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四月二十五日
しおりを挟む「こんにちは、お久しぶりです。3年ぶりの個展、おめでとうございます、ロマ爺(笑)」
「やあ、久しぶりだねえ。入院中は我が凡作の下読みをしてくれてありがとう。おかげさまで記念すべき十冊目の詩集も滞りなく入稿できたよ」
「いえいえ、とんでもない。あたしはただロマ爺から送られてくる、はずかしいほどのロマンチックな詩を入稿前に読ませていただいただけなので、何も何も。それよりも、お元気になられて本当によかったです」
「すっかり痩せてジジイになっちゃったでしょう」
「いえいえ、むしろご病気前よりもずっと小綺麗になってかっこよくなられたと思いますよ。生やした白いお髭も素敵です。ロマ爺の名に恥じませんね」
「言ってくれるねえ。もう大きい絵は体力的に無理だから、今回は水彩の小品と書だけだよ。ゆっくり観ていって」
「あ、そうだ。このカラフル大福、よかったら召し上がって下さい。実はいつもの如く、新宿駅から数分のこの場所にまるまる1時間かかっちゃって、迷子になってる途中で見つけました」
「やあ、美味しそうだね。綺麗で食べるのもったいないくらいだ。ところで、方向音痴は相変わらず治らないんだね」
「もちろんですよ。治ったらあたしじゃなくなりますからね(笑)。途中で混乱して疲れちゃって、もうロマ爺のところに来るのを断念しようと思いました。でも、着いて良かったです」
「そう言えば君の個展はいつだったかな?」
「はい、7月の暑い盛りです。ここに来る前にそのギャラリーに寄ってきました。最寄駅から3分ですが、何度行っても迷子になります(笑)。前回と同じ7月なので、また台風に見舞われなければ良いのですが……ロマ爺もいらして下さいね」
「もちろん行くともさ。君のいる所ならどこへでも。いやあ、君と私とでは親子以上ほども歳が違うから恋人には見えないな、愛人になら見えるかな」
「大変に気持ち悪いです。ロマ爺のロマ詩を読む以上に鳥肌が立ちます。今度言ったら目の前で吐きます。今の時代、下手にそんな台詞言って御覧なさい。大変なことになりますよ。ジジイだからと言って許される世の中ではないのです」
「はいはい、大変に失礼致しました。冗談でも言えない世の中になってしまって、窮屈だなあ」
ロマ爺(ロマンス爺と本人自ら命名)の作品もろくに観ないまま話をしていると、ラボからここに来ると言っていたあなたが入ってきた。
「ロマ爺さん、初めまして。僕にも作品を観せて下さい」
「いらっしゃいませ。彼女にはお世話になっていてねえ。この場所、すぐにわかりましたか?」
「ええ、ホテル隣接のギャラリーだから新宿駅からシャトルバスで来ましたから」
え? シャトルバス?
じゃあじゃあ、あたしの苦労の1時間は一体何だったの?
すごい泣きそう。
やたら疲れが表面化しそうだったけど我慢する。
静かな元気を取り戻した自称詩人の元美術教師の絵描き。
少し小さくなってしまったが、余生を楽しむんだと伸び伸びしている姿は、自由で少し羨ましかった。
帰りはあなたとらくらくシャトルバス。特急列車の指定席で、自分たち用にも購入したカラフル大福をあなたに見せびらかす。
「ふふ~ん、みてみて。ぜーんぶお味が違うからじゃんけんね」
「帰ってから渋いお茶々で楽しみにいただこうよ、それまで我慢だよ」
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