勇者は魔王に剣を突き立てた

一ノ清たつみ(元しばいぬ)

文字の大きさ
上 下
17 / 17

2-5*

しおりを挟む


 それからしばらく。
 長い射精の余韻から抜け出したアレクシスは、達した衝撃で未だ震えるエドヴァルドを抱き寄せながら、労わるようにあちこちに口付けていった。
 すっかり惚けているその横顔や唇、首筋、肩、至る所に唇を押し当てた。自分を受け止めるために頑張ってくれたその体が、愛おしくて仕方がない。
 どこを見ているかも分からなかったその目に理性が戻る頃に、アレクシスは再びその唇に口付けた。そっと舌を差し込めば、今度はしっかりと返事が返ってくる。それすらも、嬉しくて仕方がなかった。
 だがその時だった。突然、ピクリとエドヴァルドが体を震わせたのだ。それを不思議に思ったアレクシスが口を離すと、エドヴァルドが珍しく眉根を寄せる。

「どうした?」
「アレクシス……」
「ん?」
「まだ、やる気なのかい?」

 言われてハッとして、アレクシスが僅かに体を離すと。未だに繋がったままのそこには、明らかに芯を取り戻した自身がでんと構えているのが分かった。
 アレクシスは我ながらに体の素直さに呆れる。しかしその反面、これは生理現象であって、こんな時も可愛らしいエドヴァルドが悪いのだ、なんて思考すら覚えて、ひとりでクスリと笑ってしまう。
 だがその瞬間、心なしがエドヴァルドの表情が引き攣った気がした。

「すまないな」
「……なあ、何が、すまないなんだ?」
「まだ一回だけじゃ孕めないかもしれないな」
「っアレクシス! 待て、そんな一度に何回もは……」
「大丈夫だ。先程も初めてなのに大丈夫だった。もう、勝手は分かったぞ。今度は負担をかけずに上手くやる」
「待て、勝手は分かったぞ、じゃなぁ――んんっ!」

 アレクシスは、小うるさくなりそうだったエドヴァルドの口を己のそれで塞ぎ、再びゆるゆると動きを再開させた。
 悲しいかな、エドヴァルドの望みを叶えるべく、アレクシスはいつにも増して、頑張る気満々でいたのである。
 そのままエドヴァルドの体を抱え上げて、座るような体勢で上に乗せてしまう。両脚を抱え上げて下から突き上げてしまえば、エドヴァルドはもう逃げられない。

「ん、くはぁっ!」
「これなら、奥まですぐだ。」

 そのまま、再びどろどろになるまでエドヴァルドを溶かしてしまってから。
 アレクシスはその体をぎゅうと抱き締める。
 上から体を押さえ込みながら腰を押し付けて、すっかりほどけきってしまっている奥へ、再び侵入する。二度目ともなればもう、アレクシスも慣れたものだった。

 乱れきったその体を抱き締めあやしながら、何度も何度もそこで射精した。それこそ、アレクシスのものがすっかり空になってしまうまで。エドヴァルドの意識がすっかり途切れてしまうまで。


「――もう、しない。あれはもうしたくない。普通のがいい……」
「機嫌を直してくれ、エディ?」
「っ、そうやってまた……アレク、君は少し加減というものを知った方がいいんじゃないかな」
「こうなってしまうのはお前だけだ、エドヴァルド。愛してる。早く孕んでもらいたいのだ。私に、早く二人の愛の結晶を見せてくれ」
「っ~~!」

 そんな事を言われてしまうと、さすがのエドヴァルドも弱いようで。アレクシスに上手く言い包められながら。二人は順調に愛をはぐくんでいくのだった。

 それから程なくして。
 魔王アレクシスの伴侶懐妊の知らせが、国中へと響き渡る事となった。そのお相手の名前が、国民全体へと知らされるのはしばらく後の事にはなったが。
 そんな彼らの内情を知る魔王城内に至っては。一部で大興奮の様相を呈した。

「ぎゃあーーーー! とうとう、とうとうでございますよ! ようやく、ようやくぅぅッ! このベルはエドヴァルド様のお子様の乳母としても人生を捧げる所存でございますうっ!」
「あ、うん、ベル殿……それはとても光栄な事には違いないのでしょうが。その、そうなったら私は一体、どうすれば……」

 泣き崩れる程にベルは喜び、かねてからの乳母宣言を堂々と発表してみせる。
 そして、そんな彼女を見ながらもその様子に引く事もなく。イェレは、その場で哀しそうにボソリと呟くのだった。親しい者しか入れぬこの場において、誰も取り繕う事なんてしやしない。
 最早、乙女な淑女ベルの幻想など、誰も抱きはしないのだ。

「イェレ様……どうぞお気を確かに。きっと大丈夫でございますわ、ベル様もばばフィーバーが過ぎれば、ちゃんと冷静になれますのよ、きっと」
「ば、ばばフィーバー……」
「諦めろ。惚れたら負けなのだぞイェレよ」

 放心しているイェレに、アスタロト公爵は言った。振り返ったイェレの肩に手を置き、彼はまるで遠くから見守るジジイのような表情をしていた。

「こんな、宮廷侍女の皮を被ったじゃじゃ馬、ジッとさせておく事など出来る訳なかろう。その内戦場へも飛び出して行きそうな勢いではないか」
「アスタロト公……貴方、実は面白がっていませんか?」

 眉間に皺を寄せ、引き攣った顔で言ったイェレに、アスタロトはニヒルな笑みを浮かべた。
 そして、そんな彼らの横でもう一人。このおめでたい出来事の仕掛け人たる彼は、どこか不満そうにしている。

「ねぇ、ちょっと……俺、今回めっちゃ頑張ったと思うんだけど。誰も俺の事褒めてくれねぇの? ねぇ、……今回さ、俺結構身体も命もはった気がするんだけど……」

 口を尖らせ情けない表情をしているフルーレティは、褒美のひとつも、労りの声ひとつ掛けられなかった事が気に食わないようだ。
 そんなフルーレティに、アスタロトがピシャリと言い放つ。

「貴様は少し黙っとれフルーレティ。貴様の所為で私がいつもどれだけ迷惑を被っていると思っている。今回の成果とソレとは、相殺だ相殺、この阿呆めが」
「ええええーーっ! そんな殺生なぁぁッ!」

 そんな賑やかな様子を眺め、そして時に加わりながら、エドヴァルドもアレクシスもそれを噛み締めていた。
 長く辛い戦いの後に訪れた最大の幸福。その感動に浸り、幸せを噛み締めながら、二人はそっと互いの手を取り合う。

「アレクシス」
「ん?」
「俺、今本当に、生きてて――生き返って良かったと思ってる」
「ふふふ、それならいい。私もだ、これほどの幸福を感じた事はない。ずっと、お前を愛す。私が本当に死ぬまで、ずっとだ」
「俺もだ、アレクシス。俺も愛してるんだ。君が生きている限り、ずっと側に居るよ。何があってもね。俺はアレクシスのものだから――」

 そうして世界に逆らいつつも、二人で、そして三人で、彼等は共に己が道を行く。
 例えこの先に何が待ち受けていたとしても、彼らはただ傍に居続けるのだ。

 死が二人を別つその時まで。








しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

宵の月
2022.11.13 宵の月

 別サイトの時から読んでました。侍女ベル様の魔王様への辛辣さにニヤけてからずっとベル様推しw魔王と勇者もベル様あってこそのハッピーエンド!ゆったりと進むダークな世界観の中で、ベル様はほっこりさせてくれる方でした。続編をまとめて一本化ありがてぇ。これからも作者様だけの世界観で語られる物語をの楽しみにしています!!

2022.11.13 一ノ清たつみ(元しばいぬ)

宵の月さん、
いつもご感想ありがとうございます!
毎回ベルについて語ってくださって、とても励みになります。シリーズを纏めて読みやすく出来たかなと思いますので、少しでも喜んでいただけたのでしたら何よりです。
本当に、ありがとうございます❤︎

解除

あなたにおすすめの小説

君の想い

すずかけあおい
BL
インターホンを押すと、幼馴染が複雑そうな表情で出てくる。 俺の「泊めて?」の言葉はもうわかっているんだろう。 今夜、俺が恋人と同棲中の部屋には、恋人の彼女が来ている。 〔攻め〕芳貴(よしき)24歳、燈路の幼馴染。 〔受け〕燈路(ひろ)24歳、苗字は小嶋(こじま)

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

僕のダーリンがパーティーから追放宣言されて飼い猫の僕の奪い合いに発展

ミクリ21 (新)
BL
パスカルの飼い猫の僕をパーティーリーダーのモーリスが奪おうとしたけど………?

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。