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3.はじめての*
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相変わらず真っ暗な部屋の中、月明かりだけが頼りのそんな環境で。ディートリヒは悶えていた。
「あ、あ、っ……ダメ、だ……もう……」
「んー? なにが、だめ?」
悲鳴のような声が響くも、囁くように耳元で喋るイェルンは、それを止める気など毛頭無いようだ。ディートリヒの腕を拘束しながら互いの昂ったものを擦り付けるようにイェルンは腰を動かしていた。そんな戯れのような擦り合いを始めてから、かれこれ半刻ほどが経過していた。
気持ちが良い、しかし決定的な刺激は避けて意図的に行われるそれは、見事にディートリヒを追い詰めていた。
元より快楽に触れる機会なとそれほど無かったディートリヒには、この生温くてズルズルと快感を引き出してくるこの状況は辛いものであった。イキたくてもイけない。
そのような中で、彼の思考はすでに、ドロドロに溶け始めていた。何もかもを放り投げて、与えられる快感を求めてしまいそうになる。元よりイレギュラーに弱いディートリヒの事だ。もういっそ、自分から強請ってしまおうかと思うほどで。切羽詰まっているディートリヒは、既にそんな所まできてしまっていた。
それが許されると分かっているからこそのそんな思考。ディートリヒは既に、知らず知らずイェルンによって変えられつつあったのだった。
一方のイェルンだが、彼は元々の完璧過ぎる容姿とその才能から男も女も入れ食い状態で、やんちゃだった時代からそういった色事には滅法強かった。射精管理だって調教だってお手の物で、得たい情報の為に相手をドロドロにして聞き出すなんてことは朝飯前だった。
ただし、これは相手が少なからずイェルンに気がある時が多くて。逆にディートリヒのような、彼に全く気もない脈も無い相手に試みるのは初めてであったりする。
それ故にだろうか。イェルンはいつになく興奮していた。全く自分の事を話さない仕事人。恐らく何処かで囲われていた暗殺部隊か何かの実行部隊にいた、とイェルンは読んでいる。
そうでなければ、あのような明らかに堅気ではない人間達から追われ、しかも逃げ果せてしまうだなんて芸当は出来ないだろう。そしてだからこそイェルンは余計に燃えたのだ。
そんな裏の世界から見事に逃げおおせた大物を、自分が捕まえて好きなように躾け直しているのだ。これで興奮しないはずがない。イェルンは益々昂っていった。
隠したくても隠しきれない興味関心。勿論、そんな単純な理由だけではないのは事実だったが。この、完璧な自分からも逃げ果せようとしているこの男を籠絡できたら、一体どんなに楽しいだろうか。頑なに閉ざしているこの男の内側を暴けたなら、それはどれほどの快感になるだろうか。想像するだけでイェルンはイッてしまいそうになる。
新しい玩具、というと聞こえは悪いが、こんなところでたった一人、孤独な隠居生活を送るイェルンにとって、自分の領域内に転がり込んできたディートリヒは、その寂しさを埋めるには恰好の人物だったのだ。みてくれだけで自分を判断しない、ありのままを見てくれそうな人間。
変人が多いと有名なイェルンレベルの魔法使い界隈。一度興味を持たれたが最後、彼らはそれに強い執着を見せる。イェルンもまた例に漏れず、その内のひとりだった。ようやく出会えた運命。イェルンがそう簡単に手放すはずがなかった。
捕まえた。彼の歓喜の声は、この行為に集約されているようだった。
イェルンは最早、正常では無い思考でディートリヒを追い詰める事に精を出していた。この男がみっともなく追い縋ろうとする様を考えただけでイケそうだなんて。流石に変態すぎる、酔っているのだろうか、なんて、イェルンはあっちの方にイッてしまいそうな思考を努めて元へと戻したのだった。
するとその途端、己の下敷きになっているディートリヒから悲鳴のような喘ぎが聞こえてきたのだった。イェルンはふと見下ろし、その様子を舐めるように観察した。
「ッああ、もうッ、いや、だ……!」
そう切羽詰まった声が聞こえたかと思えば、ディートリヒは仰反るように頭を振りながら、ジワジワと続く快感を何とか逃そうと奮闘していた。イェルンによってその両腕は封じられ、しかも身体を密着されていて逃げ場は何処にもなく。ディートリヒの両脚はイェルンの身体に擦り付けられて悶えるように蠢いている。
そんな彼の様子をじっくりと観察しながら、イェルンはその顔に愉悦の表情を浮かべていた。好い具合に解けてきている。この強情そうな彼が腹を割るのは、きっとそう遠くないはず。
イェルンは満足そうに吐息を吐き出すと、ディートリヒの耳元でそっと囁いたのだった。
「イきたい? ディートリヒ」
「ッふぅ……ッ!」
最早それだけで快楽を拾うのか、彼は背筋をブルリと震わせた。きっと、絶頂まではもうすぐなのだろう。しかし、決定的な何かが足りない。それを彼は待ち望んでいる。その気持ちが、イェルンにもありありと伝わってきた。
だがここで何と、イェルンは動きをピタリと止めてしまった。突然取り上げられてしまった快楽に、イェルンの真下でディートリヒは、困惑に眉根を寄せていた。絶頂まではきっと、もう少しだったはず。咎めるようなその眼差しに、イェルンは大層興奮した。
「ッーー、」
それこそ、イェルンの求めるものだった。彼は、ディートリヒの口から言わせたいのだ。言われるがままの彼ではなく、イェルンもまたちゃんと求められたいのだ。
その思考が既におかしい事に、何でもできてしまうイェルンは気付きもしない。
そして彼は、不安そうなディートリヒに向かって優しく、まるでハジメテの人間にそう言ってあげるかのような声音で、そっと囁くように言うのだ。
「言ってよ、ちゃんと。僕意地悪だからさ、ディートリヒの口からちゃんと詳細に言ってくれないと出来ないんだ」
興奮しきった怪しげな雰囲気のまま、イェルンはディートリヒに告げた。
そして、それを聞いたディートリヒはと言えば。
だらし無く口を開けっ放しにしたまま情け無くも眉尻を下げ、困惑と絶望感の溢れる表情でイェルンを見上げている。薄い紫の目を涙で濡らしながらそんな表情をするものだから。イェルンは危うくイきかけてしまった。それを何とか根性で抑え込みながら、イェルンは再び囁くのだ。それはそれは楽しそうに、そして嬉しそうに。
「ね、君もイきたいでしょ? 僕もイきたいからさ、早く、言ってよ」
目を泳がせながら分かりやすく困惑するディートリヒに、イェルンは益々笑みを深めた。ここ数日で分かった事だが、彼は命令のように言えば逆らわない。それを普段から容易く利用する気にはならないけれども、今日のようなベッドの中でならば惜しげもなく使うのはアリだな、と、イェルンはしみじみ思うのだ。それで従われたら絶対に興奮する、と。
「ィ、きたーー」
「んん? 何?」
「――イきたいッ! 頼む、お願いだから、動くか、挿れるかしてくれッ」
半ば悲鳴のように叫ばれて、イェルンはゾクゾクと背筋を震わす。実際に目にし耳にしたそれは、想像していた以上にヨかった。
「ははッ――イイね、それ!」
興奮を隠しもせず、そう言ったイェルンの行動は早かった。身体を起こすと、お互いの先走りでドロドロになったそれを、ディートリヒの入り口に擦り付ける。余程期待しているのか、それだけでディートリヒの中がヒクつくのがイェルンにも分かった。ようやく、望むものが得られる。その時のディートリヒの顔と言ったら、なかった。
見てしまったその衝動のままに、イェルンは昂ったものを一気に奥へと突き入れた。
「ンン~~ッ!?」
「ふッ……、んんッ」
ずっと待ち望んでいた刺激だ。ディートリヒは貫かれるのと同時に絶頂へと達してしまっていた。彼のものから飛んだ精液が胸元だけでなく顔の方にまで達していて、それがまたイェルンの興奮を誘う。
そんなイェルンもまた、ディートリヒが達した事による締め付けと興奮から、遅れながら達してしまう。奥の方へ何度も何度も、精液を擦り付けるように昂りを叩き付ける。未だ絶頂の余韻でビクビクと震えるディートリヒは、擦り付ける動きにすら身体を震わせていた。それを満足気に見下ろすイェルンは、だらしなく顔を緩めながら、その余韻にしばらく浸った。
「あー……良い、ね、コレ。ディートリヒ、中、すっごいぐちゃぐちゃしてる」
「ッんむ」
ディートリヒの耳元で感じ入った声を上げながら、イェルンは再度口付けた。何故だかそうしたい気分で、その舌を引っ張り出しながら自分のものを絡み合わせる。
その間もディートリヒはされるがままで、いっそ自分からも絡み付けてくる。未だその余韻にぼんやりとしていて、いつもの張り詰めたような表情からは想像もできない。すっかり気を抜いた表情だった。
上も下も、経験がないわけではないだろう。けれど、快楽には全然慣れていなくて、こんな彼の溶け切った表情を見た事のある者はイェルンの他に存在はしないだろう。そんな事を考えると、彼の執着心がむくりと頭をもたげる。こうなってしまっては、恐らくイェルンは止まれない。昔から尽きることのない好奇心は、いつだってイェルンに楽しみを与えてくれる。そしてそれが時に、今回のような執着心を生むのだ。
ディートリヒの中で、先程果てたばかりのイェルンのものがあっという間に復活を遂げた。未だにふたりは、上も下も繋がったままなのだ。ディートリヒもそれを、腹の中で感じとっただろう。一瞬ギョッとしたようになったかと思うと、続けて眉間に皺を寄せた。口はイェルンによって未だ塞がれているので、その視線は雄弁にモノを語る。まだやるのか、と。
この男は、表情からその感情を読み取るのが難しい。そういう風に躾けられてきたのだろうけれど、その反動でなのか、気を抜いた時の彼の目は、雄弁にイェルンに語り掛けてくるのだ。
それで一層気を良くしたイェルンは。唇をそっと離すと、興奮しきったような掠れた声でディートリヒに告げる。
「はぁ……僕、ダメ、もう止まんない」
それを聞いた目の前の薄紫の目は、たちまち大きく見開かれたのだった。そうして、彼が何かを言うが早いか。
「ま、待て、さっきイッたばかり――ッんあぁ!」
イェルンは再び律動を始めたのだった。途端に上がった嬌声に、彼は益々昂っていった。
先程までのゆっくりとした律動とは違う、上から突き刺すようにナカを抉る動きだ。何度も何度も、イイ所ばかりを狙ってナカを擦る。時折ぐるりと中を掻き回すような動作を入れると、堪え切れなかった悲鳴がその口から零れ落ちた。
そんなディートリヒの些細な変化が楽しくてしかたない。イェルンの興奮は冷める事がなかった。
「ひ、ぃ、ッう、あ、ああッーー!」
「ああーーッ、イイ、……コレ、無理、我慢できない」
逃げられないように、ディートリヒの腰をガッチリと両手で掴み上げ、上から叩き付けるように腰を叩き付ける。そうするとイェルンのものが奥の方にまで届き、彼のナカ全体が蠢いているのすらも感じ取れた。上から、ディートリヒの悶える様子を見ながら腰を振る。むくむくと首をもたげ始めた嗜虐心に、言い知れない興奮を覚えた。彼をここまで追い詰めているのは自分なのだ。そう思うと、どうしようもなく胸が高鳴った。
そして、そんな昂りを叩き付けられているディートリヒはと言えば。今の体勢が余程お気に召さないのか、ビクビクと快感に震えながらも腰に添えられたイェルンの手を外そうと躍起になっているようだった。感じ入りながらも、イェルンの指を一本一本外してこようとするその根性には関心すら覚える。
だが、そんな事をされてはイェルンも気が散ってしまう。せっかくの楽しいセックスに集中できない。はて、どうするのが良いか。イェルンの頭の中で、様々な体位が思い浮かんでは消えていった。
そして、ここでひとつ、イェルンはピッタリなものを選び抜く。決断してからのイェルンの行動は素早かった。
「――あ?」
ふと、叩き付ける動きをピタリと止める。するとディートリヒは目の前で、ポカンと呆けたような表情を見せた。あれ程嫌そうに手を毟り取ろうとしていたのに、いざこうして動きを止めてしまうと、呆気に取られ、物足りなさそうな表情でイェルンを見上げてくるのだ。それがどんなにイェルンを興奮させるか。この男はきっと思いつきもしないだろう。
そんなことで益々ある種の思いを拗らせていくイェルンは。ディートリヒの片足を高々と持ち上げると、繋がったままぐるんと体位を背位へと変えさせた。その手際の良さにディートリヒが一瞬唖然とするのだが、イェルンは何も言わず。背後からディートリヒの両腕をその手で拘束したかと思うと。彼の上半身を両腕で引っ張り上げた状態のまま、再び激し目な律動を再開させたのだった。
「ひっ、待て、それッ、んッ、あぁぁぁ!」
「はぁ、こっちのが、奥まで入る……」
背後から腕を拘束されて突かれたのでは、最早ディートリヒは抵抗する事すら出来ない。ずっぽりとイェルンのものを受け入れた穴からは、ぐちゅぐちゅと掻き混ぜるようなはしたない水音が漏れ出た。イェルンの言うように、彼の張り詰めたものがディートリヒの奥の方にまで届くのか、悲鳴のような嬌声は一段と大きく寝室に響いていた。
顔が見えないのが残念だ、とイェルンは思えども、これだけ感じていれば顔も蕩け切っていることだろう。そんな想像をしては、イェルンはより一層、その欲望を滾らせるのだった。
「ひぃ、あああッ、んんッ! も、ムリッ、だ、イェう、んぅぅッ」
「まだまだ、ディートリヒはイけるよねっ、体力ありそうだし」
結局その日は、ディートリヒが気絶するまでセックスは続く事になった。このとき、ディートリヒのイェルンに対するイメージが二つほど加わった。絶倫野郎とサディストである。
「アンタとはもうヤらない!」
「え? 何で? 気持ちかったでしょ? とろっとろの顔してたし」
「ッ、だからだ! あんな前後不覚になるまでヤられたら危ないだろう、俺は追われてるって言ったろ」
「えええー……ケチ」
セックスを終えて早々に、ディートリヒがそんな話をするも、イェルンにはそれを守る気などは更々ない。結局はイェルンの押しやら策略やらに負けてしまい、週に何回かは致す事になるまであと数日。ディートリヒは一歩一歩着実に、イェルンによって躾けられていくのだった。
「あ、あ、っ……ダメ、だ……もう……」
「んー? なにが、だめ?」
悲鳴のような声が響くも、囁くように耳元で喋るイェルンは、それを止める気など毛頭無いようだ。ディートリヒの腕を拘束しながら互いの昂ったものを擦り付けるようにイェルンは腰を動かしていた。そんな戯れのような擦り合いを始めてから、かれこれ半刻ほどが経過していた。
気持ちが良い、しかし決定的な刺激は避けて意図的に行われるそれは、見事にディートリヒを追い詰めていた。
元より快楽に触れる機会なとそれほど無かったディートリヒには、この生温くてズルズルと快感を引き出してくるこの状況は辛いものであった。イキたくてもイけない。
そのような中で、彼の思考はすでに、ドロドロに溶け始めていた。何もかもを放り投げて、与えられる快感を求めてしまいそうになる。元よりイレギュラーに弱いディートリヒの事だ。もういっそ、自分から強請ってしまおうかと思うほどで。切羽詰まっているディートリヒは、既にそんな所まできてしまっていた。
それが許されると分かっているからこそのそんな思考。ディートリヒは既に、知らず知らずイェルンによって変えられつつあったのだった。
一方のイェルンだが、彼は元々の完璧過ぎる容姿とその才能から男も女も入れ食い状態で、やんちゃだった時代からそういった色事には滅法強かった。射精管理だって調教だってお手の物で、得たい情報の為に相手をドロドロにして聞き出すなんてことは朝飯前だった。
ただし、これは相手が少なからずイェルンに気がある時が多くて。逆にディートリヒのような、彼に全く気もない脈も無い相手に試みるのは初めてであったりする。
それ故にだろうか。イェルンはいつになく興奮していた。全く自分の事を話さない仕事人。恐らく何処かで囲われていた暗殺部隊か何かの実行部隊にいた、とイェルンは読んでいる。
そうでなければ、あのような明らかに堅気ではない人間達から追われ、しかも逃げ果せてしまうだなんて芸当は出来ないだろう。そしてだからこそイェルンは余計に燃えたのだ。
そんな裏の世界から見事に逃げおおせた大物を、自分が捕まえて好きなように躾け直しているのだ。これで興奮しないはずがない。イェルンは益々昂っていった。
隠したくても隠しきれない興味関心。勿論、そんな単純な理由だけではないのは事実だったが。この、完璧な自分からも逃げ果せようとしているこの男を籠絡できたら、一体どんなに楽しいだろうか。頑なに閉ざしているこの男の内側を暴けたなら、それはどれほどの快感になるだろうか。想像するだけでイェルンはイッてしまいそうになる。
新しい玩具、というと聞こえは悪いが、こんなところでたった一人、孤独な隠居生活を送るイェルンにとって、自分の領域内に転がり込んできたディートリヒは、その寂しさを埋めるには恰好の人物だったのだ。みてくれだけで自分を判断しない、ありのままを見てくれそうな人間。
変人が多いと有名なイェルンレベルの魔法使い界隈。一度興味を持たれたが最後、彼らはそれに強い執着を見せる。イェルンもまた例に漏れず、その内のひとりだった。ようやく出会えた運命。イェルンがそう簡単に手放すはずがなかった。
捕まえた。彼の歓喜の声は、この行為に集約されているようだった。
イェルンは最早、正常では無い思考でディートリヒを追い詰める事に精を出していた。この男がみっともなく追い縋ろうとする様を考えただけでイケそうだなんて。流石に変態すぎる、酔っているのだろうか、なんて、イェルンはあっちの方にイッてしまいそうな思考を努めて元へと戻したのだった。
するとその途端、己の下敷きになっているディートリヒから悲鳴のような喘ぎが聞こえてきたのだった。イェルンはふと見下ろし、その様子を舐めるように観察した。
「ッああ、もうッ、いや、だ……!」
そう切羽詰まった声が聞こえたかと思えば、ディートリヒは仰反るように頭を振りながら、ジワジワと続く快感を何とか逃そうと奮闘していた。イェルンによってその両腕は封じられ、しかも身体を密着されていて逃げ場は何処にもなく。ディートリヒの両脚はイェルンの身体に擦り付けられて悶えるように蠢いている。
そんな彼の様子をじっくりと観察しながら、イェルンはその顔に愉悦の表情を浮かべていた。好い具合に解けてきている。この強情そうな彼が腹を割るのは、きっとそう遠くないはず。
イェルンは満足そうに吐息を吐き出すと、ディートリヒの耳元でそっと囁いたのだった。
「イきたい? ディートリヒ」
「ッふぅ……ッ!」
最早それだけで快楽を拾うのか、彼は背筋をブルリと震わせた。きっと、絶頂まではもうすぐなのだろう。しかし、決定的な何かが足りない。それを彼は待ち望んでいる。その気持ちが、イェルンにもありありと伝わってきた。
だがここで何と、イェルンは動きをピタリと止めてしまった。突然取り上げられてしまった快楽に、イェルンの真下でディートリヒは、困惑に眉根を寄せていた。絶頂まではきっと、もう少しだったはず。咎めるようなその眼差しに、イェルンは大層興奮した。
「ッーー、」
それこそ、イェルンの求めるものだった。彼は、ディートリヒの口から言わせたいのだ。言われるがままの彼ではなく、イェルンもまたちゃんと求められたいのだ。
その思考が既におかしい事に、何でもできてしまうイェルンは気付きもしない。
そして彼は、不安そうなディートリヒに向かって優しく、まるでハジメテの人間にそう言ってあげるかのような声音で、そっと囁くように言うのだ。
「言ってよ、ちゃんと。僕意地悪だからさ、ディートリヒの口からちゃんと詳細に言ってくれないと出来ないんだ」
興奮しきった怪しげな雰囲気のまま、イェルンはディートリヒに告げた。
そして、それを聞いたディートリヒはと言えば。
だらし無く口を開けっ放しにしたまま情け無くも眉尻を下げ、困惑と絶望感の溢れる表情でイェルンを見上げている。薄い紫の目を涙で濡らしながらそんな表情をするものだから。イェルンは危うくイきかけてしまった。それを何とか根性で抑え込みながら、イェルンは再び囁くのだ。それはそれは楽しそうに、そして嬉しそうに。
「ね、君もイきたいでしょ? 僕もイきたいからさ、早く、言ってよ」
目を泳がせながら分かりやすく困惑するディートリヒに、イェルンは益々笑みを深めた。ここ数日で分かった事だが、彼は命令のように言えば逆らわない。それを普段から容易く利用する気にはならないけれども、今日のようなベッドの中でならば惜しげもなく使うのはアリだな、と、イェルンはしみじみ思うのだ。それで従われたら絶対に興奮する、と。
「ィ、きたーー」
「んん? 何?」
「――イきたいッ! 頼む、お願いだから、動くか、挿れるかしてくれッ」
半ば悲鳴のように叫ばれて、イェルンはゾクゾクと背筋を震わす。実際に目にし耳にしたそれは、想像していた以上にヨかった。
「ははッ――イイね、それ!」
興奮を隠しもせず、そう言ったイェルンの行動は早かった。身体を起こすと、お互いの先走りでドロドロになったそれを、ディートリヒの入り口に擦り付ける。余程期待しているのか、それだけでディートリヒの中がヒクつくのがイェルンにも分かった。ようやく、望むものが得られる。その時のディートリヒの顔と言ったら、なかった。
見てしまったその衝動のままに、イェルンは昂ったものを一気に奥へと突き入れた。
「ンン~~ッ!?」
「ふッ……、んんッ」
ずっと待ち望んでいた刺激だ。ディートリヒは貫かれるのと同時に絶頂へと達してしまっていた。彼のものから飛んだ精液が胸元だけでなく顔の方にまで達していて、それがまたイェルンの興奮を誘う。
そんなイェルンもまた、ディートリヒが達した事による締め付けと興奮から、遅れながら達してしまう。奥の方へ何度も何度も、精液を擦り付けるように昂りを叩き付ける。未だ絶頂の余韻でビクビクと震えるディートリヒは、擦り付ける動きにすら身体を震わせていた。それを満足気に見下ろすイェルンは、だらしなく顔を緩めながら、その余韻にしばらく浸った。
「あー……良い、ね、コレ。ディートリヒ、中、すっごいぐちゃぐちゃしてる」
「ッんむ」
ディートリヒの耳元で感じ入った声を上げながら、イェルンは再度口付けた。何故だかそうしたい気分で、その舌を引っ張り出しながら自分のものを絡み合わせる。
その間もディートリヒはされるがままで、いっそ自分からも絡み付けてくる。未だその余韻にぼんやりとしていて、いつもの張り詰めたような表情からは想像もできない。すっかり気を抜いた表情だった。
上も下も、経験がないわけではないだろう。けれど、快楽には全然慣れていなくて、こんな彼の溶け切った表情を見た事のある者はイェルンの他に存在はしないだろう。そんな事を考えると、彼の執着心がむくりと頭をもたげる。こうなってしまっては、恐らくイェルンは止まれない。昔から尽きることのない好奇心は、いつだってイェルンに楽しみを与えてくれる。そしてそれが時に、今回のような執着心を生むのだ。
ディートリヒの中で、先程果てたばかりのイェルンのものがあっという間に復活を遂げた。未だにふたりは、上も下も繋がったままなのだ。ディートリヒもそれを、腹の中で感じとっただろう。一瞬ギョッとしたようになったかと思うと、続けて眉間に皺を寄せた。口はイェルンによって未だ塞がれているので、その視線は雄弁にモノを語る。まだやるのか、と。
この男は、表情からその感情を読み取るのが難しい。そういう風に躾けられてきたのだろうけれど、その反動でなのか、気を抜いた時の彼の目は、雄弁にイェルンに語り掛けてくるのだ。
それで一層気を良くしたイェルンは。唇をそっと離すと、興奮しきったような掠れた声でディートリヒに告げる。
「はぁ……僕、ダメ、もう止まんない」
それを聞いた目の前の薄紫の目は、たちまち大きく見開かれたのだった。そうして、彼が何かを言うが早いか。
「ま、待て、さっきイッたばかり――ッんあぁ!」
イェルンは再び律動を始めたのだった。途端に上がった嬌声に、彼は益々昂っていった。
先程までのゆっくりとした律動とは違う、上から突き刺すようにナカを抉る動きだ。何度も何度も、イイ所ばかりを狙ってナカを擦る。時折ぐるりと中を掻き回すような動作を入れると、堪え切れなかった悲鳴がその口から零れ落ちた。
そんなディートリヒの些細な変化が楽しくてしかたない。イェルンの興奮は冷める事がなかった。
「ひ、ぃ、ッう、あ、ああッーー!」
「ああーーッ、イイ、……コレ、無理、我慢できない」
逃げられないように、ディートリヒの腰をガッチリと両手で掴み上げ、上から叩き付けるように腰を叩き付ける。そうするとイェルンのものが奥の方にまで届き、彼のナカ全体が蠢いているのすらも感じ取れた。上から、ディートリヒの悶える様子を見ながら腰を振る。むくむくと首をもたげ始めた嗜虐心に、言い知れない興奮を覚えた。彼をここまで追い詰めているのは自分なのだ。そう思うと、どうしようもなく胸が高鳴った。
そして、そんな昂りを叩き付けられているディートリヒはと言えば。今の体勢が余程お気に召さないのか、ビクビクと快感に震えながらも腰に添えられたイェルンの手を外そうと躍起になっているようだった。感じ入りながらも、イェルンの指を一本一本外してこようとするその根性には関心すら覚える。
だが、そんな事をされてはイェルンも気が散ってしまう。せっかくの楽しいセックスに集中できない。はて、どうするのが良いか。イェルンの頭の中で、様々な体位が思い浮かんでは消えていった。
そして、ここでひとつ、イェルンはピッタリなものを選び抜く。決断してからのイェルンの行動は素早かった。
「――あ?」
ふと、叩き付ける動きをピタリと止める。するとディートリヒは目の前で、ポカンと呆けたような表情を見せた。あれ程嫌そうに手を毟り取ろうとしていたのに、いざこうして動きを止めてしまうと、呆気に取られ、物足りなさそうな表情でイェルンを見上げてくるのだ。それがどんなにイェルンを興奮させるか。この男はきっと思いつきもしないだろう。
そんなことで益々ある種の思いを拗らせていくイェルンは。ディートリヒの片足を高々と持ち上げると、繋がったままぐるんと体位を背位へと変えさせた。その手際の良さにディートリヒが一瞬唖然とするのだが、イェルンは何も言わず。背後からディートリヒの両腕をその手で拘束したかと思うと。彼の上半身を両腕で引っ張り上げた状態のまま、再び激し目な律動を再開させたのだった。
「ひっ、待て、それッ、んッ、あぁぁぁ!」
「はぁ、こっちのが、奥まで入る……」
背後から腕を拘束されて突かれたのでは、最早ディートリヒは抵抗する事すら出来ない。ずっぽりとイェルンのものを受け入れた穴からは、ぐちゅぐちゅと掻き混ぜるようなはしたない水音が漏れ出た。イェルンの言うように、彼の張り詰めたものがディートリヒの奥の方にまで届くのか、悲鳴のような嬌声は一段と大きく寝室に響いていた。
顔が見えないのが残念だ、とイェルンは思えども、これだけ感じていれば顔も蕩け切っていることだろう。そんな想像をしては、イェルンはより一層、その欲望を滾らせるのだった。
「ひぃ、あああッ、んんッ! も、ムリッ、だ、イェう、んぅぅッ」
「まだまだ、ディートリヒはイけるよねっ、体力ありそうだし」
結局その日は、ディートリヒが気絶するまでセックスは続く事になった。このとき、ディートリヒのイェルンに対するイメージが二つほど加わった。絶倫野郎とサディストである。
「アンタとはもうヤらない!」
「え? 何で? 気持ちかったでしょ? とろっとろの顔してたし」
「ッ、だからだ! あんな前後不覚になるまでヤられたら危ないだろう、俺は追われてるって言ったろ」
「えええー……ケチ」
セックスを終えて早々に、ディートリヒがそんな話をするも、イェルンにはそれを守る気などは更々ない。結局はイェルンの押しやら策略やらに負けてしまい、週に何回かは致す事になるまであと数日。ディートリヒは一歩一歩着実に、イェルンによって躾けられていくのだった。
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