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プロローグという名の状況説明・3
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ゲームの『ゼルダ』の生き様は、人によっては哀れに思うだろう。実際前世の友達は「何度周回してもゼルダ救済ルートが見当たらないから自給自足するしかねぇ」と血の涙を流しながら二次創作していたし。
だがオレはそうは思わない。『ゼルダ』は覚悟を貫き、復讐を成し遂げ、誇りを抱いて死んだのだ。他人が哀れんでくるのは勝手にしろと思うが、哀れみから救いの手を差し伸べようとするのは彼女にとって侮辱に等しい。それは命をかけた彼女の覚悟を否定する行為だからだ。
……そう思うのは、オレ自身が間違いなく『ゼルダ』だからなのだろう。
前世の記憶を思い出しはしたけど、『ゼルダ』としての根本的な部分はおそらく変わってはいないのだろう。今のオレがゲームと同じ状況になったとしても、迷わず悪の華として散ってやろうと思うくらいには。
まあ、思い出したからには回避するに越したことはないけどな!!!
父が死ぬと分かってて指咥えて見てるなんてオレにはできないし、なんたって魔法のある世界だぜ?それも父親は優秀な竜騎士だぜ?これは極めるっきゃないだろ!!悪役令嬢してる場合じゃないね!!!
うちのイーグル家は平民だが、代々優秀な竜騎士を輩出している名家だ。住んでいる辺境を治めてる辺境伯家とは長年に渡って家族ぐるみの付き合いをしているくらいには覚えめでたい。父は本人が希望して、王立騎士団の辺境支部に勤めているが、父の弟である叔父はその優秀さと人柄を買われて栄誉ある近衛竜騎士となった。
イーグル家の竜騎士が優秀なのには秘訣がある。イーグル家は子どもが生まれると、同じ頃に卵から孵った子竜と一緒に育てるのだ。これによって、幼い頃から竜の騎乗・飛行訓練が出来るし、家族同然の信頼関係をはぐくむことが出来るのだ。まあ、イーグル家としてはどうしても隠したいというほどのことでもないし、先述した辺境伯家では率先してそれを取り入れて他の家にも情報や技術、知恵を提供しているらしいので、秘訣というほどのものではないけど。
何が言いたいかというと、環境がこんなにお膳立てされているのに乗らない手はないということだ!
オレの場合はレムグンドがそうで、生まれた時期的にレムグンドが兄でオレが妹の立場になる。頼れる兄貴分のおかげで飛行訓練も楽しいし、ここ数日のように父が長期の任務で家を空けていても寂しいと思ったことはな、い……。
ん?長期の任務?
………オレの頭の中で出川●郎が「ヤバいよヤバいよ!ヤバいよヤバいよ!」と叫んでいる。なんで●川が?いや、今はそれは置いておいて。
なんか、イヤな予感がする。
父は家を出る前、何と言っていたっけ?「あまり詳しいことは言えないが……」そう前置きして話してくれたのは、長く家を空けること、辺境付近での任務であること、困ったことがあったら近所のニナおばさんを頼ること。父が任務で家に帰らないことは今までもあったから疑問に思わなかったけど、今回のような長期間は初めてだ。
んん?
そういえば、前世で読んだアレイヤード視点の幕間で、ゲーム本編の時点で27歳のアレイヤードは「15年前に起きた侵略で云々」とか言ってなかったか?ということは、アレイヤードが軍事演習に参加したのは12歳の時。アレイヤードとゼルダの歳の差は5歳。つまりゼルダが7歳の頃になる。
んんん?
………頭の中で、宮川大●が「アカーーーーン!!」と叫んでいる。だからどうして宮●が?違う、それどころじゃない。
「妲己化秒読み5秒前?!!」
黙り込んでいたオレがいきなりアホな叫びを上げたことでレムグンドがびっくりしている。ほんとごめん、自分でもこれはちょっとどうかと思う。
「レム、頼む、力を貸してくれ!!」
父が不在の間の飛行は厳しく禁止されていた。レムグンドもそれを理解しているから、今まで父が居ない時は一度だって背中に乗せてくれた事はない。でも今は竜の翼が必要だった。軍事演習の場所を探すための高さと、一刻も早くそこへ向かうための速さが。
懇願を込めてレムグンドの瞳を見つめる。じっと見つめ合った時間はおそらく10秒もなかったのだろうが、オレには永遠にも思えるほど長かった。ややあって、レムグンドはそっと額をオレの顔を擦り付けてくる。「いいよ」という彼の意思が、オレには分かった。
「ありがとう、レム」
ぎゅっとレムグンドの顔面に抱きつく。オレの相棒、大事な兄弟。貴方とこれからもずっと一緒にいるためにも、このフラグだけは絶対に折らなければならない。
本当なら竜に乗るための専用の鞍をレムグンドに着けなければいけないが、今は時間が欲しい。レムグンドの腕を踏み台にして背に飛び乗ると、座りの安定する場所にしっかりとしがみついた。
オレの準備ができたことを確認したレムグンドが、ふわりと翼を広げる。それと同時にレムグンドの周囲に魔力が渦巻くのが体感で分かった。竜は、厳密には翼だけで空を飛んでいる訳ではない。進行方向や速度の調節などで翼を使うが、その巨躯を飛翔させているのは竜という種族が意識せずにしようする魔法のような原理、らしい。竜に限らず、多くの魔物は未だその生態がはっきりと解明されていないので確かな事はまだ分からないそうだ。
レムグンドが、風を孕んだ翼を一度羽ばたかせた。と思った次の瞬間には、オレの家の屋根が眼下に見えた。レムグンドが飛び立ったのに気付いた近所の住人達が何だ何だと外に出てくる。あ、やば、ニナおばさんがオレに気付いてしまった。帰ったら怒られるな、これは。
……うん、怒られるためにも、しっかりフラグを折って、ちゃんと帰ろう。
「行こう、レムグンド。父さんのところに」
---乙女ゲームのシナリオを、ぶち壊すために。
だがオレはそうは思わない。『ゼルダ』は覚悟を貫き、復讐を成し遂げ、誇りを抱いて死んだのだ。他人が哀れんでくるのは勝手にしろと思うが、哀れみから救いの手を差し伸べようとするのは彼女にとって侮辱に等しい。それは命をかけた彼女の覚悟を否定する行為だからだ。
……そう思うのは、オレ自身が間違いなく『ゼルダ』だからなのだろう。
前世の記憶を思い出しはしたけど、『ゼルダ』としての根本的な部分はおそらく変わってはいないのだろう。今のオレがゲームと同じ状況になったとしても、迷わず悪の華として散ってやろうと思うくらいには。
まあ、思い出したからには回避するに越したことはないけどな!!!
父が死ぬと分かってて指咥えて見てるなんてオレにはできないし、なんたって魔法のある世界だぜ?それも父親は優秀な竜騎士だぜ?これは極めるっきゃないだろ!!悪役令嬢してる場合じゃないね!!!
うちのイーグル家は平民だが、代々優秀な竜騎士を輩出している名家だ。住んでいる辺境を治めてる辺境伯家とは長年に渡って家族ぐるみの付き合いをしているくらいには覚えめでたい。父は本人が希望して、王立騎士団の辺境支部に勤めているが、父の弟である叔父はその優秀さと人柄を買われて栄誉ある近衛竜騎士となった。
イーグル家の竜騎士が優秀なのには秘訣がある。イーグル家は子どもが生まれると、同じ頃に卵から孵った子竜と一緒に育てるのだ。これによって、幼い頃から竜の騎乗・飛行訓練が出来るし、家族同然の信頼関係をはぐくむことが出来るのだ。まあ、イーグル家としてはどうしても隠したいというほどのことでもないし、先述した辺境伯家では率先してそれを取り入れて他の家にも情報や技術、知恵を提供しているらしいので、秘訣というほどのものではないけど。
何が言いたいかというと、環境がこんなにお膳立てされているのに乗らない手はないということだ!
オレの場合はレムグンドがそうで、生まれた時期的にレムグンドが兄でオレが妹の立場になる。頼れる兄貴分のおかげで飛行訓練も楽しいし、ここ数日のように父が長期の任務で家を空けていても寂しいと思ったことはな、い……。
ん?長期の任務?
………オレの頭の中で出川●郎が「ヤバいよヤバいよ!ヤバいよヤバいよ!」と叫んでいる。なんで●川が?いや、今はそれは置いておいて。
なんか、イヤな予感がする。
父は家を出る前、何と言っていたっけ?「あまり詳しいことは言えないが……」そう前置きして話してくれたのは、長く家を空けること、辺境付近での任務であること、困ったことがあったら近所のニナおばさんを頼ること。父が任務で家に帰らないことは今までもあったから疑問に思わなかったけど、今回のような長期間は初めてだ。
んん?
そういえば、前世で読んだアレイヤード視点の幕間で、ゲーム本編の時点で27歳のアレイヤードは「15年前に起きた侵略で云々」とか言ってなかったか?ということは、アレイヤードが軍事演習に参加したのは12歳の時。アレイヤードとゼルダの歳の差は5歳。つまりゼルダが7歳の頃になる。
んんん?
………頭の中で、宮川大●が「アカーーーーン!!」と叫んでいる。だからどうして宮●が?違う、それどころじゃない。
「妲己化秒読み5秒前?!!」
黙り込んでいたオレがいきなりアホな叫びを上げたことでレムグンドがびっくりしている。ほんとごめん、自分でもこれはちょっとどうかと思う。
「レム、頼む、力を貸してくれ!!」
父が不在の間の飛行は厳しく禁止されていた。レムグンドもそれを理解しているから、今まで父が居ない時は一度だって背中に乗せてくれた事はない。でも今は竜の翼が必要だった。軍事演習の場所を探すための高さと、一刻も早くそこへ向かうための速さが。
懇願を込めてレムグンドの瞳を見つめる。じっと見つめ合った時間はおそらく10秒もなかったのだろうが、オレには永遠にも思えるほど長かった。ややあって、レムグンドはそっと額をオレの顔を擦り付けてくる。「いいよ」という彼の意思が、オレには分かった。
「ありがとう、レム」
ぎゅっとレムグンドの顔面に抱きつく。オレの相棒、大事な兄弟。貴方とこれからもずっと一緒にいるためにも、このフラグだけは絶対に折らなければならない。
本当なら竜に乗るための専用の鞍をレムグンドに着けなければいけないが、今は時間が欲しい。レムグンドの腕を踏み台にして背に飛び乗ると、座りの安定する場所にしっかりとしがみついた。
オレの準備ができたことを確認したレムグンドが、ふわりと翼を広げる。それと同時にレムグンドの周囲に魔力が渦巻くのが体感で分かった。竜は、厳密には翼だけで空を飛んでいる訳ではない。進行方向や速度の調節などで翼を使うが、その巨躯を飛翔させているのは竜という種族が意識せずにしようする魔法のような原理、らしい。竜に限らず、多くの魔物は未だその生態がはっきりと解明されていないので確かな事はまだ分からないそうだ。
レムグンドが、風を孕んだ翼を一度羽ばたかせた。と思った次の瞬間には、オレの家の屋根が眼下に見えた。レムグンドが飛び立ったのに気付いた近所の住人達が何だ何だと外に出てくる。あ、やば、ニナおばさんがオレに気付いてしまった。帰ったら怒られるな、これは。
……うん、怒られるためにも、しっかりフラグを折って、ちゃんと帰ろう。
「行こう、レムグンド。父さんのところに」
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