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6-2※
しおりを挟む「ん、う、────んんッ!」
質量と熱を持ったそれが、ゆっくりと押し入ってくる。苦しい上、多少の痛みを伴った。けれども何故だか少し、それに悦びを覚えている自分がいた。
男は巧みだった。カイトが口付けに翻弄される間、尻のあわいに指を挿し入れてきたかと思えば。あれよあれよと中を広げ、執拗に腹の中の一点を攻め立てた。何度も何度も。それこそ、彼が根を上げるまで。
早く挿れろと急かしてしまったのは、カイトの方だった。
「はぁーーッ、息を、詰めるな、吐き出せ」
余裕のない声で、優しげな声が降ってくる。きっとひと思いに奥まで突き挿れてしまいたいのだろうに、それを理性で押し留めているのだ。
あんな、衝動のままに殺戮を繰り返すようなあの男が。百数十年も人を殺しもせず、こうして今もまた自分だけの為に待っているだなんて。
そんなものが自然と感じ取れてしまって、カイトは思わずナカを締め付けた。途端、耳元だその刺激に堪えるような吐息が聞こえて来て、カイトは胸の奥がきゅうと締め付けられるような心地を覚えた。
些細な変換が嬉しいだなんて、セックスの最中にそんな事を思うのは彼にとって初めての事だった。カイルであった時ですら、これ程までに気持ちの良い経験はした事がなかった。
ジェルヴァジオに心も身体も犯されているかのよう。そんな想像をしてしまって、一度ざわついた心は落ち着く気配を見せなかった。
「う、ああぁ……ッ!」
「挿入、った……」
ずるりと腹の奥の方にまでそれが到達する。
耳元で吐息混じりの艶かしい声で告げられ、それが更にカイトの興奮を煽った。
ジェルヴァジオには自分の事しか見えていない。自分の為だけにこんな事をしている。そんな些細なことにすら、カイトはゾクゾクと背筋を震わせた。
耳元で聞こえる呼吸音の一つ一つ、身体越しに感じられる早鐘を打つ心音ですら愛おしく感じられた。
「ん、うんん……あッ!」
深く、奥の方まで口内を犯されながら、ナカのものがゆるりと動き出した。ゆっくりとその感覚を味わうかのような動きだ。
いいところに擦れてナカが刺激されるたび、カイトの背筋にビリビリとしたものが駆け上がった。
その度にじわりじわりと自分の輪郭が男のそれと混じり合って溶け合って一緒になってしまう、だなんて。そんな事を思ってしまう程に、カイトはすっかり頭がばかになってしまっていた。
感じた事もない程の快楽に身悶える。
ぐちゃぐちゃとあらぬところからいやらしい音が聞こえる。口付けに呼吸までも食べ尽くされながら、段々と激しくなっていく動きに自分からも腰を動かして快楽を追った。
まるで強請るかのように自ら腰を動かせば、上から息を詰めるような音が聞こえた。それすらもただ、彼の興奮を煽る材料にしかならなかった。
「ん、ん、んんッ……あ、だめ、だ──ジェル、ヴァジオ」
とうとう、耐えられなくなったカイトがビクビクとしながら口付けから口を離した。
互いの身体に押し潰された自分のものが、動くたびに微かに擦れて気持ちが良かった。ナカがぐにぐにとうねりひくついている。それを自分でも感じながら、カイトは限界が近い事を悟った。
そんな彼の様を見て、ジェルヴァジオは口の端を上げてニヤリと至近距離から笑う。男にもまた、余裕はなさそうに見えた。
「随分と気持ち良さそうだな、カイト。俺もだ。お前が、俺だけのものになったと思うと、抑えがきかなくなりそうだ。この場で犯し尽くして、俺なしでは生きていられなくなるまで閉じ込めて身体に覚え込ませてしまいたくなる」
そうジェルヴァジオは切羽詰まるかのような声で囁いた。この男の目の中に、本人の言うようや危なげな光が宿っているのは、カイトにも感じられた。
だがカイトは知っている。目の前の男がそんな事を実行に移したりはしないと。
魔族はそもそも認めた者にならば心から尽くすし、そもそもがこの男はそんな事をするような魔族でもない。
どちらかと言えば、尽くしすぎて言う事を聞きすぎるようなそんなイメージなのだ。カイトに嫌われる事を恐れている。それならば絶対、そのような事はしない。百年以上も待ったと男は言った。その事実がある以上、証明なんて必要もないように思われた。
ぐじゅぐじゅとはしたない音を耳にしながらどちらのものかもわからない吐息を喰らい尽くす。
下唇を甘噛みされ、切羽詰まった声で名前を囁かれ、カイトは急激に昇りつめた。
背が浮くほどに掻き抱かれ奥の方を穿たれながら、頭の痺れるような感覚と共に、カイトはついに絶頂を迎えた。
「んんんッ、あ、ああ────ッ!」
バチバチと頭の中で弾けたような感覚を覚え、自分の意志で思うように動かせない身体で必死にしがみつきながらビクビクと震えた。
首筋に噛み付かれたような気がして、それと同時にぐぐっと奥の方まで押し込まれる。ジェルヴァジオのものもナカで弾けたのか、そのまま何度か出し切るように動く。
そんな事にすらカイトは興奮して、何が何だか分からないまま、頭が微かに白む程の溺れるような快楽を喜んで享受しながら、彼はしばらくその余韻に浸った。
「大丈夫か?」
しばらくの間放心していたカイトに、ジェルヴァジオが声をかけたようだった。
未だ先程の名残を強く残した掠れた声はどこか艶っぽい。ぼんやりと天井を眺めていたカイトは、男の声に顔を向けた。
先程の余韻を残し、頬に赤みがさしている様は、相変わらずの美貌にどこか人間味が加わって、彼には一層好ましく映った。
カイトはそれにコクン、と首を振りながら応えると、男は満足げにそうか、と呟く。顔に微かな笑みを浮かべたまま、ジェルヴァジオはやわやわと彼の唇を食んだ。
そのまま、時折唇を合わせ、他愛もない事を話しながら浸っていると。
カイトはふと気が付いた。
「おい……」
「何だ?」
「まだやる気か」
繋がったままでは丸わかりだった。口付けのせいか、微かに芯を持ったジェルヴァジオ自身が中で強請るようにゆるゆる動いている。
カイトは戸惑いの声を上げるが、目の前の男は動きを止める事もせずに、眉尻を下げながら甘えるように言った。
「……駄目か?」
カイトはぐっと詰まった。何せカイトは、この男の顔に弱いのだ。
カイルだった頃から、そしてカイトとして生きた間も、彼は美しいものには弱かった。“神子”やハルキのような美しい者が傍に居たせいで、感覚が麻痺してしまったのだろう。
面食いな上の人見知り。見慣れない美貌には、特にどうして良いのか分からなかった。
そしてこの男はきっと、そんなカイトの性質を分かっていてやっているに違いない。こんなに近くに居ながら、まともに目を合わせられないカイトを正面から見据え、己の美を見せつけて強請る。タチが悪い。
この男の強引さにカイトは困り果てる。
そんな風に聞いておきながら、ジェルヴァジオは止まる気など更々無いのだろう。ゆるゆると僅かな動きで考える隙もなくどんどん追い詰められていってしまう。
「ちょ、っと待て、おいッ、考えさせろ……ッ」
「早く」
「ッ──!」
それからすぐ、静止させようかと口を開く頃にはもう、どちらも止まれない所まで来てしまっただろう。先程よりかは受け止めることに慣れた身体が、すぐに快楽を拾ってきてしまう。
催促するように唇を甘噛みされると、もうそれだけで良かった。
ああ、もう無理だ。なんて、そんな事を頭の片隅に置きながらカイトは投げやりに口付けに応える。
それを間近で見て嬉しそうにするジェルヴァジオの表情に、きゅんときてしまう時点でもう、カイトは心底心を奪われてしまっているに違いない。
先程の余裕のない動きとは打って変わって、じわりじわりと気持ち良さを与えてくる男に彼の背筋がぞくぞくと震える。
頭も身体も何もかも、溶かしていくような心地良さを、カイトは喜んで甘受した。
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