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第1章 ドタバタの要因達
第5話 洞窟ダンジョン
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この世界には【冒険】を生業に暮らしている人がたくさんいる。その性質上、ある程度身体能力は求められるが、戦闘力が必要かと言えばそれは絶対ではない。
例えば、珍しい植物や鉱物を採集したり、遺跡の調査をしたり、ダンジョンや魔の森の道案内をしたり、珍しい動物や魔物を観察し情報を集めたり。もちろん個人的な護衛や、魔物狩りが冒険者にとってのメイン活動ではあるが。
その日暮らしで自由に生きる人間が多いのも冒険者の特徴だった。
「ランベルトさん……採取に強い人なのかな?」
アウレウス級の冒険者なんて王国内に数人しか存在しない。そんな人がのほほんと微笑んでベルチェのお茶を飲んでいたなんて嘘のような話だった。
冒険者ギルドに所属する冒険者には、大まかにランクが付けられていた。ニヴィアスが一般的で、ある程度専門性が出来た冒険者はギルヴィ、それを極めた者をアルゲンテウス、さらに他の追随を許さないほど群を抜いた能力を持つ者がアウレウスと振り分けられていた。
「アウレウス級の冒険者は例外なく最高の戦闘力を保持しているはずですよ」
「だよねぇ。あの人、傷跡1つなかったんだけど」
首筋にチラリとタトゥーのような跡が見え、それだけが少しばかり危険な匂いを感じさせたが、やはり彼の雰囲気を目の当たりにするとバッサバッサと魔物を倒している姿が思い浮かばなかった。
「人は見かけによらないことはよくご存じでしょう」
「そーね。あの師匠とずっと暮らしてきたことだしね」
フィアルヴァは年齢不詳だ。見た目は30歳くらいの男性だが、少なくとも1000歳、ということだけわかっている。もはや人間かどうかも怪しい。
◇◇◇
ケミア洞窟は王都から馬を使って片道1日の距離だ。小規模のダンジョンだが難易度は中級程度あり、いまだに珍しい鉱石が採取できる。ある程度実力のある冒険者の小金稼ぎスポットにもなっていた。
「アミアス苔が欲しいんですよね。解毒用のポーションが作れるんです」
これは冒険者ギルドから可能であれば、と依頼されているものだ。毒特化のポーションはノーマルポーションより速効性が高い。だがトーナのような小さなお店では扱っても買う人などいないのだ。
(冒険者も特化型ポーションは持ち歩く人少ないのよね~荷物が嵩張るし)
とは言え、需要がないわけではないので材料を確保して悪いことは何もない。なにより、買うと高いのだ。
「じゃあ今回はそれの採取を目安にしましょうか」
アミアス苔は魔物の背に生えていることが多い。ケミアの洞窟ではココヘコというトカゲというよりはワニに様相が近い魔物からよく採取できることがわかっている。こいつはかなり好戦的なので、単純にそいつを倒さない限り手に入れることが出来ない。
「うまく出てきてくれるといいんですけど」
「大丈夫。出てきます」
ランベルトの確信するような言い方が気になったが、冒険を極めた者の勘でもあるのだろうとトーナは深く考えなかった。それより、
(こんな高位の冒険者を雇うことなんてこの先もないわ! これ以上のない護衛ね)
高価な材料を手に入れるなら自分で採取に行くのが安上がり。今回はさらに冒険者のプロ中のプロがいる。こういった魔物溢れるダンジョン内では魔物を倒した後も気が抜けず、採取もほどほどになりがちなので、これはまたとない機会だ。
アミアス苔は少量でかなりの量のポーションが作れるのでアウレウス級の冒険者付き添いの今だからこそ原価を抑えるまたとない機会だと、あれだけベルチェに文句タラタラだったのが嘘のようにやる気に満ちていた。
「手荷物はそれだけ?」
「師匠が瞬発力が大事だからってあんまり持たせてくれなかったんですよ」
トーナのシンプルな装備をみて、ランベルトは意外だとばかりに目をパチパチしていた。これまで見た錬金術師はたくさんのポーションやハンドボム等の武器を持っている事が多かったのだ。
「魔法を使うって言うのに機動力重視なんです」
けどほら。と、トーナは折りたたみのカバンや素材を取り出す道具を嬉しそうに披露した。
「たくさん持って帰りましょうね!」
ギルドマスターに騙されて彼女に会いに行った時の反応とは違い、心底楽しそうな姿を見てランベルトは安心したように笑った。
「はは! そうだね!」
洞窟の中に入るとさっそくワラワラと小さな魔物が出てきたが、トーナはそれをサクサクと地の魔術を使って倒していく。
「わぁ! よっぽど硬度を上げてるんだね!」
「元に戻すのにも魔力いりますけど、命中率高いので魔力効率はいいんです」
トーナが指を輪を描くかのように1回転させると、槍のように鋭利になって地面から突き出した土矛がバラバラと崩れる。同時にドサドサと音を立ててそれに貫かれていた魔物の身体も地面に落ちた。
(ダンジョン入った途端これだなんて、今日はアタリの日かな)
ふぅと息を吐き、ひと段落したと地面に横たわる魔物から素材を採取しようとすると、
「ブァァァ!!!」
新たな魔物の咆哮が。
その後も出てくるわ出てくるわ……大量の魔物。魔物。そして魔物。
(ちょっと! いくらなんでもおかしいでしょ!?)
以前一度このダンジョンには入ったことはあるが、それほど頻繁に魔物に遭遇するような所ではなかった。もちろん、その後も魔物溢れるダンジョンになったなんて話は聞いていない。
(どつなってんの!?)
トーナが観察していると、魔物視線はトーナではなく後ろにいるランベルトに向かっているのがわかった。それも全部だ。例外はない。
「あ! ついに気がついた? すごいね。魔物が俺にたどり着く前に倒しちゃうんだもん」
相変わらずニコニコしながら、唖然としているトーナの為についに剣を抜きそれを一振りした。
一瞬で目の前にいた中型ゴーレムが跡形もなくなる。
「いや~実は俺、魔物が寄ってくる体質で」
「……は?」
襲い来る魔物に対処しながら、脳みその隙間を使ってどうにか頭を働かせようと、トーナは目をぐるぐるとさせていた。
「え!? ちょ? え??? な、なんて??? いや、なんで???」
だがやはり、ランベルトが何を言ったのか理解できなかった。そして彼は追い打ちをかけるかのような行動に出る。
「ランベルト!!!!!」
ブシュっと嫌な音と共に、彼はわざと魔物に自信の身体を貫かせたのだ。彼の胸の下に魔物の角が突き刺さっている。トーナは一瞬でその魔物を風の魔術で作った刃物で切り裂き、真っ青な顔になってランベルトにポーションを浴びせようと瓶を開けた。
「……え!?」
だがランベルトは自らその角を抜き取ると、また周囲の魔物をバッサバッサとなぎ倒した。
「えっ!!!!?」
驚きの声を聞いて彼は満足そうに頷くと、
「大丈夫! 俺、再生能力者なんだ!」
「なにそれ!? なにそれー!!!!?」
そして青かった顔が今度は真っ赤に変わり、
(私を試したってこと!?)
「趣味が悪すぎるんじゃー!!!」
怒り狂って、ありとあらゆる魔術を使って手当たり次第の魔獣に当たり散らした。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
魔力より先に体力が尽きたトーナの周りには魔獣の亡骸が積み上げられている。肩で息をしながら、相変わらず穏やかな表情のランベルトを睨みつけた。
ダンジョン内の魔物は出尽くしていたのか、ついに波も止まっている。
「あ~いたいたココヘコ! アミアス苔は無事だね! あ。こっちは半分焦げてるけど使える?」
ランベルトは丁寧に苔を採取している。
「待てーい! ちょっとその前に言うことがあるやろがい!!!」
「え? あ、俺は大丈夫だよ!」
「違ーうっ! って、無事でよかったけども!!」
あまりのトーナの剣幕に押され、ついに手を止めたランベルトは、困ったように笑っていた。彼女の怒りの原因が本当にわかっていないのだ。
「なんでこんなことになってんのか説明してもらえるかなー!!?」
トーナはもうヤケクソで叫んでいた。ランベルトの方はそんなトーナに驚いて、一生懸命考えながら話し始める。
「えーっとなんでこんなことをしたかと言いますと……」
「言いますと!?」
「トーナさんは絶対に実力を隠すからちょっと追い詰めた方が現状を見ることができると聞いたので……」
「聞いたので!?」
「俺のこと詳しく知らないみたいだったし、アウレウス級の冒険者がやられたとあれば、どういう風な行動をとるかわかるかと思って……」
そしてトーナの行動が実に勇敢で、尚且つ自分を救おうをしていたことがとても嬉しかったとまた笑顔になった。……が、トーナの形相を見てシュンとすぐに下を向く。
「……けど俺がわざとやられたこと、すぐわかったんだね」
「そのくらいわかるっつーの!」
怒りがなかなか収まらず、トーナはギャンギャンと噛みつくように会話を続ける。
「つーか、ランベルトが再生能力者って周知の事実なの!?」
トーナはいつのまにか彼を呼び捨てで呼び、尚且つ丁寧な言葉使いをしていたことをすっかり忘れ去ってしまっている。
「どうだろう? 特に隠してないから……」
「隠せよ!!! 不意打ちとしてめっちゃ使えるじゃん!!!」
破れた彼の服から地肌が見えている。どうやら身体中に魔術紋と呼ばれるタトゥーが刻まれているのがわかった。
「再生能力って死なないけど痛いんでしょ!? 私の実力確かめる為にそんなことまでしなくていいから!!!」
「うーん……もう慣れちゃってるから……」
「慣れるなー!!!」
そう大声で叫んだあと、またハァハァと息を切らして座り込んだ。
「心配してくれてるんだね。……ありがとう」
トーナの怒りが、自分を心配するが故だと気が付いたランベルトは、笑ってはいけないとは思いつつもどうしても嬉しくて微笑まずにはいられなかった。そしてそれに気が付いたトーナはこれだけは言わなくてはとばかりに、再度大声を上げた。
「もっと自分を大切にしてくれます!!?」
「……そんなこと言ってもらったのは初めてだよ……」
そしてまた嬉しそうな笑顔になったランベルトを見て、こりゃ駄目だと地面にひっくり返ったのだった。
例えば、珍しい植物や鉱物を採集したり、遺跡の調査をしたり、ダンジョンや魔の森の道案内をしたり、珍しい動物や魔物を観察し情報を集めたり。もちろん個人的な護衛や、魔物狩りが冒険者にとってのメイン活動ではあるが。
その日暮らしで自由に生きる人間が多いのも冒険者の特徴だった。
「ランベルトさん……採取に強い人なのかな?」
アウレウス級の冒険者なんて王国内に数人しか存在しない。そんな人がのほほんと微笑んでベルチェのお茶を飲んでいたなんて嘘のような話だった。
冒険者ギルドに所属する冒険者には、大まかにランクが付けられていた。ニヴィアスが一般的で、ある程度専門性が出来た冒険者はギルヴィ、それを極めた者をアルゲンテウス、さらに他の追随を許さないほど群を抜いた能力を持つ者がアウレウスと振り分けられていた。
「アウレウス級の冒険者は例外なく最高の戦闘力を保持しているはずですよ」
「だよねぇ。あの人、傷跡1つなかったんだけど」
首筋にチラリとタトゥーのような跡が見え、それだけが少しばかり危険な匂いを感じさせたが、やはり彼の雰囲気を目の当たりにするとバッサバッサと魔物を倒している姿が思い浮かばなかった。
「人は見かけによらないことはよくご存じでしょう」
「そーね。あの師匠とずっと暮らしてきたことだしね」
フィアルヴァは年齢不詳だ。見た目は30歳くらいの男性だが、少なくとも1000歳、ということだけわかっている。もはや人間かどうかも怪しい。
◇◇◇
ケミア洞窟は王都から馬を使って片道1日の距離だ。小規模のダンジョンだが難易度は中級程度あり、いまだに珍しい鉱石が採取できる。ある程度実力のある冒険者の小金稼ぎスポットにもなっていた。
「アミアス苔が欲しいんですよね。解毒用のポーションが作れるんです」
これは冒険者ギルドから可能であれば、と依頼されているものだ。毒特化のポーションはノーマルポーションより速効性が高い。だがトーナのような小さなお店では扱っても買う人などいないのだ。
(冒険者も特化型ポーションは持ち歩く人少ないのよね~荷物が嵩張るし)
とは言え、需要がないわけではないので材料を確保して悪いことは何もない。なにより、買うと高いのだ。
「じゃあ今回はそれの採取を目安にしましょうか」
アミアス苔は魔物の背に生えていることが多い。ケミアの洞窟ではココヘコというトカゲというよりはワニに様相が近い魔物からよく採取できることがわかっている。こいつはかなり好戦的なので、単純にそいつを倒さない限り手に入れることが出来ない。
「うまく出てきてくれるといいんですけど」
「大丈夫。出てきます」
ランベルトの確信するような言い方が気になったが、冒険を極めた者の勘でもあるのだろうとトーナは深く考えなかった。それより、
(こんな高位の冒険者を雇うことなんてこの先もないわ! これ以上のない護衛ね)
高価な材料を手に入れるなら自分で採取に行くのが安上がり。今回はさらに冒険者のプロ中のプロがいる。こういった魔物溢れるダンジョン内では魔物を倒した後も気が抜けず、採取もほどほどになりがちなので、これはまたとない機会だ。
アミアス苔は少量でかなりの量のポーションが作れるのでアウレウス級の冒険者付き添いの今だからこそ原価を抑えるまたとない機会だと、あれだけベルチェに文句タラタラだったのが嘘のようにやる気に満ちていた。
「手荷物はそれだけ?」
「師匠が瞬発力が大事だからってあんまり持たせてくれなかったんですよ」
トーナのシンプルな装備をみて、ランベルトは意外だとばかりに目をパチパチしていた。これまで見た錬金術師はたくさんのポーションやハンドボム等の武器を持っている事が多かったのだ。
「魔法を使うって言うのに機動力重視なんです」
けどほら。と、トーナは折りたたみのカバンや素材を取り出す道具を嬉しそうに披露した。
「たくさん持って帰りましょうね!」
ギルドマスターに騙されて彼女に会いに行った時の反応とは違い、心底楽しそうな姿を見てランベルトは安心したように笑った。
「はは! そうだね!」
洞窟の中に入るとさっそくワラワラと小さな魔物が出てきたが、トーナはそれをサクサクと地の魔術を使って倒していく。
「わぁ! よっぽど硬度を上げてるんだね!」
「元に戻すのにも魔力いりますけど、命中率高いので魔力効率はいいんです」
トーナが指を輪を描くかのように1回転させると、槍のように鋭利になって地面から突き出した土矛がバラバラと崩れる。同時にドサドサと音を立ててそれに貫かれていた魔物の身体も地面に落ちた。
(ダンジョン入った途端これだなんて、今日はアタリの日かな)
ふぅと息を吐き、ひと段落したと地面に横たわる魔物から素材を採取しようとすると、
「ブァァァ!!!」
新たな魔物の咆哮が。
その後も出てくるわ出てくるわ……大量の魔物。魔物。そして魔物。
(ちょっと! いくらなんでもおかしいでしょ!?)
以前一度このダンジョンには入ったことはあるが、それほど頻繁に魔物に遭遇するような所ではなかった。もちろん、その後も魔物溢れるダンジョンになったなんて話は聞いていない。
(どつなってんの!?)
トーナが観察していると、魔物視線はトーナではなく後ろにいるランベルトに向かっているのがわかった。それも全部だ。例外はない。
「あ! ついに気がついた? すごいね。魔物が俺にたどり着く前に倒しちゃうんだもん」
相変わらずニコニコしながら、唖然としているトーナの為についに剣を抜きそれを一振りした。
一瞬で目の前にいた中型ゴーレムが跡形もなくなる。
「いや~実は俺、魔物が寄ってくる体質で」
「……は?」
襲い来る魔物に対処しながら、脳みその隙間を使ってどうにか頭を働かせようと、トーナは目をぐるぐるとさせていた。
「え!? ちょ? え??? な、なんて??? いや、なんで???」
だがやはり、ランベルトが何を言ったのか理解できなかった。そして彼は追い打ちをかけるかのような行動に出る。
「ランベルト!!!!!」
ブシュっと嫌な音と共に、彼はわざと魔物に自信の身体を貫かせたのだ。彼の胸の下に魔物の角が突き刺さっている。トーナは一瞬でその魔物を風の魔術で作った刃物で切り裂き、真っ青な顔になってランベルトにポーションを浴びせようと瓶を開けた。
「……え!?」
だがランベルトは自らその角を抜き取ると、また周囲の魔物をバッサバッサとなぎ倒した。
「えっ!!!!?」
驚きの声を聞いて彼は満足そうに頷くと、
「大丈夫! 俺、再生能力者なんだ!」
「なにそれ!? なにそれー!!!!?」
そして青かった顔が今度は真っ赤に変わり、
(私を試したってこと!?)
「趣味が悪すぎるんじゃー!!!」
怒り狂って、ありとあらゆる魔術を使って手当たり次第の魔獣に当たり散らした。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
魔力より先に体力が尽きたトーナの周りには魔獣の亡骸が積み上げられている。肩で息をしながら、相変わらず穏やかな表情のランベルトを睨みつけた。
ダンジョン内の魔物は出尽くしていたのか、ついに波も止まっている。
「あ~いたいたココヘコ! アミアス苔は無事だね! あ。こっちは半分焦げてるけど使える?」
ランベルトは丁寧に苔を採取している。
「待てーい! ちょっとその前に言うことがあるやろがい!!!」
「え? あ、俺は大丈夫だよ!」
「違ーうっ! って、無事でよかったけども!!」
あまりのトーナの剣幕に押され、ついに手を止めたランベルトは、困ったように笑っていた。彼女の怒りの原因が本当にわかっていないのだ。
「なんでこんなことになってんのか説明してもらえるかなー!!?」
トーナはもうヤケクソで叫んでいた。ランベルトの方はそんなトーナに驚いて、一生懸命考えながら話し始める。
「えーっとなんでこんなことをしたかと言いますと……」
「言いますと!?」
「トーナさんは絶対に実力を隠すからちょっと追い詰めた方が現状を見ることができると聞いたので……」
「聞いたので!?」
「俺のこと詳しく知らないみたいだったし、アウレウス級の冒険者がやられたとあれば、どういう風な行動をとるかわかるかと思って……」
そしてトーナの行動が実に勇敢で、尚且つ自分を救おうをしていたことがとても嬉しかったとまた笑顔になった。……が、トーナの形相を見てシュンとすぐに下を向く。
「……けど俺がわざとやられたこと、すぐわかったんだね」
「そのくらいわかるっつーの!」
怒りがなかなか収まらず、トーナはギャンギャンと噛みつくように会話を続ける。
「つーか、ランベルトが再生能力者って周知の事実なの!?」
トーナはいつのまにか彼を呼び捨てで呼び、尚且つ丁寧な言葉使いをしていたことをすっかり忘れ去ってしまっている。
「どうだろう? 特に隠してないから……」
「隠せよ!!! 不意打ちとしてめっちゃ使えるじゃん!!!」
破れた彼の服から地肌が見えている。どうやら身体中に魔術紋と呼ばれるタトゥーが刻まれているのがわかった。
「再生能力って死なないけど痛いんでしょ!? 私の実力確かめる為にそんなことまでしなくていいから!!!」
「うーん……もう慣れちゃってるから……」
「慣れるなー!!!」
そう大声で叫んだあと、またハァハァと息を切らして座り込んだ。
「心配してくれてるんだね。……ありがとう」
トーナの怒りが、自分を心配するが故だと気が付いたランベルトは、笑ってはいけないとは思いつつもどうしても嬉しくて微笑まずにはいられなかった。そしてそれに気が付いたトーナはこれだけは言わなくてはとばかりに、再度大声を上げた。
「もっと自分を大切にしてくれます!!?」
「……そんなこと言ってもらったのは初めてだよ……」
そしてまた嬉しそうな笑顔になったランベルトを見て、こりゃ駄目だと地面にひっくり返ったのだった。
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