上 下
8 / 22
第2章:TS勇者は貪りたい

TS勇者と旅の仲間(3/3)

しおりを挟む
(ばちっ…  ばちっ…  )

時折爆ぜる焚き火をBGMにオレたちは焚き火の回りに集まった。「まあとにかく座りましょう」と、頃合いを見たエルリックがオレたちを焚き火の回りに呼び寄せたのだ。エルリック自身はブライアンが落ち着くまで一人離れて火の番をしていたようだった。ブライアンもきまり悪気な様子だったが、近づいてきて素直に腰を下ろす。オレはというと、二人のすわる中間あたりにトコトコとむかうと、膝を立てないように注意しながらぺたりと腰を下ろす。向かいに座らなかったのはパンチラならぬチンチラ対策である。割と気を使う。皆が腰を落ち着けた頃合いを見て、オレたちは情報共有を始めた。

「初日が一番大変でしたね。まだ魔軍の残党の密度が濃い中をクリスを背負って動かなければならなかったですし。」
「然り。クリス殿の容態も気が気でなかったのだが、魔物を退けながらではそれ叶わずといったところでしたな。」

エルリックとブライアンが気がついたのは、オレと魔王の戦いが完全に終わった後だったそうだ。飛び込んだ当初は禍々しくも荘厳な雰囲気だった謁見の間は、周囲の区画ごと吹き飛び跡形もなくなっていた。辛うじて残っていた玉座の下でオレはぶっ倒れていたらしい。すでに魔王の禍々しい気配も感じられたかったため、魔王城の混乱に乗じて脱出したとのことだった。二人はひどく衰弱したオレを抱えたまま魔軍を避けて何日か逃げ回り、比較的安全そうなこの場所にキャンプを定めたのが昨晩とのことだった。

「そっか、オレそんなに寝てたのか。魔軍を撒きながらオレの面倒も見てくれたなんて、ほんとうにありがとな。」
「礼には及びませんぞ。なかなか休息していただくことができず、クリス殿にも負担をかけ申した。傷自体は吾輩の 【聖刻術】ホーリーフレイで癒せるものでしたので、その点は不幸中の幸いでしたぞ。」
「私はちゃんと休ませることができればすぐに目を覚ますと言っていたのですけどね。ブライがあそこまで取り乱すところはちょっと見ものでしたよ」

いつも物事に動じずどっしりと構えているブライアンがそんなに 動揺しテンパってたのか。自分が原因だから微妙な気持ちだけど、見逃してしまったのがちょっと残念だ。

「ところで、魔王はどうなったのか教えてもらえますか? 魔軍の求心力が消滅してることは確認してるのでおおよその見当はついていますが。」
「倒したよ。輝銀の棍こいつでやつの魂を砕いたところでオレも限界だったけど、でもきっちり倒した。」

女神フレイサイスから授かった、因果をも打ち砕くという銀の棍をトンと地面に突いてみせる。互いの全力を注ぎ込んだ破壊の術式のぶつけ合いは正直良くて引き分け、少しこちらに分が悪かった。けれど、防御を完全に捨てていた魔王は瀕死の体で、対してオレはブライアンから借り受けた結界刻印のおかげでなんとか身体を動すことはできた。止めはあっけないくらい簡単で、今までの苦難の道程の終着点にしてはあっさりしたものだった。そんな事をこちらからも語って聞かせる。

「それを聞いて安心しました。先程疫病神フレイサイス様が顕現された気配を感じたので、もしや魔王を仕損じていたのではないかと気にしていたのですよ」
「なんと!女神様がいらしていたのに祈りを捧げる機会をいただけなかったとは、吾輩またしても一生の不覚っ」

ブライアンと旅するようになってもう随分立つけど、女神フレイサイスはなぜかブライアンの居合わせない時に顕れるのだ。今まで男くささの塊であるブライアンを女好きの女神フレイサイスが避けてるのだろうと思っていたのだけど、今回は突発でオレが呼び出したのだからひょっとしたら超絶に間が悪いだけなのかも知れない。

「しかしそれでは、ついにこの旅も終わりなのですね。この3人で旅することができるのも後わずかとは寂しいものです。」
「いやいや、魔王倒れたりとはいえ、魔軍は未だ数の衰えを知りませぬ。まだまだやれることはあるはず、我々の旅はまだ続きますぞっ」
「とはいえブライ、あなたが聖刻騎士団を離れていられるのは災厄討伐の間だけと聞きました。クリスとて魔軍打倒の旗印として自由に動けなくなる事も大いに考えられます。魔軍との戦いは皆離れ離れになってしまうのではないでしょうか。」

エルリックが旅の終わりを口にして、今まで語ることを避けてきた話題に向き合うしかなくなった。オレたちがこうして一緒に旅をしているのは、打倒すべき災厄があってこそだった。今代の災厄たる魔王は魔軍を統べる王だったわけだけど、これはたまたま魔王が災厄だっただけで、災厄と魔軍は一切関係ない。そして災厄と戦うのが勇者たる俺の仕事であるように、魔軍と戦うのは各国の軍隊の仕事。いくら魔軍にまだ勢いがあるとはいえ、それはオレたち3人が一緒にいられる理由にはなり得ないのだ。

「そういえば女神フレイサイスが来たのは災厄とは全く関係ない話だったんだけどな。あーでもある意味「災厄」なのかな?女神あいつが来ると大抵厄介事増えるんだよなぁ」
「クリス殿、女神様は貴女に期待して試練を課されておるのですぞ。そのような事をおっしゃっては…」
「ブライは信心深いですね。私もクリス同様、あの方がわざわざ顕れたと聞いては厄介ごとしか想像できません。してクリス、今度はどんな厄介事を持ってきたのですか、あの女神様は?」

信心深いブライアンとは対象的にさして信心深くもなく、女神フレイサイスに対しては厄介な女腐れ縁くらいにしか感じていないエルリックとオレでは感じ方が真逆だ。ブライアンがため息と共に小さく聖句を呟くのが聞こえた。

女神フレイサイスとはちょっとあれから色々あってさ、また新しい使命を受けたんだ。」
「なんですと?それは喜ばしい!ぜひ我輩にもお手伝いを!」
「ほう?まったく厄介なことだね。それはどんな試練なんだい?」

女神の使命と聞いて、急に詰め寄ってくる2人。ブライは神に奉仕する聖刻の僕聖職者だし、オレも形式上は女神フレイサイスの眷属ということで、神々の意向を最優先にして良いことになっている。つまり使命さえあればまだこの仲間で旅を続けられるとあって、ブライはもちろん普段はとくに女神フレイサイスの事となると斜に構えるエルリックですら、素直な期待の視線を向けてくる。

「まあ使命と言ってもオレの個人的なことだから、二人に手伝ってもらうのはちょっと気がひけるんだけど。」
「何を水臭い事を言ってるのですか。クリス一人で旅なんてさせたら途中でどんな悪い男に捕まってしまうか。淑女レディのエスコートに手間は惜しみませんよ」
「女神様の試練とあらば、それがどんな些細なものであれ力添えしないわけには参りませぬ。吾輩も護衛としてついて行きますぞっ」
「おいおい、オレそんなに1人だと頼りないかな? でも心配してもらえるのは嬉しいよ。ありがとう。」

オレの実際の年齢は二十は超えていたけれど、いまの身体の年齢はだいたい14、5才くらい。どうしても年端も行かない女の子を相手にしている気分になるのだろうか。たまに周囲の人間がオレに対して過保護すぎるように感じるのはオレの気のせいではないはずだ。

「じゃあ王都にまっすぐ戻らずにちょっと寄り道を…」

そのまま流れで詳しい内容を話そうかと思ったけど、ちょっとまて。今回の使命って女の子と性交えっちしまくって魔力をためたら大神殿に行くって事だよな。これ、ブライアンにストレートに話せる内容じゃぁない気がする。

(ブライはなぁ。 潔癖症だからあんまりいい顔はしないだろうな)

治療のためだとしても女性の肌に手を触れることに気おくれするほどの性格だ。オレがあっちこっちで性交えっちしまくるなどと聞けばいい気分ではないだろう。ましてブライアンにとってはオレは本来護られるべき可憐な少女女の子なのだ。オレが元々は男だということはもちろん話しているのだが、「自分を男だと言い聞かせて闘いに身を投じる健気な少女」そんな風に考えているようだと、エルリックから教えられた時には頭を抱えてしまった。ともあれオレが女の子と性交えっちするという事は女同士のそれとなるわけで、そんなものは神の摂理に反すると説教される事は間違いない。

(こいつの助けは正直必要かもしれないんだよな…)

ちらりと横目でエルリックの整った顔立ちを盗み見る。切れ長で涼しげ瞳と甘い顔立ち、魔道士に似合わぬ均整の取れた引き締まった肉体。街を歩けば女性が思わず目で追ってしまうそんな美男子イケメンがコイツだ。一緒に歩くオレにいつも嫉妬の視線が突き刺さるのでコイツの顔の良さには普段は迷惑しか感じないのだが、反面こいつは女性に顔が利く。魔力を貯めるために相手してもらう女性を探すためには、エルリックの助けは必要なはずだ。

「クリス?どうしたんだい?」「クリス殿、どこか具合でも?」
「あーごめん、不丈夫だよ。でもちょっと考えをまとめたいから、この話はまた後にさせてくれ」

急に黙り込んだオレに見かねて二人が気遣うように覗き込んでくる。彼らの不安を振り払うような明るい笑みを向けて、なんでもないと安心させてやる。怪訝な様子だったが、二人は納得してくれた様子だった。

実際問題伝え方を考えないといけないことは変わんないよな。そもそも新しい使命のことを話すなら、股間に生えた息子ちんこの話も避けては通れないわけだし。このあたりも含めて、話し方考えないといけない。

「クリス、水浴びでもしてスッキリしてきたらどうかな?宿営地ここの近くにきれいな湖があってね。まだ日も高いから冷たすぎるってこともないと思う」

一物ちんこが生えた話とか、淫紋もどき聖刻印の話になれば、見せてしまうのが手っ取り早い。となれば流石に身綺麗にしておきたいし、何より天幕でひどく汗を書いてしまったことも有り、それは魅力的な提案に思えた。エルリックから場所を聞くと、オレは拡張収納かばん片手に湖へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...