【完結】旦那様が私に一切興味がないのは好都合。冒険者として名を上げてみせましょう!

桃月とと

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6 初めての依頼

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「今日もいつものところで?」
「ええ。頼みます」

 今日もいつもの場所まで御者に運んでもらう。
 最近はダンジョン内で迷子になることもなくなった。

「油断してると死ぬぞ」

 と、冒険者仲間が口を揃えて言うので決して油断するつもりはないが、それでもやはり、慣れというのは出てきた。

「じゃあ掲示板見て依頼でも受けてみたらどうだ?」
「依頼か~」

 これまではダンジョン内の魔獣を狩り、それを素材屋買取所へ持っていくだけだった。

「あ! そう言えば階級どうなってるんだろ!」

 素材の納品数や難易度、種類によって功績が決まる。特にこの街は素材買取所とギルドの連携がしっかりできているので私が日々積み上げた魔獣の素材はきっちりポイントとしてついているはずだ。

 少々緊張しながら冒険者ギルドの、階級確認窓口へと向かう。

F超初心者が、E初心者に上がるのは楽勝だ。そっからC一端の冒険者にいくのが大変なんだよ」

 という話は聞いていたので、冒険者の証である銀色のタグに、Dと刻まれていたのを確認して安心した。

「すっげぇ! もうDかよ!」
「毎日頑張ってるもんなぁ」
「そうよ! 朝から晩まで頑張ってるわ!」

 久しぶりに他人に努力を褒められて嬉しくなる。渾身の花嫁姿すら旦那様には褒めてもらえなかった。

「普通はどんなに順調に行っても1年はかかるぞ」
「高レベルの魔獣も倒してるからなぁ。戦闘力だけならこの街でも上位にいるだろ、テンペストは」

 その戦闘力だけなら実力を認めてくれる冒険者は多い。だが冒険者の階級はそれだけでは上がらない。何より私はまだまだ経験値が足りないのだ。ダンジョン内の魔獣狩りはそれなりに評価されてきたが、それ以外はまだまだということだろう。

「護衛の依頼はCからか~」

 いつかどこかのお姫様をカッコよく護衛してみたいものだ。

「依頼する側からするとそのくらいの階級は欲しいだろうな」
「確かにね」

 と言うわけで、今回私が引き受けたのは討伐依頼だった。

「討伐っつーか駆除だな」
「そうねぇ」

 同じ依頼を受けたのは、最近よく組む2人。あらゆる武器を器用に使いこなすレイドと、おっとりしている斧戦士ミリア。3人とも歳が近く気も合う。レイドは武器職人の息子で、ミリアはこの中で1番階級が上のCだ。

「育ちすぎたマンドレイクって、あんな風に好き勝手動いちゃうんだ」
「あれは亜種ねぇ~普通は地面の中よぉ~勝手に出てこないわぁ」
「そういや色がちげぇな」

 場所は隣街へ向かうメイン街道から少し離れた小さな道、その近くの森の中。討伐対象はすぐに見つかった……と言うよりあちらから攻撃しにわらわらと現れたのだ。

「マンドレイクのアイデンティティの叫び声、失ってんじゃん!」

 この世界では、マンドレイクの叫び声を聞くと失神してしまう、植物系の魔獣だ。小さな灰色のマンドレイク達はガウガウと奇妙な鳴き声をしながらどんどん近づいてきた。

「そうでもないみたいよぉ~」

 ミリアが斧を構え直した瞬間、マンドレイク達が大きく口を開く。

(弾丸!?)

 小石のような沢山の球体が、私達めがけて発射された。

「ごめん!」
「大丈夫よぉ~」

 カンカンカンカン! と大きな金属音が響く。

 ミリアが大きな斧で弾いてくれたおかげて無傷で済んだ。レイドの方も小さな盾で上手くさばききっていた。魔術師である私が味方全体に防御魔法シールドをかけるべきだったのに。

(悔しい~! こういうところがまだまだってことよね……!)

「じゃあいきましょ~」

 ミリアの緩い掛け声に合わせて、3人でと飛び掛かる。数が多い。どんどん増えていくマンドレイクを今日中に全て討伐出来るだろうか。

「よいしょ~」
「オラァァァ!!!」

ーーパチンッ

 前衛アタッカーの2人がまず切りかかった。私はバーンと燃やしたいところだが、周囲への延焼が怖いので『パチン』と指を鳴らす程度の範囲の狭い魔法だ。派手な魔法を使ってさっさと終わらせたいところだが、周辺環境がそれを許さない。
 指を鳴らす程度の魔法とはいえ、私の魔法だ。この私の魔法だ。威力に問題はない。……はずだった。

「かた~い!」
「うげぇ! 刃こぼれしちまった!」
「燃えないんだけど!?」

 敵の最初の攻撃で気が付くべきだった。

「これ! 属性変わってない!?」
「そうみたいねぇ」

 マンドレイクは熱に弱いはずだった。だから燃やしたのだ。なのに少しもダメージを感じていない。

「これどうするよ……」

 レイドがため息をつくように呟いた。

「どうりで依頼料がいいはずだわぁ」
「情報隠してんじゃん!」
「これだけ増えてるってことはかなり放置してたってことだろ!?」

 岩のように硬いが、岩程度であればミリアの斧で粉砕出来る。そうはならないということはよっぽど硬いのだ。さて、どうするか。

「私とレイドは関節狙いましょう~あそこなら切り離せそう~」
「じゃあ私は色々魔法試してみる」
「それが良さそうねぇ」
「ええ!? 大丈夫かよ……!?」

 レイドは少し慌てるが、さっさとマンドレイクの方へ向かっていったミリアを追いかけて行った。

「さて……」

 とりあえず、沢山わいてくるあいつらの動きを止めよう。小粒弾をくらっても即死はないが、あれは痛そうだ。

「おりゃー!」

 私は地面に足を叩きつけた。そこからどんどん氷の柱がバリバリと音を立ててマンドレイク達へ向かっていき、一気に凍らせることに成功した。

「マンドレイクって結構良い値段で買い取ってもらえるけど、これはどうなのかな~?」
「さーな! 持っていくだけ持って行ってみるか!」

 レイドもミリアもうまくマンドレイク達の関節を切り落としていく。凶暴だが強くはない。

(あれでランクはCとDって言うんだから冒険者は層が厚いわね~)

 私は武器を持たせてもらえなかったので魔術しかわからないが、あの2人の強さくらいはわかる。一度も敵の攻撃を受けることなく、どんどん数を減らしていった。

「負けてらんないわね!」

 結局1番効くのは氷魔法だとわかった。どうやら植物由来であることに変わりはなかったようだ。寒さに弱いようで、凍らせてしまえばあっという間に活動停止した。

「おーおーおー! よくこれだけ狩ったよなぁ」

 道端にマンドレイクの山が出来上がっていた。

「ギルドに報告して依頼者には注意してもらわなきゃねぇ。情報次第では命取りにだってなるのよぉ」

 こういう時に間に入ってもらえるので気が楽だ。

 素材買取所もこの量とマンドレイクの亜種というこれまで見たことがない魔獣に驚いていた。

「買取価格は後日か」
「でもあの硬さ、結構つかえると思うぜ」
「じゃあ期待できるかしらねぇ~」

 なかなか長い1日だった。空には星が輝き始めている。

「やば! 帰らないと!」
「え~今日くらい一緒に呑まねーのか?」
「御者を待たしてるから!」

 じゃ! また! と走り去った後、

「テンペストのやつ、いつまで公爵夫人設定を続けるつもりだ……?」
「なかなか夢のある設定よねぇ~」

 という会話が背中から聞こえてきたのだった。
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