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14 未確認巨大物体接近中
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嫁入りしてから10ヶ月、それは冒険者になって10ヶ月ということだ。あの結婚式の悪夢はなんだったんだというくらい楽しい日々を過ごしている。
もちろん、冒険者稼業は順調だ。ダンジョンに入り、依頼をこなし、がっぽがっぽ稼いでる。それも大技なしでだ。その辺に自分の成長を感じる。
(はーはっは! 笑いがとまらん!)
やはり自分で稼いだお金というのは別格だ。旦那様から毎月いただく予算とは違う。
(他人の金で食べる食事も美味しいけど、自分の稼ぎも嬉しいもんだわ!)
この感覚も消えない社畜根性を引きずっているせいだろうか。
最近は旦那様の功績がちゃんとわかってきた。この街では、冒険者は公平で適正な評価を受けることが出来るのだ。他領からやってきた冒険者達がここでの生活にいつも驚いているのを間近で見て、それを実感した。
「買取所が足元みたり、ギルドが冒険者の功績を賄賂貰った別の冒険者につけるなんてこともあるからな」
「そうそう。字が読めねぇからって依頼を誤魔化したり、報酬チョロまかされたりな」
「へぇ~! そんな酷い事すんのか!」
この街出身のレイドとこの街以外の冒険者街を知らない私は『へぇ』の嵐だ。
「この街は当たり前のことを当たり前に評価してもらえるから助かるのよぉ」
だからミリアはずっとこの街を拠点にしていた。故郷からは離れているが、確実な稼ぎと正当な評価も得られるからBランクまで上がることが出来た。最近、ずいぶん生活が楽になったと教えてくれた。
「この街でAランク評価受けたやつと、他所で不正してAランクになったやつとじゃ実力に雲泥の差があるんだ」
当たり前だけどな~。と隣の席の冒険者が呟く。
「そういや先週この街に来たあの威張り腐ってたAランクの奴ら、あっという間にダンジョンの餌になってたな」
冒険者が無駄死にしないよう、ギルドが案内人を紹介してくれたり、ダンジョン情報を公開しているのだが、それをダサいと馬鹿にして命を落とす高ランク冒険者もいた。
「優秀な冒険者を長く滞在させるっていう、旦那様の思惑通りになってるのね」
「出たよテンペストの嫁面が」
「だって嫁だもーん」
もはや誰も信じないので気が楽だ。
「お前ら~のんびりしてていいのか~?」
外から帰って来た食堂の店主が冒険者達に声をかける。
「兵隊さん達がなんか慌ただしく動いてたぞ~」
「お! 久々の大物か!?」
ガタガタと席を立って出ていく。ワイバーン以降、特に大きなイベントはない。いたって平和だ。
冒険者達はギルドへ向かっていた。何かあれば1番にここに情報が降りてくる。
「それで公爵の嫁はまたなんにも知らないのか?」
「知らなーい。だって旦那様、私が冒険者やってるの気付いてないし~」
「まぁ! 夫婦仲がうまく言ってないの?」
「それは……うーん」
クリスティーナ様の件があってから旦那様との会話が増えていた。毎朝食事中、1つだけ質問をしてくるのだ。
「す、好きな色は?」
「食べ物は何が好きなんだ?」
「最近はまっていることは?」
(プロフィール帳でも作ってんの!?)
じれったいから例の用紙くれたら全部書くけど!?
というか、旦那様は冒険者テンペストに恋をしていたのでは? なにやら私をチラっと見るだけで幸せそうだ。
(まさかついにバレた!?)
そう思った日もあったがどうも違う。
「困ったことがあったら何でも言ってくれ。ヴィクターではなく直接私に」
「外出は、くれぐれも気をつけて……」
ということは、旦那様は今気持ちの面で二股中だ。実際の所、股はわかれていないのだが。
冒険者テンペストへの気持ちが冷めたのだろうか。あの1度だけの関わりだしな。
それにしても惚れっぽいな~旦那様。イベント発生しただけでホイホイ惚れてるじゃないか。
(うちの旦那様、もしかしてちょろイン!?)
私が金髪に染めて旦那様の前に現れたらまた別人格として惚れられるのでは!?
「おーいテンペスト~!」
「なーにー」
ギルドに到着すると、いつもの調子で依頼窓口のハイネが声をかけてくる。皆バタバタしているのに相変わらずマイペースだ。
「ご指名依頼が入ってるぞ~」
「お! いいねぇ!」
「またトゥルーリー商会からだ~」
「えええ!?」
「一昨日から連絡入ってたんだが、お前ギルドに来ないんだもんな~どこの宿に泊まってるんだぁ?」
あれぇ!? やっぱり冒険者テンペストの方も諦めてなかった?
(あのクソ旦那~!)
「明後日だけど大丈夫か~?」
「大丈夫! 楽しみにしてるって伝えといて!」
「わかった~」
いい加減ハッキリさせてやろうじゃないか。恋に落ちた相手が自分の妻だなんてわかったらどんな反応するだろう。
(この文字だけ見ると、政略結婚した相手に恋をしちゃいました! キャッ! 運命純愛ラブ! って感じだけど)
この流れ、浮気しようとしてるだろ。私ではない別人として認識して恋してるからね、旦那様は。
(まーた腹立ってきた!)
まずは妻の顔すら覚えていなかったことを反省させてやる!
「なんだ!? 怖い顔して!」
「別にー」
説明を聞きに行っていたレイドとミリアが戻って来た。
「領境のあたりで巨大魔獣の被害がでてるらしい」
だが冒険者達はのんびりしている。
「まだ討伐に行かないの?」
「地中を移動しているらしくって今はどこにいるかわからないらしいわぁ」
それはブラッド領に接する山岳地帯で起こっていた。小さな村がポツポツあるエリアだ。ここからはそれなりに遠い。小さな山崩れが起こった後、その巨大魔獣の被害が出始めたということだ。何人か食べられてしまったらしい。
「実はずっとその山の中に巨大魔獣がいたってこと?」
「どうかしらねぇ~」
「山すら越えてきたのかもしんねぇな」
それなら他領から目撃情報ぐらい入りそうなものだが。
「あの辺りは魔獣の被害も少ねぇもんな。もう何百年もこの領の平和の代名詞みたいな場所だろ?」
「お金持ちが別荘を建てるくらいだものねぇ」
「そのお金持ちもやられちまったって話だからな~」
それは知らなかった。ブラッド領はダンジョンが有名だから、わりと荒い領地の印象があったが、そんな穏やかな土地も存在していたとは。公爵夫人としてはもう少し領地のことを勉強すべきなのかもしれない。
(ブラッド領も広いしな、そんな場所もそりゃあるか)
「ここまで報告が届くのも時間がかかってしまったようねぇ」
「巨大魔獣がこんな街中きたら大変だぞ」
もちろん旦那様もその考えに至っているようで、すぐに巨大魔獣の現在地探るための斥候部隊を送ったようだ。ある程度場所が絞れたら、また冒険者ギルドにも声がかかるらしい。
「文字通り大物が来ちゃったわね~」
「巨大魔獣の巨大ってどれくらいから言うんだろ」
私が今までで見た魔獣で一番大きいのがサラマンダーだ。あれはなかなか迫力があった。
「酒樽が10個以上並べられる大穴がいっぱい空いてるんだってよ」
「それはデカい!」
そんな魔獣、本当に今までどこにいたんだ!?
「おーいテンペスト~」
「なーにハイネ。また依頼?」
「さっきのトゥルーリー商会の件、取り消しになったわ~なんでも急用ができたとか……」
「そう。わかった」
(ちっ! 命拾いしたな)
それにしても律儀な旦那様だ。バタバタしているだろうに。お付き合いしたらマメなタイプなのかもしれない。すでに結婚までしてるけどね。
とりあえずは明後日までにこの巨大魔獣の処理は厳しいと言うことだろう。今日は冒険者として動けそうなことはない。
案の定、領主様からダンジョンの入場制限がかかっていた。いつでも動員をかけられるようするためだ。他所ならブーイングの嵐だろうが、長くいる冒険者ほど誰がこの冒険者街に心を尽くしているか知っているので、仕方ないな、という反応ばかりだった。
(屋敷に戻ってその巨大魔獣がなにか調べるのもありね)
屋敷には大きな図書室がある。
(備えあれば患いなしって言うし)
大技が使えなかった時のことを考えると、敵のことを事前に知っている方がいい。魔術向上にイメトレは大事だ。
「どうした?」
レイドは私がいつものように、魔獣狩りだ~! と騒がず大人しいので不思議に思ったようだ。
「その巨大魔獣の情報がないか探してくるわ」
「私も下調べしようかしら~確かあっちの食堂の婿さんが山岳地方出身なのよ~」
「ええ~!? じゃ、じゃあ俺も!」
珍しく早い時間に冒険者街を後にした。
屋敷に帰り着くと、エリスの驚いた顔に笑ってしまった。久しぶりのお土産も喜んでくれた。
(公爵家の名は伊達じゃないわね~この量、目的の本を探すのが大変だ)
屋敷の図書室には壁一面に分厚い本が並んでいた。
「奥様、ブラッド領の領史はこちらです」
「ありがとう!」
それは歴代領主の手記をまとめたものだった。
魔獣図録は見つからなかった。すでに旦那様が持ち出していたのだ。なので私は歴史を探る。
ミリアの記憶力のおかげで、最短で有力な情報を得る事ができた。食堂の婿さんの地元にある伝説が残っていたのだ。
「300年に1度、山に生贄を捧げる!?」
「そうそう! その村はもうないんだけどさ。俺のひいじーさんがその村出身でよ~! 小さい頃聞かされたんだ。いや~ぞくぞくする話だった!」
話の大枠だけ覚えていたようで詳細までわからなかったが、直感的にコレだと思えた。
(だいたい未確認巨大魔獣がポッと現れるなんて変でしょ)
どこかにいたはずだ。それが動き出した。山崩れで目覚めたのか、それとも。
「奥様、これでしょうか?」
エリスが手伝ってくれていた。旦那様の役に立つことだと言ったらそれは大喜びで。私が彼の為にいつもの放浪から帰って来て、彼の為に動いている、と勘違いしたのだ。
(結果、旦那様の為になるのは悔しい気もするけど、領民に罪はないしね!)
税金で暮らしている身としては、このくらい貢献して然るべきだろう。なにより自分の為だし。
「これこれ! これだ!」
エリスが見つけたのは予想通りぴったり300年前の領主の記録だった。600年前に書かれた記録を元に300年前の領主が確認した、という内容だった。600年前の記録はすでに消失していたので詳細は確認できないが、確かに巨大魔獣がいたという記述がある。
「さ! じゃあ私はまた出てくるわね。今日は帰らないわ」
「お、奥様!!?」
「エリスはこの事、旦那様に伝えてね~」
追及される前に急いでその場を去った。これで無断外泊で心配させることもないだろう。
「さぁ! 初めてのプチ遠征にしゅっぱーつ!」
もちろん、冒険者稼業は順調だ。ダンジョンに入り、依頼をこなし、がっぽがっぽ稼いでる。それも大技なしでだ。その辺に自分の成長を感じる。
(はーはっは! 笑いがとまらん!)
やはり自分で稼いだお金というのは別格だ。旦那様から毎月いただく予算とは違う。
(他人の金で食べる食事も美味しいけど、自分の稼ぎも嬉しいもんだわ!)
この感覚も消えない社畜根性を引きずっているせいだろうか。
最近は旦那様の功績がちゃんとわかってきた。この街では、冒険者は公平で適正な評価を受けることが出来るのだ。他領からやってきた冒険者達がここでの生活にいつも驚いているのを間近で見て、それを実感した。
「買取所が足元みたり、ギルドが冒険者の功績を賄賂貰った別の冒険者につけるなんてこともあるからな」
「そうそう。字が読めねぇからって依頼を誤魔化したり、報酬チョロまかされたりな」
「へぇ~! そんな酷い事すんのか!」
この街出身のレイドとこの街以外の冒険者街を知らない私は『へぇ』の嵐だ。
「この街は当たり前のことを当たり前に評価してもらえるから助かるのよぉ」
だからミリアはずっとこの街を拠点にしていた。故郷からは離れているが、確実な稼ぎと正当な評価も得られるからBランクまで上がることが出来た。最近、ずいぶん生活が楽になったと教えてくれた。
「この街でAランク評価受けたやつと、他所で不正してAランクになったやつとじゃ実力に雲泥の差があるんだ」
当たり前だけどな~。と隣の席の冒険者が呟く。
「そういや先週この街に来たあの威張り腐ってたAランクの奴ら、あっという間にダンジョンの餌になってたな」
冒険者が無駄死にしないよう、ギルドが案内人を紹介してくれたり、ダンジョン情報を公開しているのだが、それをダサいと馬鹿にして命を落とす高ランク冒険者もいた。
「優秀な冒険者を長く滞在させるっていう、旦那様の思惑通りになってるのね」
「出たよテンペストの嫁面が」
「だって嫁だもーん」
もはや誰も信じないので気が楽だ。
「お前ら~のんびりしてていいのか~?」
外から帰って来た食堂の店主が冒険者達に声をかける。
「兵隊さん達がなんか慌ただしく動いてたぞ~」
「お! 久々の大物か!?」
ガタガタと席を立って出ていく。ワイバーン以降、特に大きなイベントはない。いたって平和だ。
冒険者達はギルドへ向かっていた。何かあれば1番にここに情報が降りてくる。
「それで公爵の嫁はまたなんにも知らないのか?」
「知らなーい。だって旦那様、私が冒険者やってるの気付いてないし~」
「まぁ! 夫婦仲がうまく言ってないの?」
「それは……うーん」
クリスティーナ様の件があってから旦那様との会話が増えていた。毎朝食事中、1つだけ質問をしてくるのだ。
「す、好きな色は?」
「食べ物は何が好きなんだ?」
「最近はまっていることは?」
(プロフィール帳でも作ってんの!?)
じれったいから例の用紙くれたら全部書くけど!?
というか、旦那様は冒険者テンペストに恋をしていたのでは? なにやら私をチラっと見るだけで幸せそうだ。
(まさかついにバレた!?)
そう思った日もあったがどうも違う。
「困ったことがあったら何でも言ってくれ。ヴィクターではなく直接私に」
「外出は、くれぐれも気をつけて……」
ということは、旦那様は今気持ちの面で二股中だ。実際の所、股はわかれていないのだが。
冒険者テンペストへの気持ちが冷めたのだろうか。あの1度だけの関わりだしな。
それにしても惚れっぽいな~旦那様。イベント発生しただけでホイホイ惚れてるじゃないか。
(うちの旦那様、もしかしてちょろイン!?)
私が金髪に染めて旦那様の前に現れたらまた別人格として惚れられるのでは!?
「おーいテンペスト~!」
「なーにー」
ギルドに到着すると、いつもの調子で依頼窓口のハイネが声をかけてくる。皆バタバタしているのに相変わらずマイペースだ。
「ご指名依頼が入ってるぞ~」
「お! いいねぇ!」
「またトゥルーリー商会からだ~」
「えええ!?」
「一昨日から連絡入ってたんだが、お前ギルドに来ないんだもんな~どこの宿に泊まってるんだぁ?」
あれぇ!? やっぱり冒険者テンペストの方も諦めてなかった?
(あのクソ旦那~!)
「明後日だけど大丈夫か~?」
「大丈夫! 楽しみにしてるって伝えといて!」
「わかった~」
いい加減ハッキリさせてやろうじゃないか。恋に落ちた相手が自分の妻だなんてわかったらどんな反応するだろう。
(この文字だけ見ると、政略結婚した相手に恋をしちゃいました! キャッ! 運命純愛ラブ! って感じだけど)
この流れ、浮気しようとしてるだろ。私ではない別人として認識して恋してるからね、旦那様は。
(まーた腹立ってきた!)
まずは妻の顔すら覚えていなかったことを反省させてやる!
「なんだ!? 怖い顔して!」
「別にー」
説明を聞きに行っていたレイドとミリアが戻って来た。
「領境のあたりで巨大魔獣の被害がでてるらしい」
だが冒険者達はのんびりしている。
「まだ討伐に行かないの?」
「地中を移動しているらしくって今はどこにいるかわからないらしいわぁ」
それはブラッド領に接する山岳地帯で起こっていた。小さな村がポツポツあるエリアだ。ここからはそれなりに遠い。小さな山崩れが起こった後、その巨大魔獣の被害が出始めたということだ。何人か食べられてしまったらしい。
「実はずっとその山の中に巨大魔獣がいたってこと?」
「どうかしらねぇ~」
「山すら越えてきたのかもしんねぇな」
それなら他領から目撃情報ぐらい入りそうなものだが。
「あの辺りは魔獣の被害も少ねぇもんな。もう何百年もこの領の平和の代名詞みたいな場所だろ?」
「お金持ちが別荘を建てるくらいだものねぇ」
「そのお金持ちもやられちまったって話だからな~」
それは知らなかった。ブラッド領はダンジョンが有名だから、わりと荒い領地の印象があったが、そんな穏やかな土地も存在していたとは。公爵夫人としてはもう少し領地のことを勉強すべきなのかもしれない。
(ブラッド領も広いしな、そんな場所もそりゃあるか)
「ここまで報告が届くのも時間がかかってしまったようねぇ」
「巨大魔獣がこんな街中きたら大変だぞ」
もちろん旦那様もその考えに至っているようで、すぐに巨大魔獣の現在地探るための斥候部隊を送ったようだ。ある程度場所が絞れたら、また冒険者ギルドにも声がかかるらしい。
「文字通り大物が来ちゃったわね~」
「巨大魔獣の巨大ってどれくらいから言うんだろ」
私が今までで見た魔獣で一番大きいのがサラマンダーだ。あれはなかなか迫力があった。
「酒樽が10個以上並べられる大穴がいっぱい空いてるんだってよ」
「それはデカい!」
そんな魔獣、本当に今までどこにいたんだ!?
「おーいテンペスト~」
「なーにハイネ。また依頼?」
「さっきのトゥルーリー商会の件、取り消しになったわ~なんでも急用ができたとか……」
「そう。わかった」
(ちっ! 命拾いしたな)
それにしても律儀な旦那様だ。バタバタしているだろうに。お付き合いしたらマメなタイプなのかもしれない。すでに結婚までしてるけどね。
とりあえずは明後日までにこの巨大魔獣の処理は厳しいと言うことだろう。今日は冒険者として動けそうなことはない。
案の定、領主様からダンジョンの入場制限がかかっていた。いつでも動員をかけられるようするためだ。他所ならブーイングの嵐だろうが、長くいる冒険者ほど誰がこの冒険者街に心を尽くしているか知っているので、仕方ないな、という反応ばかりだった。
(屋敷に戻ってその巨大魔獣がなにか調べるのもありね)
屋敷には大きな図書室がある。
(備えあれば患いなしって言うし)
大技が使えなかった時のことを考えると、敵のことを事前に知っている方がいい。魔術向上にイメトレは大事だ。
「どうした?」
レイドは私がいつものように、魔獣狩りだ~! と騒がず大人しいので不思議に思ったようだ。
「その巨大魔獣の情報がないか探してくるわ」
「私も下調べしようかしら~確かあっちの食堂の婿さんが山岳地方出身なのよ~」
「ええ~!? じゃ、じゃあ俺も!」
珍しく早い時間に冒険者街を後にした。
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「奥様、ブラッド領の領史はこちらです」
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それは歴代領主の手記をまとめたものだった。
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「300年に1度、山に生贄を捧げる!?」
「そうそう! その村はもうないんだけどさ。俺のひいじーさんがその村出身でよ~! 小さい頃聞かされたんだ。いや~ぞくぞくする話だった!」
話の大枠だけ覚えていたようで詳細までわからなかったが、直感的にコレだと思えた。
(だいたい未確認巨大魔獣がポッと現れるなんて変でしょ)
どこかにいたはずだ。それが動き出した。山崩れで目覚めたのか、それとも。
「奥様、これでしょうか?」
エリスが手伝ってくれていた。旦那様の役に立つことだと言ったらそれは大喜びで。私が彼の為にいつもの放浪から帰って来て、彼の為に動いている、と勘違いしたのだ。
(結果、旦那様の為になるのは悔しい気もするけど、領民に罪はないしね!)
税金で暮らしている身としては、このくらい貢献して然るべきだろう。なにより自分の為だし。
「これこれ! これだ!」
エリスが見つけたのは予想通りぴったり300年前の領主の記録だった。600年前に書かれた記録を元に300年前の領主が確認した、という内容だった。600年前の記録はすでに消失していたので詳細は確認できないが、確かに巨大魔獣がいたという記述がある。
「さ! じゃあ私はまた出てくるわね。今日は帰らないわ」
「お、奥様!!?」
「エリスはこの事、旦那様に伝えてね~」
追及される前に急いでその場を去った。これで無断外泊で心配させることもないだろう。
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