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六月十五日(土)
しおりを挟む土曜のランチタイム、カフェは混雑している。
あたしは二人用テーブル席で、森博嗣氏の建築絵本を眺めてた。
「ここ、空いてます?」
訊ねてきたのは同じ本屋のスタッフさん。
「合席ですか? どうぞどうぞ」
実用書担当のユニークな女性だけど、担当が違うし、普段時間帯がずれてるから、あまり顔を合わせないので少し緊張したりなんかする。
でも、地元での個展は一度観にきてくれたことがある。
店長の髪型についてや、どうしたら紙で指を切らなくて済むかとか、しょうもないくらい他愛ない話をしていると、カフェに入ってきたお客さんが紫陽花を手にしてるのを二人して見た。
「そう言えば、紫陽花祭りやってますね」
「紫陽花……以前は好んでよく描きました」
「え? 花の絵とかも描くんですか?」
「ええ、まあ笑」
「里中さんの絵からは想像できないんですけど……」
「ふふふ、観せましょうか、画像ですけど」
そう言ってあたしは、ちっとも整理されてないフォルダの中から、かなり遡って探して、紫陽花っぽい絵を彼女に観せた。
「あ~~~」
彼女は良いとも悪いとも言わずひとこと、
「節回しがおんなじだ!」と言った。
よく訊くと、
「やっぱり里中さんの絵は、紫陽花という実在のものを描いても、何が描いてあるのか私達にはさっぱりわからない絵の時でも……あ、ごめんなさいね笑、でも、音楽で言うところの節回しが同じで、同じ作家の作品だということが分かりますよ」
そう言ってくれた。
「節回しってわかります? 私、音楽やってたもので、そんな表現しちゃうんですけど」
「めっちゃうれしいです!」
本当にうれしかったんだ。
前に、とある美術館の館長さんだった方に、
『あなたの絵には戸籍がある。ネームが無くてもあなたの絵だとわかる』
そう言われた時と同じうれしさだったんだ。
こんなうれしい気持ちになれたなら、午後からのバイトも頑張れそうな気がしても良さそうだけど、むしろうちに帰って絵を描きたくなっちゃったわ笑。
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