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第1章 ドタバタの要因達
第8話 タマゴ
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魔物討伐は昼夜問わず行われた。それはそうだ。魔物は夜だからと言って眠るわけではない。予定では討伐2日目にランベルトがやってくるはずだったが、1日先送りにされた。
毒をまき散らす植物型の魔物の対応に思いの他苦慮していたのだ。深夜ではあるが、トーナはいまだに解毒用のポーションを作り続けている。
「燃やせないの? 植物型でしょ?」
「延焼が怖い。今は島内のあちこちに冒険者がいるからな」
トーナとリーノはいつの間にか普通に会話するようになっていた。リーノは好奇心旺盛で、ベルチェに倣ってトーナのポーション作りを手伝っていたのだ。
『実に楽しい作業だ! 生まれて初めて魔力がないことが残念だと思ったぞ!』
そんな彼についつい絆されて、トーナはあれこれ解説をしながらポーション作りを進めていた。
(こいつの作戦にハマってしまった気もするけど……まあいいか……)
「意外。金持ちは冒険者の命なんて金でどうにかするかと思った」
「それは心外だな。いくら金をかけても同じ命は生まれないんだぞ」
リーノは手慣れたようにアミアス苔を天秤に乗せ軽量しながら答えた。
「いやしかし……そうだな……お前も魔術は使えるな? それも全属性」
「えーっと……うん」
(マジで調べてるな……)
だがまだフィアルヴァの名前は出てきていない。どこまで知られているのかトーナは今更ながらドキドキしていた。
リーノは護衛を側に呼び、
「今回連れてきた中で火属性と水属性の魔術が得意なものを集めてくれ! 明朝一気に方を付けよう」
「わかりました」
これで少しは巻き返せる。トーナも出来る限り店を留守にしたくはないので、強行突破は歓迎だった。
「契約外なので別料金いただきまーす」
「ああ。キッチリ払ってやるさ」
更に追加で報酬が入るので万々歳だ。
港付近には狩られた魔物が丁寧に仕分けられている。専門の職人たちが忙しそうに素材を剥ぎ取り、それを船に乗せ王都の港を往復していた。
(うーん商売人はキッチリしてるな~)
湯水のように大金を使うのかと思っていたが、きちんと回収方法も考えていたのだ。
その様子を見ていたトーナに気が付いたリーノは、
「欲しいものがあったら言うといい。面白い体験をさせてもらった礼だ。色気のない贈り物で悪いが」
「やったー! じゃあツベル獣の角とパレジャの毛皮とロカの脾臓が欲しい!!!」
「……持ち帰る用に準備させておこう」
宝石を送った令嬢のような喜び方をした彼女を見て、笑いを押し殺していた。
◇◇◇
「おい! 火力が強すぎるぞ!」
「だって最後っ屁で魔物に毒でもまかれたら厄介じゃん。それにアレンならすぐ消火できるでしょ~」
「あ、あたり前だ!」
(チョロいな!? この貴族大丈夫?)
魔の森と化した一帯をトーナとアレンが2人で綺麗に整備する。トーナが炎で焼き払い、アレンが必要以上に森を燃やさないよう水の膜であたりを覆った。正確には彼女達以外の魔術師や魔術師もどきもいるが、2人の10分の1も進んでいない。
「なんだ。最初からこうすれば早かったな」
と言われるくらいには、彼女達以外必要がないと言われる勢いだった。
「錬金術師が1人と魔術学院の学生ですか……雇った魔術師達に払う分は無駄金でしたね」
リーノのお付きが顔をしかめている。
「まぁそう言うな。その分いいモノも見つけられた」
リーノ本人はやはり金持ちの余裕なのか、苦戦している魔術師達とトーナを見比べながらも満足そうだ。
「いや~~~久しぶりに思いっきり魔術使ったな~」
街中じゃあこれほど派手に魔術を使う機会なんてない。
「冒険者でもやればいいじゃないか。お前なら引っ張りだこだろう。女の護衛を探している金持ちの令嬢は多いぞ」
「嫌だよ~他人の命なんて預かれないし。自分の面倒みるだけでいっぱいいっぱいなの」
(これまで散々冒険者みたいな生活してたしね)
太陽が昇ったあたりで植物型の魔物はトーナ達によって駆逐された。周囲はまだ焦げ臭いにおいが漂っている。
「飛竜はやっぱり出てこなかったね」
「監視の話じゃタマゴの側から少しも離れないらしい。が、もちろん我々には気付いているだろう」
「タマゴはやっぱり持って帰るの?」
「そりゃあそうするさ。人命優先ではあるがな。下手な宝石よりもよっぽど価値があるものだぞ」
これだけ魔物が急激に集まったのはこの飛竜のタマゴのせいだった。このタマゴにはランベルトの如く魔物を集める性質がある。王都の魔物学者曰く、ここで集まった魔物をたくさん食べることで、幼竜は成長すると言われている。
「あとはランベルトを待って餌も大元も刈り取るだけだ。全員に休憩を取らせよう」
大元の飛竜がここにいるかぎり、いくらでも魔物は寄ってくる。
(あ~怖い! 竜種は個体差はあるけどタマゴ産んでるってことは絶対に攻撃性が上がってるし)
これまでトーナは師であるフィアルヴァの側で何度か竜種とエンカウントしている。フィアルヴァがわざと弟子に竜をけしかけるような真似をして、いつだって命からがらだった。
竜を倒せる人間はごく一部。その1人はランベルトのような高位冒険者。そしてトーナのようにやたらと師匠に竜殺しの極意を仕込まれた錬金術師ぐらいだ。もちろん彼女は秘密にしているが。
(竜種の素材はなにをとってもレアだしな。研究でいるからって……あの師匠はぁぁぁ! よくもあんな目にぃぃぃ!)
思い出して身震いをしたり、イラついたりと忙しそうにする彼女をリーノとアレンが不思議そうな顔で見ていた。
「オイどうし……」
――ヴァァァァァ!!!
突然の報告が、港に張り巡らせた結界を揺らす。
「大変です! 飛竜のタマゴにヒビがっ!」
誰かの叫ぶような声が聞こえた。
「なに!!? 早すぎるぞ!?」
孵化するのは2ヵ月後という想定だったのだ。
「ランベルトは!?」
「こちらに向かっていますがまだ時間が……!」
「クソ!!! 魔物の数が足りなければここにいる人間を餌に選ぶかもしれんぞ!?」
バタバタと全員が臨戦態勢に入る。
親飛竜の咆哮と共に、森の中に潜んでいた残りの魔物が騒ぎ始めた。自らの居場所がバレてしまうというのにタマゴへ向かう衝動を止めることが出来ない。
「どうします?」
この島で唯一涼しい顔をしたベルチェがトーナに尋ねる。
「私が出ないわけにはいかないよね~……ベルチェはここで待機して、事務方の人たちが危なかったら助けてあげて」
「わかりました」
リーノはすでにトーナに興味を持っていることは明らかだった。ベルチェにまで目をつけられたら面倒くさいことこの上ない。
「ずいぶん落ち着いてるな」
アレンがトーナの隣に立つ。緊張しているのか、こぶしに力が入っていた。これは当たり前の反応だ。竜種に遭遇したら、通常の人間は死を意識する。
「相手は1体。こちらは大勢。ポーションはたくさん。手練れの冒険者も傭兵もいる。しかも私もアレンもね。分は悪くないでしょ」
「その考え気に入った」
そう言うとふぅーっと息をはいていた。
予想通り飛竜の親は、子に与えるための餌を狩り始めた。けたたましい魔物達の叫び声が森の中から聞こえてくる。そして……、
「来た」
誰かの声が聞こえた。
バサバサと羽音を空中に響かせながら巨大な飛竜が港へと現れた。足りない餌を補いに来たのだ。
「デカッ!?」
想像以上にサイズのある飛竜だった。彼女がこれまで見たどの飛竜よりも大きい。
「撃ち落とせ!!!」
弓や魔法攻撃が一斉に飛竜に飛んでいく。が、簡単にかわされていた。
「雷撃がくるぞ!!!」
飛竜の口元が黄色く光るのが見えた。
「ウワァァァァ!!!」
相手の動きがわかっていても、それを上回る攻撃がトーナ達を襲う。飛竜の方は餌が燃え尽きてしまわないようにコントロールしているようだ。
「怪我人を移動させろ!!! 飛竜の羽根を狙え!!!」
じゃんじゃんポーション瓶を開ける音がする。
「躊躇うな! 上級ポーションを使ってもかまわん! 誰も死なすなよ!」
リーノの気前のいい声も聞こえてくる。
(防戦一方ね……)
トーナは呼吸を整えて、
「アレン。ちょっとカッコいいとこ見せてよ」
「はあ? 俺はいつでもカッコいいだろ!」
アレンが強がって笑っているのがトーナにはわかった。
「……で? どうすんだ」
「海に出よう。ここじゃ人が多くて大技は使えないでしょ」
「わかった」
了解を取った瞬間、トーナとアレンの体が浮いた。
「はぁ!? お前飛行魔術って!!……マジかよ……」
「これ使ってる間、他の魔術は期待できないからよろしく」
そう言って飛竜の視線に入るよう高度を上げた。
「オーイ! 餌はこっちだよ~~~」
「嫌なこと言うな」
アレンのツッコミを無視して飛竜に向かって手を振る。
有難いことに飛竜はトーナの誘いにのった。そのまま海上へと猛スピードで移動する。
(ヒィィィ! コワァァァ!!!)
だがアレンの手前涼しい顔をしていた。それに触発されたのか、アレンは覚悟を決めたような真剣な顔つきになる。
「こっからは俺だな」
そう言うと渾身の魔力を練り込んで、海水で大きな渦のトンネルを作り上げた。
「おぉ~! やるねー!!!」
「はっ! このくらい当たり前だ!」
大汗をかいていたが、トーナはもちろんそれには触れない。
飛竜の方も舐められてなるものかと、あちらも渾身の力を口からはく雷に込めていた。
咆哮と爆発音が人々の耳をつんざいた。
上空で飛竜がふらついているのが見える。
「あと一押し!!! 沈めちゃえー!!! って大丈夫!?」
アレンは肩で息をしていたが、再び海水が渦を巻き始めていた。
「あったりめーだろ……!」
と、同時に飛竜も再び力を溜め始める。
(えぇい! 仕方ない!)
トーナはフィアルヴァから伝授された竜殺しの魔術を使おうと手を掲げた。これは彼特有の魔術として有名なものだったので、身バレを恐れる彼女は出来るだけ使いたくはなかったのだ。
(背に腹は代えられん!)
だが、その時聞き覚えのある声が。
「お待たせー!!!!!」
「ランベルト!?」
まさかの男が、水中型魔獣の亡骸の上に立っていた。どうやら自分を襲ってくる魔獣を全て倒し、それを飛び石のように使ってここまで来たのだ。
(アウレウス級、コワァァァ!!!)
結局、美味しいところはランベルトが持って行った。飛竜はそのまま海に沈められ、雇われ冒険者達は怪我を負いながらも全員命を取り留めた。
だが、トーナにとって恐ろしいことはこれから起こる。
再び港に戻ったトーナに、リーノはキラキラとした目を向け、
「気に入った! お前を買いたい!!!」
と、大声で宣言したのだった。
毒をまき散らす植物型の魔物の対応に思いの他苦慮していたのだ。深夜ではあるが、トーナはいまだに解毒用のポーションを作り続けている。
「燃やせないの? 植物型でしょ?」
「延焼が怖い。今は島内のあちこちに冒険者がいるからな」
トーナとリーノはいつの間にか普通に会話するようになっていた。リーノは好奇心旺盛で、ベルチェに倣ってトーナのポーション作りを手伝っていたのだ。
『実に楽しい作業だ! 生まれて初めて魔力がないことが残念だと思ったぞ!』
そんな彼についつい絆されて、トーナはあれこれ解説をしながらポーション作りを進めていた。
(こいつの作戦にハマってしまった気もするけど……まあいいか……)
「意外。金持ちは冒険者の命なんて金でどうにかするかと思った」
「それは心外だな。いくら金をかけても同じ命は生まれないんだぞ」
リーノは手慣れたようにアミアス苔を天秤に乗せ軽量しながら答えた。
「いやしかし……そうだな……お前も魔術は使えるな? それも全属性」
「えーっと……うん」
(マジで調べてるな……)
だがまだフィアルヴァの名前は出てきていない。どこまで知られているのかトーナは今更ながらドキドキしていた。
リーノは護衛を側に呼び、
「今回連れてきた中で火属性と水属性の魔術が得意なものを集めてくれ! 明朝一気に方を付けよう」
「わかりました」
これで少しは巻き返せる。トーナも出来る限り店を留守にしたくはないので、強行突破は歓迎だった。
「契約外なので別料金いただきまーす」
「ああ。キッチリ払ってやるさ」
更に追加で報酬が入るので万々歳だ。
港付近には狩られた魔物が丁寧に仕分けられている。専門の職人たちが忙しそうに素材を剥ぎ取り、それを船に乗せ王都の港を往復していた。
(うーん商売人はキッチリしてるな~)
湯水のように大金を使うのかと思っていたが、きちんと回収方法も考えていたのだ。
その様子を見ていたトーナに気が付いたリーノは、
「欲しいものがあったら言うといい。面白い体験をさせてもらった礼だ。色気のない贈り物で悪いが」
「やったー! じゃあツベル獣の角とパレジャの毛皮とロカの脾臓が欲しい!!!」
「……持ち帰る用に準備させておこう」
宝石を送った令嬢のような喜び方をした彼女を見て、笑いを押し殺していた。
◇◇◇
「おい! 火力が強すぎるぞ!」
「だって最後っ屁で魔物に毒でもまかれたら厄介じゃん。それにアレンならすぐ消火できるでしょ~」
「あ、あたり前だ!」
(チョロいな!? この貴族大丈夫?)
魔の森と化した一帯をトーナとアレンが2人で綺麗に整備する。トーナが炎で焼き払い、アレンが必要以上に森を燃やさないよう水の膜であたりを覆った。正確には彼女達以外の魔術師や魔術師もどきもいるが、2人の10分の1も進んでいない。
「なんだ。最初からこうすれば早かったな」
と言われるくらいには、彼女達以外必要がないと言われる勢いだった。
「錬金術師が1人と魔術学院の学生ですか……雇った魔術師達に払う分は無駄金でしたね」
リーノのお付きが顔をしかめている。
「まぁそう言うな。その分いいモノも見つけられた」
リーノ本人はやはり金持ちの余裕なのか、苦戦している魔術師達とトーナを見比べながらも満足そうだ。
「いや~~~久しぶりに思いっきり魔術使ったな~」
街中じゃあこれほど派手に魔術を使う機会なんてない。
「冒険者でもやればいいじゃないか。お前なら引っ張りだこだろう。女の護衛を探している金持ちの令嬢は多いぞ」
「嫌だよ~他人の命なんて預かれないし。自分の面倒みるだけでいっぱいいっぱいなの」
(これまで散々冒険者みたいな生活してたしね)
太陽が昇ったあたりで植物型の魔物はトーナ達によって駆逐された。周囲はまだ焦げ臭いにおいが漂っている。
「飛竜はやっぱり出てこなかったね」
「監視の話じゃタマゴの側から少しも離れないらしい。が、もちろん我々には気付いているだろう」
「タマゴはやっぱり持って帰るの?」
「そりゃあそうするさ。人命優先ではあるがな。下手な宝石よりもよっぽど価値があるものだぞ」
これだけ魔物が急激に集まったのはこの飛竜のタマゴのせいだった。このタマゴにはランベルトの如く魔物を集める性質がある。王都の魔物学者曰く、ここで集まった魔物をたくさん食べることで、幼竜は成長すると言われている。
「あとはランベルトを待って餌も大元も刈り取るだけだ。全員に休憩を取らせよう」
大元の飛竜がここにいるかぎり、いくらでも魔物は寄ってくる。
(あ~怖い! 竜種は個体差はあるけどタマゴ産んでるってことは絶対に攻撃性が上がってるし)
これまでトーナは師であるフィアルヴァの側で何度か竜種とエンカウントしている。フィアルヴァがわざと弟子に竜をけしかけるような真似をして、いつだって命からがらだった。
竜を倒せる人間はごく一部。その1人はランベルトのような高位冒険者。そしてトーナのようにやたらと師匠に竜殺しの極意を仕込まれた錬金術師ぐらいだ。もちろん彼女は秘密にしているが。
(竜種の素材はなにをとってもレアだしな。研究でいるからって……あの師匠はぁぁぁ! よくもあんな目にぃぃぃ!)
思い出して身震いをしたり、イラついたりと忙しそうにする彼女をリーノとアレンが不思議そうな顔で見ていた。
「オイどうし……」
――ヴァァァァァ!!!
突然の報告が、港に張り巡らせた結界を揺らす。
「大変です! 飛竜のタマゴにヒビがっ!」
誰かの叫ぶような声が聞こえた。
「なに!!? 早すぎるぞ!?」
孵化するのは2ヵ月後という想定だったのだ。
「ランベルトは!?」
「こちらに向かっていますがまだ時間が……!」
「クソ!!! 魔物の数が足りなければここにいる人間を餌に選ぶかもしれんぞ!?」
バタバタと全員が臨戦態勢に入る。
親飛竜の咆哮と共に、森の中に潜んでいた残りの魔物が騒ぎ始めた。自らの居場所がバレてしまうというのにタマゴへ向かう衝動を止めることが出来ない。
「どうします?」
この島で唯一涼しい顔をしたベルチェがトーナに尋ねる。
「私が出ないわけにはいかないよね~……ベルチェはここで待機して、事務方の人たちが危なかったら助けてあげて」
「わかりました」
リーノはすでにトーナに興味を持っていることは明らかだった。ベルチェにまで目をつけられたら面倒くさいことこの上ない。
「ずいぶん落ち着いてるな」
アレンがトーナの隣に立つ。緊張しているのか、こぶしに力が入っていた。これは当たり前の反応だ。竜種に遭遇したら、通常の人間は死を意識する。
「相手は1体。こちらは大勢。ポーションはたくさん。手練れの冒険者も傭兵もいる。しかも私もアレンもね。分は悪くないでしょ」
「その考え気に入った」
そう言うとふぅーっと息をはいていた。
予想通り飛竜の親は、子に与えるための餌を狩り始めた。けたたましい魔物達の叫び声が森の中から聞こえてくる。そして……、
「来た」
誰かの声が聞こえた。
バサバサと羽音を空中に響かせながら巨大な飛竜が港へと現れた。足りない餌を補いに来たのだ。
「デカッ!?」
想像以上にサイズのある飛竜だった。彼女がこれまで見たどの飛竜よりも大きい。
「撃ち落とせ!!!」
弓や魔法攻撃が一斉に飛竜に飛んでいく。が、簡単にかわされていた。
「雷撃がくるぞ!!!」
飛竜の口元が黄色く光るのが見えた。
「ウワァァァァ!!!」
相手の動きがわかっていても、それを上回る攻撃がトーナ達を襲う。飛竜の方は餌が燃え尽きてしまわないようにコントロールしているようだ。
「怪我人を移動させろ!!! 飛竜の羽根を狙え!!!」
じゃんじゃんポーション瓶を開ける音がする。
「躊躇うな! 上級ポーションを使ってもかまわん! 誰も死なすなよ!」
リーノの気前のいい声も聞こえてくる。
(防戦一方ね……)
トーナは呼吸を整えて、
「アレン。ちょっとカッコいいとこ見せてよ」
「はあ? 俺はいつでもカッコいいだろ!」
アレンが強がって笑っているのがトーナにはわかった。
「……で? どうすんだ」
「海に出よう。ここじゃ人が多くて大技は使えないでしょ」
「わかった」
了解を取った瞬間、トーナとアレンの体が浮いた。
「はぁ!? お前飛行魔術って!!……マジかよ……」
「これ使ってる間、他の魔術は期待できないからよろしく」
そう言って飛竜の視線に入るよう高度を上げた。
「オーイ! 餌はこっちだよ~~~」
「嫌なこと言うな」
アレンのツッコミを無視して飛竜に向かって手を振る。
有難いことに飛竜はトーナの誘いにのった。そのまま海上へと猛スピードで移動する。
(ヒィィィ! コワァァァ!!!)
だがアレンの手前涼しい顔をしていた。それに触発されたのか、アレンは覚悟を決めたような真剣な顔つきになる。
「こっからは俺だな」
そう言うと渾身の魔力を練り込んで、海水で大きな渦のトンネルを作り上げた。
「おぉ~! やるねー!!!」
「はっ! このくらい当たり前だ!」
大汗をかいていたが、トーナはもちろんそれには触れない。
飛竜の方も舐められてなるものかと、あちらも渾身の力を口からはく雷に込めていた。
咆哮と爆発音が人々の耳をつんざいた。
上空で飛竜がふらついているのが見える。
「あと一押し!!! 沈めちゃえー!!! って大丈夫!?」
アレンは肩で息をしていたが、再び海水が渦を巻き始めていた。
「あったりめーだろ……!」
と、同時に飛竜も再び力を溜め始める。
(えぇい! 仕方ない!)
トーナはフィアルヴァから伝授された竜殺しの魔術を使おうと手を掲げた。これは彼特有の魔術として有名なものだったので、身バレを恐れる彼女は出来るだけ使いたくはなかったのだ。
(背に腹は代えられん!)
だが、その時聞き覚えのある声が。
「お待たせー!!!!!」
「ランベルト!?」
まさかの男が、水中型魔獣の亡骸の上に立っていた。どうやら自分を襲ってくる魔獣を全て倒し、それを飛び石のように使ってここまで来たのだ。
(アウレウス級、コワァァァ!!!)
結局、美味しいところはランベルトが持って行った。飛竜はそのまま海に沈められ、雇われ冒険者達は怪我を負いながらも全員命を取り留めた。
だが、トーナにとって恐ろしいことはこれから起こる。
再び港に戻ったトーナに、リーノはキラキラとした目を向け、
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