エルキア通りの錬金術店は今日も営業中~のんびり暮らしたい私とそれを許さない現実~

桃月とと

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第1章 ドタバタの要因達

第1話 薬草店

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「げっ! 薬草足りないかも……」 

 トーナの二日酔い止め薬は彼女の自信作である初級ポーションよりも売れに売れていた。最初からターゲットにしていた冒険者以外にも酒を飲む者は誰しも欲しがったのだ。

「ありがたいけど……皆お酒飲み過ぎでしょ!?」
「酒屋の主人からお礼の品が届いてますよ」

 ベルチェが酒のボトルを2本、両手で持ち上げて見せた。どちらもトーナの好きな果実酒だ。
 その酒を持ってきた店主曰く、酒の売り上げにも貢献し、尚且つ飲み屋街周辺でいつまでも酔いつぶれて転がっている冒険者が減り、衛生環境にも多少貢献しているらしかった。

「有難いけど呑むのは待たなきゃ……薬の納品が減るかもって伝えないと」

 せっかく勢いがついてきたのにそれを止めてしまう可能性が出てきて、トーナは思わずため息をはいていた。

「アルドーの薬草店頼みね……」

 この薬の材料はそもそもこの辺りではあまり出回っていない。先日の定期市でも二日酔い薬に使うエルメ豆とミクン種を買い占めてしまっていた。それで急遽、城門の近くにある薬草屋に相談したのだ。アルドーの薬草屋は店主の趣味もあってか、実に様々な種類の薬草が販売されており、二日酔い薬に使う薬草も仕入先に心当たりがあるようだった。

「よし! 定期市まわってから行こうか!」
「そうですね。アチラは早い者勝ちですから」

 定期市という名目であるが、旅の商人用のスペースも用意されており、トーナはそこを見て周るのがとても好きだった。

「今日も人が多いね~」
「店の数も増えているようです」
「景気がいいのは良いことだ」

 最近国境で小競り合いがあったという噂を耳にしたが、その影響はあまりなかったようで、近隣国から運ばれた品も多く見かけた。

「あ! ゼグラの樹液売ってる!」
「この時期に珍しい」
「え!? マンドラゴラもある!!?」
「お値段も悪くありません」
「テアの葉が~~~!」
「今日は豊作ですね」

 思いがけずアレコレと買い込んでしまったため、ベルチェは1度店へ荷物を置きに行き、トーナ1人で城門近くにあるアルドーの店へ向かう。定期市で珍しい薬草や香料は見つかったにもかかわらず、残念ながら目的の材料は手に入らなかった。祈るような気持ちで歩いていると、前方から最近よく見る顔が。

「あらトーナちゃん! 貴女のとこのポーションのお陰で朝からゲーゲーやるヤツ減って助かってんのよ~また頼むわね~!」
「アハ……は、は~~~い」

 手を振ってそそくさと立ち去る。彼女はゾラ、飲み屋街にある娼館に住んでいる。谷間が魅力的なとても綺麗な女性で、最近はトーナのお店にもちょこちょこ寄ってくれていた。長い旅を続けていたのもあり、今世では同性の友達がいないトーナにとっては、久しぶりに楽しく話が出来る相手でもあった。

(あぁぁぁぁ薬草ありますように……っ!!!)

 さらに祈りの気持ちを強めながらアルドーの薬草店の扉を開けた。

「おう来たか! 例の薬草ちゃんと仕入れてるぞ! ちょうど今日届いてな~」
「うわぁぁぁぁ! ありがとうございます!!!」

 店主アドラーの手を取り、その場でぶんぶんと上下に振った。

「そんなに売れてんのかあの薬」

 彼の店には店頭にテーブルと椅子が置かれており、常連客がしょっちゅう入り浸っていた。今日はそのメンバーがいないからか、トーナの為にお茶を入れてくれている。

「はい。有難いことに……店始めたばかりだからなるべく機会を逃したくなくて」
「そりゃそうだわな~まぁ役に立ててよかった」

 アルドーの薬草店の中は色んな香りが混じりあっていた。花屋のみずみずしさのある緑の香りと違った、子供だと少し苦手かもしれない癖のある匂いがトーナは好きだった。
 店先にはドライフラワーのように吊るされた小さな花のついた薬草があり、棚には見たことのない鮮やかな色をした実がビンに詰められていたり、トーナの店の裏庭にも生えている薬草と同じ種類なのに、明らかに大きさの違うものがあったりと発見も多い。 

「それにしてもこれ、美味しいですね……売ってます?」
「なんだぁ~若ぇのにわかってんな~!」

(濃くて渋い日本茶って感じ……懐かしい……)

 ジーンと感動している彼女をみて、アルドーはおべっかではなく本気で言っていることがわかり、とても機嫌よくお茶の葉をわけてくれた。

「趣味で作ってんだ。持ってってくれ」
「やったー! と言いたいですが、次も欲しいので値段つけてください」
「いいよいいよ。なくなったらまたやる。他のモン薬草にカネ落としてくれればそれで」
「じゃあ……お言葉に甘えて!」

 王都に住み始めてまだまだ日は浅いが、浅いなりに人間関係が築けていることを実感してトーナは嬉しくなる。

「義理の姉ちゃんが隣街で薬草園やっててな。色々融通が利くんだ。この葉も特別に場所もらってよ」
「もしかして今回のも?」
「ああ。エルメ豆もミクン種もそこのだ。今後も買う予定があるならそう伝えとくが」
「お願いします!!!」

(助かった~~~!)

 これで売れ筋商品の在庫不足という不安からは解放されそうだとトーナはホッと胸をなでおろす。
 帰り道にまたゾラを見かけ、今度はにこやかにトーナの方から声をかけた。

「ゾラさーん! またお店寄ってくださいね~!」

 それに答えるように、ゾラは大きく嬉しそうに手を振り返してくれた。 
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