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第1章 棲家と仕事
第4話 怪我人男性
しおりを挟む「せ、せめて家の中まで運んでよー!」
という声はもうあのユニコーンには届かない。いい仕事をしたと満足気に門を出て行った。すでに門の外を覗いてもその姿は見えないので、蒼は諦めて門を再び閉じる。
謎の男性はスヤスヤと眠ったままだ。
(ここに寝かせておくのもな……)
とりあえずタオルを濡らし、血まみれの顔を拭く。マントの留め金は外せたが、鎧の外し方はわからなかったので拭ける血の跡だけ拭いていった。
「おぉ! イケメンだ!」
目の下に小さな傷がある。柔らかそうなブロンドヘアに同じ色の長いまつ毛が見えた。
剣の鞘は腰にあるが剣は見当たらない。その時、フと蒼は気がついてしまった。
「この人、起きて暴れたりしないでしょうね!?」
とんでもない人を招き入れていたらどうしようと急に不安が湧いてくる。剣はないとはいえ素手でも勝てる気がしない。相手はなかなかのアスリート体型だ。
とはいえ悪い人間にも思えない。痛みで呻きながらも蒼に逃げろと伝えていた。どの道放っておくことなど蒼には無理なのだから、考えても無駄だと思考を止めた。
(あ……)
ゆっくりと長いまつ毛が動いた。扉の色と同じ……優しい朱色の瞳がチラリと見える。
「わっ!」
勢いよく起き上がったその男性は、すぐさま本来剣がある場所へと手を伸ばすが、そこには鞘だけだ。当然空振りに終わる。その緊迫した表情から彼はまだ現状が理解できてないのだと蒼はすぐにわかった。彼の手が次に向かったのはブーツの横だ。蒼は気が付かなかったが、短剣が仕込まれていた。
「ちょっちょっちょ! 待った待った待った!」
蒼は敵意がないことを伝えるために両手を上げるが、血がべったりなタオルを持っていること思い出して急いで言い訳をする。
「ユ、ユニコーンがやりました!!!」
そして言葉が足らなかったことに気がつく。
「傷つける方じゃなくて治す方ね!!?」
アワアワしている蒼を見て気が緩んだのか、その男性は再び痛みを堪えるような体勢になってうずくまる。
「ええ!? 治ってないの!?」
少し離れたまま、蒼は心配そうに声をかける。相手は苦痛で顔を歪め、汗を流していた。
「も、申し訳ありません……助けてくださった方に剣を向けるなんて……」
そう言いながら持っていた短剣を離れたところへと軽く投げた。蒼を安心させるためだ。そして小さく呟く。
「ユニコーン……なるほど……」
痛がりながらも口元は笑っている。
(なになに!? ユニコーンがなんなのー!?)
恐る恐る近づき、男性が暴れないことを確認して彼の体を支える。
「歩けます? とりあえず家の方がゆっくり休めるかも」
「恩にきます……」
だがなんとか玄関まで辿り着いたところで、二人はバターンと倒れ込んだ。
「アイタタタ……」
「も、申し訳ない……!!!」
男性は情けない声で謝っているが、どうやら本当にこれ以上動けないようだった。
「ユニコーンの癒しの力は……この通り傷は治してくれるのですが、本人の魔力や体力を使うので傷の度合いによっては……この通り全く動けなくなるのです……」
「へぇ~」
わざわざ教えてくれるということは、あまり知られていない知識なのだろうと蒼は素直に感心した。
のろのろと玄関で鎧を外し、血で汚れた服を脱ぎ捨てた。とりあえずと蒼はタオルケットを彼に渡して、汚れ物を洗濯機へと放り込む。この洗濯機は摩訶不思議な力を持つ管理官が用意してくれただけあって、どんな汚れも綺麗に洗い流すのだ。
(醤油汚れが綺麗さっぱりになった時は感動したもんな~)
穴が空いている部分は後で縫い付ければいいやと、針と糸を用意した。
例の男性は今、リビングのソファに寝転がっている。律儀にも座って待とうと何度も頑張ってはいたが、脂汗をかいて我慢しているのがわかったので蒼が無理やり寝かせたのだ。
「なんとお礼とお詫びをしたらいいか……」
本来は屈強な戦士であろうこの男性はしおしおに落ち込んでいるようだった。
「名乗り遅れました。俺は……アルフレドと言います。ぼ、冒険者をやっていまして……」
気まずそうな顔で、このような体勢で申し訳ないとまた謝りながら起き上がった。蒼はすぐに手で静止し、立ち上がるのだけは阻止する。
「私はアオイです。……訳あってここに住んでます」
嘘ではない。
(実際なんて言えばいいの!?)
幼馴染の弟分が里帰りしたのに無理やりくっついてきたら持て余されちゃって、衣食住保障してもらう代わりに元の世界を諦めて異世界で生活するようになりました。とは言えなかった。
だが蒼の心配をよそに、そうでしょうそうでしょう、とアルフレドは一人で勝手に納得している。
(なんで納得したか知りたいんだけど……!)
蒼には何一つ情報がない。会話自体一週間ぶりだ。彼から聞けることは聞いておこう、そう決めた。
「アルフレドさん。気にせず体の状態が戻るまでここにいてくださいね。たいしたことはできないですけど」
「ありがとうございます……! まともに歩けるようになったらすぐに出て行きますので……」
ホッとしているアルフレドを見るに、彼も色々とギリギリなのだと察せられた。
◇◇◇
彼は蒼が用意した食事を目を丸くしながら食べていた。あまりの美味しさに言葉を失い、痛みをも忘れている。
「味……濃くないですか?」
この世界の食事のことなど、もちろん蒼は何もわからないので、
(まあスープくらいはあるでしょ!)
というノリで作ったのだ。ベーコンと各種野菜入りのポトフを。それが予想外の食いつきのよさでどうしていいかわからない。
「確かに、このようなしっかりした味付けは初めてです!」
「やっぱり!?」
焦る蒼を見てアルフレドの方が慌てた。
「これ以上美味しい食事にありついたことはありません! アオイ様は料理がご専門でしょうか!?」
「いやいや……私はただ切って煮ただけといいますか……」
ごにょごにょと答えるしかない。スープの素様様である。
「おかわりあるのでよければ」
「是非!」
子供のように顔を輝かせたアルフレド。イケメンの笑顔は強烈だ。何かと遠慮がちだった彼も食事になると抗えないものがあるのが面白い。
(とりあえず……いい人そうでよかった……)
ニコニコと美味しそうに食事をとるアルフレドを見ながら、蒼は久しぶり他人との交流を楽しんでいた。
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