上 下
3 / 16

3 贅沢な生活

しおりを挟む
 ミケーラは新生活を楽しんでいた。あれだけ憧れた贅沢な生活だ。たまにこれは夢ではないかと思うこともあるが、

(1回死んだんだし、夢でも現実でもどっちでも同じようなもんね!)

 と、思うことにした。

 ただ大切にされることには慣れていなかったので、しばらくは家族や使用人達とのやりとりがぎこちなかったが、持ち前の順応性の高さからすぐに生活に溶け込んでいった。

「レティシア様、お湯加減はいかがですか?」
「とっても気持ちいいわ! ありがとう」

「レティシア様、今日のお召し物はどちらにいたしますか?」
「貴女のセンスに任せるわ。この間のドレスとジュエリーの組み合わせ、とっても素敵だったもの!」

 もちろんこの屋敷にいる全ての人が、彼女の変化に気付かなかったわけではない。だが首を落として再び生き返ったことを考えると、性格が柔らかくなったことなど些細なことに過ぎなかった。

「君、なかなかすごいね……」
「そう?」

 広く豪華な部屋から使用人達が居なくなると、白く美しい鳥が話しかけてきた。美しい黄金の鳥籠が用意されているがそれには入らず、大きく可憐な白い花が咲く木の枝にとまっている。
 ミケーラはこの鳥をルークと名付けた。名前がないとなかなか不便だからだ。昔娼館で飼っていた白猫と同じ名前にした。

「よく公爵家に順応してる……というか楽しめてるよ」
「レティシアの記憶がすごいのよ! わからないことなんてないわ」
「それを使いこなしてるのがすごいんだよ」

 勉強などしてこなかったミケーラには想像がつかないほど、レティシアの知識量は凄まじかった。

「私なんて文字の読み書きだけで精一杯だったわ。それでも娼館ではほんの数人しか出来なかったのよ!? これで勉強した気になってたんだから恥ずかしい……」
「あのアホ王太子も、君みたいにキチンとレティシアの頑張りを認めてくれたらよかったんだけど」

 豪華なノブのついた扉がノックされる。

「どうぞ」
「レティシア様、お食事の用意ができました」
「すぐ行くわ」

 本日の夕飯はホロホロに煮込まれた肉がたくさん入ったスープだった。ミケーラはそれをできるだけ上品に食べる。本当はかきこみたい所だが、それはマズイとレティシアの記憶が警告してくる。

(バレたらこの生活が終わっちゃうかもしれないわ!)

 出来るだけこの生活を長く続ける為、ミケーラは真実を話さずにいたのだ。ルークからはどちらでも構わないと言われた。

「どうしたって大騒ぎになるだろうから、好きにしたらいいよ」

(死人が生き返ったんだから大騒ぎになるのは当たり前ね。だけどもう1週間……)

「お父様、私はこのままでよろしいのでしょうか?」

 レティシアの両親の前には野菜料理ばかりが並んでいた。娘の処刑に立ち会って以降、肉料理を受け付けなくなったのだ。当の本人は処刑前よりも好んで肉料理を食べるようになっていたが……。

「すまないねレティシア。せっかく蘇ってくれたのに屋敷に閉じ込めてしまって……もう少し待ってくれるかい?」

(閉じ込めるって……屋敷が広すぎてそんな感覚なかったな)

「ごめんなさいね……」

 母親も申し訳なさそうだ。娘が退屈していると思ったのだろう。

「いいえそんな! 皆優しくしてくれますし、毎日幸せです!」

(しまった!)

 今のはレティシアらしくない、ミケーラの感想だった。だが両親はこれまでレティシアが王宮で受けてきた扱いとの差から出た感想だと勘違いをし涙を流した。

 レティシアはこの1年、結婚前、最後の妃教育の場として王宮で暮らしていた。王太子の母親や、宰相である父の政敵、そして聖女パミラからありとあらゆる嫌がらせを受けてきたが、それを見事に跳ね除けていた。
 ミケーラがその記憶を読み取った時、それはそれは感動したのだった。

(レティシア、カッコいいー!!!)

 レティシアはとても強い女性だった。彼女がこの国の王妃になればこの国はますます良い国になっただろう。しかし、レティシアはもういない。

(なんかムカついてきたわね)

 ミケーラは今やレティシアの一部だ。レティシアが受けた恥辱はミケーラが受けたも同然に感じた。

「私の願いは叶ったわ。レティシアの願いはどう叶えればいい?」
「そうだね。君にはそろそろ真実を話しておこう」

 ルークは鳥の姿から以前暗闇の中で見た青年の姿に変えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった

恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。 そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。 ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。 夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。  四話構成です。 ※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです! お気に入り登録していただけると嬉しいです。 暇つぶしにでもなれば……! 思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。 一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。

悪『役』令嬢ってなんですの?私は悪『の』令嬢ですわ。悪役の役者と一緒にしないで………ね?

naturalsoft
恋愛
「悪役令嬢である貴様との婚約を破棄させてもらう!」 目の前には私の婚約者だった者が叫んでいる。私は深いため息を付いて、手に持った扇を上げた。 すると、周囲にいた近衛兵達が婚約者殿を組み従えた。 「貴様ら!何をする!?」 地面に押さえ付けられている婚約者殿に言ってやりました。 「貴方に本物の悪の令嬢というものを見せてあげますわ♪」 それはとても素晴らしい笑顔で言ってやりましたとも。

婚約破棄された悪役令嬢~改心して求婚してきたけど許しません!~

六角
恋愛
エリザベスは、自分が読んだ乙女ゲームの世界に転生したことに気づく。彼女は悪役令嬢として、皇太子レオンハルトと婚約していたが、聖女アリシアに惹かれたレオンハルトに婚約破棄を宣言される。エリザベスはショックを受けるが、自分の過ちを反省し、新しい人生を始めようと決意する。一方、レオンハルトはアリシアとの結婚後に彼女の本性を知り、後悔する。彼はエリザベスに謝罪しようとするが、彼女はすでに別の男性と幸せそうに暮らしていた。レオンハルトはエリザベスを忘れられなくなり、彼女の心を取り戻すために奮闘する。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

【完結】悪役令嬢代行します!〜転生した貧乏令嬢はお金の為にひた走る〜

桃月とと
恋愛
 伯爵令嬢エミリアは実家が没落した。  母はすでになく、父は「冒険者になる!」と家を出てしまっていた。エミリアの父は自分のせいで出来た借金をどうにかしようと、家族を残したまま、一攫千金を狙って国外へ旅立った。 「せっかく貴族に転生したっていうのに! あのクソ親父!!!」  そう。エミリアは転生者だったのだ。  だが没落するまで現状に満足し、転生者知識を使うことなく生きてきた為、今更どうしようもなくなってしまっていた。商売を始める元手すらないのだ。 「すまないエミリア……お前を学園へやる金もないんだ……」 「嘘でしょー!!?」  父の代わりに奔走する兄に告げられ絶望するエミリア。この世界、16歳を迎える貴族は須らく王立学園へ入学する。もちろん学費は高額であるが、その学園を出ていない貴族はまともな婚姻も就職先も望めない。  裕福であるはずだった実家に寄生するつもりでいたエミリアはこちらの面でも何の準備もしてこなかった。 「人生詰んだ……」  そんなエミリアの噂を聞きつけてか、一台の豪華な馬車がやってきた。どうやら最近噂の公爵家のものらしい。 「エミリア嬢、娘の代わりに『悪役令嬢』をやってもらいたい」 「はああ!?」  『悪役令嬢』なんて単語、久しぶりに聞いたエミリアだったが、 「もちろん報酬は弾む。この家を建て直すには十分なはずだ」 「喜んでー!」  そうして始まったエミリアの学園生活。入学後、すぐに彼女は気が付いた。 「ここ、いけこれの世界じゃね?」    俺様王太子 アーサー  腹黒眼鏡宰相の息子 ベイル  ミステリアスな大神官の息子 レイル  女ったらしの隣国王子 イクリス  マッチョおっとり騎士団長の息子 ガイヤ   どう考えてもこの顔ぶれ、前世で彼女の姉がハマっていた乙女ゲーム『いけめんこれくしょん』の世界だ。  だがどうやら少々ゲームとは違う様子……ヒロインであるアイリスの様子がおかしい。それに攻略キャラクター達も……。   「この! 親の七光りどもがぁぁぁ!」   今日も今日とてエミリアの怒号が学園に響く。  エミリアは無事学園を卒業できるのか!?     いい縁談をゲットできるのか!?     それがだめならホワイト企業に就職したい!!!  そんなエミリアのドタバタなお話。  ※ただノリと勢いの作品です。ご注意ください。ノリと!勢いです!

転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。

青の雀
恋愛
乙女ゲームのヒロインとして転生したと思い込んでいる男爵令嬢リリアーヌ。 悪役令嬢は公爵令嬢、この公爵令嬢に冤罪を吹っかけて、国外追放とし、その後釜に自分と王太子が結婚するというストーリー。 それは虐めではなく、悪役令嬢はヒロインに行儀作法を教えていただけ。 でも自分がヒロインだと信じて疑わない転生者は、虐められたと王太子に訴え出る。 王太子は、その言葉を信じ、悪役令嬢を国外追放処分としてしまいますが、実は悪役令嬢は聖女様だった。 身分格差社会で、礼儀作法の一つも知らない転生者がチートも持たず、生き残れるのか?転生者は自分が乙女ゲームのヒロインだと信じていますが、小説の中では、あくまでも悪役令嬢を主人公に書いています。 公爵令嬢が聖女様であったことをすっかり失念していたバカな王太子がざまぁされるというお話です。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

婚約破棄された悪役令嬢は辺境で幸せに暮らす~辺境領主となった元悪役令嬢の楽しい日々~

六角
恋愛
公爵令嬢のエリザベスは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を言い渡される。理由は王太子が聖女と恋に落ちたからだという。エリザベスは自分が前世で読んだ乙女ゲームの悪役令嬢だと気づくが、もう遅かった。王太子から追放されたエリザベスは、自分の領地である辺境の地へと向かう。そこで彼女は自分の才能や趣味を生かして領民や家臣たちと共に楽しく暮らし始める。しかし、王太子や聖女が放った陰謀がエリザベスに迫ってきて……。

処理中です...