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2 腕
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アリスが涙目で私を睨みつけてくる。
「酷いです! ここまでしなくてもいいのに……!」
(いや、これただの授業の一環なんだけど)
今は魔術の実技の授業中だ。相手に向けて攻撃し、攻撃された側はそれを避ける。他の魔術で相殺するのもありだ。もちろん実力が近い者同士が組まされているし、補助の教員が見守る中やっている。
「ジル、可哀想……すぐに治してあげるね!」
「お、おう……ありがとな」
そういって、攻撃を避けた先で滑って転んでぶつけた所に光魔法を当ててもらっている。そう! ヒロインと言えば光魔法……回復魔法だ。
自分で転んだ所(青あざにもなっていないだろう)を光魔法で治療されるジルを見て思わず笑ってしまったが、しまったと思った時にはもう遅かった。
「なんで笑うの!? メル様が怪我させたのに!」
こいつはどうやら私が悪役令嬢じゃないのが気に入らないようで、ことあるごとにこうやって評価を下げようとしてくる。だが私は相手にしない。
「何をおっしゃっているのですか? 今は授業中ですのよ。先生方の指示に従っているだけですわ」
「で、でも! こんなに力を使わなくったって!」
代わりに相手をしてくれたのは親友の公爵令嬢のリーシャだ。彼女はメインキャラクターの1人、第二王子の婚約者でもある。彼女とは学園入学前から仲がいい。弱気を助け、強きを挫くタイプのカッコいい女性だ。
「授業に手を抜けということかな?」
我々の……というかアリスが騒いでいるのを聞きつけて、実技担当の教師がやってきた。
「また君か。いくら特待生と言ってもこう何度も騒ぎを起こされたら困る」
「でも! メル様が!」
「ちょっと貴女まだおっしゃるの!?」
「先生、リーシャ、ありがとうございます」
いい加減鬱陶しいので終わりにしよう。先生やリーシャまで巻き込んだら可哀想だ。
「ジル、怪我をさせてしまってごめんなさいね。今度はちゃんと手を抜いて相手をしてあげるから許してちょうだい」
「んなっ! ふざけんな! 俺が勝手にこけただけだっつーの! 次は絶対華麗に避けてやらあ!」
先ほどの我々のやり取りを、頭の上に『はてな』をいっぱい立てて聞いていたジルはやっと状況がわかってきたようだ。彼にとってアリスは初めてのタイプの女の子だろう。彼女が言っている内容が全くわからないようだった。
「酷いって……なにが酷かったんだ?」
授業後の食堂でのジルの質問に食べていたスープを吹き出しかけた。隣に座っていたリーシャもそうだったようだ。
(わー! 同じテーブルに座ってくれた! ラッキー!)
「私にいじめられたと思ったんじゃない?」
「授業なのに?」
「授業なのに」
「平民の女の子の考えはわかんないなぁ」
「そうねぇ」
などと言って大盛りの昼食を綺麗に食べていた。流石貴族の息子。所作が美しいわ。
「なんだ? 欲しいのか?」
しまった! 見つめすぎて気付かれてしまった。リーシャが横でニヤリと笑っているのが見える。
「い、いえ……美味しそうに食べるから……」
「ここの料理美味しいよな! 王族が通ってるだけはある!」
嬉しそうに答えた。
「それだけ食べれば筋肉もつくはずね」
「ははっ! これだけは絶対お前に負けないだろ」
そう言って何気なく私の腕をそっと掴んだ。
「細っ! これでよく剣握ってんな!」
「っ!!!」
私は思わず叫びそうになるのを堪えた。ヤバい、顔が熱い。ジルの手の大きさや温かさがわかってドキドキが加速する。
「ジル様、むやみやたらと女性に触れてはいけませんよ」
私の沸騰しそうな表情を見て、リーシャが助け舟を出してくれた。
(ちょっと惜しいような……でもこれ以上は心臓がもたない……!)
「ん? あ……わ、わりいな……昔のクセで」
「……まあ……別にいいけど」
こっそりジルの方を見ると、なんと少し耳が赤くなっていた。そうか、一応私が女だということはわかったようだ。それだけでもよかった。嬉しくて思わず顔がほころぶ。
ああ、今日は良い日だ。ジルの笑顔が何度も見れた。明日はもう少し素直になれるよう意識しよう。
「酷いです! ここまでしなくてもいいのに……!」
(いや、これただの授業の一環なんだけど)
今は魔術の実技の授業中だ。相手に向けて攻撃し、攻撃された側はそれを避ける。他の魔術で相殺するのもありだ。もちろん実力が近い者同士が組まされているし、補助の教員が見守る中やっている。
「ジル、可哀想……すぐに治してあげるね!」
「お、おう……ありがとな」
そういって、攻撃を避けた先で滑って転んでぶつけた所に光魔法を当ててもらっている。そう! ヒロインと言えば光魔法……回復魔法だ。
自分で転んだ所(青あざにもなっていないだろう)を光魔法で治療されるジルを見て思わず笑ってしまったが、しまったと思った時にはもう遅かった。
「なんで笑うの!? メル様が怪我させたのに!」
こいつはどうやら私が悪役令嬢じゃないのが気に入らないようで、ことあるごとにこうやって評価を下げようとしてくる。だが私は相手にしない。
「何をおっしゃっているのですか? 今は授業中ですのよ。先生方の指示に従っているだけですわ」
「で、でも! こんなに力を使わなくったって!」
代わりに相手をしてくれたのは親友の公爵令嬢のリーシャだ。彼女はメインキャラクターの1人、第二王子の婚約者でもある。彼女とは学園入学前から仲がいい。弱気を助け、強きを挫くタイプのカッコいい女性だ。
「授業に手を抜けということかな?」
我々の……というかアリスが騒いでいるのを聞きつけて、実技担当の教師がやってきた。
「また君か。いくら特待生と言ってもこう何度も騒ぎを起こされたら困る」
「でも! メル様が!」
「ちょっと貴女まだおっしゃるの!?」
「先生、リーシャ、ありがとうございます」
いい加減鬱陶しいので終わりにしよう。先生やリーシャまで巻き込んだら可哀想だ。
「ジル、怪我をさせてしまってごめんなさいね。今度はちゃんと手を抜いて相手をしてあげるから許してちょうだい」
「んなっ! ふざけんな! 俺が勝手にこけただけだっつーの! 次は絶対華麗に避けてやらあ!」
先ほどの我々のやり取りを、頭の上に『はてな』をいっぱい立てて聞いていたジルはやっと状況がわかってきたようだ。彼にとってアリスは初めてのタイプの女の子だろう。彼女が言っている内容が全くわからないようだった。
「酷いって……なにが酷かったんだ?」
授業後の食堂でのジルの質問に食べていたスープを吹き出しかけた。隣に座っていたリーシャもそうだったようだ。
(わー! 同じテーブルに座ってくれた! ラッキー!)
「私にいじめられたと思ったんじゃない?」
「授業なのに?」
「授業なのに」
「平民の女の子の考えはわかんないなぁ」
「そうねぇ」
などと言って大盛りの昼食を綺麗に食べていた。流石貴族の息子。所作が美しいわ。
「なんだ? 欲しいのか?」
しまった! 見つめすぎて気付かれてしまった。リーシャが横でニヤリと笑っているのが見える。
「い、いえ……美味しそうに食べるから……」
「ここの料理美味しいよな! 王族が通ってるだけはある!」
嬉しそうに答えた。
「それだけ食べれば筋肉もつくはずね」
「ははっ! これだけは絶対お前に負けないだろ」
そう言って何気なく私の腕をそっと掴んだ。
「細っ! これでよく剣握ってんな!」
「っ!!!」
私は思わず叫びそうになるのを堪えた。ヤバい、顔が熱い。ジルの手の大きさや温かさがわかってドキドキが加速する。
「ジル様、むやみやたらと女性に触れてはいけませんよ」
私の沸騰しそうな表情を見て、リーシャが助け舟を出してくれた。
(ちょっと惜しいような……でもこれ以上は心臓がもたない……!)
「ん? あ……わ、わりいな……昔のクセで」
「……まあ……別にいいけど」
こっそりジルの方を見ると、なんと少し耳が赤くなっていた。そうか、一応私が女だということはわかったようだ。それだけでもよかった。嬉しくて思わず顔がほころぶ。
ああ、今日は良い日だ。ジルの笑顔が何度も見れた。明日はもう少し素直になれるよう意識しよう。
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