上 下
22 / 30

四月二十二日

しおりを挟む


「美味しいから召し上がれ」

 狭いダイニングテーブルの上の白いお皿に鎮座しているのは……玉ねぎ?
 何の変哲もない玉ねぎだけどそのままの姿で、食卓の主役のように堂々としている。ていうか、そもそもテーブル上には玉ねぎしか無い。
 
「ローカルブランド玉ねぎ、ちょっぴりお高いけど甘くて美味しいらしい。たまにはいいんじゃない?」

 よく見ると、つるりとした光沢の奥に、ぷるりとした才能を隠して、おやまあ湯気が出ている。
 鰹節を富士山に積もる雪のように大量にふわりふゆりふわり……

「シンプルに、今夜はポン酢で召し上がりましょうか」
 
 ナイフとフォークを手渡しながら、あなたシェフがにこやかに言う。

 丸ごと玉ねぎなんて食べたことない。
 玉ねぎはもともとあんまり好きじゃないし、戸惑うあたし。

「ウソみたいに甘いんだ、魔法の玉ねぎだよ。信じて召し上がれ」

 熱々玉ねぎにナイフを入れた時の柔らかい感触。
 うそ……甘い。あたしの知ってる玉ねぎじゃない。本当に魔法の玉ねぎだ。
 一枚一枚剥ぎ取っていく感触が快感すぎて夢中になる。

 ずいぶんと大きな玉ねぎだったけど、すっかりひとりで平らげた。

「ね、甘くて美味しかったでしょ」

 優しく笑うあなたシェフの鼻が控えめに膨らんでいる。
 うふふ、もっと自慢していいわよ。
 本当に美味しかったし、玉ねぎが好きになった。

「玉ねぎは疲れをとるんだよ」

 あなたなりにあたしを心配してるのが伝わってくる。
 また行ってしまう日が近いことを思い出して悲しくなりそう。
 
 でも、おなかいっぱいになったら、すでにあたしは眠いの……

「どうせ歯磨き前にアイス食べるんだろ。起こしてあげるから、今は眠ってしまえ」


 どこまでも玉ねぎを剥き続ける夢を見た。

 あなたがそっとガーゼ毛布をかけてくれた……ような……むにむに……


 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【ショートショート】恋愛系 笑顔

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

処理中です...