上 下
21 / 706

1-21

しおりを挟む
 二十分ほど経ち――

 未だ落ち込みから立ち直れていないのか、

『お待たせ致しましたわ……』

 仄暗い顔したドロプウォートが山盛りの食材を抱えて戻って来た。いつもの「根拠のない自信」は何処へやら。
 覇気の抜けた表情に、ラディッシュは些か引き気味の愛想笑いで、

「お、お帰りなさぁい」

 迎え入れ、
(元が優等生だから、(料理下手だった事実が)よほどショックだったのかなぁ?)
 心中をおもんぱかっていると、ドロプウォートはそのあからさまな愛想笑いに、

「…………」

 少なからずの違和感を抱きはしたが、その様な事に気を回せる精神的余裕が無い様子で、
「それで、どの様に調理しますですのぉ」
 採って来た食材を、ため息交じりでラディッシュの前に並べた。

 ラディッシュが察した通り、彼女は「知識はあっても料理一つ出来ない現実」を突き付けられ、ショックを受けていたのであった。
 自身を「婿取りの道具」としか見ていない一族(※両親以外)に、平和な時代に生まれた「無用の英雄、先祖返り」と煙たがる世間の人々に、自身の存在を認めさせる為、全てにおいて完璧で、秀逸であろうと思い、他人の意見に流される事無く、独学で努力もして来たつもりでいた。

 しかし、その「積み重ねて来た努力」の一部が付け焼き刃、メッキとして剥がれ落ちてしまい、ショックを隠し切れずにいたのである。

 暗く沈んだドロプウォートの表情から、
(とにかくご飯を食べてもらって、元気になってもらおう。元気の無いドロプウォートさんなんてぇ、ドロプウォートさんらしくないしぃ♪)
 ラディッシュは決意も新たに、

「さてぇ!」

 おもむろに腕まくり。
 調理を始めるのかと思いきや、二人の前で、

「「!!?」」

 いきなりキノコの一つを掴んで、生のまま小さくひと齧り。
 ギョッとするラミウムとドロプウォート。
 
「ちょ! アンタ大丈夫なのかァい!?」
「わっ、ワタクシ生で食べられるかまでは存じませんですわよぉ!?」

 血相を変えて慄く二人に、ラディッシュはドコ吹く風。

「もぅ大袈裟だなぁ~」

 ケラケラと笑いながら、
「味を確認するのに端をチョット齧っただけじゃないかぁ~」
 次々小さく齧って行き、

((ほ、本当に大丈夫((なのかぁい・ですのぉ))?!))

 固唾を呑んで見守る二人を前に、
「でも……」
 神妙な面持ちで試食の手を止め、

「「でも?」」

 二人が不安げに身を乗り出すと、

『心配してくれてありがとう♪』

 スキル「キラッキラの超絶イケメンスマイル」が無自覚発動。
 本人すら予期せぬ一撃で、

『『はぁぅ!』』

 女子二人は無防備状態であったハートを容赦なく撃ち抜かれた。
 ラミウムは慌てて背を向け、真っ赤な顔して両手で胸を押さえ、

(おぉ落ち着けぇアタシィ~! 落ち着くんだよぉ~!)

 ふらつく体を巨木の幹に手を着き支え、

(アレ(容姿)は、アタシが(ステ振りして)造ったモンじゃなぁいかぁあぁい!)

 ゲームなどでアバターを作った時、そこに自身の「好みの相手の姿」を投影させた覚えのある人は少なくない筈。
 当然の事ながらラディッシュの「今の容姿」も、ラミウム自身に自覚があったかは別にして、彼女の好みの集合体。その様な者に「キラッキラの笑顔」を向けられては、さしもの勝気なラミウムもイチコロなのは当然なのである。

(落ち着くんだアタシぃ~! あんなヘタレぃに動揺してどぅすんだぁい!)

 己を取り戻そうと、深く、深く深呼吸するのであったが、一方の「超」が付く程の「箱入り娘」ドロプウォートは更に深刻。
 女性が造った「女性が好む容姿」を持ったラディッシュは、言わば姫ゲームに出て来る「イケボを持った超イケメンキャラ」のようなもの。

 その姿、形が好みのど真ん中といかずとも、男性免疫が皆無に等しい彼女にとっては気絶ものの刺激物であり、キラキラスマイルを直視する事も出来ず、真っ赤な顔して両手で顔を覆い、

(おっ、落ち着くのですわぁワタクシィイィィ! ワタクシは四大貴族が令嬢にして誉れ高き「誓約者(※自称)の一人」ですわぁあぁ!)

 自身に厳しく言い聞かせ、
(こっ、この様な「顔だけの軟弱勇者」に心を揺さぶられてどぉうしますのぉおぉぉ!)
 律しつつ、
(そ、そうですわ! この動揺は不意を受けて驚いての事ですわ! ですから今なら、)
 指の隙間から、そぉ~~~っと様子を窺うも、

「ん?」

 そこには不思議そうな顔して見つめる、イケメンスマイルの首傾げが。

(ひぃうっ! それはぁ反則ですわぁあぁっぁあぁ!!!)

 無垢な乙女心は更に深く射抜かれ、もはや失神寸前。
 しかし、当のラディッシュに「女心を射抜こう」などと大それた考えは毛頭無く、彼女たちが突如見せた狼狽の意味さえ、元「否モテ少年」に分かる筈もなし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...