15 / 30
四月十五日
しおりを挟む主任ナースが辞めるんだって。
家庭の事情でしばらく休んでいた主任だけど、久々に出勤した途端、気の合わないナースとやっちゃったんだな、これが……
診察前の大きな怒号。
うそでしょ~。
もう辞める! って息巻いて、ロッカーの荷物をまとめて帰っちゃったんだよ。
ものの言い方ひとつでこんな事態にはならないのに……
クリニック開業の際、市民病院からドクターに付いてきたベテランナース。
だからドクターも頼りにしてるはず。
あまりにも突然過ぎて、ドクターすら彼女を止められないまま診療が始まった。
それでなくても休むスタッフが多くて、普段ですら、あたしは少なくとも身体が3つ欲しいと思っているのに、すでに5つは必須だわ。
このまま人数不足で診察を回すのは、心から心からほんっとうに疲れるんだよ。
ううん、忙しいのはいいの。持久走並みでもいいのよ。あたしはがんばってる。
ただ、もっと思いやりを持って、お互い補い合ってやっていきたいだけなの。
こんな状態が毎日毎日ずっと続いているから、ついつい帰宅すると不機嫌になるし、夕飯食べてる最中に寝落ちしちゃうの。
絵も文章も創る気持ちの隙間すら生まれる前に寝落ちしちゃうの。
で、焦る。で、不機嫌になる。
「ただいま」
真っ暗……誰もいない。
まだ居るよね。
まだどこへも行ってないよね。
「がおぉぉっっっ!」
いきなりクローゼットの中からなんか飛び出した。
「っっっっ……!」
こ! こわいじゃない!
思わずパンチを繰り出すところだったけど、本当に驚いた時って声出ないよね。
疲れ切って創作活動に手も頭も回らないあたしを見兼ねてなのか、アホらしいドッキリを考えたらしい。
あんたは小学生か!
「そ、その程度じゃ驚かんわ」
「うそつけ、びびってた」
「びびってない!」
「今夜は海で眠らないかい?
波の音聴いてさ、揺らぎの中で眠らないかい?
きっと穏やかな夢の扉が開くよ」
それからあたしたちは、春の夜の海で小さなドーム型のテントを張って、小さな焚き火を作ってコーヒーで乾杯して揺らぎの中で穏やかに眠ることにする。
明日の朝は、海から出勤だ。
応援ありがとうございます!
31
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる