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第8章 世界の始まり
第8話 再会
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蒼達が海底都市アクアネオンを拠点にして一ヶ月が過ぎた。
拠点とはいってもここにオートマタ以外の動く生き物はいないので、蒼達はしょっちゅう近くの街に商売には出ており、情報収集をしたり今後ミュスティー達に必要な物品を集めていた。
もしも勇者との話し合いがうまくいき、無事に人として生きることになったなら、彼ら親子はこの街で生活を始める予定だからだ。御使から空間を貰ったとしても、ここを拠点にすると決めた。蒼やレーベンはもうそのつもりでいた。
「まだ何も決まっていないんだから、そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
アルフレドだけが気が早いと言いたそうだった。御使からの連絡は未だなし。蒼はたまに海底都市の神殿へ出向き、現状どうですか? と尋ねているがテレビが付くことはなかった。
(まさか御使タイムで考えてないでしょうね!? 人間タイムで頼むわよ!?)
「勇者様は今どこにいらっしゃるのでしょう」
レーベンの方は翔に会えるのを楽しみにしている。なんたってこの世界で一番の有名人だ。
「姉様もくるよ! すっごく美人ですっごく強いんだよ!!」
姉を自慢するフィアの嬉しそうな声といったら。苦笑いしている兄の方は見えないようだ。
この街で暮らすにあたってオートマタ達の協力もあるが、レーベンがこれまでミュスティーに生活のあれこれをレクチャーしたのがここにきて大きな効果を発揮してきていた。彼は今、大概のことは自分でできる。
「何事もない時はごくごく普通に生活して、澱みが強くなることがあればすみやかに異空間に籠ってもらうのがいいでしょう」
蒼から見るシノノメは英雄の一員としての自身の義務よりも、目の前にいる魔王とその母親の態度を見てどう動くか決めているように見えた。
「ミュスティーはここでいいの? 他に気にいる街があるかもよ?」
アクアネオンはとても美しい街だが、今のところ生きているものは蒼達以外にいない。異空間を手に入れられるのなら、別に他のどこでもいいのではないかと。
「ワタシがもしも心変わりをして、悪い魔王になってしまったとしたら……少しでも地上から離れた場所にいるのが人々にとっては安心だろう」
全てを望む気はないのだとミュスティーは答えた。魔王が恐れているのは彼自身の変化なのだ。
(そもそも今の状態が奇跡みたいなもんだもんね)
澱みに飲まれることなく、彼は世界と共に生きる気でいる。それは母であるサニーの影響が大きい。大切に、人の子と同じように育てたのだ。
彼女は強い使命感を持って魔王を体内に宿していた。大きな争いの抑止力となる魔王を産み育てることが、結果的は不安定に向かっている世界の平穏を取り戻すことになると信じて。
だがいざ産んでみると、ただただ愛おしく、どうか幸せになって欲しいという思いが強くなった。だから彼女は息子に世界のいい面をたくさん話して聞かせたのだ。生きるに——守るに値する素晴らしい世界だと。
蒼はその話を聞いて、ミュスティーが『死にたくない』と言ったことをあらためて思い出していた。自分がその世界を滅ぼすナニカになった時、今の彼は死んだも同然なのだ。
◇◇◇
「私が街を少しずつ再建させますので、それほど寂しい日々は続きませんよ」
研究所の休憩室で、蒼からミュスティーの拠点の件で相談を受けたライルのメガネがキラリと光る。
「君がか!? お偉方をイラッとさせる言葉を投げかけないよう気をつけたまえよ!?」
このオルフェの言葉は嫌味でもなんでもなく、本気で心配だから出てきていた。ちなみに彼はちょうど、ライルに街中にある劇場の舞台装置を使えるようにしてくれと頼みにきていた。
ライルは研究所を中心に、街を再度発展させる予定を立てている。彼はこのままミュスティー達とここに残り魔王の研究を続けるのだ。彼はその命を『魔王』そのものを研究するために使うと決めている。もちろんミュスティーは全面協力を申し出ていた。
「そこでご相談なのですが、是非ニコロス家のお力をお借りできないかと」
お願いしている割に、ライルは少しも下手に出る雰囲気がない。もぐもぐと蒼が持ってきた肉まんを頬張ってる。
「私の力をか! ふっ仕方がない……なんだかんだ君は私の実力がよくわかっていたんだな!」
ニマニマと嬉しそうなオルフェだったが、
「いえ。ニコロス家の力であってオルフェさんのではありません。ご子孫のガレロア様にお話を繋いでもらえれば」
「なにぃー!!!」
プンスカと起こっているが、オルフェは必ず力になるだろうということは蒼にはわかっていた。
「でも驚きました。私は魔王に勝利することばかり考えていましたが、共存という可能性を模索する者がいたとは」
「一部は共存ってより支配って感じですけど」
わざわざ澱みを積極的に生み出そうとする『与する者』や、蒼を捕まえたい上級神官の一派の顔を思い浮かべて、彼女は少々顔をしかめる。
蒼はこの世界の人々が、できるだけ澱みを生み出さないよう心がけて日々の生活を送っているのを見てきた。そういう人達の平和への努力を無碍にするような行動で全てが台無しになってしまう気がしたのだ。
「勇者の件が無事に終わればその辺りも考えなければいけませんね」
「まあしょう君の方は大丈夫ですよ」
「ずいぶん信用しているのだな」
この件、蒼だけは全く心配していなかった。あの心配性の蒼がだ。唯一、翔のことは心配していた。彼がこの世界の行く末を決めなければならない。これは大きな決定だ。
(でも、しょう君がミュスティーを見て浄化できるかっていうと……できないわよねぇ)
実際その通り。翔はそのことを深く悩んでいるのだが、蒼以外が蒼達の元いた世界の価値観を理解するのは難しい。
「だがアルフレドやシノノメは戦闘準備も進めているぞ」
どこでどう戦うか。武器は何を使うか。逃げ道は……そういう話をしているのを蒼も聞いている。もちろん事が起こればすぐに逃げるよう蒼達は指示されていた。
(今更逃げられるわけないでしょ)
と、静かに覚悟を決めてはいるが。
「戦いにおいては事前準備がなにより大切なんですよ」
したり顔のライルが目の前にいた。
「君が戦闘について語るとはな!」
とはいえ蒼もオルフェもライルがアルフレドとシノノメと一緒に何かしているのを知っている。
「コソコソと……ミュスティーやサニーが不安に思うだろう」
「あの二人はご存知ですよ。当事者ですし」
「えぇ! どうして……あ。三人とも交渉決裂したら勇者じゃなくてミュスティー側に着くってこと!?」
そうです、と一度だけライルは頷いた。オルフェも目を見開いて驚いている。
「でもね。本当にそんな心配はいらないですよ。少なくとも話し合いはできる人です。勇者は」
問答無用で魔王を浄化するなんてことはどうしても考えられなかった。
「ええまあ……アオイさんの言う通りなのでしょう」
勇者に関しては。と、小さな声になるライルの言葉の意図がその時の蒼にはまだわからなかった。
翔達本物の勇者一行がついにアクアネオンに辿り着いたのは、それからさらに半月後。
「来た」
アルフレドがそう言って食事の席を立つ。全員に緊張が走った。そんな中で蒼だけはワクワクそわそわしている。
予定通り、街の中央広場まで急いで移動する。ついに翔に、勇者に会えるのだ。
遠くのシルエットを見てすぐに確認できたのは、アレクサンドラ。そして肩にオウムとミニドラゴンを乗せているテイマー。それから見覚えのあるピアスをつけたサラサラ髪の男性。
(あれ……しょう君は?)
蒼が思った疑問は、他の人間の疑問でもある。
「……魔法で勇者の姿を隠しているな」
「まあ警戒するのは当然でしょう」
アルフレドとシノノメの空気がピリピリしていた。
「お迎えご苦労!」
少し離れたところで止まり、アレクサンドラが不適な笑みのまま大きな声を上げた。
「お久しぶりですアレクサンドラさん! ってあれ? レイジーとルチル!!?」
「おーう久しぶり!」
「アオイ! ビスケット!」
こちらの方もどうも緊張しているのがわかる。どこかぎこちないのだ。
この辺りから蒼はようやく、アルフレド達が何を心配していたかわかってきた。翔が認めたからといって、アレクサンドラ達も魔王が生き残る世界を許すとは限らない。彼らは勇者を守り、魔王の元へ送り届けることがなによりの使命。なぜ命懸けでそんなことをするかというと、勇者に魔王を浄化させるためだ。
「あの~しょう君はどちらでしょう……?」
「そうだな。質問に質問で返して悪いが、魔王はどこだ?」
張り詰めた空気が今にも割れそうだ。彼らはすでに魔王が自分達と行動を共にしていることを知っていた。
「勇者はもうこの街に?」
今度はライルが尋ねた。嘘を見破る加護で情報を引き出すつもりだ。
「そうだ。だがあと一時間は姿を表に出さない。その前に魔王に合わせてもらいたい。勇者抜きで、俺達だけに」
レイジーはもう笑っていなかった。
「なんのために。俺達は勇者と魔王を引き合わせようと思っていだけだ。それはそちらも望んでいることだろう」
アルフレドは静かに尋ねる。こちらもいつもの柔らかな表情は消えている。
「弟よ。まるで魔王の手下のような口ぶりだな。戦士の末裔が聞いて呆れる。死んだ肉体をキメラにしてまで魔王に対抗しようとした祖先に顔向けできまい」
そうして視線を変え、
「お前がシノノメだな。勇者に仕える前に敵に鞍替えするとは……神官の末裔とは何を教わって成長するのだ?」
シノノメの方はやはり穏やかな笑みを返すだけだった。だが直後、
「姉様!」
悲しげな大犬の声を聞いて、ニヒルな笑顔を浮かべていたアレクサンドラの表情が驚きに変わった。
「フィア、喋れるようになったのか……?」
「そうだよ姉様!」
「……時間はかかるが元に戻れるそうだ」
アルフレドが情報をつけたすと、アレクサンドラの瞳が揺らいだ。だがそれもすぐに元に戻る。
「そんなに魔王が心配ならアオイの立ち会いだけ認めよう」
「アレクサンドラ!!!」
まだ言うかとアルフレドの怒号が響く。
「そもそもこれはアオイの発案だろう。責任を持って見届けるべきだ」
「違う! これは……! だいたい魔王と引き合わせるとはまだ……!」
その時、アルフレドとアレクサンドラが同時に何かに反応した。
「ワタシが魔王だ。勇者の前にお前達が話したいのなら話そう」
後方で隠れていたミュスティーが出てきたのだ。サニーも隣にいる。
「わ、私も立ち会ってもいいなら一緒に……」
蒼はおずおずと手をあげた。自分の考えの甘さを恥じ、アレクサンドラの言う通り責任を持って魔王の隣に立つつもりでいる。
あっさり出てきた魔王に勇者の守り手達は少し驚いていた。やはり、彼らの想像する魔王象とは違う。姿も、その対応も。それが彼らをさらにモヤモヤとさせるのだ。
滅ぼすべき相手は、滅ぼすべき姿をしていて欲しい。
「ねえ! お腹空いてない? ほら、お腹空いてるとイライラするし」
蒼はなんとか場を和ませようと必死だ。たとえ空回りになったとしても何かしなければと焦っていた。だからあっさりこの案を受け入れられて、心底ホッとしたのだ。
「そうだな。アオイからの差し入れはすべて食べ切ってしまったし」
レイジーが助け舟を出してくれた。彼は本気で今の魔王を自分の目で見極めたいと思っている。
「僕、準備しますね!」
レーベンがすかさず手伝いに動き出す。オートマタもそれに従っていた。彼は機械人形ともうまくつきあっている。
「お前達、もしアオイに手出ししたら……」
蒼がいないのを確認してアルフレドは低い声で唸った。
「はっ。どうせお前はアオイに指ひとつ出せていないのだろう」
視線だけで誰かを殺めてしまいそうなくらい彼は殺気立っていたが、姉からの指摘に一瞬で顔を赤らめる。
「えぇ~……マジかよアルフレド……ずっと一緒にいたんだろ?」
レイジーも呆れるような声だ。軟派な彼からするとアルフレドのこの状況が信じられない。
「アオイハ ベツノヒトガ スキナノ?」
というルチルの疑問を聞いて、アルフレドは耳を抑えたい衝動に駆られていた。最終的に、
「その件はほっといてくれ!」
と、捨て台詞を吐いてその場から離れた。
拠点とはいってもここにオートマタ以外の動く生き物はいないので、蒼達はしょっちゅう近くの街に商売には出ており、情報収集をしたり今後ミュスティー達に必要な物品を集めていた。
もしも勇者との話し合いがうまくいき、無事に人として生きることになったなら、彼ら親子はこの街で生活を始める予定だからだ。御使から空間を貰ったとしても、ここを拠点にすると決めた。蒼やレーベンはもうそのつもりでいた。
「まだ何も決まっていないんだから、そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
アルフレドだけが気が早いと言いたそうだった。御使からの連絡は未だなし。蒼はたまに海底都市の神殿へ出向き、現状どうですか? と尋ねているがテレビが付くことはなかった。
(まさか御使タイムで考えてないでしょうね!? 人間タイムで頼むわよ!?)
「勇者様は今どこにいらっしゃるのでしょう」
レーベンの方は翔に会えるのを楽しみにしている。なんたってこの世界で一番の有名人だ。
「姉様もくるよ! すっごく美人ですっごく強いんだよ!!」
姉を自慢するフィアの嬉しそうな声といったら。苦笑いしている兄の方は見えないようだ。
この街で暮らすにあたってオートマタ達の協力もあるが、レーベンがこれまでミュスティーに生活のあれこれをレクチャーしたのがここにきて大きな効果を発揮してきていた。彼は今、大概のことは自分でできる。
「何事もない時はごくごく普通に生活して、澱みが強くなることがあればすみやかに異空間に籠ってもらうのがいいでしょう」
蒼から見るシノノメは英雄の一員としての自身の義務よりも、目の前にいる魔王とその母親の態度を見てどう動くか決めているように見えた。
「ミュスティーはここでいいの? 他に気にいる街があるかもよ?」
アクアネオンはとても美しい街だが、今のところ生きているものは蒼達以外にいない。異空間を手に入れられるのなら、別に他のどこでもいいのではないかと。
「ワタシがもしも心変わりをして、悪い魔王になってしまったとしたら……少しでも地上から離れた場所にいるのが人々にとっては安心だろう」
全てを望む気はないのだとミュスティーは答えた。魔王が恐れているのは彼自身の変化なのだ。
(そもそも今の状態が奇跡みたいなもんだもんね)
澱みに飲まれることなく、彼は世界と共に生きる気でいる。それは母であるサニーの影響が大きい。大切に、人の子と同じように育てたのだ。
彼女は強い使命感を持って魔王を体内に宿していた。大きな争いの抑止力となる魔王を産み育てることが、結果的は不安定に向かっている世界の平穏を取り戻すことになると信じて。
だがいざ産んでみると、ただただ愛おしく、どうか幸せになって欲しいという思いが強くなった。だから彼女は息子に世界のいい面をたくさん話して聞かせたのだ。生きるに——守るに値する素晴らしい世界だと。
蒼はその話を聞いて、ミュスティーが『死にたくない』と言ったことをあらためて思い出していた。自分がその世界を滅ぼすナニカになった時、今の彼は死んだも同然なのだ。
◇◇◇
「私が街を少しずつ再建させますので、それほど寂しい日々は続きませんよ」
研究所の休憩室で、蒼からミュスティーの拠点の件で相談を受けたライルのメガネがキラリと光る。
「君がか!? お偉方をイラッとさせる言葉を投げかけないよう気をつけたまえよ!?」
このオルフェの言葉は嫌味でもなんでもなく、本気で心配だから出てきていた。ちなみに彼はちょうど、ライルに街中にある劇場の舞台装置を使えるようにしてくれと頼みにきていた。
ライルは研究所を中心に、街を再度発展させる予定を立てている。彼はこのままミュスティー達とここに残り魔王の研究を続けるのだ。彼はその命を『魔王』そのものを研究するために使うと決めている。もちろんミュスティーは全面協力を申し出ていた。
「そこでご相談なのですが、是非ニコロス家のお力をお借りできないかと」
お願いしている割に、ライルは少しも下手に出る雰囲気がない。もぐもぐと蒼が持ってきた肉まんを頬張ってる。
「私の力をか! ふっ仕方がない……なんだかんだ君は私の実力がよくわかっていたんだな!」
ニマニマと嬉しそうなオルフェだったが、
「いえ。ニコロス家の力であってオルフェさんのではありません。ご子孫のガレロア様にお話を繋いでもらえれば」
「なにぃー!!!」
プンスカと起こっているが、オルフェは必ず力になるだろうということは蒼にはわかっていた。
「でも驚きました。私は魔王に勝利することばかり考えていましたが、共存という可能性を模索する者がいたとは」
「一部は共存ってより支配って感じですけど」
わざわざ澱みを積極的に生み出そうとする『与する者』や、蒼を捕まえたい上級神官の一派の顔を思い浮かべて、彼女は少々顔をしかめる。
蒼はこの世界の人々が、できるだけ澱みを生み出さないよう心がけて日々の生活を送っているのを見てきた。そういう人達の平和への努力を無碍にするような行動で全てが台無しになってしまう気がしたのだ。
「勇者の件が無事に終わればその辺りも考えなければいけませんね」
「まあしょう君の方は大丈夫ですよ」
「ずいぶん信用しているのだな」
この件、蒼だけは全く心配していなかった。あの心配性の蒼がだ。唯一、翔のことは心配していた。彼がこの世界の行く末を決めなければならない。これは大きな決定だ。
(でも、しょう君がミュスティーを見て浄化できるかっていうと……できないわよねぇ)
実際その通り。翔はそのことを深く悩んでいるのだが、蒼以外が蒼達の元いた世界の価値観を理解するのは難しい。
「だがアルフレドやシノノメは戦闘準備も進めているぞ」
どこでどう戦うか。武器は何を使うか。逃げ道は……そういう話をしているのを蒼も聞いている。もちろん事が起こればすぐに逃げるよう蒼達は指示されていた。
(今更逃げられるわけないでしょ)
と、静かに覚悟を決めてはいるが。
「戦いにおいては事前準備がなにより大切なんですよ」
したり顔のライルが目の前にいた。
「君が戦闘について語るとはな!」
とはいえ蒼もオルフェもライルがアルフレドとシノノメと一緒に何かしているのを知っている。
「コソコソと……ミュスティーやサニーが不安に思うだろう」
「あの二人はご存知ですよ。当事者ですし」
「えぇ! どうして……あ。三人とも交渉決裂したら勇者じゃなくてミュスティー側に着くってこと!?」
そうです、と一度だけライルは頷いた。オルフェも目を見開いて驚いている。
「でもね。本当にそんな心配はいらないですよ。少なくとも話し合いはできる人です。勇者は」
問答無用で魔王を浄化するなんてことはどうしても考えられなかった。
「ええまあ……アオイさんの言う通りなのでしょう」
勇者に関しては。と、小さな声になるライルの言葉の意図がその時の蒼にはまだわからなかった。
翔達本物の勇者一行がついにアクアネオンに辿り着いたのは、それからさらに半月後。
「来た」
アルフレドがそう言って食事の席を立つ。全員に緊張が走った。そんな中で蒼だけはワクワクそわそわしている。
予定通り、街の中央広場まで急いで移動する。ついに翔に、勇者に会えるのだ。
遠くのシルエットを見てすぐに確認できたのは、アレクサンドラ。そして肩にオウムとミニドラゴンを乗せているテイマー。それから見覚えのあるピアスをつけたサラサラ髪の男性。
(あれ……しょう君は?)
蒼が思った疑問は、他の人間の疑問でもある。
「……魔法で勇者の姿を隠しているな」
「まあ警戒するのは当然でしょう」
アルフレドとシノノメの空気がピリピリしていた。
「お迎えご苦労!」
少し離れたところで止まり、アレクサンドラが不適な笑みのまま大きな声を上げた。
「お久しぶりですアレクサンドラさん! ってあれ? レイジーとルチル!!?」
「おーう久しぶり!」
「アオイ! ビスケット!」
こちらの方もどうも緊張しているのがわかる。どこかぎこちないのだ。
この辺りから蒼はようやく、アルフレド達が何を心配していたかわかってきた。翔が認めたからといって、アレクサンドラ達も魔王が生き残る世界を許すとは限らない。彼らは勇者を守り、魔王の元へ送り届けることがなによりの使命。なぜ命懸けでそんなことをするかというと、勇者に魔王を浄化させるためだ。
「あの~しょう君はどちらでしょう……?」
「そうだな。質問に質問で返して悪いが、魔王はどこだ?」
張り詰めた空気が今にも割れそうだ。彼らはすでに魔王が自分達と行動を共にしていることを知っていた。
「勇者はもうこの街に?」
今度はライルが尋ねた。嘘を見破る加護で情報を引き出すつもりだ。
「そうだ。だがあと一時間は姿を表に出さない。その前に魔王に合わせてもらいたい。勇者抜きで、俺達だけに」
レイジーはもう笑っていなかった。
「なんのために。俺達は勇者と魔王を引き合わせようと思っていだけだ。それはそちらも望んでいることだろう」
アルフレドは静かに尋ねる。こちらもいつもの柔らかな表情は消えている。
「弟よ。まるで魔王の手下のような口ぶりだな。戦士の末裔が聞いて呆れる。死んだ肉体をキメラにしてまで魔王に対抗しようとした祖先に顔向けできまい」
そうして視線を変え、
「お前がシノノメだな。勇者に仕える前に敵に鞍替えするとは……神官の末裔とは何を教わって成長するのだ?」
シノノメの方はやはり穏やかな笑みを返すだけだった。だが直後、
「姉様!」
悲しげな大犬の声を聞いて、ニヒルな笑顔を浮かべていたアレクサンドラの表情が驚きに変わった。
「フィア、喋れるようになったのか……?」
「そうだよ姉様!」
「……時間はかかるが元に戻れるそうだ」
アルフレドが情報をつけたすと、アレクサンドラの瞳が揺らいだ。だがそれもすぐに元に戻る。
「そんなに魔王が心配ならアオイの立ち会いだけ認めよう」
「アレクサンドラ!!!」
まだ言うかとアルフレドの怒号が響く。
「そもそもこれはアオイの発案だろう。責任を持って見届けるべきだ」
「違う! これは……! だいたい魔王と引き合わせるとはまだ……!」
その時、アルフレドとアレクサンドラが同時に何かに反応した。
「ワタシが魔王だ。勇者の前にお前達が話したいのなら話そう」
後方で隠れていたミュスティーが出てきたのだ。サニーも隣にいる。
「わ、私も立ち会ってもいいなら一緒に……」
蒼はおずおずと手をあげた。自分の考えの甘さを恥じ、アレクサンドラの言う通り責任を持って魔王の隣に立つつもりでいる。
あっさり出てきた魔王に勇者の守り手達は少し驚いていた。やはり、彼らの想像する魔王象とは違う。姿も、その対応も。それが彼らをさらにモヤモヤとさせるのだ。
滅ぼすべき相手は、滅ぼすべき姿をしていて欲しい。
「ねえ! お腹空いてない? ほら、お腹空いてるとイライラするし」
蒼はなんとか場を和ませようと必死だ。たとえ空回りになったとしても何かしなければと焦っていた。だからあっさりこの案を受け入れられて、心底ホッとしたのだ。
「そうだな。アオイからの差し入れはすべて食べ切ってしまったし」
レイジーが助け舟を出してくれた。彼は本気で今の魔王を自分の目で見極めたいと思っている。
「僕、準備しますね!」
レーベンがすかさず手伝いに動き出す。オートマタもそれに従っていた。彼は機械人形ともうまくつきあっている。
「お前達、もしアオイに手出ししたら……」
蒼がいないのを確認してアルフレドは低い声で唸った。
「はっ。どうせお前はアオイに指ひとつ出せていないのだろう」
視線だけで誰かを殺めてしまいそうなくらい彼は殺気立っていたが、姉からの指摘に一瞬で顔を赤らめる。
「えぇ~……マジかよアルフレド……ずっと一緒にいたんだろ?」
レイジーも呆れるような声だ。軟派な彼からするとアルフレドのこの状況が信じられない。
「アオイハ ベツノヒトガ スキナノ?」
というルチルの疑問を聞いて、アルフレドは耳を抑えたい衝動に駆られていた。最終的に、
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と、捨て台詞を吐いてその場から離れた。
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