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どろどろと血みどろと ③

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「──で、ワタシの報告は以上。どうですか、主人の望む情報はあった?」
「ご苦労様。そうだな、私が望むものは手に入ったよ。
 彼らが向かった先、周辺に強力な魔力の揺らぎが確認されたが、封印王都に異変は無し。……傷一つない城壁は今も変わらず荘厳か」
「ルルは失敗したってこと? ワタシが聞くのも変な話ですけど」
「……分からないな、だとしてもここにきて新入りだ。ルルは成功したとみるのが妥当かな。
 しかし──完全な成功とはいかなかったのかもしれない。もしくは……いや、憶測は止めておこう。
 全くマキナめ。私の企みに感づくわ、その企みの直前に破滅の魔女の復活するときた。相変わらず、あの女の行動は何時になっても読めないな」 

 中央ギルド『塔』の最上階。ギルド長室。
 二人の影は入り口と窓際とで離れており、主人と呼ばれたフールは眼下に広がるセクレントンの街並みを見下ろし話していた。
 そして彼を主人と呼んだ割には口調も粗雑なその人。
 フランは黒い木製のドアに寄りかかりながら、不貞腐れたように話し出す。

「じゃあ止めるの? あの女に振り回されて終わり?
 ──まあ、いいですよ。もちろん主人の命令には従います、。だからいいですけど、でもジアンナ様には何て言うんですか? 言い訳は今のうちに考えておかなきゃいけませんよ」
「いや問題ない。多少のイレギュラーはあるが、新入りのシャーロット君一人、計画に支障をきたす存在ではない。
 第一彼らの機嫌も限界が近いしな、計画は変わらず明日だ。
 ……ああ、それと。マキナに負けたことで気を落とす必要は無いぞ」
「はい? 気を落とす? そんな風に見えましたか主人。生憎ですが最初から勝つつもり何てありませんから、ワタシ気にしてもいませんよ。
 それより仮格結晶イシスはもういい加減、新しいモノにしてくださらない? 行動にまで制限のかかる旧式は、いくら優秀なアンドロイドのワタシでも敵に後れを取る原因になりかねませんから。
 ……それと主人。あんなふざけた性格のインストール、もう2度としません」
「はは、やはり気にしているね」
「だからしていませんって」

 あくまで敗北は気にしていないと、フランは最後までそう言った。

「そうか、ならいいんだが。
 ではそれより明日のことだ。『塔』の仕掛けは万全に整っているか、フラン、それだけは確認しておいてくれ」
「いいですけど、別にあそこまでする必要あります? ちょっと過剰気味な気がしますけど」
「あるとも、用心に越したことは無い。
 それに悲鳴が合図になるんだ。あれくらい強烈なのがちょうどいい」
「うへぇ……。趣味悪いです、変態みたいです主人」
「もしほくそ笑んでいたのならそうかもしれないが、いたって真面目に話したつもりだよ。
 ──じゃあ、私はマキナとカレン嬢の対応が待っているのでね。その明日に備えてもう一度段取りを確認してくる」

 言って、フールは歩き、横に立つフランが代わりにドアを開けた。
 
「は。え、もう行くんですか?」
「ああ、何かあれば連絡結晶イシスに。それとも何か伝え残したことでもあるのかい?」
「もちろんですよ主人。私のための仮称結晶イシスはどうするんです?」

 とんとんと、胸のあたりを叩きながらフランは言う。埋め込まれた結晶《イシス》の事を言っていた。
 その様子に目を丸くしたフールは、思い出したとばかりに話し出す。

「……ああ! そうだそれは本当の話だった。言われてみれば確かにそうか、ずっと古いものを使っていたのはそうだったな。すまない、私としたことがうっかりしていた。
 しかし。……だがそうは言っても、一人の人間の精神を作るのと同じ故に仮称結晶イシスは高いからね……。
 ──そうだじゃあ、私が今度から君の体に術式を書き込んであげようか?」
「……ワタシの体を落書きまみれにするつもりですか? 変態主人。しかも着脱できない性格に何の意味があるんですって」
「ははは、それも言われてみれば」
 
 そんなフールの言葉に、フランは「はあ」とため息をつく。
 
「本当に大丈夫ですか主人。やっぱりジアンナ様に言い訳をする準備はしておいた方がいいんじゃないです?」
「心配ないよ。万一そうでも、尊き闇のジアンナ様も文句を言いはしない。なにせ望みというのは計画の過程に叶うのだからな。
 フールの名の通り、そんな納得のいく結果が待ち受けていることは約束しよう」

 フールは確かな声でそう言い、部屋を出ていった。
 残されたフランは、彼女もまた頼まれた仕事を遂行しようと動き出したが、けれどものの数秒が経った頃、フールはギルト長室に戻ってくる。

「あれ主人、忘れ物ですか?」
「ああ似た様なものだ。──フラン、最後に」
「はい?」
「マキナはアレでもセクレントン随一の魔法使いだ。敗北を気にすることは無いよ」 

 ……しつこいですよ、と。
 そう言ってフランはフールを部屋から蹴り出した。

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