22 / 32
5-3
しおりを挟む イオリが思った以上に機織りという仕事に造詣があると知ったグラバーは熱心に工場見学をさせてくれた。
初期の機織り機が見たい。
イオリの願いを叶える為に機織り達の小屋を出て、敷地の奥に向かう事になった。
案内された広場では年老いたエルフの男女が若い職人に手解きをしているところだった。
「カロス、ダイダ、お邪魔しますよ。」
気兼ねなく入っていくグラバーに2人の老エルフは何事かと顔を上げた。
「こちらのイオリ様は、ハニエル様とフェンバイン様もお認めになられた、大切なお客様です。
是非、イオリ様に初期の織り機を見せて頂きたいのです。」
2人は人族のイオリの周りにエルフのナギと獣人のラックとコーラルが纏わりついているのを見て、微笑んだ。
「イオリ様、こちらは長年、職人を勤め上げられた御2人です。
今は、若い職人を育てる事に尽力してくださっているんですよ。」
突然やってきた人族の若者にも2人は挨拶をすると手招きしてくれた。
「皆が騒いでた人族だね。
若い人。
機織りに興味があるのかい?」
グラバーを引き連れて近くの小屋に入っていったダイダを見送るとカロスは嬉しそうにイオリに椅子をすすめた。
「子供の頃、祖母が使っていました。」
「おや、それじゃ祖師様と故郷が同じなのかい?」
「祖師様?」
カロスは楽しそうに頷いた。
「機織り機をルーシュピケにもたらした、かつての恩人の事さ。」
「もしかして、その方は十蔵という名ではないですか?」
「ふむ・・・。
確かに、そんな名の響きだった気がするが・・・よく考えれば、ずっと祖師様としか呼んだ事がなかったな。
そうだ、獣人のとこに医者がいるんだが、その夫が詳しいぞ。」
「キキ医師の旦那さんのグリーズさん?」
確かに、歴史学者とキキ医師が言っていたのをイオリは思い出した。
「そう、その男だ。
学者というらしい。
もし、直接の話を聞きたければハニエルの爺様だな。
あの人はワシらよりも500年は年寄りだからね。
歴史の生き字引だよ。」
国の成り立ちから知っているハニエル老が十蔵を直接知っている可能性があると聞いて、イオリは胸を高鳴らせた。
「お前さんも祖師様の事を知っていなさるのか?」
カロスの問いかけにイオリは、どう答えればいいのか迷った。
「俺、アースガイルから来たんですよ。
十蔵さんはアースガイルを建国した初代アースガイル王であるマテオ様の親友なんです。
それで、折に触れて聞く名前なんですよ。」
「ほう、なんと なんとな。
それは初めて聞いたな。
学者の男が喜びそうな話だ。」
「カカカっ」と笑うカロスの後ろからダイダが戻ってきた。
「人の子。
これが、初期の織り機だよ。
祖師様が己の手で作られた希少な物だから、大切に扱っておくれ。」
ダイダが差し出すソレは、イオリが知っている機織り機よりも小さく抱えられる程しかない。
しかし、それ以上に重く感じるのは時を重ねてきた先人の置き土産だったからかもしれない。
初期の機織り機が見たい。
イオリの願いを叶える為に機織り達の小屋を出て、敷地の奥に向かう事になった。
案内された広場では年老いたエルフの男女が若い職人に手解きをしているところだった。
「カロス、ダイダ、お邪魔しますよ。」
気兼ねなく入っていくグラバーに2人の老エルフは何事かと顔を上げた。
「こちらのイオリ様は、ハニエル様とフェンバイン様もお認めになられた、大切なお客様です。
是非、イオリ様に初期の織り機を見せて頂きたいのです。」
2人は人族のイオリの周りにエルフのナギと獣人のラックとコーラルが纏わりついているのを見て、微笑んだ。
「イオリ様、こちらは長年、職人を勤め上げられた御2人です。
今は、若い職人を育てる事に尽力してくださっているんですよ。」
突然やってきた人族の若者にも2人は挨拶をすると手招きしてくれた。
「皆が騒いでた人族だね。
若い人。
機織りに興味があるのかい?」
グラバーを引き連れて近くの小屋に入っていったダイダを見送るとカロスは嬉しそうにイオリに椅子をすすめた。
「子供の頃、祖母が使っていました。」
「おや、それじゃ祖師様と故郷が同じなのかい?」
「祖師様?」
カロスは楽しそうに頷いた。
「機織り機をルーシュピケにもたらした、かつての恩人の事さ。」
「もしかして、その方は十蔵という名ではないですか?」
「ふむ・・・。
確かに、そんな名の響きだった気がするが・・・よく考えれば、ずっと祖師様としか呼んだ事がなかったな。
そうだ、獣人のとこに医者がいるんだが、その夫が詳しいぞ。」
「キキ医師の旦那さんのグリーズさん?」
確かに、歴史学者とキキ医師が言っていたのをイオリは思い出した。
「そう、その男だ。
学者というらしい。
もし、直接の話を聞きたければハニエルの爺様だな。
あの人はワシらよりも500年は年寄りだからね。
歴史の生き字引だよ。」
国の成り立ちから知っているハニエル老が十蔵を直接知っている可能性があると聞いて、イオリは胸を高鳴らせた。
「お前さんも祖師様の事を知っていなさるのか?」
カロスの問いかけにイオリは、どう答えればいいのか迷った。
「俺、アースガイルから来たんですよ。
十蔵さんはアースガイルを建国した初代アースガイル王であるマテオ様の親友なんです。
それで、折に触れて聞く名前なんですよ。」
「ほう、なんと なんとな。
それは初めて聞いたな。
学者の男が喜びそうな話だ。」
「カカカっ」と笑うカロスの後ろからダイダが戻ってきた。
「人の子。
これが、初期の織り機だよ。
祖師様が己の手で作られた希少な物だから、大切に扱っておくれ。」
ダイダが差し出すソレは、イオリが知っている機織り機よりも小さく抱えられる程しかない。
しかし、それ以上に重く感じるのは時を重ねてきた先人の置き土産だったからかもしれない。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説


フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる