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長い射精の余韻から抜け出したアレクシスは、達した衝撃で未だ震えるエドヴァルドを抱き寄せながら、労わるようにあちこちに口付けていった。
すっかり惚けているその横顔や唇、首筋、肩、至る所に唇を押し当てた。自分を受け止めるために頑張ってくれたその体が、愛おしくて仕方がない。
どこを見ているかも分からなかったその目に理性が戻る頃に、アレクシスは再びその唇に口付けた。そっと舌を差し込めば、今度はしっかりと返事が返ってくる。それすらも、嬉しくて仕方がなかった。
だがその時だった。突然、ピクリとエドヴァルドが体を震わせたのだ。それを不思議に思ったアレクシスが口を離すと、エドヴァルドが珍しく眉根を寄せる。
「どうした?」
「アレクシス……」
「ん?」
「まだ、やる気なのかい?」
言われてハッとして、アレクシスが僅かに体を離すと。未だに繋がったままのそこには、明らかに芯を取り戻した自身がでんと構えているのが分かった。
アレクシスは我ながらに体の素直さに呆れる。しかしその反面、これは生理現象であって、こんな時も可愛らしいエドヴァルドが悪いのだ、なんて思考すら覚えて、ひとりでクスリと笑ってしまう。
だがその瞬間、心なしがエドヴァルドの表情が引き攣った気がした。
「すまないな」
「……なあ、何が、すまないなんだ?」
「まだ一回だけじゃ孕めないかもしれないな」
「っアレクシス! 待て、そんな一度に何回もは……」
「大丈夫だ。先程も初めてなのに大丈夫だった。もう、勝手は分かったぞ。今度は負担をかけずに上手くやる」
「待て、勝手は分かったぞ、じゃなぁ――んんっ!」
アレクシスは、小うるさくなりそうだったエドヴァルドの口を己のそれで塞ぎ、再びゆるゆると動きを再開させた。
悲しいかな、エドヴァルドの望みを叶えるべく、アレクシスはいつにも増して、頑張る気満々でいたのである。
そのままエドヴァルドの体を抱え上げて、座るような体勢で上に乗せてしまう。両脚を抱え上げて下から突き上げてしまえば、エドヴァルドはもう逃げられない。
「ん、くはぁっ!」
「これなら、奥まですぐだ。」
そのまま、再びどろどろになるまでエドヴァルドを溶かしてしまってから。
アレクシスはその体をぎゅうと抱き締める。
上から体を押さえ込みながら腰を押し付けて、すっかり解けきってしまっている奥へ、再び侵入する。二度目ともなればもう、アレクシスも慣れたものだった。
乱れきったその体を抱き締めあやしながら、何度も何度もそこで射精した。それこそ、アレクシスのものがすっかり空になってしまうまで。エドヴァルドの意識がすっかり途切れてしまうまで。
「――もう、しない。あれはもうしたくない。普通のがいい……」
「機嫌を直してくれ、エディ?」
「っ、そうやってまた……アレク、君は少し加減というものを知った方がいいんじゃないかな」
「こうなってしまうのはお前だけだ、エドヴァルド。愛してる。早く孕んでもらいたいのだ。私に、早く二人の愛の結晶を見せてくれ」
「っ~~!」
そんな事を言われてしまうと、さすがのエドヴァルドも弱いようで。アレクシスに上手く言い包められながら。二人は順調に愛をはぐくんでいくのだった。
それから程なくして。
魔王アレクシスの伴侶懐妊の知らせが、国中へと響き渡る事となった。そのお相手の名前が、国民全体へと知らされるのはしばらく後の事にはなったが。
そんな彼らの内情を知る魔王城内に至っては。一部で大興奮の様相を呈した。
「ぎゃあーーーー! とうとう、とうとうでございますよ! ようやく、ようやくぅぅッ! このベルはエドヴァルド様のお子様の乳母としても人生を捧げる所存でございますうっ!」
「あ、うん、ベル殿……それはとても光栄な事には違いないのでしょうが。その、そうなったら私は一体、どうすれば……」
泣き崩れる程にベルは喜び、かねてからの乳母宣言を堂々と発表してみせる。
そして、そんな彼女を見ながらもその様子に引く事もなく。イェレは、その場で哀しそうにボソリと呟くのだった。親しい者しか入れぬこの場において、誰も取り繕う事なんてしやしない。
最早、乙女な淑女ベルの幻想など、誰も抱きはしないのだ。
「イェレ様……どうぞお気を確かに。きっと大丈夫でございますわ、ベル様もばばフィーバーが過ぎれば、ちゃんと冷静になれますのよ、きっと」
「ば、ばばフィーバー……」
「諦めろ。惚れたら負けなのだぞイェレよ」
放心しているイェレに、アスタロト公爵は言った。振り返ったイェレの肩に手を置き、彼はまるで遠くから見守るジジイのような表情をしていた。
「こんな、宮廷侍女の皮を被ったじゃじゃ馬、ジッとさせておく事など出来る訳なかろう。その内戦場へも飛び出して行きそうな勢いではないか」
「アスタロト公……貴方、実は面白がっていませんか?」
眉間に皺を寄せ、引き攣った顔で言ったイェレに、アスタロトはニヒルな笑みを浮かべた。
そして、そんな彼らの横でもう一人。このおめでたい出来事の仕掛け人たる彼は、どこか不満そうにしている。
「ねぇ、ちょっと……俺、今回めっちゃ頑張ったと思うんだけど。誰も俺の事褒めてくれねぇの? ねぇ、……今回さ、俺結構身体も命もはった気がするんだけど……」
口を尖らせ情けない表情をしているフルーレティは、褒美のひとつも、労りの声ひとつ掛けられなかった事が気に食わないようだ。
そんなフルーレティに、アスタロトがピシャリと言い放つ。
「貴様は少し黙っとれフルーレティ。貴様の所為で私がいつもどれだけ迷惑を被っていると思っている。今回の成果とソレとは、相殺だ相殺、この阿呆めが」
「ええええーーっ! そんな殺生なぁぁッ!」
そんな賑やかな様子を眺め、そして時に加わりながら、エドヴァルドもアレクシスもそれを噛み締めていた。
長く辛い戦いの後に訪れた最大の幸福。その感動に浸り、幸せを噛み締めながら、二人はそっと互いの手を取り合う。
「アレクシス」
「ん?」
「俺、今本当に、生きてて――生き返って良かったと思ってる」
「ふふふ、それならいい。私もだ、これほどの幸福を感じた事はない。ずっと、お前を愛す。私が本当に死ぬまで、ずっとだ」
「俺もだ、アレクシス。俺も愛してるんだ。君が生きている限り、ずっと側に居るよ。何があってもね。俺はアレクシスのものだから――」
そうして世界に逆らいつつも、二人で、そして三人で、彼等は共に己が道を行く。
例えこの先に何が待ち受けていたとしても、彼らはただ傍に居続けるのだ。
死が二人を別つその時まで。
了
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