それは素晴らしきメイド達の世界

夏ノ木の実

文字の大きさ
13 / 66
救出任務 オレン・ピール

第十三話 対執事、戦闘開始

しおりを挟む
 ジディグの不敵な顔が俺に向けられた。
 その口元には面倒事をどう排除しようかという浅い思考が浮かび上がっている。

「おい、メイド連れの貧乏人。俺の食事の時間を邪魔してただで済むと思うのか?」

 ジディグの前に執事が立ちふさがり、俺の背後からも二人近づいてくる。早くも囲まれた。

「俺はルッフィランテのメイディアンーー葉風取太だ。オレン・ピールは連れ戻す。こんな扱いを許すわけにはいかない」

 胸のポケットに入っていたカードをオーナーのディルタアに押し当てた。
 皴の刻まれた手が乱暴に受け取る。

「腕に自信がおありですかな?」

 ディルタアはジディグから粘ついた笑みを受け、無言のやりとりの末に俺のカードを破った。

「お戯れが過ぎましたな。メイディアン――葉風殿。スキルも持たず単身で実力行使とは笑わせます」
「ぎゃひゃひゃっ。身体能力だけで喧嘩売るつもりかぁ? こいつぁ面白いバカが現れたなぁ!」

 平和的に交渉するつもりだったが、ディルタアは聞く耳を持っていない。ジディグという客が絡んでくるのも予定外だ。

「葉風殿、いますぐお引き取りいただけるのであれば、あなたとあなたのメイ奴は無傷で返してさしあげましょう。このメイ奴も代わりのメイ奴が見つかるまで置いていただければ、来月か再来月辺りにはお返しいたします」

 丁寧な口調から漏れる声音はどこか人を見下している雰囲気が感じられる。俺のスペックは舐められているということだろう。

「ぎゃひゃっ、どうでもいいけどよぉ! 俺の邪魔はするなよぉ? いまから一番楽しいとこなんだからよぉ! その薄汚いメイ奴を連れてとっとと帰りな」

 ジディグの方は余裕ぶってはいるものの、若干俺を警戒しているような雰囲気も感じられる。こいつは意外と小心者なのかもしれない。

「オレンを連れて帰る。それ以外の答えはない」
「構いませんよ」

 ディルタアは意味深な笑みを浮かべて呟いた。

「代わりにあなたが連れてきたメイ奴を置いていただければ、これはお返しいたします。そちらもルッフィランテのメイ奴でしょう? 私達にとってはどれも同じですので」

 その挑発に怒りを覚えたが、先に手を出すことはしない。
 フィルシーさんからの命令だ、可能な限り戦闘は避ける。
 すると俺の代わりに首を振ったのは意外にもジディグだった。

「おい、このメイ奴は俺の足置きなんだよ。俺に踏まれて喜んでるいい子なんだからよぉ! そんなチビガキと交換するなオーナー」 
「はい、ジディグ様がそうおっしゃられるのであれば、いまのお話はなかったことにいたしましょう。葉風殿、やはりこのままお引き取り下さい。ついでにあなたの上司に伝えておいてください。“メイドは元気にやっている”と」

 オーナーは憎たらしい笑みを浮かべ、目元に細かな皴を作る。
 俺を挑発して先に手を出させる算段だろう。それなら……。

「オレン、安心しろ。食事のマナーも知らないこの赤ん坊を片付けたら、すぐに連れて帰る」

 床の隅に縮こまっていたオレンが瞳に微かな希望を浮かべた。
 そして予想通り、挑発に慣れていなかったジディグは青筋を浮き上がらせ、テーブルに両こぶしを叩きつけた。

「お前、俺を赤ん坊扱いしたのか? この俺を! ……おい執事共、この勘違い野郎に世間の常識を教え込んでやれ。わかってるな!」

 執事達はジディグの命令にすぐには従わなかったが、主人であるディルタアと目配せで確認を取ると、軍隊のように動き出した。

 三対一、相手は全員俺より一つ下のクラスだ。どれほどの戦力差なのかは測るには丁度いいだろう。負けるつもりはない。

「ぎゃひゃひゃっ、後悔しろよ大バカ野郎! お前がボロ雑巾になったら、お前のメイド喫茶の前に吊るしてやるからな!」

 ジディグのくだらない野次が飛ぶ中、目の前の執事は直線的に手を伸ばしてきた。

 拳ではなく、人差し指と中指だけを突き立てるような攻撃。
 人間なら間違いなく突き指するが、指先はどうやらこいつらの攻撃の主体となる――いわゆる弱パンチのような役割らしい。

 そのリーチは長く、直線的な素早い動きで無数の手数を繰り出してくる。
 最初に戦ったチンピラ貴族の数倍は強い。が、正確無比な動きは、初動を見ればどこに攻撃が飛んでくるか読みやすいという欠点も孕んでいる。

 俺は前からの攻撃をすべて躱し、その腕を掴む。
 ねじるようにして投げ飛ばし、背後にいた執事からの攻撃を阻害。

 しかし、戦闘訓練を受けているだけあり、投げ飛ばした執事は空中で体勢を整え、空きテーブルに片足を乗せてノータイムで飛びかかってきた。

 正面に三人、手数はさっきの三倍。
 避けるのは難しいが、俺はその整い過ぎた動作から、三人の攻撃の軌道を読み切った。

 中心に隙。

 攻撃が当たらないと確信し、正面の執事に飛び込む。
 囲まれたときに絶対やってはいけない手だが、だからこそ執事達の意表を突いた。

 床を蹴ったスピードのまま中央の執事を吹っ飛ばし、空中で体勢を整えようとする相手よりも一歩先に左足を着地。
 回し蹴り――――

「――――一人目」

 鉄仮面だった執事が一瞬苦悶を浮かべ、床の上で力なく目を閉じた。
 これで残りの二人は気圧されただろう。

 そんな思惑を裏切るように、二人の執事は滑るような動きで俺を挟み撃ちできる位置に現れた。

 三対一が前提のスタイル。
 誰か一人を倒した瞬間、隙が生まれるのはむしろ攻撃した側であり、それは奴らにとって最大の狙い目だった。

 一撃で仕留める意思を感じる体重の乗った足技。反対側の執事は俺が攻撃を躱した瞬間に仕留める構え。

「………………」

 瞬時に思考を立て直し、最善の手を打つ。
 あえて避けず、床に倒れながら相手の最大級の技を防御。

「――っ」

 振り下ろされた脚により、初めてAクラス執事の力を知った。
 トラックのような重量感――腕でガードしているにも関わらず、背中が床に叩きつけられ、三階からから無防備に落下したような衝撃を受ける。

「鳥太様っ!」

 トマトの叫び声が遠くから聞こえる。
 隙を見てオレンを回収する予定だが、まだ動けないらしい。
 でも大丈夫、もうすぐ終わる。

 心の中で呟き、両腕で防いだ執事の足を払いのけた。
 すかさずもう一人からの追撃が飛んでくるが、一瞬早く起き上がり、体勢を整える。

 万全の状態で一対二に減らした。単純計算で勝率は初期状態の一・五倍。

 これならたとえスキルを使われたとしても……

「ぎゃひゃっ……ぎゃひゃひゃひゃっ…………ぎゃひゃぁっ」

 俺の思考を読み取ったかのように、ジディグの不気味な笑い声が店内に響いた。

「お前ぇ、その程度で強いつもりかぁ? 田舎出身の勘違い野郎がぁ。戦闘バカは世間を知らねえなぁ! お前程度の奴らは金持ちの周りには捨てるほどいるんだよぉ。所詮は元メイ奴のフィルシーが雇った貧乏人だなぁ!」

 ぎゃひゃひゃひゃ。

 ジディグがひらひらと手を振ると、執事達は俺に怒りの籠った一瞥をくれてから引き下がった。

「貧乏喫茶の執事なんかじゃつまらねぇなぁ。本当に強い奴を見せてやるよぉ。お前を半殺しにして全裸でメイド喫茶に送り付けてやる。ついでにフィルシーにもお仕置きしないとなぁ! お前が俺に盾突いた責任……そうだなぁ、メイ奴に逆戻りさせて、便所で俺のケツを拭く役にしてやるのがいいかもなぁ! ぎゃひゃっひゃひゃひゃっ!」

 ジディグは腹を抱えて笑いながら指を鳴らし、オーナーのディルタアが右手を翳した。
 その手が向かう先は、先ほどの執事よりも上等な服を着た別の執事。

「ジディグ様、Sクラス執事をお貸しいただきありがたく存じます」
「構わねえよぉ。この生意気な野郎に常識を教育してやらないといけねぇからなぁ!」

「鳥太様っ、退避します! Sクラス執事にスキルを使われたら、勝ち目はありませんっ!」

 トマトの叫び声がドアの方から聞こえた。まだオレンの避難は完了していない。
 俺と同クラスの執事プラス、その性能を一段階上げるという未知の能力――スキル。
 勝ち目はないだろう。けど、

「悪いな、トマト」

 最初から決めてたんだ。
 俺は前世でご主人様になれず、後悔しながら死んだ。
 何があってももうメイドさんを裏切らないと心の中で誓った。
 女神からもらったたった一度のやり直し。
 だから俺は、

「相手してやるよ、Sクラス執事。俺はルッフィランテ最強の矛――葉風鳥太だ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...