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四月十五日

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 主任ナースが辞めるんだって。
 家庭の事情でしばらく休んでいた主任だけど、久々に出勤した途端、気の合わないナースとやっちゃったんだな、これが……
 診察前の大きな怒号。
 うそでしょ~。
 もう辞める! って息巻いて、ロッカーの荷物をまとめて帰っちゃったんだよ。
 ものの言い方ひとつでこんな事態にはならないのに……

 クリニック開業の際、市民病院からドクターに付いてきたベテランナース。
 だからドクターも頼りにしてるはず。
 あまりにも突然過ぎて、ドクターすら彼女を止められないまま診療が始まった。

 それでなくても休むスタッフが多くて、普段ですら、あたしは少なくとも身体が3つ欲しいと思っているのに、すでに5つは必須だわ。
 このまま人数不足で診察を回すのは、心から心からほんっとうに疲れるんだよ。
 ううん、忙しいのはいいの。持久走並みでもいいのよ。あたしはがんばってる。
 ただ、もっと思いやりを持って、お互い補い合ってやっていきたいだけなの。

 こんな状態が毎日毎日ずっと続いているから、ついつい帰宅すると不機嫌になるし、夕飯食べてる最中に寝落ちしちゃうの。
 絵も文章も創る気持ちの隙間すら生まれる前に寝落ちしちゃうの。
 で、焦る。で、不機嫌になる。

 
「ただいま」
 真っ暗……誰もいない。
 まだ居るよね。
 まだどこへも行ってないよね。

「がおぉぉっっっ!」
 いきなりクローゼットの中からなんか飛び出した。
「っっっっ……!」
 こ! こわいじゃない! 
 思わずパンチを繰り出すところだったけど、本当に驚いた時って声出ないよね。
 疲れ切って創作活動に手も頭も回らないあたしを見兼ねてなのか、アホらしいドッキリを考えたらしい。
 あんたは小学生か!
「そ、その程度じゃ驚かんわ」
「うそつけ、びびってた」
「びびってない!」

「今夜は海で眠らないかい?
 波の音聴いてさ、揺らぎの中で眠らないかい?
 きっと穏やかな夢の扉が開くよ」

 それからあたしたちは、春の夜の海で小さなドーム型のテントを張って、小さな焚き火を作ってコーヒーで乾杯して揺らぎの中で穏やかに眠ることにする。

 明日の朝は、海から出勤だ。
 
 

 

 
 
 
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