去る事が出来ず、
(口に合わないのかもだけど、体の為に食べて欲しいなぁ……)
悩めるラディッシュの「健気な模索」は今日も続いていた。
するとドロプウォートが唐突に、
「でも不思議ですわぁ……」
「?」
「以前に話しました通り、ここは『不帰の森』ですわ」
「え? あ、う、うん、そうだね」
(話がいきなり変わった?)
意図が読み取れず、とりあえずの愛想笑いを返したが、話に興味を持ったのか寝そべっていたラミウムが身を起こし、
「なんだいなんだぁい、ドロプぅ~アンタ、随分と話を勿体振るじゃないかぁい」
からかい交じりのしたり顔を見せたが、ドロプウォートはいつになく真剣な表情で静かに頷き、
「駆け出し程度の「勇者と誓約者(※誤:誓約者候補)」である私達が、今もまだ、こうして生きていますわぁ」
「「!」」
第六感的に危機の近づきを感じているのか、
「地世のチカラに汚染され、狂暴化した野生動物である「汚染獣」たちに何度か遭遇はしましたが……」
次第に視線を落とすと、
(オセンジュウ?)
ラディッシュの頭の上には初耳キーワードによる「?マーク」が浮かんだが、気弱な彼は話の腰を途中で折るのに気が引け、尋ねる事はせず、耳にした内容から、
(あの「異様に凶暴な動物達」って地世のチカラに汚染されてたんだ……)
独自に推測。
改めて知る「この世界の常識の一片」ではあったが、この世界の住人にとってはあまりに常識的な話なのか、彼の驚きに気付かないドロプウォートの懸念話は更に続き、
「上級者の組ですら戻って来なかった「この森」で、ですわよぉ?」
思わず息を呑むラディッシュ。
理由が分からない事が、妄想と言う名の恐怖心を否応なしに掻き立て、
「ら、ラミィは……ど、どう思うぅ?」
安心と言う名の答えを求めてラミウムにすがったが、何故か唐突に不機嫌顔になり、
「アタシの知ったこっちゃないねぇ」
突き放す物言いで背を向けごろ寝。
その態度の変わり様に、
「貴方、もしかして何か心当たりがありますの?」
何かを感じ取るドロプウォート。
女同士だから分かる「第六感」とでも言うべき物なのかも知れないが、ラミウムは背を向けたまま、
「さぁね」
素っ気なく言い放ち、
「とにかく、アタシぁ早く城下に戻って、教会から天世に帰れりゃソレで構いやしなのさぁね」
「相変わらずの非協力的な天世様なこと、ですわぁ」
皮肉交じりにボヤいてみせ、ラディッシュが苦笑いを浮かべると、向けられたままの背中から、
(三世(さんぜ:天世、中世、地世の意)は、互いの関わりを絶った方が良いのさぁね)
いつになくシリアスな声の呟きが返り、
「「?!」」
((どう言う意味(なんだろぉ・ですの)?))
見つめていると、背中に視線を感じたラミウムが肩越しにチラリと振り返り、
「何でもないぁね! 忘れな!」
不愉快そうにプイッと再び顔を背け、
「アタシぁ寝るぅ!」
声を荒げたと思ったら「秒」で深い寝息を立て始めてしまった。
まるで話を打ち切る為の、狸寝入りの様に。得も言われぬモヤモヤだけを二人の胸に残して。
「…………」
眠りの世界にエスケープした背中を、物言いたげな表情で見つめるドロプウォート。
何を思ったのか、ため息交じりの少し大きめの呟きで以って、
(この御方、仕事もしないで日増しに「寝る時間ばかり」が増えてますわねぇ)
「!?」
声の大きさに慌てるラディッシュ、
(しぃ! 起きちゃうからぁあぁ!)
潜める様にジェスチャーすると、
『聞こえてるよ』
寝たと思われたラミウムが肩越し不機嫌顔して振り返り、
「!」
毎度の「ケンカ勃発」の気配に青くなるラディッシュであったが、ドロプウォートは平然と、驚いた様子さえ見せず、
「当然ですわぁ♪ 聞かせる為に呟いたんですものぉ」
「ケエェ、言ってくれるよぉ」
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