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 一夜明け――
 
 仄暗い森にも朝陽の斜光が差し込み始め、ドロプウォートは目を覚ました。
(うぅ……か、体が痛いですわぁ……)
 寝ぼけ眼で起き上がり、
(よもや四大貴族であるこの私が、野宿する事になるとは思いもしませんでしたわ……)
 快眠から程遠い、固い地面での睡眠生活にゲンナリしていると、

(!)

 焚き火の炎が、未だ微かに燃えているのに気が付いた。
 傍には枯れ枝を手に、うつらうつらと舟を漕ぐラディッシュの姿が。
 陽が昇る直前まで「獣除け」と「暖を取る」為に、焚き火に枝をくべ続けていた事が容易に想像でき、
(顔だけの軟弱勇者のクセに無理をして、ですわぁ)
 思わず口元を緩めたが、倒木の上で眠るラミウムの背に視線を留めると、

「ッ!」

 何かを目にして苛立ち新た、唇をギュッと噛み締め、
(所詮この方も、人の優しさを理解しようともしない、弱者を上か見下ろし満足する輩の一人なのですわァ)
 ラディッシュの手料理が、全くの手付かずだったのである。


 それから数日――

 一行はドロプウォートの「星から方角を知る知識」を頼りに、進む方向を定め、「夜が明けたら移動する」を繰り返していた。様々な問題を内包しつつ。
 その間にも、出された料理にラミウムが手を付ける事は無く、いつしか彼女が食事をとらないのが当たり前となり『食事についてのモメ事』は、次第に無くなっていった。

 だからと言って、ラディッシュは諦めた訳ではない。

 理由なき断食を敢行する彼女に「何とか栄養を摂ってもらいたい」と、ドロプウォートがその日に採って来てくれた食材の中から手を変え品を変え、調理法を変えての模索を続けていた。
(やっぱり三人揃って食べたいよ)
 共に食卓を囲むことを夢みて。

 そして今日も「食事以外のモメ事」が。
 程良い大きさの倒木を目隠し代わりに、焚き火を囲むラディッシュとラミウム、そしてドロプウォートの三人。
 ラミウムは相も変らぬ涅槃ポーズで、昼食作りに精を出すラディッシュを見つめ、
「なぁラディ」
「ん? 何か言った、ラミィ??」
「アンタもさぁ一応は勇者なんだから「体を鍛えよう」とか少しは考えないのかぁい?」
 するとラディッシュは調理の手は止めずに「あはは」と軽やかに笑い、
「荒事は僕には向いてないよぉ」
 サラッと受け流したが、ラミウムはポンと一つ手を打ち鳴らして起き上がり、

「そうだよ、ラディ!」
「?」
「アンタ、ドロプの代わりに狩りに行っといでぇ!」
「!」
「好きな食材も手に入れられて、鍛錬代わりにもなって一石二鳥じゃ、」
「無理無理無理だよぉ! 動物を殺したり解体したりなんてぇ僕には出来ないよぉ!」

 真っ青な泣き顔して必死に訴えるラディッシュに、
「…………」
 かける言葉を失うラミウム。

 現状、猛獣が出る為に野草採取のみならず、肉類に関しても、ドロプウォートが獣を捕まえ血抜きや解体処理までし、切り分けてもらった物をラディッシュは受け取り調理していた。
 よって作る料理はドロプウォートが持ち帰る食材次第であり、メニューは食材を見てから考えるのが常であった。
 狩りが怖いと泣きべそをかく、エプロンしたイケメン勇者の有り様に、
「はぁ~」
 大きなため息を吐くラミウム。

(アタシぁ、何で「こんなヘタレ」を勇者に選んじまったのかねぇ~)

 呆れ顔で見つめていると、

『ラミィの身勝手に従う必要はありませんわぁ』

 真っ向から「否定の声」を上げるドロプウォート。
 旅を続ける中で、天世も、中世も、勇者も関係なく、互いを愛称で呼び合う間柄にはなっていたが、女子二人がラディッシュに描く「勇者像の違い」が新たな火種の一つとなっていた。
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