悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

文字の大きさ
63 / 163
第二部 元悪役令嬢の学園生活

6 女友達

しおりを挟む
 ルクサーヌの店主が来る前に、すでにある程度どんなドレスにするかは二人で話し合っていた。

「リディアナのドレス地味じゃない? 原作こんなんじゃなかったっしょ?」

 私のクローゼットを確認しながらアイリスは遠慮なく感想を述べる。

「リディアナってゴージャス系とかセクシー系のドレスが多かったじゃん?」

 悪役令嬢! って感じの。と、強調しながら。

「落ち着かないのよね。前世ではカジュアルな服ばっかり着てたし」
「前世は関係ないっしょ~好きな服着なきゃっ……て私も好みは引きずってるから人のこと言えないか」

 カラカラと楽しそうに笑う。

「アイリスはゴージャスとかセクシー系が好み?」
「もち! だけどアイリスわたしにはいまいち似合わないかなぁ」
「まぁ似合うかどうか以前に他の令嬢に目は付けられるでしょうね」

 あれはリディアナだから許されたのだ。公爵令嬢で第一王子の婚約者だからこそ、誰も文句は言えなかった。平民でまだ実績のないアイリスがしたとしたら、貴族令嬢達の噂の格好の餌食となるだろう。
 結局最終的にアイリスはデコルテやうなじはしっかり出てはいるが、それ以外はシンプルなパールホワイトのドレスに決めた。

「ああは言ったけど好きにしていいのよ?」

 世間体に囚われるのは私の前世からの悪い習慣だ。それをアイリスに強要したようで気が引ける。せっかくなら自分の気に入ったドレスを着て欲しい。

「いやいや! お店の人と話してるうちに、自分がちゃんとしたドレスなんて着たことないこと思い出したんだよね。だからまずは無難なの着てみて、次からチャレンジしようと思ってさ!」

 いいかな? と出資者に尋ねるあたり、アイリスはやはり私に遠慮してくれたんだろう。シンプルであれば身に着けるアクセサリーや小物で色々アレンジがきくのだ。どうやらすでに先輩の特待生達に色々と節約術について情報収集をしていたらしい。

◇◇◇

 この世界、改めて言うが少女漫画が成り立つポテンシャルを持っている。だからこそ、学園ここはまさに出会いの場だ! 私達が前世で過ごした学舎とだいたい同じ感覚になっている。甘く苦い青春を送る学生達。大きな違いは婚約者がいる人間が多いくらいだろう。
 この『婚約者がいる相手を好きになる』 『婚約者がいるのに他の人を好きになる』 と言った恋愛模様が読者からは人気だった。障害のある恋愛の方が読者も本人達も盛り上がる。

「規模のでかい合コンじゃん?」
「お見合いパーティね」

 新入生歓迎パーティは全生徒が楽しみにしている行事だ。特に婚約者を持たない貴族の嫡子以外の生徒は気合いの入り方が違う。卒業後の嫁入り先、婿入り先が決まるかもしれないのだから。パーティは日頃の授業で関われない上級生下級生との交流も盛んにおこなわれる。

「ラストでみーんなこの学園内の人と結ばれてなかったっけ?」
「この学園自体が、貴族子弟の婚活の場としてこれ以上ない会場よね」

 学園のパーティのいいところは、エスコートが必要ないところだ。もちろん婚約者が学園内にいる場合は一緒に参加することは多いが、特に決まりはないというのが大事で、原作ではそれを理由にレオハルトはアイリスをパーティに誘い始める。

「リディアナはレオと?」
「一応ね~」

 今年一番注目の的になるのはもちろん第一王子のレオハルトだろう。原作ではレオハルトはリディアナとパーティに参加するも、アイリスの事が気になって見つめ続けてしまう……どころかダンスにまで誘う始末。それによって他の令嬢やリディアナから怒りを買うのだ。

「レオがアイリスあたしをダンスに誘わなきゃ、アイリスの学園生活ってかなり楽だったと思うんだよね~」
「そうね。あのダンスがあったから目をつけられたようなもんだし」
「そんなリアルに考えたらダメだってわかってるんだけど、当事者になるとどうしても考えちゃってさ~」

 漫画の外では思いっきり楽しんでいたのに勝手な話だよねぇ~と、二人で目を合わせて思わず吹き出す。

 今回もし同じことになったらどうなるだろう。私はもちろんイジメる気はないが、ライザやその取り巻きからの嫌がらせは避けられない。そもそもレオハルトがアイリスをダンスに誘うかどうか怪しい。十歳のあの対決以来、私を蔑ろにしないよういつも気にかけてくれてくれている。

(今更それがネックになるとは……私も考えが足りなかったわ)

 そうして迎えた歓迎パーティの日、アイリスは私の部屋で着付けをしていた。

「アイリス! よく似合うわ~!」

 人気衣装店だけあって、シンプルなドレスだからこそわかるデザインセンスの良さ。作り手の技術は一級品だ。それに着ている本人の素材の良さも際立っている。さらにエリザの手が加わり、完璧な品の良いどこかの令嬢の仕上がりとなった。

「えへへ」

 本人もまんざらじゃなさそうだ。原作では可愛らしい印象が強かったが、長い髪の毛を綺麗に巻いているのでそれよりも大人っぽく見えた。

「リディアナも流石ね」
「そーでしょ!」

 今日のドレスはミッドナイトブルーで腰回りに夜空のようにキラキラと宝石がちりばめられている。初めてレオハルトからのドレスのプレゼントだ。ついにドレスを送られる年齢まできたのだと感慨深くもある。このドレスも原作とは違う。おそらく原作ではリディアナ自身でドレスを用意したのだろう。

「あ、そこは謙虚にいかないんだ」
「そりゃそうよ。リディアナはアイリスのライバル役よ~ビジュアルでは負けないでしょ」
「原作への信頼度高くてウケる~」

 げたげたと笑う姿も可愛いのは流石ヒロインといったところか。私も釣られて笑ってしまう。

「そりゃそうよ。聖典みたいなもんだからね!」

 二人でこういう内輪話ができるのは楽しい、というより安心する。この国の未来を知るのが自分だけじゃないというだけで孤独感が減った。それにアイリスは未来の出来事にちゃんと対処しようと思ってくれている。当初の計画とは変わってしまったが、こっちの方がずっといいとこの一週間で気が付けた。

「この格好だったら、アリアもギャアギャア言わないかな」
「それはどーかな」

 学園内でアイリスは私と騎士団総長の娘のルイーゼ、そしてレオハルトの婚約者候補だったアリア・ルーフェンボルトと一緒に行動することが多かった。

「アリアって中ボス的なポジションだったじゃん? まさか仲良くなれるとは思わなかったんだけど」
「それな。ってやつね……あのお堅いアリアがギャルを受け入れるなんて」

 アリアの境遇はレオハルトと似ている。母親が裕福な平民の出身なのだ。そのせいか、本人はマナーや礼儀をかなり厳しく仕込まれており、アリアもその辺に関しては他人に求めるレベルが高い所がある。生真面目で規律に厳しいが、正義感も強く、ルールさえ守っていれば彼女に睨まれることはない。ある意味理想的な貴族だ。だから貴族のマナーもクソもない格好で登校したアイリスと打ち解けるとは思わなった。

「話せばわかるんだよね~。この学園に身なりに関する校則はないし、学園内では……実態は置いといて……皆平等ってことになってるし。そもそも平民の私に貴族のマナーを説いてどうすんの?って、それを指摘したらあのアリアが言葉に詰まっちゃってさ」
「まさか正論攻めで攻略出来るとは思わなかったわ」
「真面目すぎるんだよねきっと。前世のねーちゃんと似ててなんか親近感わいちゃった」

 そう言ったアイリスの顔は穏やかだった。『アイリスの瞳』は姉に借りて読んでいたと言っていた。親御さんとの関係はいまいちだったようだが、お姉さんとの仲は悪くなかったようだ。

「だけど卒業後のために貴族のマナーも勉強しとくべきかな~なんて適当に言ったら、あの子スイッチ入っちゃってさ」
「ちょうどいいから教育係になってもらったらいいじゃん」

 最近のアリアは生きがいを見つけたかのようにウキウキしている。アイリスもなんだかんだアリアにかまってもらえるのは嬉しそうなのだ。

「……村じゃ私、ヨイショの対象だったから……おばば見たいに私に体当たりで来てくれるのは嬉しい」
「なんせ初代聖女の末裔様だもんねぇ」

 こんな会話をしながらパーティの会場へ向かう。

「リディ! アイリス!」

 寮の入り口フロアでルイーゼが手を振ってくれている。隣にはアリアが、そんな大声を出して、と言いたげにルイーゼを横目に見ている。今日は女子四人で参加、といきたかったが流石に初っ端のパーティでレオハルトのエスコートなしだと何を言われるかわからないので、私だけ別行動だ。

「じゃあまた会場で!」

 さあ、気合を入れるイベントが続くけど頑張るぞ!!! ……胃痛が出たらアイリスに頼もう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...