悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

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第一部 悪役令嬢の幼少期

14 友情の行方

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 マリアの言う通り、オルティス一家はまだ王都からそう離れていないところにいた。そのため、雪が積もり始める前には王都へ戻ってくることができた。
 到着時、たまたまルカは王城のレオハルトの側にいたので情報がすぐに私まで届く。
 ルカによると、ジェフリーは大変戸惑っていたようだ。なぜわざわざ第一王子が自分を呼び寄せたのか全くわからなかったからだろう。

「君が優秀だと聞いたから」

 ただ素っ気なくレオハルトは答えたそうだ。ジェフリーは城内に一部屋与えられ、原作通り行儀見習いのような形で滞在することになった。

「二人の仲は?」
「残念ながら」

 なんでだよ! あれだけ信用しあってたじゃん! お互いにアイリスへの気持ちに気がついた時の苦悩はこちらが苦しくなるほどだった。

「ど~しよ……」

 頭を抱える。やっぱりタイミングが違うからだろうか。実は他にも思い当たる節がある。ジェフリーの立ち位置をルカと私で補ってしまっているのだ。
 ジェフリーはあらゆる知識を持ち、魔力操作はメインキャラ四人の中で一番だった。誰であろうとハッキリとモノを言い、レオハルトと同じような倫理観を備えていた。
 ルカは原作と違ってオドオドすることなく、器用に魔力を操作し、レオハルトの知らない魔道具への知識も豊富だった。私は臆することなくレオハルトに現在のこの国の問題点なんかを知ったかぶって偉そうにズケズケと意見したりしている。そして二人ともレオハルトの信用を勝ち得ている。

 結局どうしようもなく、時間だけが流れていった。私はいまだにジェフリーには会わせてもらえていない。なんだかんだとはぐらかされているのだ。

「今日こそ会わせていただきます」
「いやだ」
「いいじゃん! ……殿下の未来の側近にご挨拶したいのです。現婚約者として」

 ジェフリーの話になるといつも不機嫌になる。だがそんなの知ったことではない。どうにかして二人の仲を深めなければ。

「なぜですか。別に減るんじゃあるまいし」
「君が……君がジェフリーばかり褒めるから!」
「はあ!?」

 レオハルトは顔を真っ赤にして訴えてくる。

(なにこれ!? ヤキモチ!?)

 予想外の態度にこちらも目を見開いて驚く。

「殿下、殿下の顔は最高クラスですし、一度学んだことは忘れないし、剣術もすでに同年代ではフィンリー様しか相手にならないですし、身分にかかわらずお優しいですし、その上しっかり努力もされています」
「そんな……目的のために適当に褒めたって駄目だ……」

(めめめめ面倒くさ~~~!)

 すっかり不貞腐れているレオハルトを見て、久しぶりに『相手は十歳』の呪文を自分に唱える。

「そんな聞き分けのないこと言わないでください!」
「なんとでも言え! 絶対に会わせないからな!」
「あ! 開き直ったな!?」

 そちらがその気ならもういい。前世の知識を活用させてもらう。
 妃教育の合間にこっそり城内の図書室へ向かう。ジェフリーはここでさらに多くの知識を得たと言っていた。今日は私を遠ざけるためにレオハルトはジェフリーと一緒に行動していないようだし、ここにいる可能性は高いだろう。

(あったりー!)

 原作ファンなめんなよ!
 予想通り、図書室の端っこでジェフリーが何か書いているのが見えた。やはり勉強をしているのだろうか。人の気配を感じたのか、すぐに顔を上げた。綺麗なグリーンの瞳が見える。

「はじめまして。私、リディアナ・フローレスでございます」

 私の名前を聞くと、ジェフリーは急いで立ち上がった。

「ジェフリー・オルティスです。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」

 いえいえ、それはあのヤキモチ焼きのせいだから。

「今は何をしていらしたんですか?」

 分厚い本を開いているのが見える。何の勉強だろう。

「あ……実は、こちらの司書の方から写本の仕事をいただきまして……」

 バツが悪そうに答える。写本の仕事? アルバイトということか。確かに子爵家の財政は厳しいはずだが、十歳がアルバイトする必要があるほどなのか。行儀見習いとしての給金も出ているはずだ。

「申し訳ございません。殿下の側に控える者として相応しくないおこないですよね……」
「そんなことありません! 殿下もそのようなこと決して思われないでしょう」

 私の言葉で少し安心したのか、表情が和らいだ。

「ですがよろしければ理由を聞いてもよろしいでしょうか」

 ジェフリーは何か少し迷っているように、俯き加減で話し始めた。

「実は……母が氷石病の治療を受けておりまして、お恥ずかしながらその治療費が溜まっているのです。司書の方が事情を知ってコッソリ仕事をくれました」

 なるほど、治癒師による治療を受けていたのか。それはお金がかかっただろう。

「母は無事回復いたしました! 治癒師に頼らなければ、治療法が見つかるまで体が持たなかったと思います。だからしっかり治療費を払いたいのです。ですからそんなお顔されないでください」

 私の申し訳なさそうにする顔をみて、ジェフリーは慌てていた。

「リディアナ様のおかげで母は命を取り留めました。家族を代表してお礼申し上げます」

 どうやら治療法の出所も知っていたようだ。
 今回治癒師達の間では、氷石病で死んでしまった者に対しては、一定以上の金額を請求しないという取り決めがなされた。これは世間からの反感を避ける目的が大きい。治癒魔法を使わずに治療できることがわかったからだ。だがあくまで「死んでしまった者」限定の措置だった。

「週に三日ほど、殿下が自由な時間をくださるので助かっています」

 そんな疑いのない目で! レオハルトの嫉妬が少しでも役に立ったならよかったけど……。

「いつまでこちらに置いていただけるかわかりませんが、それまで精一杯努めさせていただきます」

(いやぁぁぁ! なんていい子なの!?)

 勝手に苦手意識を持って対応を後回しにしてごめんね!

 真っ直ぐな笑顔が切ない。そりゃ今みたいに避けられてたら将来は感じないよな。だがこの国はジェフリーを失うわけにはいかない。

「私にお任せいただけますか? その、殿下との関係改善といいますか……」
「え?」

 自信はないけれど。変化を起こした者として、何かしないわけにはいかないのだ。
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