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四月六日
しおりを挟む「体調はどう?」
帰り際、ドクターが連日過呼吸気味のあたしを気遣う。
それからPCのお天気情報を覗き込みながら、
「明日は雨止むかなあ」と言う。
「お休みはお出かけですか?」
「ゴルフにね……君はゆっくり休んで来週は元気になって出て来て下さい、人手不足だからねえ」
眉をハの字にして目を伏せて、
「……がんばります」と答えた。
突然ドクターがくるりと椅子を回転させて、いきなり語り出す。
「何年か前に医師会仲間で泊まりがけのゴルフがあった時の話なんだけどね。
いい天気でね、車で三時間近くかけてご機嫌で目的地に向かったんだ。
ところが、待てど暮らせど仲間が来ないんだよ。
さすがののんびりやの僕も気付いた、一週間間違えていたんだって。
三時間もかけて不毛この上ないよね。
ゴルフに来て今更一人で観光気分でもないし、ホテルの予約は来週だし、諦めて帰ろうとしたその時にね! 偶然てすごいんだよ。
『なんだ奇遇だなあ』って声かけられたんだ。
驚いたね、医学部の同期だったんだよ!
びっくりしたのはそれだけじゃないんだ。
ちょうど一人欠席だから一緒に回らないかって誘われたんだ、ラッキーだろ。
それで僕、うっかり優勝しちゃったんだよ。
だからみんなから、誘うんじゃなかったって言われて大笑いだよ。
でも一つアンラッキーなことはね、誰も同室になりたがらないお喋りな奴が一緒の部屋だったから、実に寝不足だったんだよ」
「先生、文句は言えませんよ。ものすごい出血大サービスなラッキーだったんですから」
「そうだよねえ、それから彼らとゴルフ回るようになったんだよ」
ドクターはちょっと嬉しそうに自慢げで、少し可愛い。
「先生、女神様って本当にいるんですね」
「そんな良いことしてるつもりないけどな」
「毎日、患者さん救ってるじゃないですか」
「少なくとも悪事は働いてないな」
ドクターは笑いながら、
「笑うと元気になるかな。お疲れさま、ありがとう」と言う。
あたしが理不尽だらけのこの職場でなんとか頑張れるのは、ドクターが些細なことでも「ありがとう」って言ってくれるからだ。
奇跡のドキュメントだと思ったから、100%脚色せずにあなたにもお裾分けした。
「三時間……到着しても気付かない……君の上を行く人物がそんな近くにもいるのか」
そこ?
自分だって旅先でバス乗り違えて、目的地じゃないところに着いちゃったくせに。
「思いがけなく楽しかったよ、だから旅はやめられない。僕にも女神はついてるのさ」
あら、あたしじゃ不満なのかしら?
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