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無敗の吸血鬼
14.果報は寝て待て*
しおりを挟むジョシュアは眠くて眠くて仕方なかった。けれども、一度火の灯ってしまった昂りを冷ますまでは、眠りに落ちる事もままならない。疲れ切って思うように動かない体をじわじわと炙られているかのような感覚。ジョシュアは堪らず悶えていた。
未だに口のナカで蠢くイライアスの指は、ジョシュアの舌を指で挟んではそれを玩ぶ。引っ張り出されたジョシュアの舌は、時折イライアスの口に噛まれ、吸い上げたりもした。執拗に食まれるものだから、本当に舌を食べられてしまうのではないか、なんて冗談のようにそんな事を思ったりもした。
けれど、そのどれもが痺れるような快感をもたらしてきて、ジョシュアはついつい、自分からも求めるように舌を突き出してしまうのだ。頭はすっかり気持ちの良いことに溺れきっているし、理性なんてものはとっくに弾け飛んでいる。
もう、この男に対する警戒心なんてものはあってないようなものだった。強い者に従ってしまう。それももしかしたら、ほんの少しばかりはあるのかもしれなかった。
口の中に溜まった唾液を呑み下すたび、指の所為で閉じれない口の端から、唾液がだらだらと溢れ出るのがジョシュアにも分かった。ツ、とそれが顔や首を伝うたび、熱った体は自然と震えた。
何度も何度もそんな事を繰り返してから突然、突っ込まれていたその指がずるりと引き抜かれていった。しかし、その次の瞬間。ジョシュアが、あ、と思った時にはもう、イライアスのその手はジョシュアの下着の中にまで侵入してきていたのだった。
「ひっ!」
咄嗟にその腕を掴むなどしたが、すっかり力が入らないし、おまけに力では到底敵わないのだ。侵入を阻むどころか、まるでその手に縋りつくような有様だ。口付けやらその手による愛撫やらですっかり溶け切ってしまっていたジョシュアはもう、何もできなかった。
戸惑いもなく、その手はジョシュア自身に直接触れてくる。少しひんやりと感じられたその手は、先程のジョシュアの唾液ですっかりべとべとに濡れていたのだ。それが与えるひどい快楽に、ジョシュアは思わず腰が震えた。
経験したことのない程のそれに、声が抑えられなかった。
「ん、んんーーッ!」
擦られるたびに背筋が震え、思わず仰け反ってしまう。自分のものだとは思えないような嬌声にも耳を犯されているような気分だった。自分ではない他者の手によって、こんな気持ちの良い行為を与えられているのだと思うと、ジョシュアはより一層の羞恥を煽られる。けれどその羞恥心ですら、ジョシュアのなかではもう、溶け切ってしまう寸前だった。
「あ、はあッ……んん、」
自分から擦り付けて動くようになるまではすぐだった。もう何をしているかすら、自分では分かっていないのかもしれない。
自分を犯すその手を抱き込み、時折腰を揺らしながら快楽を追いかけている。だらしなく開かれた口から体液が滴るのも構わず、その目を瞑って、ジョシュアはすっかり浸ってしまっていた。
正常な思考が少しでも残っていれば、そんな行動なんてするはずもないのだが。イライアスの責め苦に耐え切れず、すっかり理性を飛ばしてしまったらしいジョシュアはもう、逃げられやしない。
そして、ジョシュアのそんな痴態を眺めながら、イライアスが自身を一層昂ぶらせていただなんて。ジョシュアは知る由もないのである。
そこからジョシュアが絶頂に昇り詰めるまでは、そう長くはかからなかった。
切羽詰まったような声が、ジョシュアの口から搾り出されてくる。
「ん、んん、あ、だめだッ、出、るーー」
首元をイライアスに晒しながらビクビクと震え、ジョシュアは喘いでいた。
「ふふふ、……もうきっと限界じゃない? イッちゃえ」
ジョシュアの耳元で、掠れた吐息混じりの声がそう言った。同時に強く握り込まれてしまえばもう、ジョシュアは耐え切れなかった。
「んっ、うんんんーーーーッ!」
大きく背を仰け反りながらビクビクと背を震わせ、まるでその手に擦り付けるように吐き出してしまう。
きっとそれは、ジョシュアが今までに感じた事のない程気持ちの良い絶頂だったに違いなかった。長い射精とその余韻に震え、ジョシュアはしばらく放心した。
「ん、イッちゃったねぇ、ジョシュア……気持ち良かった?」
そんな中、耳元で囁くようにそう呟かれ、ジョシュアは微かに震えた。今は、その問いに応えることもできない。
絶頂の余韻に浸りつつ、ジョシュアはそこでようやく全身から力を抜いた。すっかり汚れてしまっている服の事や、目の前のイライアスの事を考える余裕もなく。
ジョシュアはしばらく微睡んでいた。先程の行為で更に疲れ切ってしまったせいか、急激に眠気が襲ってくる。その欲求に耐え切れずに目を瞑ると、意識がどんどん眠りに引き込まれていくような感覚を覚えた。ああ、このままぐっすりと眠ってしまおうか。ジョシュアは勝手にそんな事を考えていた。
だがしかし、ジョシュアは忘れてしまっている。こんな中途半端な所で、イライアスが止まるはずもないという事を。
そして今、自分は彼に襲われている真っ最中なのだという事を。ジョシュアは放心のあまりに忘れてしまっている。
突然、ジョシュアは己の下肢が空気に晒されたのが分かった。眠りに落ちかけていた意識も途端に引き戻されてしまう。
無理矢理頭を持ち上げてバッと目を開くと、ジョシュアの下服を投げ捨てるイライアスの姿が目に入った。ギョッとするジョシュアを尻目に、イライアスは笑っていた。
その表情は側から見れば穏やかなものにもみえるのだが。その目はまるで、獲物を狙う獣のようにギラギラと光り輝いていて。ジョシュアは思わず怯んでしまった。
先程までの眠気は、すっかり吹き飛んでしまっていた。
「おい、待て、本気でヤる気なのかっ!」
悲鳴混じりにそんな声を上げるも、イライアスの目は完全に狙いを定めている。どうにかその場から逃げようと、座ったままズルズル上に移動するジョシュアだったが。あっという間に脚を掴まれ、簡単に引き寄せられてしまった。
その流れで腰を掴まれて体重をかけられてしまえば、ジョシュアはもう逃げる事もできなかった。
「んんー、散々煽って焦らしておいて……待てができるほど、俺も枯れちゃあいないんだ」
身を捩って何とか逃げ出そうとしていたジョシュアに対して。そんな言葉を投げ掛けるのと同時。イライアスは何と、ジョシュアのものをその場でぱっくりと口に含んでしまったのだった。
「んあっーー!」
突然の刺激に堪らず、ジョシュアは大きく仰け反りながら声を上げてしまう。
唾液と共に啜られながら手で掻かれ、緩く芯を残したままだったジョシュアのものはあっという間に固さを取り戻した。
そのままぐいと奥の方まで咥え込まれ、舌やら口内やらでゆるゆると擦られた。時々先端を弄られながら唾液と共に啜られると、強い快楽に思わず腰が引ける。
的確過ぎるその刺激に、ジョシュアはただ声を漏らすだけだった。それ程に、イライアスから与えられる快楽が良すぎたのだ。経験した事もないほどのそれらに悶えながら、しかしどうする事もできずに。ジョシュアはただ、ビクビクと震えるだけだった。
それから何回、達してからだろうか。ふと、ジョシュアは気付いてしまった。
自分を犯しているその快感は、何も性器への刺激からくるものだけではないという事に。
「え、うあ、ああッ!」
鋭い快楽に紛れ、腹の中に違和感があった。性器の奥の窄まりが、どうしてだか引き攣れているように感じるのだ。心なしか、中で何かが動いているようにも感じる。いやまさか、とは思うけれども。心当たりなんて十分すぎるほどにあるわけで。
気付いて意識してしまうのと同時、腹の中の方からじわじわと湧き上がってくる何か。その原因についてはもう、考えたくもない事だった。
けれどもひとつ、どうしてだか。ジョシュアは少しだけ思ってしまうのだ。この赤毛のイライアスにそうされているのであれば。それはそれで仕方のない事なのでは、と。
全くもって、今日の自分は頭がどうかしてしまっている。赤毛に真名を教えてしまったり、そのままこんな行為をみすみす許してしまっているだなんて、と。疲れ切って碌に動かない頭で、ジョシュアは必死に考えるのだった。
その時点でジョシュアの気力はもう、限界に近かった。
快楽と、ふわふわとした頭の中が絡み合ってごちゃまぜに、なるーー。
昂ぶって張り詰めてしまった自分自身にも時折手を伸ばしながら、イライアスは夢中でジョシュアのものに食らいついていた。普段、男相手にここまでの事はしないはずなのだけれども。どうしてだか今日は、こうしてしまいたい気分だったのだ。
この男が拒否してくる前に、何が何でもこの手中に収めてしまいたかった。先に、既成事実でも何でも、繋がっている証が欲しかった。
どうしてこんな行動に出てしまっているだなんて、自分でも全くわけが分からなかった。不思議なくらいに強い焦燥と衝動とを覚えて、イライアスは止められなくなってしまったのだ。
理由なんてわからない。けれども何故だか、この時を逃したくなかった。イライアスはただ無心でその行為に没頭していた。
いやらしい音を立ててジョシュアを喘がせながら、尻のあわいに指を少しずつ差し込んでいく。前への刺激に気を取られている内にぐいぐいと奥に進めてしまえば、大した抵抗もなく目的の位置へとたどり着いてしまった。
くにくにと中を拡げつつ腹の内側の一点を刺激する。慣れてはいなくても何かを感じるのか、自然とその腰がびくつくのだった。何度も何度も同じ箇所を擦っていれば、少しずつ中が解けていく。
それに乗じてすこしずつ、ゆっくりと本数を増やしていくと。すっかり従順になった中は、柔らかくも吸い付くように絡みついてきた。さっきまでまるで、男の味なんて知らなかったはずなのに。
それはそれは、とてもいやらしい。
イライアスはひどく興奮していた。
きっともうここは、もっと大きい自分ですらすんなり受け入れてしまう。それでいて自分と一緒に、絶頂の高みにだって昇り詰めてくれるのだ。
こんな風に強引に進めてしまってはいるのだけれども。きっとこの男は、こんな自分を渋々と受け入れてくれるに違いない。イライアスは何故だか確信していた。
彼が知る限り、いつだってこの男はそうだった。我儘だと、別にこだわらなくても良いものだと分かっていながら、易々とイライアスの提案を受け入れてしまう。
顔では嫌な顔をしながらも、やはりちゃんと理解しようとしてくれる。
どこまでも愚かな自分を、呆れながらも嫌わず、幻滅せず、そのありのままを受け入れてしまう。
この男がそんなだから。
どうしても、手放したくはなってしまったのだ。
これからもずっと変わらずこの男はそうなのだと、イライアスは根拠もなくそれを信じていた。
震えるその手は、イライアスの頭をくしゃりと掴んで離さず、時折漏れ聞こえる声には紛う事なく快楽が滲んでいた。3本の指を後ろでしゃぶりながら、前への刺激で身を仰け反り震わせるその様は、ひどく艶かしく見えて。自分の起立も限界が近い事を悟り、イライアスはより一層ペースを早める。
早く早くとその瞬間を待ち望みながら。いいところを指で押し上げ、とどめとばかりに強く、吸った。
「ひぐっ、あ、それ、ダメ、だッ! イっ……んあぁっ!」
うわずった声でそんな言葉を漏らしたかと思うと。ジョシュアはイライアスの口のナカで、絶頂してしまったのだった。
何度もイかされたせいだろうか。イライアスの口内へと吐き出されたそれは、何故だか少なくて。おまけに指で弄られたナカは、先程からうねって震えて指を強く締め付けている。
戸惑う事もなく口内に吐き出されたそれを飲み込んでしまうと。可哀想なほどに震えるジョシュアを凝視しながら、イライアスは思った。もしやこれは、後ろの方でも絶頂してしまっているのではないか、と。
まるで女性の胎内のように、その中がすっかりそういう器官のようになってしまっているのではないか。そして、そうさせたのは他でもない、イライアスの所為なのではないか。
そう思うとより一層、イライアスは興奮したのだった。この男はどこまでも自分を熱くさせる。
彼はもう、すっかり舞い上がってしまっていた。
だがここで、大変残念な事に。
そんなイライアスの幸福は、そう長くは続かなかった。
イライアスが口を拭いながら上半身を起こし、ジョシュアの痴態を眺めていた時だった。
一通りビクビクと体中を震わせたかと思うと。突然、全身からフッと力を抜き、そのままぱったりと動かなくなってしまったのだった。
余程疲れていたのか、刺激が強すぎたのか。それっきり、ジョシュアが目を覚ます事はなかった。
「ええ? うそ、マジで?」
昂ぶった己をむき出しにしたまま、素っ頓狂な声でイライアスが呟く。
これから、という時にこの状況は信じ難くて。何度かジョシュアの頬を優しく叩いたり声をかけたり、祈るような気持ちで出来ることを試してはみたのだが。状況は一向に変わらず。
イライアスはそこで己の失敗を悟った。
本日のイライアスの教訓。
果報は寝て待て、急いては事を仕損じる、である。
「最っ悪……、何、コレ……俺ほとんどイッてないんだけど……」
未だ天を仰ぐようにそそり勃った己の分身を哀しそうに見詰めた後で。
イライアスはヤケクソ混じりに呟いた。
「もうどうせ全部俺が片付けんだから、ぶっ掛けても問題ないよね!」
半泣きになりながらも虚しく処理を済ませてから。イライアスは渋々、己が仕出かしたコトの後始末を始めるのだった。
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