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王都とギルド潜入
37.古強者共
しおりを挟む音もなく静かに、黒尽くめの男は、その爪をジョシュアの左胸へと食い込ませていた。痛みでようやく攻撃に気付いたジョシュアは、その腕を辛うじて手に捕え、距離を取るために後方へ退がった。
しかし次の瞬間。気付いた時には、ジョシュアは背中から床へと叩き付けられていたのだった。何が起こったのかも分からない。気付けば視界が回っていた。
「が、はッ――!」
受け身も出来ぬ体勢で息の詰まるほどに強く背を打ち、ジョシュアの意識が飛びかける。なんとかそれに耐えきり意識をその男に向けるが。その時には既に、ジョシュアの体は取り押さえられていたのだった。
血塗れの男の手が、ジョシュアの口を覆っている。自分の血の匂いを強く意識させられた。ぐいぐいと男の膝に圧迫される胸が、悲鳴を上げている。
「ヴィネア。何を遊んでいるんだ。騒ぎを聞き付けられたら面倒だ。すぐに片付けろ」
低く、抑揚のない聞き覚えのある声だった。
圧迫される胸にかかる力が、どんどん強まっていく。骨が軋む音とその苦しさに、ジョシュアはもがいた。
(く、るしっ……潰される――っ!)
肺を圧迫され、口も塞がれて声すら出せない。苦しさにもがくように、両手でその脚に何度も爪を立てた。
「ゲオルグッ!」
エレナの叫び声が聞こえる。
ジョシュアがやられた事で、一気に敵が部屋の中へと雪崩れ込んでくる。優勢かと思われた戦況は、瞬く間に覆された。エレナもセナも再び、味方相手に剣を振るう。誰が味方で誰が本当の敵なのか、最早さっぱりと分からない。
嫌な音を立てて軋む骨に息もできぬ程に圧迫される胸元。ジョシュアは戦いの厳しさに喘いだ。
段々と霞みつつあった意識の中で。しかしとうとう、ジョシュアは待ち望んだその声を聞いた。
『良くやってくれた、下僕よ。この、逃げ上手の黒助は私の獲物だ』
ああやはり、あの時幻覚の中で感じた気配は本物だった。ミライアの思考に毒されつつもあるジョシュアは、口を塞がれているその手の中で、自然、ニヤリと笑った。
ほんの一瞬だった。
ジョシュアがミライアの声を聞いた瞬間に。目の前の男――全身黒尽くめの吸血鬼が突然、姿を消した。
身体の上の重みがフッと消えたのと同時、肺に雪崩れ込んだ空気にジョシュアは咽せ込む。
そんな最中、けたたましい轟音と共に、部屋の石壁に大穴が空いた。
何処かの施設、扉だけが鉄と木製の地下牢にも紛わんばかりのその殺風景な部屋は、あまり広いとは言えなかった。特に、ミライアのような古い吸血鬼が暴れるには、ここは狭過ぎるのだろう。
ガラガラと破片と粉塵を撒き散らしながら崩れる瓦礫の中に、黒い衣服が押し潰されているのがジョシュアの目にも入った。
地鳴りでも起きたかのような衝撃に、その場の誰もが動きを止めていた。誰も彼もが、エレナやセナでさえ目を見開き、吸血鬼が繰り出した素手による一撃の威力に息を呑んでいた。
こんな分厚い壁をいとも簡単に、敵ごとぶち抜いてしまえる犯人なんて、ジョシュアは一人しか思い付かない。そんなものは当然、ミライアに決まっている。
でなければ、ジョシュアを簡単に無力化できてしまえるような吸血鬼を相手に、あんな真似が出来るはずもなかった。
「まったく、手間をかけさせおって。この私が一体どれだけ振り回されたと思う? 貴様ら不届き者共のお陰で」
「き、さま……」
「最早逃げられるとは思わん事だ。ここで貴様は終わる」
無敗の悪魔。無敗の吸血鬼。その渾名は伊達ではない。
そんな強者共の戦いの火蓋が切って落とされたのは、それから数秒と経たない内だった。けたたましい衝突音と共に、常人にはとても真似できぬような馬鹿げた戦いが始まる。
誰にも邪魔できないそれを横目に、ジョシュアは素早く起き上がった。ゲホゲホと血液混じりに咳き込みつつ、軋む身体を叱咤する。
黒助(先程ミライアがそう呼んだのでジョシュアもそう呼ぶ事にした)にやられた上半身は、どこかを動かすたびにズキリと痛んだ。肋骨の二、三本は折れているのかもしれない。
しかし、流石は吸血鬼の体だ。ほんの数分もすると、上半身の痛みはみるみるうちに消えていった。
ジョシュアは思わず唸る。傷の治りが早かった。まるで、赤毛のイライアスに無理矢理飲まされていたあの時のように。
左胸の傷口がじわじわと癒えていくのを感じながら、ジョシュアはすぐに武器を探した。腰のナイフは、道具やらを詰め込んだポーチごと取り去られてしまっていた。無論、腰の仕込み武器も含めて。
格下相手に随分と念入りな事だ、とジョシュアは周囲に素早く目を走らせる。しかし生憎と、この場に武器の用意はないようだった。
ならばひとつ、武器なしでの戦闘に臨まなければならない訳だが。やはりそれにはどこか抵抗感がある。
人間だった頃から肌身離さず携帯していたジョシュア十八番のナイフ達。それらが一切手元にないというだけで、まるで丸裸にされたようにそわそわとした。
こんな状態で戦うなんて。まるで武器を持たぬ一般人のような気分だった。
ジョシュアからそう離れていない所から、吸血鬼同士がぶつかり合う激しい戦闘音が聞こえてくる。あちこちの壁を破壊しまくる戦いの苛烈さは、ジョシュアが今まで体験した中で最も激しいものであった。
あんなもの、ジョシュアが手伝えるはずがない。あんな中に首を突っ込めば、たちまちジョシュアはやられてしまうだろう。
そしてジョシュアの本命、人間と魔族達との戦いの方も過熱していた。二対五、最早何でもありだ。狭い中だというのに魔術を放ったり、短剣を投げ合ったりと、二人を相手に寄ってたかってやりたい放題だ。
十中八九、それらはヴィネアの命令によるものだろうが。それにしても雑なものである。余程の素人か、あるいは捨て駒をこの場で切り捨てるつもりなのか。どちらにせよ、倒すなり捕らえるなりして、ギルドを解放しなければならない事には変わりない。
ただ、いくらエレナやセナがやり手だとは言っても、相手は操られた人間。それも、やり手らしいハンターが相手だ。
エレナ級のバケモノではないようだが、ただ殺せば良いモンスターを相手にするのとは訳が違う。人間と魔族による駆け引きなのだ。
ジョシュアはその場で覚悟を決める。決めざるを得なかった。
ヴィネアに近づき過ぎないように注意を払い、エレナとセナに群がるそれらに突っ込んで行く。死角から近寄り、ジョシュアの乱入に驚くそれらを足蹴りで散らしていった。
ヴィネアに加えて四人程と人数は大した事はなかったが、腐っても警護を任されるようなハンターや魔族だ。
一度目のジョシュアの奇襲は成功したものの、二度目には下手を打つ事はなかった。
時折相手を入れ替えながら、ジョシュア達三人は、諸悪の根源を断つ方法を探した。
「あのヴィネアって奴を何とかしないと……もしくは、コイツらを気絶させる、って、そんな事できる?」
忌々しそうに、多方向からの攻撃を剣で弾き返しながらセナが小声で言った。
その視線の先には、愉快そうに宙に浮きながら、時折嫌がらせのように短剣や魔術を放ってくるヴィネアがいる。
ヴィネアを直接攻撃しようものなら、間髪入れずに誰かが突っ込んできては妨害した。故に、誰も近付けずにいるのだ。
「できるのか、じゃなくてやるのよ」
「ええぇ……」
セナはそう、泣き言こそ言ってはいるが、複数人相手に迷いはない。その剣捌き、足捌きからも、人間同士の乱戦にも慣れているような気配すらある。ジョシュア達と比べて随分と若いにも関わらずだ。
中々どうして、セナという青年は、波乱に満ちた人生を送ってきたらしい。ジョシュアはほんの少しだけセナに同情した。
「やらないと死ぬわね」
「いや、俺そんなの御免だしッ」
相手の攻撃を避けつつ、エレナとセナは小声でそんなことを話した。
「なら早くやりなさいよ」
「いつにも増して鬼畜っ」
「だってセナ、アンタなんで手、抜いてるのよ」
「いやさ……俺、こういう相手を殺さないでおくとか、自信ないんだけど」
「はぁぁ……アンタね、こういう時こそ、急所を打ち抜くのよ。誰にだって耐えきれない痛みくらいあるでしょ」
言うや否や、エレナは突然動いたかと思うと、とある男の懐にするりと入り込んだのだ。乱戦を繰り広げている内に、男の僅かな隙でも見出したのだろう。攻撃の暇すらない、あっという間の出来事だった。
男が慌てて身体を引こうとしたところ、エレナはその顎下に掌打を叩き込む。そうして怯んだ男が、ふらりと動きを止めた所で。エレナは更に畳み掛けるように、鳩尾へとその拳を叩き込んだのだった。
余程強く打ち込んだのだろう。鈍い打撃音が周囲に響いた。男は同時に吹き飛んだかと思うと、そのまま勢いよく壁に激突した。ミライアのように壁をぶち抜く程ではなかったが、相当強く打ちつけられたに違いない。
二度も、あるいは三度も急所を打たれた男は、最早立ってなどは居れなかったようだ。ズルズルと壁にもたれるようにしながら、その場で昏倒してしまった。
ほんの数秒の出来事だ。唖然とするセナとジョシュアの前でエレナは、満足そうにニッコリと笑ったかと思うと。
「やった、ラッキー」
いけしゃあしゃあと言ってのけたのだった。
唖然とする周囲には目もくれず、エレナはすぐに残る敵へと向かっていった。
ジョシュアが加わり余裕があったとはいえ、流石は国が誇る【S】級のハンターである。そこいらのハンター達と彼女との間には、越えられない壁が存在するのである。
「おいクロ! 一体何をしてるんだよ、早く片付けて! お前らも、チンタラしてんなよッ」
不機嫌そうに言い放ったヴィネアが、それと同時に腕を横に振り上げる。するとすかさず周囲の者達は、その命令に従うように一斉にエレナを狙った。
だがここにはジョシュアもセナもいる。エレナへ向かおうとする彼等を、二人はそれぞれ妨害した。先程エレナが一人減らしたおかげで一対一。しかも二人は、先程のエレナの戦いを見せられたばかりだ。負けじと戦いにも身が入っていた。
何にせよ、早くこちらのケリをつけてヴィネアをどうにかしなければ。これまでの様子を見るに、ヴィネアがどんな手を使ってくるかも分からない。その目的もあやふやなままだ。何かとんでもないことをしようとしている。ジョシュアにはそう思えてならなかった。
ジョシュアがそんなことを考えていた時だ。それは起こってしまった。
突然、ミライアからジョシュアへと声が届いたのだ。音にはならない、吸血鬼達だけに許されたそれが。
『其奴を止めろ!』
ジョシュアは見た。認識するのと同時、身体が真っ先に動いた。
黒尽くめの吸血鬼が、その右腕をエレナの横腹目掛けて突き出してきている。
ジョシュアは己の身体が傷付くのも構わず敵を振り切ると、その手を伸ばした。届くか、間に合うかどうか。
反応出来ている者は自分しかいない。あらん限りの力を振り絞って、ジョシュアはその右手を伸ばした。エレナを狙っているその鋭い爪先、それを止める事しか頭に入らなかった。
ハンターの持つ剣先が脇腹を微かに抉っていたが、気にもならない。痛みを感じなかった。
時間の流れがひどく遅く、そして自分の身体の動きすら鈍く感じられた。
鈍過ぎる。身体が邪魔だ。身体中の血液が沸騰するように熱く、ぐるぐると巡っている。心臓の鼓動が、身体中に反響して大きく響いてくるようだった。
ジョシュアの手が男の指先にかかった。鋭い刃物のような爪が肌を突き破るのも構わず、その腕を押し返しながら身体をエレナとの間に滑り込ませる。
初撃が阻まれたと知るや、すかさず男は反対の腕を伸ばしてきた。目にも止まらぬ速さで、それはジョシュアの頭部を狙った。
それが来ることは予想していた。ギリギリのところで反応したジョシュアは、その腕にも掴みかかって止める。衝撃に頭が揺れたが、しっかりとその手を握り締め、男の右腕も左腕も掴み取って放さなかった。
黒尽くめの吸血鬼はそれでも表情をピクリとも崩さず、まるで能面のようだった。そして次の瞬間、掴んだ腕を引き寄せられるのと同時に、腹に衝撃が走った。
「ぐッ──!」
鈍い打撃音と共に、堪え切れなかった呻き声が漏れる。蹴りを入れられたのだろう。構えはしたが、無防備な腹はまともに衝撃を受けてしまった。
腹から込み上げるものを吐き出してしまうと、血臭が口内に溢れた。
それでもなお目の前の吸血鬼を睨み上げながら、ジョシュアは飛びそうになる意識を繋ぎ止めてその場に立っていた。
この男を相手に、自分が役に立たない事は分かっている。けれど、ほんの少し時間を稼げればそれで良いのだ。己の身体を張ってでも。
何せ自分は、吸血鬼なのだから。
「ジョッ──!」
そんな事態に遅れて気付いたエレナが。
魔族を相手取りつつ、悲鳴混じりにその名を呼びかけた。
途中で止めはしたが、それが彼の真名の一部だと彼らは気付いたかもしれない。或いは、その二人の関係性も。悪魔が人知れずニヤリと笑った。
ジョシュアの分と併せ、二人のハンター達を相手取ったセナは、その場で感じた不穏さに眉をひそめていた。
突然、再びジョシュアの前から吸血鬼の姿が消えた。そうしてすぐさま、追い付いたミライアがその後を追う。
すれ違う際に見えた彼女はまるで、怒り狂っているかのようだった。身の毛もよだつような恐ろし気な声で怒鳴り上げる。
「戦いの最中に私の前から逃げ出すとは、恥を知れ! このたわけが!」
ビリビリと部屋中に響いた声は、しばらく部屋中に反響した。その威圧感に怯んでか、一瞬敵の攻撃の手が止んだ。
ジョシュアは、その場にふらりと倒れ込みそうになるのを我慢しながら、血に濡れた手を膝について前屈みになる。
その体勢のままもう少しの辛抱、とジョシュアは気持ちを叱咤しながらエレナの方へ顔を向けた。
けれどその時にはもう。
「エレ、ナ」
ジョシュアには見えた。
その腹部から、剣が突き出ている。
血に濡れた鈍い色の刀身が、背中から身体を突き抜け、僅かにその先端を覗かせていた。
「う、そ……」
「油断大敵ってね。お前、その吸血鬼の主人だろ? 俺にくれよ。お前の代わりに大切に使ってやるから。名前、なんて? もう一度、全部言え」
ニヤリと笑ったヴィネアは、短剣を握り締めながら愉しげに、エレナの耳元でそう囁いた。
人間を地獄へと誘う悪魔の囁きのように。
ジョシュアは咄嗟に動けなかった。
「おい女、早く答えろよ。俺はそんなに気が長い方じゃない」
顔を歪めて睨み付けるエレナは、既に苦しそうだ。ヴィネアの魅了に抗っているのかもしれない。その額には汗が滲んでいた。
ジョシュアの背後で、叫び声と共に一層激しく暴れ出す音が聞こえた。
ジョシュアもセナも、その場から声を張り上げた。
「や、めろッ!」
「クソ魔族が!」
ジョシュアもセナも、その場からすぐには動けなかった。目の前で起ころうとしている恐怖に、身体がすくむ。容赦なく斬りかかってくる敵が、二人の行動を阻害する。
ジョシュアはそれを避け損ねた。僅かに斬られた肩口から鮮血が飛ぶ。
目の前に迫った敵にも、斬られた自分の体にすら意識が行かず、すぐそこに在るエレナにしか目がいかなかった。
尚も斬りかかってくる敵を、ジョシュアはおざなりに蹴り飛ばした。もう、彼等に配慮する余裕すらも無い。吹き飛ばされた先で床に激突したそれを見遣る余裕すらない。
ジョシュアはその場で出せる力を振り絞った。もう、あんな思いは御免なのだ。目の前で何をするでもなく、ただ見ているだけなのは。子供の頃の忘れ掛けていた記憶が思い出されるようだった。
ジョシュアはその腕を伸ばした。
「クソ食らえ、悪魔」
エレナがハッキリとそう呟いてからだった。ヴィネアは不快そうに顔を歪めた。
「これだから人間は」
唸るように言うや否や、ヴィネアはその短剣で容赦なく。エレナの体を斬り裂いた。
「お前らがどう足掻こうとも、勝者はこの俺だ」
ジョシュアは咄嗟に伸ばしたその腕で、崩れ落ちるエレナの身体を受け止めると、そのまま地面へと倒れ込んだ。必死の思いで起き上がりながら、その名を叫んだ。
「エレナッ、おい、エレナ!」
エレナの顔が苦痛に歪んでいる。辛うじて意識を保っている状態なのか、既にその眼は虚ろだった。ジョシュアは諦めも悪く、震えるその手で傷口を圧迫する。
薄々分かっている。彼女は人間だ。けれどそれでもジョシュアには、そうする事しか出来なかったのだ。湧き上がってくる無力感に頭が真っ白になった。
「ほんと弱っちいなァ。こんなんで俺達の主人になろうとか、聞いて呆れるわ。おい、教えろよ吸血鬼。お前の本当の名前だよ、な、ま、え。言え」
言われるのと同時にだ。ジョシュアの髪がヴィネアの手に掴まれた。ぐいと上向きに引っ張られ、エレナに向けていた顔を、無理矢理ヴィネアへと向かされる。
痛みに呻きつつ睨み上げれば、ヴィネアは不機嫌そうな顔から一転、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「ふふ、お前のその――」
ヴィネアがそう、口を開いたところだった。
その時突然、ヴィネアの身体がその場から吹き飛んだのだ。次の瞬間には鈍い音がして、何が起こったのかも分からずそちらを見てみれば、それが壁に激突して床にどさりと落ちるところだった。
一体、何が起こったのか。ジョシュアにもその時は分からなかった。セナもミライアも、今は戦いの最中にあるというのに。一体、誰が。
その疑問はすぐに解決した。
「やたら美味しそうな匂いがすると思ったら……アンタらくっそボロボロじゃん。もしかして、俺の手助けいる? “影の”?」
一体どうしてここへ、なんて、目を大きく見開くジョシュアの前で。あの赤毛がニヤリと笑いながらそう言った。
部屋の反対側で呻いているヴィネアを指差して、さも楽しそうに言葉を続ける。
「俺はもちろん安くないけど、どうするよ?」
突然の乱入者に混乱するその場を横目に、ジョシュアはただジッと赤毛を見上げたのだった。
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