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 フルーレティとアレクシスの話し合いから数日が経った。
 エドヴァルドとフルーレティはその日から、何と仲良く話すような関係へと発展していった。
 フルーレティは元々他国へ潜入を行い情報操作やらを専門的に行うような男であって、コミュニケーション能力は魔人達の中でも特段秀でている。
 エドヴァルドの方も、生来からの人たらしの性質で、フルーレティから本当の意味で信用されるのもすぐであった。

 だがひとつ、エドヴァルドが知らない事があるとすれば。なぜ、フルーレティがそんなにもエドヴァルドと頻繁にばったりと廊下で出会すのかを。なぜ、エドヴァルドとの仲をフルーレティがそんなにも縮めようとしているのかを。
 フルーレティは、非常に優秀な魔王城きっての諜報員であり、工作員でもあるのだ。

「ーーあっはは、ソレソレ! 俺マジあん時は焦ったんだから」
「そんな事が……君の話を聞いてるとさ、俺並みに無謀な事やってるからさ、少しは気を付けないと」

 そんな二人の仲の良い姿を見る事も、ここ最近では珍しくない光景となっていた。
 そしていつもならば、二人はエドヴァルドの部屋の手前で別れる事になるのだが。この日は少しばかり勝手が違っていた。

「そうそう、俺さ、エドヴァルドに話しておきたい事あんだけど、部屋入って良い? あんま他所には知られたくなくってさぁ」
「ん? 珍しいな。いいよ、入って」

 そういう形でとうとう、フルーレティはエドヴァルドと、内緒話をする舞台を整えたのだった。強硬手段も辞さず、確実に相手をオトす工作員フルーレティの手腕が、ここで如何なく発揮される事になるのである。

「話って何だい?」

 何の疑いもなくフルーレティを招き入れたエドヴァルドは、自室に入った事もあり随分とリラックスしている様子だ。彼に任された業務も終わり、出入り口付近で首元のボタンを外して寛げさせている。
 フルーレティはそんなエドヴァルドに、ゆっくりと近付いていった。

「いやさぁ、多分城の人皆んな気になってると思うんだけど……ぶっちゃけ、魔王様とはどこまでイってんの?」
「!」

 問われたエドヴァルドは驚き、頭上のフルーレティの顔を見上げた。魔人は総じて身体が大きく、人間の平均身長程しかないエドヴァルドにとっては、比較的小柄なフルーレティですら見上げる程なのだ。
 そんなフルーレティが、いつものヘラリとした表情とは全く違う、真剣な表情をしている。ジリジリと詰め寄ってきている事が分かって、エドヴァルドは自然と後退ってしまった。

「な、何だよ急に……別に、俺とアレクシスは……」
「いやいや、それじゃ困るから。俺らの王様の将来に、俺らの命運も掛かってんの。ーーんで、何処までイった? 腹の奥にいっぱい注いでもらった?」
「ーーッ!」

 そんな事を、顔色も変えず明け透けに言ってのけるフルーレティに、エドヴァルドは動揺する。顔が火照っているのが本人にも分かるほどで、エドヴァルドは羞恥に眉根を寄せた。フルーレティの表情は変わらず、真剣そのものだった。
 ジリジリと後退するエドヴァルドを、フルーレティはじわじわと追い詰めていく。部屋の奥、寝室まではまだ少し距離があった。

「その調子だときっと、魔王様まだ話してないっすよねぇ……」
「っなにを?」
「なにってーー魔人はねぇ、人間と違って、雌雄同体に出来るんすよ。まぁ、オトコでもオンナでも、孕ませる事も孕む事も出来るっていうね。アンタは、もう魔人でしょ? そんでもって、魔王様のオンナ」

 フルーレティは言いながら、後ずさるエドヴァルドを追い詰める。とん、と背中が壁に当たり、エドヴァルドはとうとう逃げ場を無くしてしまった。
 追い付いたフルーレティは、その片腕だ逃げ道を塞ぎながら、4本の指でエドヴァルドの下腹部に触れてくる。腹をその指でぐいと優しく押し込み、服の上からいやらしく撫でるように触れた。
 エドヴァルドは、今何をされているのかよく分からなかった。けれどもそれが、とんでもなく卑猥な行為のように思えてしまって。自然と息が上がった。
 見上げたフルーレティの口許には妖艶な笑みが浮かんでいる。けれどもそれは嫌な感じのものでは全くなくて。まるでエロースの神をその身に宿したかのようなそんな男に、エドヴァルドは見惚れてしまった。

 フルーレティのに、エドヴァルドはまんまと引っかかってしまったのだ。続けて耳元へ顔を寄せられ、エドヴァルドはフルーレティの吐息を肌に感じる。

「ここ、分かる? 腹の奥の方にさ、まだ先があんの。ココまで挿れて犯して貰って、奥の奥に、魔王様の種子をぶち撒けて貰うの。それ、まだでしょ? ねぇ、エドヴァルド?」
「はっ、ぁ」
「想像した?」

 ココ、と口で言いながらいやらしい手つきで揉み込むように撫でる。その内にエドヴァルドは、本当にアレクシスが腹の中に入ってきているかのような錯覚を覚えてしまう。

「ナカの奥、ぐちゃぐちゃに掻き回して貰ってね、何度も何度も出してもらいなよ。そうすればきっと孕む」
「っぅ……」
「孕んだらもう、魔王様と死ぬまで一生、ずっと一緒に居るしか無いねぇ。次期魔王サマの親として、ずーっと魔王様と一緒」
「一生……」

 フルーレティの手によって撫で付けられている腹のナカが、何故だか酷く疼いた。もう頭ではアレクシスの事以外、考えてはいられない。自分の事などどうでも良い。アレクシスの為ならば、何にだってなってやる。
 エドヴァルドは息を荒げながら、ただただその人を想った。

「うん、一生ね。ーー嫌?」
「ッ……あ、いーー」
「ん?」
「嫌なわけ、ない……。ずっと共に居れるなら、アレクシスの……為に、なるなら、」
「うふふ、良い子だね。……その言葉が聞きたかった。じゃ、ご褒美」
「は、」

 言いながら、目の前のフルーレティが忽ち別人へと変化していく。真っ黒い艶やかな長髪、切長の目から、血のように紅いルビーのような色を覗かせる、同じ男でも見惚れてしまう美貌を持つその人は。
 エドヴァルドは、その場で目を大きく見開いた。

「ア、レクシス……」
「そ、魔王様の御姿だよ。俺はねぇ、一度触れれば誰にでも化けられる。あともう一つが……、そっちはまだ秘密かな。自分で確かめてねぇ?」
「っ……」

 アレクシスになったフルーレティは、そのまま動く事すら出来ないエドヴァルドへと、そっと口付けた。流れ込んでくる魔力はアレクシスのものとは違って、けれど目に入るのはアレクシスと瓜二つの優しげな笑みを象った目で。エドヴァルドは益々混乱する。

「は、ぁ……んんッ」

 別人であるはずなのに、別人に見えない。口の中を散々掻き回されて、吸われて、魔力を注ぎ込まれて、胎を外から刺激されて。エドヴァルドはもう、何が何だか分からなくなってしまった。気持ちが良すぎて、頭がぼうっとする。
 そして段々と、目の前の人がアレクシス本人なのだと錯覚してしまって。エドヴァルドは無性にアレクシスが欲しくて堪らなくなった。
 エドヴァルドは目の前のその人の股間に手を伸ばし、服の上から揉み込むようになぞった。
 それはいつもの二人の合図で、そうするとアレクシスは、嬉しそうに笑ってエドヴァルドに望んだものをくれる。
 だからこの時も、頭がドロドロに溶けてしまったエドヴァルドは強請ったのだ。早くナカに挿れてくれと。愛してくれと。

「え……うあっ、ちょ、まッぷーー!」

 しかし忘れてはいけない。今、エドヴァルドの目の前に居るのはフルーレティなのだ。エドヴァルドの突然の行動に狼狽えてしまって、流石のフルーレティですら焦りを見せる。何てったって、今相手にしているのは魔王様のイイ人なのだ。このままヤッてしまう訳にはいかない。最悪殺される。フルーレティは最悪の展開すら覚悟しながら、必死でエドヴァルドをどうにかするために奮闘するのだった。

 フルーレティはすっかり困り果てている。魔王アレクシスとエドヴァルドの仲をとり持つためとはいえ、変化の能力と魅了の能力を両方というのは、どうやら大盤振る舞いしすぎたようだった。
 今、エドヴァルドはすっかり術中に嵌まり、アレクシスの姿をしたフルーレティとコトに及ぼうとしている。策士策に溺れるとはこの事かもしれない。
 フルーレティは内心で悲鳴を上げていた。

 エドヴァルドの手が、偽アレクシスのそこに絡み付いてくる。最早オトコの良い所なんて知り尽くしてしまったエドヴァルドのそれは、明らかに女に触られるよりもだいぶ、かなりよろしかった。しかし勿論、その先に進むわけにもいかず。フルーレティは必死だった。
 そもそもフルーレティにだって好みがある。エドヴァルドは好みからは相当外れているのだし、こうやって積極的な男は少し苦手なのだ。
 彼の好みは、自分は強いと信じて疑わない人を、引っ掛けて犯して泣かせる事だ。強い者を屈服させて躾けるのが好きなのだ。エドヴァルドは、その対象ともかなり違う。
 だがしかし、こんな状態のまま放っておいてしまうと、何やら新たな扉を開いてしまいそうで。フルーレティはとてもとても動揺していた。

 焦り過ぎて回らない頭を使いながら何とか、魔術やら何やら、かつてない程に必死で重ね掛けをして。とうとうエドヴァルドを引き剥がす事に成功する。そのまま彼を軽く眠らせ、フルーレティは息も絶え絶えにその部屋から逃れたのだった。
 その場で己の分身を鎮めるのに苦労しただとか、げっそりとしながらも魔王アレクシスにエドヴァルドが大変だと知らせた時なんかは鬼の形相で凄まれたりだとか、踏んだり蹴ったりなフルーレティ。もう二度と、面白半分に誰かの仲をとりもつ事はしまい、と彼は心に固く誓ったのだという。
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