20 / 63
20 誤解
しおりを挟む
イザイル第二皇子は、見た目の美しさに加えて誠実で、勤勉で、公平で、温厚で、平民からも大変人気があった。彼に関してはゴシップネタを一度も聞いたことがなかった。
「イザイル殿下が浮気……?」
「違う! 違うんだ……いや、違わないけど違うんだ!!!」
「どっちですか!!?」
レミリアが思わずツッコみを入れてしまう。
「書面上の浮気というか……」
「はあ? 全然意味がわからないのですが」
冷たく言い放つレミリアを見て、イザイルは彼女がこの帝国にやって来たいきさつを思い出した。言い訳が必要な人物がもう一人増えたということだ。
「……ヤキモチを焼いてほしくて」
「は?」
空中で腕を組んでイザイルを睨みつけているルヴィアを上目遣いで見ながら、冷たい目線を向ける彼女の両親やレミリアに理由を説明し始めた。
「ルヴィアはとても人気があるんだ……美人で明るいし聡明だ……その……私は帝位を継ぐことはないし、穏やかだと言われているせいか軽く見られることも多くて……ルヴィアに手を出そうとする者達がいてもどうにもできなくて……」
『いつも私が一掃していたではありませんか!』
言い訳がましいイザイルにイラついたのか、ぽつりぽつりと話す彼の言葉に被せた。
「それでも不安だったんだ!」
今では鼻水まで流しながら訴えるイザイルを見て、レミリアもルヴィアの両親も呆れ顔になっていた。
「だから、その気持ちをわかってもらいたくて……ある男爵令嬢に協力してもらって私の恋人のように振る舞ってもらったんだ……ちゃんと契約を書面として残している……本当にフリだけだったんだ……」
本人も自分が悪いという自覚があるからか、すぐに勢いはなくなり、萎れていく。
(書面にまでしちゃうあたりが真面目なイザイル殿下らしいけど……アホかな?)
『ねえレミリア様、しょうもないと思いません?』
「しょうもないですね~」
「うう……自覚はしている……」
要は婚約者の心を試したかったらしい。
「人の心を試すのは感心できません……というか、もっとやり方あったでしょ」
思わず言葉使いを間違ってしまう。
「レミリア様のおっしゃる通りです!」
ここでルヴィアの母親が出てきた。
「でもそんなこと、ルヴィアは病の最中少しも言わなかった……殿下にまた会えるのを楽しみにして……」
『まあお母様! まだその話はしてはいけませんわ! 殿下をもう少し懲らしめないと!』
涙ぐむ母親を笑わせようとしたのか、ルヴィアが大袈裟に声をかける。
「本当かルヴィア! 私も会いたかった! 毎日毎日君の部屋が見える庭まで忍び込んでいたんだ!」
「あの不審者は殿下だったのですか!?」
今度はルヴィアの父親だ。彼の話では、一時期屋敷の庭で不審者が度々目撃されていたらしい。物がなくなるわけでもなく、ただ使用人に紛れ込むように庭をうろついていたらしいが、一向に捕まらず警備を強化する羽目になっていたとか。
「す、すまない……! 病に罹っている者がいる屋敷にすら近づくことが許されなくて……誰にも言わずこっそり通っていたんだ」
(何だこの皇子!?)
レミリアが知っているのとは別人のようだ。しかしそれはたった数回、パーティで会った時の記憶と、周りの噂から出来上がっていた人物像にすぎない。
『ビックリされたでしょう? これがイザイル殿下なのです』
ルヴィアは呆れたように言っているが、表情はとても愛おしそうなものを見る目に変わっていた。
『まぁ私は殿下のちょっと愚かな所も愛おしいと思っていたのですが』
「ルヴィア! 私も愛してる!!!」
イザイルの表情がパッと明るくなった。
『だけどそれとこれとは話は別です』
「うわーん! 許してくれルヴィア~~!」
先程から表情のアップダウンが激しい。それをルヴィアは楽しんでいるようだ。
『ふふ。最期に殿下の笑い顔も泣き顔もしっかり魂の記憶に残したいんですもの』
天使のような微笑みだった。彼女はすでに死を受け入れている。
『イザイル殿下、許して欲しかったら残りの殿下の人生、しっかりこなしてくださいませ! そのような身体になって、一体何が出来るというのですか!』
彼女の指摘通り、イザイルの身体は病的に痩せていた。
『もう何があってもお側で励ますことは出来ません。これからはご自分でご自分を奮い立たせるのですよ!』
「……わかった」
返事を聞いてルヴィアは安心したようにニコリと笑う。
『許してあげるかどうかは、殿下が私と同じ立場になった時にわかりますので、気を抜かないように』
「……わかった!」
そして今度は自身の両親の方に向き直る。
『お父様お母様、産んでいただいてありがとうございました。おかげでとても幸せな人生を送れましたわ。殿下との婚約なんて、1番のプレゼントです。私は先にこの世を離れましたがどうかお2人はゆっくりこちらにお越しください」
レミリアとアレンにもしっかり頭を下げた。
『思いがけず愛する人達との時間をいただき感謝いたします。どうかお2人も悔いのない人生をお送りください』
そしてルヴィアの体が光りを纏い始める。
『時間ですわね』
「ルヴィア!!!」
『殿下、またお会いしましょうね』
優しい微笑みのまま、ルヴィアは再びこの世を去った。
「イザイル殿下が浮気……?」
「違う! 違うんだ……いや、違わないけど違うんだ!!!」
「どっちですか!!?」
レミリアが思わずツッコみを入れてしまう。
「書面上の浮気というか……」
「はあ? 全然意味がわからないのですが」
冷たく言い放つレミリアを見て、イザイルは彼女がこの帝国にやって来たいきさつを思い出した。言い訳が必要な人物がもう一人増えたということだ。
「……ヤキモチを焼いてほしくて」
「は?」
空中で腕を組んでイザイルを睨みつけているルヴィアを上目遣いで見ながら、冷たい目線を向ける彼女の両親やレミリアに理由を説明し始めた。
「ルヴィアはとても人気があるんだ……美人で明るいし聡明だ……その……私は帝位を継ぐことはないし、穏やかだと言われているせいか軽く見られることも多くて……ルヴィアに手を出そうとする者達がいてもどうにもできなくて……」
『いつも私が一掃していたではありませんか!』
言い訳がましいイザイルにイラついたのか、ぽつりぽつりと話す彼の言葉に被せた。
「それでも不安だったんだ!」
今では鼻水まで流しながら訴えるイザイルを見て、レミリアもルヴィアの両親も呆れ顔になっていた。
「だから、その気持ちをわかってもらいたくて……ある男爵令嬢に協力してもらって私の恋人のように振る舞ってもらったんだ……ちゃんと契約を書面として残している……本当にフリだけだったんだ……」
本人も自分が悪いという自覚があるからか、すぐに勢いはなくなり、萎れていく。
(書面にまでしちゃうあたりが真面目なイザイル殿下らしいけど……アホかな?)
『ねえレミリア様、しょうもないと思いません?』
「しょうもないですね~」
「うう……自覚はしている……」
要は婚約者の心を試したかったらしい。
「人の心を試すのは感心できません……というか、もっとやり方あったでしょ」
思わず言葉使いを間違ってしまう。
「レミリア様のおっしゃる通りです!」
ここでルヴィアの母親が出てきた。
「でもそんなこと、ルヴィアは病の最中少しも言わなかった……殿下にまた会えるのを楽しみにして……」
『まあお母様! まだその話はしてはいけませんわ! 殿下をもう少し懲らしめないと!』
涙ぐむ母親を笑わせようとしたのか、ルヴィアが大袈裟に声をかける。
「本当かルヴィア! 私も会いたかった! 毎日毎日君の部屋が見える庭まで忍び込んでいたんだ!」
「あの不審者は殿下だったのですか!?」
今度はルヴィアの父親だ。彼の話では、一時期屋敷の庭で不審者が度々目撃されていたらしい。物がなくなるわけでもなく、ただ使用人に紛れ込むように庭をうろついていたらしいが、一向に捕まらず警備を強化する羽目になっていたとか。
「す、すまない……! 病に罹っている者がいる屋敷にすら近づくことが許されなくて……誰にも言わずこっそり通っていたんだ」
(何だこの皇子!?)
レミリアが知っているのとは別人のようだ。しかしそれはたった数回、パーティで会った時の記憶と、周りの噂から出来上がっていた人物像にすぎない。
『ビックリされたでしょう? これがイザイル殿下なのです』
ルヴィアは呆れたように言っているが、表情はとても愛おしそうなものを見る目に変わっていた。
『まぁ私は殿下のちょっと愚かな所も愛おしいと思っていたのですが』
「ルヴィア! 私も愛してる!!!」
イザイルの表情がパッと明るくなった。
『だけどそれとこれとは話は別です』
「うわーん! 許してくれルヴィア~~!」
先程から表情のアップダウンが激しい。それをルヴィアは楽しんでいるようだ。
『ふふ。最期に殿下の笑い顔も泣き顔もしっかり魂の記憶に残したいんですもの』
天使のような微笑みだった。彼女はすでに死を受け入れている。
『イザイル殿下、許して欲しかったら残りの殿下の人生、しっかりこなしてくださいませ! そのような身体になって、一体何が出来るというのですか!』
彼女の指摘通り、イザイルの身体は病的に痩せていた。
『もう何があってもお側で励ますことは出来ません。これからはご自分でご自分を奮い立たせるのですよ!』
「……わかった」
返事を聞いてルヴィアは安心したようにニコリと笑う。
『許してあげるかどうかは、殿下が私と同じ立場になった時にわかりますので、気を抜かないように』
「……わかった!」
そして今度は自身の両親の方に向き直る。
『お父様お母様、産んでいただいてありがとうございました。おかげでとても幸せな人生を送れましたわ。殿下との婚約なんて、1番のプレゼントです。私は先にこの世を離れましたがどうかお2人はゆっくりこちらにお越しください」
レミリアとアレンにもしっかり頭を下げた。
『思いがけず愛する人達との時間をいただき感謝いたします。どうかお2人も悔いのない人生をお送りください』
そしてルヴィアの体が光りを纏い始める。
『時間ですわね』
「ルヴィア!!!」
『殿下、またお会いしましょうね』
優しい微笑みのまま、ルヴィアは再びこの世を去った。
65
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる