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エピローグ
エピローグ
しおりを挟む山の麓の無人駅。
学生風の若者を含む男女たちが、改札から出ると停車中のバスに乗り込んだ。
山越えして隣町に向かうバスは、よく晴れた明るい空からの光を遮断するようにドアを閉じた。浅い呼吸でも肺がいっぱいになってしまうような重苦しい車内の空気の中で、そのうちのひとりが持っている花の香りが強くなる。
誰かが呟く。
「あの事故から、もう一年経つんだね」
「みんな真野先生のこと好きだったのに……先生辞めなければこんなことにならなかったよ、きっと」
バスは渓谷に架かる橋を渡る。
「僕、このバスに乗ったことがあるような気がする」
「ねえ、誰が真野先生に花を届けに行こうって言ったんだっけ」
「卒業年のばらばらなわたしたち、どうやって集まったんだろう」
それぞれが似かよった不可思議な思いだった。
誰ともなくごく自然に、幾つめかのバス停で降り、無言でカーブの続く舗装された山道を登る。
少し息が切れ始めた頃、誰かが呟く。
「あそこに花が在る」
持ってきた花を横に並べ手を合わせて、それぞれの近況を報告する。
「僕は浪人中です」とか、
「私たち籍入れます」とか……
微かに珈琲の良い香りがした。
「ねえ、もう少し登ると神社があるみたい。行ってみない?」
帰りのバスに乗ったのは、陽が傾き始めた頃。
「わたしたち美術部員、真野先生に高校生以上のレベルの絵の基礎を叩き込まれたこと感謝しないとね」
バスの中は、来る時ほどは息苦しくはないが、みんな無口になって、暮れようとしている窓の外を見ている。
「あ!」
誰かが小さく叫んだ。
傾いた太陽に淡く透ける、うっかりすると見過ごしてしまいそうな、艶めく黒髪と白いワンピース姿の女性が、あの場所に跪いて、通り過ぎるバスの中まで香ってきそうな、開きかけた大きな白い花を並べている。
誰かが呟く。
「あの人……誰だっけ」
「知ってるような……でも思い出せない」
「わたしも……夢で見たのかな」
「最近いつも傍に居た気がする」
*
藤見まれは、自作の油画『月下美人』をそこに並べた。
それから、黒水晶の義眼を取り出すとそれを地中に埋め、目に出来たくぼみのピンク色の肉を掻いた。
錫杖のような音色が聴こえる。
忘れないけど忘れるよ……
山の雨が次第に激しく降ってきた。
完
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バスの運転手の冗談めかした言葉に一度はただの怪談話だと済ませた二人だが、滞在中、怪事件は嘘ではないのだと気づくことになる。
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弘生ちゃん🌻
一カ月間の厳しい旅路、本当にお疲れさまでした🐶⊃🧼♨️👘🍵🍱🐟🦐🍚🥢
先生の魂が昇華されたから、雨が上がったのかな🌇🚌
何かとても浄められた情景が見えました、いずれ、また、あの中の誰かが“まれ”に魅入られるとしても🌀
一緒に旅をして、色々な景色をみせてもらいました。
ありがとう😊
ゆっくり休んでください🌻🥂🐕
しばちゃん🐶🌸
最後まで一緒に旅してくれてありがとう🥹
おかげさまで、なんとかかんとかゴール出来ました〜😂
ちっとも怖くならないし、みんな素直に不可思議な現象を受け入れてるし💧
もう少し煮つめたかったにゃい
先生やっと旅立てたのだろうことを作者も信じたい😆
ただ書きたいと、何もない所からの1ヶ月、雑念と雑事の多すぎる弘生にはキツいということがよくわかった🤣
でも良い経験になりました
ずっと伴走応援してくれてありがと
🌻🥹っ🥂c🐶💖メルシーボクゥ
前回のクライマックスから今回のエピローグ、不思議な余韻が不気味でありながら小気味良く残り続きそうなんだよ……
忘れないけれど忘れるよって、忘れるけれどきっと忘れないってことだね。
そういうの、片方の何かが欠けた悲しい世界を悲しいままにしない人とつなぎ止めるおまじないなのかもしれないって思うんだ。
そう思わせたのが、姉さんの筆の力なんだわ✨
同じじゃないけど同じだって感じさせる力がある小説。面白かったよー!!😆🙌🙌🙌
アポロ〜🪐🌸
最後まで読んでくれてありがと〜😭
うんうん、忘れないけど忘れるのは忘れても忘れない丸いかたちなの🟠🥹
やっぱり物語の終わらせ方って難しい。
一応ホラーのつもりだから😅辻褄合わせは要らないとか思ってたのに、どうもそこが勇気が出ない。
山道沿いの花とか駅にいた若者たちとかを伏線として回収したくなっちゃう^^;
でも、やりすぎると説明っぽくなって台無しになっちゃうから、やっぱり難しかった。
もっともっと削りたかった気がする。
(行間王子のアポロを見習いたい😂)
でも、1ヶ月で無理矢理完結の挑戦してみて、片手間ではキツいということがわかりたです😂ニャヒャヒャ
しばらく休むぜ
ずっと応援して見守ってくれてありがと🌻🥹っ🍦🍫🍦🍫🍦🌸
弘生ちゃん🌻
お疲れさまでした🐶⊃☕️🥞🧈🍯🍨
やっぱり“まれ”は、天使(怖ろしい)や、神(多神教的な)ではなかったのかと。
しばちゃん🐶✨
今日もおつかれさま〜
っ🍓🥝🥮🍰🍮🍩
まれって、やっぱりただの女の子じゃないよね😂
神😳…真野先生にとってはそれもありうるかもしれない☝️
まれ、思い切り普通にしようか迷ったんだけどね、やっぱりこうなっちゃいました
(あんまり迷う時間がなかったのが事実だにゃ🤣🤣🤣)
あと1話!しばりんスィーツで何とかがんばるね(ง •̀_•́)ง
ありがとしばちゃん❣️🌻