万愚節的日記とか(Apr.2024)恋愛編

弘生

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四月十四日

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 どわぁ~、こ、これが春の恐るべき紫外線パンチなのか。
 午前十時、高くなった太陽を下瞼をあげて睨んだあと、照り返しのアスファルトが眩しくて、思わず太陽に背を向けて後ろ歩きをする。
 そしたら今度はシニヨンに丸めた髪のせいで、首の後ろがじりじりと太陽の熱線銃を浴びる。

 まるで初夏の陽気の中、数年ぶりの埴輪陶芸家の窯のある山を訪れた。
 こんな物凄い青空の日は、隣町のその小高い山から臨む富士山も、海に注ぐいくつもに分岐する河も、銀色に光る水平線も、なんだか自分のものに思えてくる。
 「よくばりめ」
 ここに来れなかったあなたの声が山の向こうから聴こえてくる。

 ずっと来たかったんだ。
 だってここに来ると、宇宙と交信できそうなヘンテコな物体がやたらあちこちに突き刺さっているんだもの。

 陶芸家は毎年春を呼ぶ埴輪新作展をこの窯で催していて、このあたしを招待してくれる。
 なのに数年ぶりになってしまったのは、あたしの雨女ぶりに原因があった。
 いつも出かけるとお約束の雨が降ってくる。
 急勾配の山を含めて一時間近く雨の中ハイキング気分で歩くのは、あたしにはムリ!
 車で迎えに来てくれるって言ってくれるけど、個展中に陶芸家自身がお客さん残して抜け出すのってどうなの? ってもじもじご遠慮してた。
 だから踊る埴輪にも踊る陶芸家にも会うことなく、数年が過ぎていたのでした。

 今年は恐るべき晴天!
 なぜなら、晴れ女神の友を連れ立ったから。
 彼女の晴れパワーはあたしの雨女っぷりを打倒した。
 けれど、友にあの急勾配をハイキングさせる訳にはいかないと、あたしってば図々しくなるものね。
 結局、陶芸家本人に迎えに来てもらって山を登った。
 山間やまあいから見える春の富士山にきゃあきゃあ言いながら窯に到着すると、三百体を遥かに超える踊る埴輪が陽気に迎え入れてくれる。
 ああ、来てよかった。
 気持ちが昂るのを感じるのが心地いい。
 両手を広げて深呼吸する。
 両手をなびかせてくねくね踊る。
 友は埴輪かわいいかわいいとはしゃいでいるし、あたしは怪獣の木みたいなトゲトゲの物体に溜まった雨水をじっと覗き込むし、自由だ自由だ。
 「ぜいたく者め」
 ここに来れなかったあなたの声が再びピチョンて聴こえる。

 あたしのお気に入りの宇宙交信機? は、陶芸家の創作の種の油を絞り出す装置な気がする。
 一体一体表情の違う埴輪がくねくね踊っているのも、埴輪のおなかが渦巻いて膨らんでるのも、埴輪にちょっと飽きて怪獣とかお尻とか創っちゃうのも自由で好き好き。
 生活に不自由しない山暮らし、好き好き。
 「僕の書斎だって山にある」
 ここに来れなかったあなたのひがみっぽい声が聴こえる。
 そうは言うけど、あたしはあなたの山の書斎小屋を訪ねたことはないのよ。
 そう、ずっとずっと、これからもそう。
 決して訪ねたりはしないもの。

 草むらや屋根の上で踊る埴輪から少し離れて山を少し上がってみると、わ、鹿……!
 見た? 見た? 写真撮り損ねたね~
 この辺は鹿がよく来るんだよって、陶芸家。

 以前にNHKの埴輪スペシャルで、埴輪が片手をあげているのは踊っているのではなく、馬の手綱を引いてる様子を模ったものらしいというシーンで、陶芸家自ら番組の中で、ものすごくがっかりする小芝居をさせられたんだって。
 へ~、演技したんだ。
 あれは演技じゃない、本当にがっかりしたんだ。でもぼくは埴輪は踊ってると信じてるし、これからも踊る埴輪を死ぬまでに千体創る目標があるんだ。
 千体……怪獣創って遊んでる場合じゃない数ですな。
 そういうあなたも遊んでる場合じゃないでしょ、描かないと! って晴れ女神の友にあたしがつつかれた。
 そうだった、そうだったけどさ。
 わははははってみんなで笑った。

 なんだかものすごく久々楽しい気分。
 ずっといてもいいような踊る埴輪の小さな山を降りて、麓の駅前に見つけた小さなラーメン屋。
 お腹空いたね。
 五人も入ると満員になってしまう小さな店で、特大お勧めの「オマール海老出汁ラーメン」を食べた。
 少し濃味のどろどろスープだったけど、今まで食べたことのないすごい香ばしくておいしいお味でした。
 んまいね!
 埴輪とラーメン、友と満足な一日過ごした日曜日だったのです。

「次は僕も一緒に行く」
「どっち?」
「ラーメン」
「そっち」
 あなたはこっそりモチを妬……焼いてるのね。
 ちょっとだけかわいいと思うことにする。







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