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八月十二日(月)
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山の日万歳! 快晴、風強し。
咳はほぼほぼ止まり、お鼻のオーバーフローもまあまあ減ってきた。
友人と約束していた「柳家三三」の落語会。
楽しみにしてたんだ~。
浴衣で落語会という選択肢もあったけど、この暑さでおなかにあせもができてしまうような気がして、やっぱりスカスカの楽ちんワンピースに下駄、2ヶ月ほど前にゲットした現在特大お気に入りの籐の特大イヤリングという出立ちで、意気揚々と出かけました……けど暑すぎて、歩幅が狭くなる。
地元の美味しいパンケーキ屋さんで早昼を摂って、お城とお堀の映える夏雲の写真を数枚撮ってから、ホール2階席の中央最前列で演目に期待する。
『死神』でもやってくれないかなぁ、と思っていたら本格的な怪談噺、三遊亭圓朝作の超長編『真景累ヶ淵』の一端で、これから延々と因縁と怨念が繋がっていく冒頭の部分。
本で読んで、これでもかというほど止まない凄まじい怨みと、善人がいとも容易く自分の身を守るために極悪人になってゆく、誰も幸せにならない苦しいお話。
なのに、さりげなく笑いを誘う台詞を入れてくる。さすが、三三師匠。
⚪︎
でもね、今日書きたいのはその事じゃないの。
落語会が終わってホールを出ると、広場で手作り雑貨やシフォンケーキなどのフリーマーケットが出店していた。
相変わらず陽射しが強いが風も強い。二人して日傘を開いて、フリーマーケットの店々をさらりと冷やかしたあと、どこかでお茶をしようと駅に向かう。
落語会の感想を語り合いながら、それにしても暑くて早く歩けないね、などと文句を言ってると、風が日傘を煽る。
あたしは、お気に入りのイヤリングが飛ばされたら嫌だわと思い耳に手をやると……ない! 右耳のイヤリングが消えてる!
「ない! ない! 風に飛ばされちゃったのかな」
ホールからもうだいぶ歩いて来ていて、どこで失くしたのかわからない。手提げかごの中にもない。うそでしょ~泣泣泣
友人が「戻ろう!」と率先して踵を返してくれた。ごめんねごめんね、いっぱい歩いて来たのに、暑いのにごめんね。
「私もショックだもん、あのイヤリング、個展の時にしてたのでしょ。すごい可愛いなって思ってたんだもん、絶対見つけよう!」って言ってくれる友人が優しすぎる。
二人で歩いて来た路面をじろじろ見ながら、ホールまでの道のりを戻る。物が大きいから落ちていればすぐに見つかるはずだが、ない……友人は停車中の車の下まで覗いてくれている。
結局見つからないまま、ホールに戻って来てしまった。
おそらくないとわかっていても、友人が積極的にスタッフらしき人に声をかけて、もう一度座っていた席まで入らせてもらった……けど、やはりなかった。
もうあたしは諦めモードだったが、友人がインフォメーションに行こうと言って、遺失物届けを出した。「ありがとう」と言うと、
「ううん、私が諦めきれないの。すごく似合ってたし、可愛いイヤリングだったもん」
昔から知ってはいたけど、改めてなんて良き友なんだ。あたしは感動していた。
再度ホールから出て、先程と同じように、灼熱の陽射しを避けるように二人して日傘を開いた時、友人が言う。
「誰か拾ってないかな、お店の人に訊いてみる?」
「う……ん、でもきっとないよ……」あたしがぼそぼそ言ってぐずぐずしてる間に、
「あの、イヤリングの片方落ちてませんでしか?」友人が近くにいた手作りかごを売っている女性に声をかけていた。
「あ、落ちてましたよ……さっき息子が拾って」
え? え? うそでしょ、どきどきどきどき
「あ、あの、このイヤリングなのですが……」あたしは片割れを見せた。
あったんです!!!
拾ってくれた小学生くらいの息子くんとお母さんである女性に深々とお礼を言って、あたしは友人を崇めた。
だって、いくつかお店があるうちの、ピンポイントで声をかけた女性の息子くんが拾ってくれていたなんて、信じられる?
友人が女神様に見えた。泣きそう……そしたら友人も「良かったね、私もうれしい」って涙ぐんでる。
また同じ道のりを、どこかでお茶しようと駅方面に向かう。
「風が強い時はイヤリングはやめよう。私たち、皮膚が弱いからピアスにできないから、そこ気をつけようね。弘生ちゃん、イヤリング、ちゃんとかごにしまっておきなさい」
「はーい」
「三三さんに来れたのもうれしかったけど、弘生ちゃんのイヤリングが見つかったのが何よりすごくうれしい」って友人が言ったんだ。
素敵なあたしの大切な友達なの。
咳はほぼほぼ止まり、お鼻のオーバーフローもまあまあ減ってきた。
友人と約束していた「柳家三三」の落語会。
楽しみにしてたんだ~。
浴衣で落語会という選択肢もあったけど、この暑さでおなかにあせもができてしまうような気がして、やっぱりスカスカの楽ちんワンピースに下駄、2ヶ月ほど前にゲットした現在特大お気に入りの籐の特大イヤリングという出立ちで、意気揚々と出かけました……けど暑すぎて、歩幅が狭くなる。
地元の美味しいパンケーキ屋さんで早昼を摂って、お城とお堀の映える夏雲の写真を数枚撮ってから、ホール2階席の中央最前列で演目に期待する。
『死神』でもやってくれないかなぁ、と思っていたら本格的な怪談噺、三遊亭圓朝作の超長編『真景累ヶ淵』の一端で、これから延々と因縁と怨念が繋がっていく冒頭の部分。
本で読んで、これでもかというほど止まない凄まじい怨みと、善人がいとも容易く自分の身を守るために極悪人になってゆく、誰も幸せにならない苦しいお話。
なのに、さりげなく笑いを誘う台詞を入れてくる。さすが、三三師匠。
⚪︎
でもね、今日書きたいのはその事じゃないの。
落語会が終わってホールを出ると、広場で手作り雑貨やシフォンケーキなどのフリーマーケットが出店していた。
相変わらず陽射しが強いが風も強い。二人して日傘を開いて、フリーマーケットの店々をさらりと冷やかしたあと、どこかでお茶をしようと駅に向かう。
落語会の感想を語り合いながら、それにしても暑くて早く歩けないね、などと文句を言ってると、風が日傘を煽る。
あたしは、お気に入りのイヤリングが飛ばされたら嫌だわと思い耳に手をやると……ない! 右耳のイヤリングが消えてる!
「ない! ない! 風に飛ばされちゃったのかな」
ホールからもうだいぶ歩いて来ていて、どこで失くしたのかわからない。手提げかごの中にもない。うそでしょ~泣泣泣
友人が「戻ろう!」と率先して踵を返してくれた。ごめんねごめんね、いっぱい歩いて来たのに、暑いのにごめんね。
「私もショックだもん、あのイヤリング、個展の時にしてたのでしょ。すごい可愛いなって思ってたんだもん、絶対見つけよう!」って言ってくれる友人が優しすぎる。
二人で歩いて来た路面をじろじろ見ながら、ホールまでの道のりを戻る。物が大きいから落ちていればすぐに見つかるはずだが、ない……友人は停車中の車の下まで覗いてくれている。
結局見つからないまま、ホールに戻って来てしまった。
おそらくないとわかっていても、友人が積極的にスタッフらしき人に声をかけて、もう一度座っていた席まで入らせてもらった……けど、やはりなかった。
もうあたしは諦めモードだったが、友人がインフォメーションに行こうと言って、遺失物届けを出した。「ありがとう」と言うと、
「ううん、私が諦めきれないの。すごく似合ってたし、可愛いイヤリングだったもん」
昔から知ってはいたけど、改めてなんて良き友なんだ。あたしは感動していた。
再度ホールから出て、先程と同じように、灼熱の陽射しを避けるように二人して日傘を開いた時、友人が言う。
「誰か拾ってないかな、お店の人に訊いてみる?」
「う……ん、でもきっとないよ……」あたしがぼそぼそ言ってぐずぐずしてる間に、
「あの、イヤリングの片方落ちてませんでしか?」友人が近くにいた手作りかごを売っている女性に声をかけていた。
「あ、落ちてましたよ……さっき息子が拾って」
え? え? うそでしょ、どきどきどきどき
「あ、あの、このイヤリングなのですが……」あたしは片割れを見せた。
あったんです!!!
拾ってくれた小学生くらいの息子くんとお母さんである女性に深々とお礼を言って、あたしは友人を崇めた。
だって、いくつかお店があるうちの、ピンポイントで声をかけた女性の息子くんが拾ってくれていたなんて、信じられる?
友人が女神様に見えた。泣きそう……そしたら友人も「良かったね、私もうれしい」って涙ぐんでる。
また同じ道のりを、どこかでお茶しようと駅方面に向かう。
「風が強い時はイヤリングはやめよう。私たち、皮膚が弱いからピアスにできないから、そこ気をつけようね。弘生ちゃん、イヤリング、ちゃんとかごにしまっておきなさい」
「はーい」
「三三さんに来れたのもうれしかったけど、弘生ちゃんのイヤリングが見つかったのが何よりすごくうれしい」って友人が言ったんだ。
素敵なあたしの大切な友達なの。
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