【完結】予定通り婚約破棄され追放です!~せっかく最強賢者に弟子入りしたのに復讐する前に自滅しないで!?~

桃月とと

文字の大きさ
48 / 63

48 地下牢

しおりを挟む
 カイルは今も地下牢で生きていた。食事は1日1食、牢の扉についている食事用の窓から投げ入れられるパンだけだった。日の光もしばらく浴びていない。最後に人に会ったのは、自分の耳が切り取られた時だ。
 その人物はカイルも知っている男だった。父親の部下の1人だ。父親と騎士団長のポジションを争ったと聞いている。優秀な年下の騎士団長に唯一反抗的な男だった。


「……助けに来てくれたのか……!」
「ハハハ! 本当に滑稽だな! あの男から生まれたのがコレとは!」

 それだけ言って、カイルの耳を刃物で切り取った。泣き叫ぶカイルを地面に叩きつけ、歪んだ笑みを浮かべながら牢から出て行った。

 カイルは時間だけはあったので、どうしてこうなったのか頭を巡らせていた。幼い頃から両親に愛され幸せだった。勉強や魔術が出来なくても、剣術を頑張れば2人とも褒めてくれた。
 学園に入ってからは毎日が幸せだった。愛する人に出会えたからだ。ユリアはいつも自分に欲しい言葉をくれた。

「勉強や魔術が不得意だからって貴方が頑張ってないことにはならないわ」
1つのこと剣術を極めるってカッコイイじゃない!」

 だからユリアが悲しそうにしていたら力になりたかった。だがカイルにとっても、最初はレミリアがユリアを虐めているなんて信じられなかった。レミリアはいつも公平だった。正しい行いをした。平民だからという理由で誰かを虐げるとは思えなかった。

「カイル様、バランスも大切です。勉強や魔術もきっと貴方の剣術を引き立たせると思いますよ」

 レミリアはカイルの欲しい答えはくれなかった。

「カイルも信じてくれないのね……レミリア様は私がカイルや他の人と仲良くするのが気に食わないみたいなのよ……」

 あのレミリアにも弱味がある、人間味があるのだと感じて彼は心底安心した。

(彼女レミリアの言葉がいつも正しいとは限らない)

 そうやってカイルは自信をつけていった。ユリア以外からの評価なんてどうでも良くなっていった。

(ああ、この辺りからだ。この辺りからおかしくなった)

 いつからか、カイルは他の学生達に煙たがれるようになっていた。

「皆カイルが強すぎて萎縮してるんだわ!」

 ユリアに褒められて誇らしかった。だから調子に乗ってユリアを虐めるレミリアに剣を抜いた。

(一瞬であの剣が粉々にされたなぁ)

 それはカイルが大事にしていた剣だった。毎日丁寧に磨け上げていたお気に入りだった。

(あの後魔法で腕ごと捻りあげられたっけ……)

 ユリアは魔術を使うなんて卑怯だと怒ってくれた。それに便乗して、実践なら自分は即死だったという事実から目を逸らした。

「オレ、何をしていたんだろう」

 ユリアの言葉を本気でそのまま信じていたのはこのカイルだけだった。他の3人はユリアの言葉に嘘が混じっている事には気が付いていた。だからこそカイルは、誰よりもユリアがアルベルトどころかこの国を裏切っている事実が辛くて仕方なかった。

 自分はユリアに騙されてとんでもないことをしてしまった。

(オレがユリアを信じたせいで何もかもおかしくなったんだ……レミリア嬢は何も悪くなかった……)

 グレンも言っていた。自分達のおこないは間違いだったと。きちんとレミリアに謝罪するべきだと。だがそう必死に説得するグレンを、カイルは剣を抜いて黙らせた。

 グレンが言った通りにレミリアに謝罪していれば、大賢者や帝国からの支援を素早く受けることができて、騎士団長である父親の助けになったかもしれなかった。もしもあの日、ユリアの裏切りを知ったあの日、父親が王都にいれば何か変わっていたかもしれない。

 だが、今更後悔しても、この地下牢からは出ることができなかった。

 もう涙も枯れ果てたと思った時、またあの男がやってきた。カイルの耳を切り裂いた男だ。

「おい! お前の父親が死んだぞ! それも母親に殺されて! 傑作だぁ~!」

 わざわざその息子を嘲笑いにきたのだ。カイルの顔はどんどん青ざめていった。

(嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ)

「お前の耳が役に立ったぞ! 母親は可愛い息子を助けようと必死だ!」

 そう言ってもう片方の耳も切り落とそうと剣を取り出した。

「この耳を持っていったらあの男の妻も奪えるかもしれんなぁ」

 男の下品な笑い声が耳の奥に張り付いてくる。

(オレのせいで母上が父上を殺した? オレがユリアを信じたから?)

「ウワァァァァァァ!!!」

 カイルは精一杯力を振り絞った。男はまだカイルに力が残っていたことに驚いた。油断していたのだ。そうして奪った剣でカイルはその男の首を刎ねた。

 この日、カイルは初めて人を殺した。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...