万愚節的日記とか(Apr.2024)恋愛編

弘生

文字の大きさ
上 下
29 / 30

四月二十九日

しおりを挟む
 キシロカインの空瓶からびんのぶつかり合う音
 昨夜は一晩中、物語を作りながら歌を歌いながら瓶に色を塗って遊んだね
 一瓶一瓶に希望も悪夢も詰めて
 ふたりでどれくらい塗ったんだろう
 手も足も頬っぺたも絵の具だらけだね
 まだまだいっぱいあるよ
 こーんなにいっぱいあるんだけどさ、みーんなおんなじ形なんだけどさ
 いっこいっこほら、音が違うんだよ
 麻酔の名残なのか、透明硝子のくせにどことなく丸みが麻痺してるんだよ
 それにさ、ほら、耳を瓶のおちょぼ口に近づけてみて、どれでもいいから
 何が聴こえる? 風の音? 波の音? 肉球の触れる音? 月の欠ける音? 飛蝗ばったの羽音? 髪を切る音? 紙を破く音? 靴を脱ぎ捨てる音? 血液の流れる音?……


 僕はアイネ・クライネ・ナハトム・ジーク2楽章が、遠くの方から風の波にうねうねしながらゆっくり聴こえた


 いくつもの小さい夜に散らばった夢を、果てしなくアンダンテで乗り越える?
 あたしが手にしてるこの瓶からはね、すごいんだよ
 ボカロっぽい祓詞はらえことばが繰り返されるんだよ
 天体を動かす呪文みたいに聴こえたよ
 不思議だね~
 それからさ、瓶のおちょぼ口をほんのちょっとだけ覗いてみて
 瓶によっては目をやられてしまうから、あんまりくっつけすぎないで
 場合によったらサングラスをかけることをお勧めするわ
 あたしはあっちの瓶で三重の虹の生える瞬間を見たんだよ
 三重なんだけど虹の根っこは一緒なの
 そっちの瓶は水平線が垂直に立ち上がってたし、鯨がそこ登ってた


 僕のは真っ青な空とペトログリフだ!
 大きな岩に刻み込まれた文字が浮き上がって動き回ってる
 天体を動かす数式みたいだ
 こっちのは空がありえないくらい黄色くて、破壊された土偶が使命を全うしようとしてる
 君も見てみろよ、ほら


 気をつけてよ、吸い込まれちゃうんだから
 中を覗いたら、素早く好きな色を塗っちゃって
 だから、ずっと覗いてたら危険なんだってば
 さあ封印封印、瓶を紐で縛るのよ、早く手伝って


 ……僕、瓶を覗いて色を塗ってたら、君を連れてっても大丈夫ってちょっと思っちゃったんだ
 戻って来れるかわからない危険な道行きだしよくわからないけど、君なら一緒にわくわくできるんだろうなって思っちゃったんだ
 ペトログリフの刻み込まれたいにしえにさ……だめなのにさ……


 何? なんか言った?
 ああっ、寝てる!
 もう、手伝ってよ、ひとりで全部封印するのしんどいんだから
 まあ、昨夜寝てないんだもんね
 今のうちにため寝を山ほどしておかないとね、大事な出発の日のために

 あたしは、今日という休日は、とことんキシロカインの瓶の魔力を封印しまくることに決めたの、文句ある?
 ああ、あなたは寝てて! いいから寝てて! 寝ろ!

 今日しかないのに、こんなに傍にいられるのは今日しかないのに、あなたと話すことが苦しくなったのです
 そこにあなたがいるのが苦しくなったのです
 ひとりよりふたりの方が寂しくなるってことだってあるんだよ

しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

里中曖琉の些細な日記とか(Jun.2024)

弘生
現代文学
小説「曖琉のなんでもない日常」の里中曖琉が書きたい時に気まぐれに書く、ただの独り言のリアルタイム日記です。 代筆者の弘生の投稿が遅いので、多少の日付の遅延があります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...