万愚節的日記とか(Apr.2024)恋愛編

弘生

文字の大きさ
上 下
18 / 30

四月十八日

しおりを挟む
 

 地元のギャラリーカフェに、古キャンを頂きにいった。
 オーナーは、今では文字絵作家として活躍しているが、定年まで小学校の教員をしていたという長くて真面目な経歴を持つ。
 住居の改築にあたって、家を整理していたところ、教育学部での授業の一環で描いたという、四十年も前の学生時代の絵が数枚出てきたらしい。
 恥ずかしさのあまり捨てようと思ったらしいのだが、ふと、破壊的にキャンバスを使うあたしの顔が浮かんだと言う。

「失礼かと思ったんだけど、あなたになら恥晒しちゃってもいいかなって思って。嫌じゃなかったらキャンバスもらってくれないかしら。ガンガン潰しちゃっていいから……どうかしら?」
 あたしは即答した。
「もっちろん頂きますったら頂きます! キャンバス高いんですよ~……とは言え、本当に良いのですか? 将来、文字絵作家学生時代の作品、とかいって取り上げられるかもしれないですよ」
「ありえないし、もしそうだとしても人様に見せられる出来栄えじゃないからいいの。うちにあったら捨てちゃうだけだから、出来たらもらってよ」
「かしこまり! よろこんで!」

 そういうわけで、先程オーナーからもらい受けてきた古キャンを眺めている。
 50号、15号2枚、12号、10号、計5枚。
 裏にはオーナーの当時の在籍番号と旧姓が記されている。
 四十年前か……今やあちこちで活躍中の文字絵作家の先生も、こんな時代があったんだなと、その純粋な真面目さを微笑ましく思う。何だか感慨深い。
 木枠を残して新しいキャンバスに張り替えることも考えたが、オーナーの言う通り、このまま潰させて頂くことにする。
 ほんのちょっぴりだが、オーナーの一欠片ひとかけらの記憶も塗り込めてしまおう。

 帰宅した夜、ゴム手をビシっとはめ、うねうねくねくねと気の向くままに絵の具を塗りたくっていた。
 あなたはうらやましそうに、そして小さな声で、
「いいなあ~、僕もやってみたい」
 そうね、いつも繊細すぎる作業をしているあなたにはうらやましいかもしれない。

「ふふ、気持ちいいわよ。やってみる?」
 あなたは子供みたく瞳をきらっきらさせて、ゴム手をはめる。
 あたしよりうねうねくねくねが激しいことに驚く。
 あなたの脳内では、今どんな音が聴こえているのかしら。
 そんなあたしにあなたは気づくこともなく、ずいぶんと楽しんでいる。
 あなたを見られるのが、幸せだってあたしは感じてしまっている。


しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

里中曖琉の些細な日記とか(Jun.2024)

弘生
現代文学
小説「曖琉のなんでもない日常」の里中曖琉が書きたい時に気まぐれに書く、ただの独り言のリアルタイム日記です。 代筆者の弘生の投稿が遅いので、多少の日付の遅延があります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...