60 / 63
60 修復
しおりを挟む
王国の兵士達は覚悟を決めていた。今日自分達はここで死ぬのだと。
遠くから地鳴りが聞こえる。もはや人の手で捌くことのできない数の魔物がこちらに向かっているのはわかっていた。涙を目に溜め、震えた手で武器を握る。
「見えたぞぉぉぉ! 武器を構えろぉぉぉ!」
ただ怖いという言葉だけは誰も発しなかった。今ここで自分達が戦わなければ、確実に全国民が死んでしまう。愛する家族や友人達が魔物に食われてしまう。そのことだけはわかっていた。
自分は死んでもかまわない。だけどその代わり愛する人だけは生き残って欲しいと願った。そう思うしかなかった。
「オオオオオ!」
雄叫びを上げ、魔物へ突撃をしようとしたその時、目の前に淡く光る壁が現れた。
「止まれぇぇぇ!!!」
声を上げていたのはギルバート王だった。この号令で兵士達は結界からはみ出さずにすんだ。大きな音を立てて魔物達が光の壁にぶつかる音が王都中に響く。
結界が防御魔法と違うのは、魔物だけを通さないことだった。人間も武器も、魔術も通るのだ。
「弓兵部隊! 魔術部隊前へ!!!」
一番前方にいた魔物は後方からやってくる魔物達と結界に挟まれて圧死していた。結界の強度にまだ不安のある兵士達は急いでそれを魔術で焼き払う。弓兵は遠くからまだまだ一心不乱に突撃する魔物に向かって矢を放っていた。
「結界が動いてる!?」
しばらく攻撃を続けた後、前方にいた兵士が気付いた。
結界はじわじわと魔物の森の方向へと動いていた。
「おお~出来てる出来てる!」
ジークボルトはいつもの調子でレミリアを褒めていた。
「ちょっ! 集中したいから黙ってください!」
「ごめーん!」
ただ結界を張るのとは違ってそれを動かすとなると、レミリアはどうしたらいいか全くわからなかった。
「イメージ勝負だね!」
(簡単に言ってくれるわ……)
レミリアは散々勉強したマリロイド王国の地図を思い浮かべ、中央にある王都を中心に円を広げていくようイメージをした。そして一気に結界を広げる。
気配を探っているジークボルトが声を上げた。
「ん~この辺かな!」
ジークボルトの合図でレミリアは結界の移動を止めた。ちょうど魔物の森と王都の中間のあたりだった。
「君達が作った防御都市側に逃げてる人もいるしね。それにこのくらい王都から離れてたら我に帰る魔物も増えるかもしれないし」
魔物はこの地下で眠っている地竜に引き寄せられていた。結界が崩壊したことにより、地竜の気配が森中に広がり、地竜を食べようとスタンピードが起こったのだった。再び結界を張った今、地竜の気配はまた魔物にはわからなくなっている。
「……レミリア。お願いがあるんだ」
「なんですか?」
ジークボルトのこんな真面目な顔を初めてみたレミリアは少し身構える。
「あと1年。聖女の仕事を続けてもらえないかな……。それで地竜はこの世界から解放されるんだ……」
「なーんだ。かまいませんよ。っていうか当たり前です。あれだけあのクソ女を責めといて、自分がやらないなんてことはないですよ」
レミリアにとっては大したことのないお願いでホッとしたのもつかの間、新たな問題が発覚した。
「ん!? あと1年で結界がなくなっちゃうんですか!?」
「そうだよ~そういう約束だったから」
「ではその後王国はどうしたら!?」
焦ったのはアルベルトも同じだった。
「それを千年の間に考えるって話だったんだけど……やっぱ何も聞いてない?」
「……はい」
アルベルトは苦々しく答えた。
「そうか……そしたらやっぱり帝国の力を借りる他ないだろうねぇ」
「……帝国側に張ってある結界代わりの魔道具ですか」
「なーんだ君、ちゃんと勉強してるじゃん! レミリアが馬鹿にするからどんなもんかと思ってたけど!」
レミリアはアルベルトから目をそらした。少々気まずかったのだ。アルベルトの馬鹿さ加減をそれなりに盛って話していた。
「大賢者様はなぜ王国を去られたのですか?」
「え? やっぱりわかっちゃった?」
「……わかりますよ」
アルベルトはジークボルトが本物の大賢者だと見破った。カイルは驚いてキョロキョロとしている。
「いや~2代目の国王までは仲良く出来てたんだけど、3代目の王とそれから当時の聖女とも折り合いが悪くってさ~」
少し気まずそうな顔のアルベルトのことは気にせず話し続ける。
「僕が王国を乗っ取ろうとしてる! って冤罪をかけられて国外追放されちゃったんだ! この辺、レミリアと一緒だねぇ! 僕の記録もこの国には残ってないようだし、その時に全部消されちゃったのかな?」
「……誠に申し訳ございませんでした」
アルベルトは泣きそうな表情だった。そしてそのままレミリアの方へ振り向いた。
「レミリア、本当に悪いことをした……俺はユリアと一緒に裁きを受ける。逃げはしない」
頭を深く下げた。カイルも一緒だった。
「……許す気はないけど、まあ今は休戦にしといてあげる。とりあえず王国をどうにかしないと」
「ありがとう……恩に着るよ」
「そうよ! 恩をいっぱい感じなさい!」
自分の復讐どころじゃないのはレミリアにもわかっている。王国の行末が心配だった。
遠くから地鳴りが聞こえる。もはや人の手で捌くことのできない数の魔物がこちらに向かっているのはわかっていた。涙を目に溜め、震えた手で武器を握る。
「見えたぞぉぉぉ! 武器を構えろぉぉぉ!」
ただ怖いという言葉だけは誰も発しなかった。今ここで自分達が戦わなければ、確実に全国民が死んでしまう。愛する家族や友人達が魔物に食われてしまう。そのことだけはわかっていた。
自分は死んでもかまわない。だけどその代わり愛する人だけは生き残って欲しいと願った。そう思うしかなかった。
「オオオオオ!」
雄叫びを上げ、魔物へ突撃をしようとしたその時、目の前に淡く光る壁が現れた。
「止まれぇぇぇ!!!」
声を上げていたのはギルバート王だった。この号令で兵士達は結界からはみ出さずにすんだ。大きな音を立てて魔物達が光の壁にぶつかる音が王都中に響く。
結界が防御魔法と違うのは、魔物だけを通さないことだった。人間も武器も、魔術も通るのだ。
「弓兵部隊! 魔術部隊前へ!!!」
一番前方にいた魔物は後方からやってくる魔物達と結界に挟まれて圧死していた。結界の強度にまだ不安のある兵士達は急いでそれを魔術で焼き払う。弓兵は遠くからまだまだ一心不乱に突撃する魔物に向かって矢を放っていた。
「結界が動いてる!?」
しばらく攻撃を続けた後、前方にいた兵士が気付いた。
結界はじわじわと魔物の森の方向へと動いていた。
「おお~出来てる出来てる!」
ジークボルトはいつもの調子でレミリアを褒めていた。
「ちょっ! 集中したいから黙ってください!」
「ごめーん!」
ただ結界を張るのとは違ってそれを動かすとなると、レミリアはどうしたらいいか全くわからなかった。
「イメージ勝負だね!」
(簡単に言ってくれるわ……)
レミリアは散々勉強したマリロイド王国の地図を思い浮かべ、中央にある王都を中心に円を広げていくようイメージをした。そして一気に結界を広げる。
気配を探っているジークボルトが声を上げた。
「ん~この辺かな!」
ジークボルトの合図でレミリアは結界の移動を止めた。ちょうど魔物の森と王都の中間のあたりだった。
「君達が作った防御都市側に逃げてる人もいるしね。それにこのくらい王都から離れてたら我に帰る魔物も増えるかもしれないし」
魔物はこの地下で眠っている地竜に引き寄せられていた。結界が崩壊したことにより、地竜の気配が森中に広がり、地竜を食べようとスタンピードが起こったのだった。再び結界を張った今、地竜の気配はまた魔物にはわからなくなっている。
「……レミリア。お願いがあるんだ」
「なんですか?」
ジークボルトのこんな真面目な顔を初めてみたレミリアは少し身構える。
「あと1年。聖女の仕事を続けてもらえないかな……。それで地竜はこの世界から解放されるんだ……」
「なーんだ。かまいませんよ。っていうか当たり前です。あれだけあのクソ女を責めといて、自分がやらないなんてことはないですよ」
レミリアにとっては大したことのないお願いでホッとしたのもつかの間、新たな問題が発覚した。
「ん!? あと1年で結界がなくなっちゃうんですか!?」
「そうだよ~そういう約束だったから」
「ではその後王国はどうしたら!?」
焦ったのはアルベルトも同じだった。
「それを千年の間に考えるって話だったんだけど……やっぱ何も聞いてない?」
「……はい」
アルベルトは苦々しく答えた。
「そうか……そしたらやっぱり帝国の力を借りる他ないだろうねぇ」
「……帝国側に張ってある結界代わりの魔道具ですか」
「なーんだ君、ちゃんと勉強してるじゃん! レミリアが馬鹿にするからどんなもんかと思ってたけど!」
レミリアはアルベルトから目をそらした。少々気まずかったのだ。アルベルトの馬鹿さ加減をそれなりに盛って話していた。
「大賢者様はなぜ王国を去られたのですか?」
「え? やっぱりわかっちゃった?」
「……わかりますよ」
アルベルトはジークボルトが本物の大賢者だと見破った。カイルは驚いてキョロキョロとしている。
「いや~2代目の国王までは仲良く出来てたんだけど、3代目の王とそれから当時の聖女とも折り合いが悪くってさ~」
少し気まずそうな顔のアルベルトのことは気にせず話し続ける。
「僕が王国を乗っ取ろうとしてる! って冤罪をかけられて国外追放されちゃったんだ! この辺、レミリアと一緒だねぇ! 僕の記録もこの国には残ってないようだし、その時に全部消されちゃったのかな?」
「……誠に申し訳ございませんでした」
アルベルトは泣きそうな表情だった。そしてそのままレミリアの方へ振り向いた。
「レミリア、本当に悪いことをした……俺はユリアと一緒に裁きを受ける。逃げはしない」
頭を深く下げた。カイルも一緒だった。
「……許す気はないけど、まあ今は休戦にしといてあげる。とりあえず王国をどうにかしないと」
「ありがとう……恩に着るよ」
「そうよ! 恩をいっぱい感じなさい!」
自分の復讐どころじゃないのはレミリアにもわかっている。王国の行末が心配だった。
44
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる