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第1章 ドタバタの要因達
第3話 好敵手
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今、この王国のトップに立っている錬金術師と魔術師は犬猿の仲である。お互いにお互いを見下していた。
『魔術師なんて所詮貴族の道楽。まともな人間は魔術学院などで散財せず、自身で技を磨いている。錬金術は魔術の上に成り立つ学問だ。魔術しか出来ない人間が偉そうに!』
と言うのが、王宮錬金術師トップの考えである。
『錬金術なんぞ、魔術を極められなかった奴らの逃げ道だろう。高度な魔術は選ばれし者だけが使いこなすことが可能だ。凡人と混じる必要などない。外に出て恐ろしい敵と向き合う度胸もないくせに! 机に向かって怯えていろ!』
と言うのが、王宮魔術師トップの考えである。
唯一意見が合うことといえば……、
「「賢者~!? 何でもかんでも手を出せばいいと言うものではないっ!!!」」
と言うことだけだ。
「今のトップ2人って、師匠の弟子なんだよね?」
それはトーナがこの街の錬金術師仲間から聞いた情報だった。師匠本人からは一度もそんな話はなかったのだが。
「彼等はフィアルヴァの良いオモチャでしたね。双方が師弟関係を否定していますし、弟子ではないでしょう」
「師匠の弟子を名乗れば箔がつくのに……それすら嫌だってコト!?」
と言いつつも、残念ながらトーナは彼等の気持ちがよくわかった。
「倫理観ギリギリだったもんな~」
遠い目をして彼との旅路を思い出した。
こう言う背景はあるが、一般の魔術師と錬金術師はここまであからさまに仲が悪いわけではない。
魔術師は錬金術師の作ったポーションを使うし、錬金術師は魔術師や冒険者に錬金術で使用する素材の採取、それに伴う魔物の討伐を依頼する。
だがやはり、自分達がより高位に位置する存在だとは思っている。
◇◇◇
「どうせ試験の時もポーション使ってドーピングでもしたんだろ!」
「試験前に全員薬物検査されたでしょ~そんなことも覚えてないわけ?」
取り巻きの1人の無駄口にしっかり嫌味で返す。今更何事もなく終われるとは思っていないので、トーナは我慢するのをやめたのだ。
「それでどうやって勝負をつけるの?」
魔術学院の入学試験をトップの成績でパスした2人が模擬戦なんてしようものなら、辺り一体がどうなるかわかったものではない。フィアルヴァと違って、学生3人はまだまともな倫理観があるので、勿論そんな方法で勝負をつけるつもりもなかった。
「街中だからな。勝負は魔術のコントロールにしよう。属性やルールはお前が決めていい」
アレンは不敵に笑った。
この世界の魔法は地、水、火、風、それに光と基本的には5つの属性に分かれている。
「黒い瞳の持ち主はどの属性も得意と聞いたぞ」
魔術を使える者は光属性以外はどの属性も扱うことが出来るが、その中でも得意不得意があるというのが一般的だ。それを最も簡単に判別する方法は、自身の持つ瞳の色だった。
ちなみに、黒い瞳はどの属性も不得意であるという俗説がある。
(嫌味なやつね~!? 顔がいいからっていつまでも許すわけじゃないんだけど!?)
それでトーナの心は決まった。
(言い訳できないくらいギッタンギッタンにしてやる!!!)
「じゃあ雨に濡れた方が負けってことで!」
「はぁ!?」
にっこりと笑うトーナとは逆に招かれざる3人組は顔を歪ませていた。
「アレン様の青い瞳が見えないのか!?」
「錬金術師はそんなことも知らないとは……」
やれやれと肩をすくめて大袈裟に呆れて見せる取り巻き2人を、ジトっとした目でトーナは見つめ返した。
「ただいまより~私より入試結果の悪い人は発言権ありませ~ん! お黙りくださ~い!」
その言葉に2人は真っ赤になって押し黙る。それはそうだ。彼らはトーナの指摘通り、彼女より低い成績で入学しているのだから。つい先ほどまでトーナがそれを口に出さないことをいいことに調子に乗ってしまっていた。
「お前も水属性が得意なのか?」
俺は関係ないとばかりにアレンは相変わらず強気だ。
「アンタの言う通り全属性得意だから、アンタに有利な条件で勝負してあげるって言ってるだけ~」
トーナも強気だ。少しだって負ける気はないのだから。たとえ彼が得意とするであろう水がそこら中にあろうとも。
(ハッ! 所詮相手は学生じゃん。こちとら天下の大賢者相手に修行してきたっての!)
どうせこの生意気な相手をやりこめたとしても、それが世間に広がることはない。魔術師、それも大貴族がその辺の平民の錬金術師に負けたなんて話、トーナさえ黙っていれば負けた側は不名誉が過ぎて口にできないに決まっている。
「言っとくけど、アンタは挑戦者。本気でやらなきゃ恥かくわよ」
「口だけは立派だな」
裏庭に面した軒下に立ち、ルールの確認をする。
「せーので外に出て、この用紙が先に濡れた方が負けね!」
はい、とその辺に置いておいたノートの切れ端を1枚、手のひらサイズに破って手渡す。シトシトと降っていた雨はいつの間にかザーザー降りへと変わっていた。
「じゃあ行くよ~!」
そしてトーナはぐっと力を入れて構えるアレンを横目に、
「怪我しない程度の妨害はありで」
「はぁ!?」
と、不意打ちのように声をかけた。
(そんな長々付き合ってらんないし!)
「せーのっ!」
「おいっ!」
と言いながらも、アレンは掛け声と同時に雨の降る裏庭へと飛び出した。
(おぉ~! 流石首席ともなると上手いもんね~!)
アレンの頭上周辺にはいくつも水の玉がふよふよと浮遊していた。降りしきる雨が少しずつ吸い込まれたりまとまったりしているのがわかる。
「不意打ちなんて卑怯だぞ!」
取り巻きの1人が当たり前の非難をした。
「ルール決めていいって言ったのそっちじゃん! だいたい開始後に不意打ちしてるわけじゃないでしょ!」
今はお互い様子見、と言ったところだ。トーナの周辺には雨が降らず、透明なレインコートを着ているように見える。
「なんだ。風属性か」
「それはどうかな~?」
そう言うとトーナは人差し指をアレンの方に向けた。
「水鉄砲~!」
ニヤリと笑いながら容赦なく狙う。言葉通り、ぴゅーっと一気に指先から水が噴射され、アレンの持つ紙に向かって飛び出した。
「あら!?」
トーナの思惑に反してアレンは待ち構えていたかのようにアッサリとその水鉄砲をコントロールし返し、攻撃者へと打ち返した。もちろんトーナも軽くかわすが、思っていた以上に相手が魔術師としての実戦経験が多いことがうかがい知れ、気合を入れなおす。
「2属性同時!?」
一方で取り巻き達はトーナの魔術に驚いていた。通常魔術は1属性ずつしか発動できない。風の魔術を使っている最中に、水の魔術を使うなんて並の魔術師でないことは明らかだった。
(これでドヤ顔かましてやりこめるつもりだったのに!)
当てが外れてしまった。まさかの本人の自信に満ちた態度と実力が伴うなんて。
「いや~ごめんごめん。ちょっと舐めてたわ」
「雨の中で負ける気はしねぇんだよ」
アレンの方もトーナと全く同じ考えに至っていた。
「……だがお前がそれなりに実力があるってことは認めてやる」
そのまま意趣返しとばかりに、トーナと同じように人差し指から水を噴射させた。もちろん水量も威力もアップさせて。
「おわっ!」
今度は水の塊でガードし、そのまま大きな水の玉をアレンへとぶつけようとした。
それからは地味で緩い攻撃の応酬だ。痺れを切らしてアレンの方が先に強い攻撃でも仕掛けてくるかと思ったが、それなりに貴族らしく紳士の心得があるのか、トーナに怪我をさせるようなことは決してしなかった。
(んあ~!!! イライラする! 思いっきりやってくれたらカウンターかますのに!)
むしろトーナの方がなかなか当たらない攻撃に嫌気がさしてしまっていた。元来せっかちな彼女の魔術はだんだんと鋭くなっていく。なのにやはり当たらない。
(落ち着け~落ち着け私~!!!)
心を落ち着けようとするトーナとは裏腹に、招かれざる3人組はどんどん高揚してきているのがわかった。特に取り巻き2人は先ほどの態度とは打って変わって素直にトーナに称賛の声を上げる。
「すごい!!! 2属性をあれだけコントロールして維持するなんて……」
「信じられん! アレン様相手にこれだけもった人間なんてこれまでいるのか?」
(信じられないのはこっちも同じだっつーの! ここはアッサリやられてギャフンのところでしょーが!!!)
そこで彼女もようやく認めた。
「口だけじゃなかったんだね」
「お互いにな」
アレンはとても嬉しそうな表情になっていた。これまで国内最高峰の場で学んでいるにも関わらず、彼はいつも物足りなさを感じていた。それが今、満たされているのがわかったのだ。
だが、それも終わりをつげた。
「トーナ。お客様です」
ベルチェがバチンと手を叩くと、2人の手元にある紙が、たくさんの針のように小さくなった水しぶきによって貫かれた。そして同時に、トーナもアレンも雨に打たれ始める。
「オイ!」
楽しい気分を台無しにされたアレンは声を上げたが、ベルチェは怯まない。
「お客様でない方はお引き取りを」
一切表情を変えなかった。
「しかたない。このくらいで勘弁してあげるわ」
「な! 俺は負けてないぞ!?」
トーナの方もこれで終わり、というスタンスになってアレンは焦るかのように彼女に近づく。ついでのようにトーナが濡れないように再び雨をコントロールし始めた。
「お貴族様と違って働かないと食べていけないからね」
トーナはアレンの親切な行動に少し驚いたが、小さな嫌味を添えてニコリと笑って見せた。
「お帰りはあちらからどうぞ」
裏庭から小道に続く扉をベルチェは魔術を使って開き、手で促しす。
「この店員何者だ!?」
取り巻きは首席2人から魔術コントロールを奪い取るほどの能力を持つ存在に気が付いた。しかし質問には答えず、ベルチェは相変わらず無表情で彼らが出て行くのを待っている。
「ま、また来るからな!」
アレンは少し何か考えた後、顔を赤らめながら言い放ち、そのまま速足で去っていく。取り巻き達も大慌てで追いかけて行った。
そしてアレンの言葉を少し噛みしめた後、トーナは急いで大声を出す。
「もうくんな!!!」
『魔術師なんて所詮貴族の道楽。まともな人間は魔術学院などで散財せず、自身で技を磨いている。錬金術は魔術の上に成り立つ学問だ。魔術しか出来ない人間が偉そうに!』
と言うのが、王宮錬金術師トップの考えである。
『錬金術なんぞ、魔術を極められなかった奴らの逃げ道だろう。高度な魔術は選ばれし者だけが使いこなすことが可能だ。凡人と混じる必要などない。外に出て恐ろしい敵と向き合う度胸もないくせに! 机に向かって怯えていろ!』
と言うのが、王宮魔術師トップの考えである。
唯一意見が合うことといえば……、
「「賢者~!? 何でもかんでも手を出せばいいと言うものではないっ!!!」」
と言うことだけだ。
「今のトップ2人って、師匠の弟子なんだよね?」
それはトーナがこの街の錬金術師仲間から聞いた情報だった。師匠本人からは一度もそんな話はなかったのだが。
「彼等はフィアルヴァの良いオモチャでしたね。双方が師弟関係を否定していますし、弟子ではないでしょう」
「師匠の弟子を名乗れば箔がつくのに……それすら嫌だってコト!?」
と言いつつも、残念ながらトーナは彼等の気持ちがよくわかった。
「倫理観ギリギリだったもんな~」
遠い目をして彼との旅路を思い出した。
こう言う背景はあるが、一般の魔術師と錬金術師はここまであからさまに仲が悪いわけではない。
魔術師は錬金術師の作ったポーションを使うし、錬金術師は魔術師や冒険者に錬金術で使用する素材の採取、それに伴う魔物の討伐を依頼する。
だがやはり、自分達がより高位に位置する存在だとは思っている。
◇◇◇
「どうせ試験の時もポーション使ってドーピングでもしたんだろ!」
「試験前に全員薬物検査されたでしょ~そんなことも覚えてないわけ?」
取り巻きの1人の無駄口にしっかり嫌味で返す。今更何事もなく終われるとは思っていないので、トーナは我慢するのをやめたのだ。
「それでどうやって勝負をつけるの?」
魔術学院の入学試験をトップの成績でパスした2人が模擬戦なんてしようものなら、辺り一体がどうなるかわかったものではない。フィアルヴァと違って、学生3人はまだまともな倫理観があるので、勿論そんな方法で勝負をつけるつもりもなかった。
「街中だからな。勝負は魔術のコントロールにしよう。属性やルールはお前が決めていい」
アレンは不敵に笑った。
この世界の魔法は地、水、火、風、それに光と基本的には5つの属性に分かれている。
「黒い瞳の持ち主はどの属性も得意と聞いたぞ」
魔術を使える者は光属性以外はどの属性も扱うことが出来るが、その中でも得意不得意があるというのが一般的だ。それを最も簡単に判別する方法は、自身の持つ瞳の色だった。
ちなみに、黒い瞳はどの属性も不得意であるという俗説がある。
(嫌味なやつね~!? 顔がいいからっていつまでも許すわけじゃないんだけど!?)
それでトーナの心は決まった。
(言い訳できないくらいギッタンギッタンにしてやる!!!)
「じゃあ雨に濡れた方が負けってことで!」
「はぁ!?」
にっこりと笑うトーナとは逆に招かれざる3人組は顔を歪ませていた。
「アレン様の青い瞳が見えないのか!?」
「錬金術師はそんなことも知らないとは……」
やれやれと肩をすくめて大袈裟に呆れて見せる取り巻き2人を、ジトっとした目でトーナは見つめ返した。
「ただいまより~私より入試結果の悪い人は発言権ありませ~ん! お黙りくださ~い!」
その言葉に2人は真っ赤になって押し黙る。それはそうだ。彼らはトーナの指摘通り、彼女より低い成績で入学しているのだから。つい先ほどまでトーナがそれを口に出さないことをいいことに調子に乗ってしまっていた。
「お前も水属性が得意なのか?」
俺は関係ないとばかりにアレンは相変わらず強気だ。
「アンタの言う通り全属性得意だから、アンタに有利な条件で勝負してあげるって言ってるだけ~」
トーナも強気だ。少しだって負ける気はないのだから。たとえ彼が得意とするであろう水がそこら中にあろうとも。
(ハッ! 所詮相手は学生じゃん。こちとら天下の大賢者相手に修行してきたっての!)
どうせこの生意気な相手をやりこめたとしても、それが世間に広がることはない。魔術師、それも大貴族がその辺の平民の錬金術師に負けたなんて話、トーナさえ黙っていれば負けた側は不名誉が過ぎて口にできないに決まっている。
「言っとくけど、アンタは挑戦者。本気でやらなきゃ恥かくわよ」
「口だけは立派だな」
裏庭に面した軒下に立ち、ルールの確認をする。
「せーので外に出て、この用紙が先に濡れた方が負けね!」
はい、とその辺に置いておいたノートの切れ端を1枚、手のひらサイズに破って手渡す。シトシトと降っていた雨はいつの間にかザーザー降りへと変わっていた。
「じゃあ行くよ~!」
そしてトーナはぐっと力を入れて構えるアレンを横目に、
「怪我しない程度の妨害はありで」
「はぁ!?」
と、不意打ちのように声をかけた。
(そんな長々付き合ってらんないし!)
「せーのっ!」
「おいっ!」
と言いながらも、アレンは掛け声と同時に雨の降る裏庭へと飛び出した。
(おぉ~! 流石首席ともなると上手いもんね~!)
アレンの頭上周辺にはいくつも水の玉がふよふよと浮遊していた。降りしきる雨が少しずつ吸い込まれたりまとまったりしているのがわかる。
「不意打ちなんて卑怯だぞ!」
取り巻きの1人が当たり前の非難をした。
「ルール決めていいって言ったのそっちじゃん! だいたい開始後に不意打ちしてるわけじゃないでしょ!」
今はお互い様子見、と言ったところだ。トーナの周辺には雨が降らず、透明なレインコートを着ているように見える。
「なんだ。風属性か」
「それはどうかな~?」
そう言うとトーナは人差し指をアレンの方に向けた。
「水鉄砲~!」
ニヤリと笑いながら容赦なく狙う。言葉通り、ぴゅーっと一気に指先から水が噴射され、アレンの持つ紙に向かって飛び出した。
「あら!?」
トーナの思惑に反してアレンは待ち構えていたかのようにアッサリとその水鉄砲をコントロールし返し、攻撃者へと打ち返した。もちろんトーナも軽くかわすが、思っていた以上に相手が魔術師としての実戦経験が多いことがうかがい知れ、気合を入れなおす。
「2属性同時!?」
一方で取り巻き達はトーナの魔術に驚いていた。通常魔術は1属性ずつしか発動できない。風の魔術を使っている最中に、水の魔術を使うなんて並の魔術師でないことは明らかだった。
(これでドヤ顔かましてやりこめるつもりだったのに!)
当てが外れてしまった。まさかの本人の自信に満ちた態度と実力が伴うなんて。
「いや~ごめんごめん。ちょっと舐めてたわ」
「雨の中で負ける気はしねぇんだよ」
アレンの方もトーナと全く同じ考えに至っていた。
「……だがお前がそれなりに実力があるってことは認めてやる」
そのまま意趣返しとばかりに、トーナと同じように人差し指から水を噴射させた。もちろん水量も威力もアップさせて。
「おわっ!」
今度は水の塊でガードし、そのまま大きな水の玉をアレンへとぶつけようとした。
それからは地味で緩い攻撃の応酬だ。痺れを切らしてアレンの方が先に強い攻撃でも仕掛けてくるかと思ったが、それなりに貴族らしく紳士の心得があるのか、トーナに怪我をさせるようなことは決してしなかった。
(んあ~!!! イライラする! 思いっきりやってくれたらカウンターかますのに!)
むしろトーナの方がなかなか当たらない攻撃に嫌気がさしてしまっていた。元来せっかちな彼女の魔術はだんだんと鋭くなっていく。なのにやはり当たらない。
(落ち着け~落ち着け私~!!!)
心を落ち着けようとするトーナとは裏腹に、招かれざる3人組はどんどん高揚してきているのがわかった。特に取り巻き2人は先ほどの態度とは打って変わって素直にトーナに称賛の声を上げる。
「すごい!!! 2属性をあれだけコントロールして維持するなんて……」
「信じられん! アレン様相手にこれだけもった人間なんてこれまでいるのか?」
(信じられないのはこっちも同じだっつーの! ここはアッサリやられてギャフンのところでしょーが!!!)
そこで彼女もようやく認めた。
「口だけじゃなかったんだね」
「お互いにな」
アレンはとても嬉しそうな表情になっていた。これまで国内最高峰の場で学んでいるにも関わらず、彼はいつも物足りなさを感じていた。それが今、満たされているのがわかったのだ。
だが、それも終わりをつげた。
「トーナ。お客様です」
ベルチェがバチンと手を叩くと、2人の手元にある紙が、たくさんの針のように小さくなった水しぶきによって貫かれた。そして同時に、トーナもアレンも雨に打たれ始める。
「オイ!」
楽しい気分を台無しにされたアレンは声を上げたが、ベルチェは怯まない。
「お客様でない方はお引き取りを」
一切表情を変えなかった。
「しかたない。このくらいで勘弁してあげるわ」
「な! 俺は負けてないぞ!?」
トーナの方もこれで終わり、というスタンスになってアレンは焦るかのように彼女に近づく。ついでのようにトーナが濡れないように再び雨をコントロールし始めた。
「お貴族様と違って働かないと食べていけないからね」
トーナはアレンの親切な行動に少し驚いたが、小さな嫌味を添えてニコリと笑って見せた。
「お帰りはあちらからどうぞ」
裏庭から小道に続く扉をベルチェは魔術を使って開き、手で促しす。
「この店員何者だ!?」
取り巻きは首席2人から魔術コントロールを奪い取るほどの能力を持つ存在に気が付いた。しかし質問には答えず、ベルチェは相変わらず無表情で彼らが出て行くのを待っている。
「ま、また来るからな!」
アレンは少し何か考えた後、顔を赤らめながら言い放ち、そのまま速足で去っていく。取り巻き達も大慌てで追いかけて行った。
そしてアレンの言葉を少し噛みしめた後、トーナは急いで大声を出す。
「もうくんな!!!」
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