12 / 14
12 面談
しおりを挟む
預言者マレリオが原作より早くデボラを脅しにかかった理由はすぐに判明した。
大神殿で、デボラの部屋にあるソファにゆったりと腰をかけ、アリソンは報告を受ける。
「賭博か~……」
どうやらクローズ家がアリソンの『預言』が出回ったせいで偽の預言を渋った際、マリレオに追加で渡した金で賭博に手を出し、まんまとハマってしまったらしい。
(やっぱりあっという間に未来は変わっちゃうんだ)
今更どうしようもないが、これはデボラに渡した『弱み』ではどうしようもなかった。賭博の借金が発覚したらそれこそマレリオは失墜してしまう。そうなればクローズ家も終わりだ。
「なんであんな奴が預言者なんかに!」
悪役の割にデボラは潔癖なところがある。買収は許せても買春も賭博も許せないらしい。
(いや~自分の為なら、買収も人殺しもOKってのはやっぱり悪役らしく自分勝手か……)
デボラは怒りのスイッチが入ってしまったようだ。
「この間なんて執務室でお酒を飲みすぎて大騒ぎした挙げ句、転んで大けがしたらしいわ! カルラ様が急いで治癒魔法をかけたらしいけれど……ああ! 腹立たしい!」
「飲む打つ買うの三拍子ってやつね~マレリオ様もしょうもないお人だこと」
他人事のようなアリソンに、デボラはあからさまに不機嫌だ。
「我が家は大変だったのよ!? 結局借金を立て替えて、貴女への支払いや、動いてくれる人間にもそれなりの報酬がいるんだから!」
(しっかり経済回しちゃってるな~)
大金持ちのクローズ家からそこまで文句が出るのだからそれなりの額だったと予想ができる。
「まぁ……弱みを握られてることがわかったんだから、これからは早々簡単に脅してきたりはしないでしょう。まったく大騒ぎして迷惑よね~」
あはは! と、アリソンはアーロンから差し入れられた王宮専属の菓子職人が作った甘い焼き菓子を頬張る。
(美味しい~! これ、私にくれたことないわね!?)
アーロンとデボラは順調に仲を深めていた。というより、デボラがうまく立ち回って、アーロンが追いかける……というアリソンが求めていた図が出来上がっている。
「貴女っ……!」
――パチンッ
いつものよう音が鳴る。
「……っ」
「ふぉれより……失礼……それより、預言の準備は終わってるの?」
「フン! ちゃんと派遣できる物資も人員も確保してるわ。もちろん住居再建のための準備も進めてる」
デボラは当たり前だと言わんばかりの強気な態度だ。
昨日、ついにマレリオの最期の預言が発表された。ワーレル山付近の住民は大慌てで避難を始めている。
「……貴女はずいぶんノンビリじゃない。大切な国民が被害にあうかもしれないのに」
わざとらしくアリソンを非難する。デボラの言う通り、記憶が戻る前の彼女であればきっとこれだけで心を痛め、人々を心配したことだろう。
「あら~国民の心配は、未来の聖女で王妃様であられるデボラ様の領分ですことよ~。私は自分のことで精一杯ですの~」
(そのためにクローズ家にあれこれ準備してもらったわけだし)
この預言がちゃんと公表されたことにより、人的被害はなくなる。自然災害を止めることは出来ないが、その後を復興する準備もデボラによって既に整っている。
「いい!? ここで名を上げるのよ! 成金貴族なんていう貴族に言ってやりなさい!」
扇子を真上に突き上げた。
「『じゃあお前が金を出せ!』 ってね」
「……。」
「金を出さずに口だけ出す人間が鬱陶しいのは誰だってわかるし、クローズ家の評価爆上がり間違いなしよ」
ここまで言って、アリソンはまた1つお菓子を口に放り込んだ。
「ひょうにんよっきゅ……承認欲求が満たされるわよ~人々に感謝されて認められて……気分が悪くないわけないじゃない?」
「なにそれ……」
意外なことに、当初デボラはそういったことにあまり興味がないようだった。あくまでも自分基準だ。皆の憧れのお姫様になりたいわけではない。自分の欲望が叶えば他人はどうだっていい。聖女になるのも、アーロンと結婚する為に必要だからだ。
だが最近はアリソンに褒められてこっそり隠れて喜ぶ彼女がいる。なんの理由もなく褒められていたわけではなく、努力の裏打ちがあって褒められるというのはこれまで経験がなかったからだ。
ごくん。とお菓子を飲み込んで話を続ける。
「これで世間は思うわ! 預言者マレリオの預言、正しいんじゃない? デボラ様ってちゃんと聖女と資質あるじゃん! ってね」
(はぁ……ここまで長かった……)
ゴクゴクと豪快にお茶を喉に流し込むアリソン。そして何か考え込むデボラ。
(起こることがわかっていても、そう簡単にはいかないもんね~)
これまでの苦労を思い出す。うまく行ったと思った後の後始末の多いこと多いこと。最後まで気を抜けない。
「……貴女、それからどうするの?」
「ん?」
「私がマレリオ様の予言通りの聖女なら、貴女は偽聖女でしょう?」
(え!? 私の事心配してる!? ……なーんてね)
ニヤリと口角を上げ、どちらが悪役かわからないような表情だ。
「心配ご無用。どうするかは考えてるわ。……方法は秘密だけど!」
「チッ!」
方法を本来の悪役にバラしてなにもかも無駄にするわけにはいかない。
(まったく! 油断も隙もないわ!)
表向き仲良く過ごしてはいるが、決して弱みを見せてはいけない相手だ。
「そういえば、イザベラ様とのお茶会準備はもちろん大丈夫でしょうね」
「フン! 私を誰だと思ってるの!」
今度は少々顔がこわばっていた。口調ほど自信はないのだろう。
大聖堂での修行も終盤だ。アリソンとデボラは未来の聖女候補として現聖女イザベラとのお茶会と言う名の面談が待っている。それぞれ1人ずつ。
デボラの治癒能力はアリソンによる指導と本人の努力によってかなり向上していた。それでも到底アリソンには敵わないが、治癒師の能力でみれば十分だ。
「やっぱりイザベラ様に賄賂は効かなかったでしょ?」
「なんで知ってるのよ……」
(原作で読んだから~)
「まぁ、デボラ様のお家ってそういうの好きだし~」
「……。」
聖女イザベラは聖女という役職に誇りを持っている。賄賂なんて逆効果。なのになぜ原作でデボラを選んだかというと、単純に神殿内、王国内の混乱を防ぎたかったからだ。
彼女は何より国内の安定が大事だと考えている。余計な争いは少しでも避けるべきという思考の持ち主だ。
原作では偽聖女のレッテルが貼られていたアリソンより、真なる聖女と自他共に認めるデボラを選んだ方が問題が少ないと判断したのだ。例え能力がアリソンの方が上だとわかっていても。
「貴女だって、ちゃんとやれるんでしょうね!? 例え神殿内と世間が私を次期聖女と認めても、イザベラ様の指名がないとどうにもならないのよ!?」
「やだ~そんな風に言われたらプレッシャー感じちゃ~う」
ここをクリアする為にこれまで積み重ねてきたのだ。勝算は十分にある。
(イザベラ様の性格と好み、それから原作でデボラを選んだ決定的な理由が今も変わってなければ大丈夫……のはず!)
◇◇◇
「それで……本当に次期聖女の座を辞退するというの?」
「はい。散々目をかけていただいたのに申し訳ありません」
身体は弱っているはずだというのに、聖女イザベラは威厳と自信に溢れる姿だった。白銀の椅子に背筋を伸ばして座り、美しい動作で紅茶を口に含む。
アリソンは国王を前にするよりよっぽど緊張していた。彼女には全て見透かされているのではないかと不安になる。
「頭のいい貴女ならわかるわね。そんなこと、罷り通らないということを」
ゆっくりと、しかしキッパリとアリソンの目を見ながら。
どうやら聖女イザベラは、原作とは違いアリソンを後継者と考えたようだ。今のアリソンの世間の評価なら問題ないと判断した。
「貴女の現状を知らないわけではないわ。だけど貴女は予言通り歴代最高峰の力を持っている……」
現状とは主にアーロンのことだ。彼の女癖の悪さに苦労させられることが誰の目に見ても明らかなのだから。
「それでも、私がなるべきではありません」
今度はアリソンがイザベラの目を見つめてハッキリと告げる。
「……あのデボラ嬢の力を高めたのも貴女でしょう。後進を育てる力がもうあるだなんて」
「ご存知でしたか」
これに関しては、アリソンは敢えてバレるように特訓していた。デボラはプライドから可能な限り隠したがっていたが……。
(イザベラ様も努力でのし上がった人よ。天才型の私より、心情的にはデボラを応援したいはず)
が、同時に自分の気持ちだけで動かないイザベラには好感が持てる。
「デボラ様、それは一生懸命でした。あの負けん気はある種の才能です。次期王妃としても、それは必要になるかと」
姑息な手を使ってでも望みを叶える我の強さ、それがあればあのアーロンとやっていけるかもしれない。
(かも、だけど……)
「今の貴女でもそれは可能ではなくて?」
記憶が戻る前だったら到底無理だったが、今のアリソンならあの王太子すらコントロール可能だとイザベラは見破っている。
「愛があればもしかすれば……ですがもう……」
少し困ったように笑って見せる。
「……聖女の栄誉を捨てるというの」
今度は伏し目がちだった。イザベラも最初から答えはわかっているのだ。
「私は身勝手な女です。国民に愛されるより、自分自身に愛されたいのです。そのために、私はその栄誉を捨てなければなりません」
それを聞いてイザベラは小さな微笑みを浮かべ、それから大袈裟にため息をついた。
「はぁ~~~しばらくは荒れそうね……」
「大丈夫です。次期預言者はあのローガン様ですわ!」
「でもまだマレリオは若いのよ。世代交代はまだ……」
その言葉の途中、ハッと表情を変えた。
「アハハ! そうなの! 抜かりはないってことね」
「さぁなんのことでしょうか?」
とぼけながら微笑むアリソンに、イザベラはいつもの彼女からは考えられないほど大声をあげて笑っていた。
「デボラ嬢を呼んでちょうだい。少し脅しておきましょうかね」
イザベラとのお茶会の部屋へ向かうデボラはかつてないほど真っ青な顔になっていた。
(あ~就活を思い出すわね……)
アリソンはデボラを追いかけ、バチンと背中を軽く叩いた。
そして親指を立てて、
「グッドラック!」
ウィンク付きで励ます。
「はぁ? 意味不明なんだけど!」
そういつもの調子でぷりぷりとしながら、また元通り廊下を歩いて行った。
少しだけ足取りは軽くなったようだ。
大神殿で、デボラの部屋にあるソファにゆったりと腰をかけ、アリソンは報告を受ける。
「賭博か~……」
どうやらクローズ家がアリソンの『預言』が出回ったせいで偽の預言を渋った際、マリレオに追加で渡した金で賭博に手を出し、まんまとハマってしまったらしい。
(やっぱりあっという間に未来は変わっちゃうんだ)
今更どうしようもないが、これはデボラに渡した『弱み』ではどうしようもなかった。賭博の借金が発覚したらそれこそマレリオは失墜してしまう。そうなればクローズ家も終わりだ。
「なんであんな奴が預言者なんかに!」
悪役の割にデボラは潔癖なところがある。買収は許せても買春も賭博も許せないらしい。
(いや~自分の為なら、買収も人殺しもOKってのはやっぱり悪役らしく自分勝手か……)
デボラは怒りのスイッチが入ってしまったようだ。
「この間なんて執務室でお酒を飲みすぎて大騒ぎした挙げ句、転んで大けがしたらしいわ! カルラ様が急いで治癒魔法をかけたらしいけれど……ああ! 腹立たしい!」
「飲む打つ買うの三拍子ってやつね~マレリオ様もしょうもないお人だこと」
他人事のようなアリソンに、デボラはあからさまに不機嫌だ。
「我が家は大変だったのよ!? 結局借金を立て替えて、貴女への支払いや、動いてくれる人間にもそれなりの報酬がいるんだから!」
(しっかり経済回しちゃってるな~)
大金持ちのクローズ家からそこまで文句が出るのだからそれなりの額だったと予想ができる。
「まぁ……弱みを握られてることがわかったんだから、これからは早々簡単に脅してきたりはしないでしょう。まったく大騒ぎして迷惑よね~」
あはは! と、アリソンはアーロンから差し入れられた王宮専属の菓子職人が作った甘い焼き菓子を頬張る。
(美味しい~! これ、私にくれたことないわね!?)
アーロンとデボラは順調に仲を深めていた。というより、デボラがうまく立ち回って、アーロンが追いかける……というアリソンが求めていた図が出来上がっている。
「貴女っ……!」
――パチンッ
いつものよう音が鳴る。
「……っ」
「ふぉれより……失礼……それより、預言の準備は終わってるの?」
「フン! ちゃんと派遣できる物資も人員も確保してるわ。もちろん住居再建のための準備も進めてる」
デボラは当たり前だと言わんばかりの強気な態度だ。
昨日、ついにマレリオの最期の預言が発表された。ワーレル山付近の住民は大慌てで避難を始めている。
「……貴女はずいぶんノンビリじゃない。大切な国民が被害にあうかもしれないのに」
わざとらしくアリソンを非難する。デボラの言う通り、記憶が戻る前の彼女であればきっとこれだけで心を痛め、人々を心配したことだろう。
「あら~国民の心配は、未来の聖女で王妃様であられるデボラ様の領分ですことよ~。私は自分のことで精一杯ですの~」
(そのためにクローズ家にあれこれ準備してもらったわけだし)
この預言がちゃんと公表されたことにより、人的被害はなくなる。自然災害を止めることは出来ないが、その後を復興する準備もデボラによって既に整っている。
「いい!? ここで名を上げるのよ! 成金貴族なんていう貴族に言ってやりなさい!」
扇子を真上に突き上げた。
「『じゃあお前が金を出せ!』 ってね」
「……。」
「金を出さずに口だけ出す人間が鬱陶しいのは誰だってわかるし、クローズ家の評価爆上がり間違いなしよ」
ここまで言って、アリソンはまた1つお菓子を口に放り込んだ。
「ひょうにんよっきゅ……承認欲求が満たされるわよ~人々に感謝されて認められて……気分が悪くないわけないじゃない?」
「なにそれ……」
意外なことに、当初デボラはそういったことにあまり興味がないようだった。あくまでも自分基準だ。皆の憧れのお姫様になりたいわけではない。自分の欲望が叶えば他人はどうだっていい。聖女になるのも、アーロンと結婚する為に必要だからだ。
だが最近はアリソンに褒められてこっそり隠れて喜ぶ彼女がいる。なんの理由もなく褒められていたわけではなく、努力の裏打ちがあって褒められるというのはこれまで経験がなかったからだ。
ごくん。とお菓子を飲み込んで話を続ける。
「これで世間は思うわ! 預言者マレリオの預言、正しいんじゃない? デボラ様ってちゃんと聖女と資質あるじゃん! ってね」
(はぁ……ここまで長かった……)
ゴクゴクと豪快にお茶を喉に流し込むアリソン。そして何か考え込むデボラ。
(起こることがわかっていても、そう簡単にはいかないもんね~)
これまでの苦労を思い出す。うまく行ったと思った後の後始末の多いこと多いこと。最後まで気を抜けない。
「……貴女、それからどうするの?」
「ん?」
「私がマレリオ様の予言通りの聖女なら、貴女は偽聖女でしょう?」
(え!? 私の事心配してる!? ……なーんてね)
ニヤリと口角を上げ、どちらが悪役かわからないような表情だ。
「心配ご無用。どうするかは考えてるわ。……方法は秘密だけど!」
「チッ!」
方法を本来の悪役にバラしてなにもかも無駄にするわけにはいかない。
(まったく! 油断も隙もないわ!)
表向き仲良く過ごしてはいるが、決して弱みを見せてはいけない相手だ。
「そういえば、イザベラ様とのお茶会準備はもちろん大丈夫でしょうね」
「フン! 私を誰だと思ってるの!」
今度は少々顔がこわばっていた。口調ほど自信はないのだろう。
大聖堂での修行も終盤だ。アリソンとデボラは未来の聖女候補として現聖女イザベラとのお茶会と言う名の面談が待っている。それぞれ1人ずつ。
デボラの治癒能力はアリソンによる指導と本人の努力によってかなり向上していた。それでも到底アリソンには敵わないが、治癒師の能力でみれば十分だ。
「やっぱりイザベラ様に賄賂は効かなかったでしょ?」
「なんで知ってるのよ……」
(原作で読んだから~)
「まぁ、デボラ様のお家ってそういうの好きだし~」
「……。」
聖女イザベラは聖女という役職に誇りを持っている。賄賂なんて逆効果。なのになぜ原作でデボラを選んだかというと、単純に神殿内、王国内の混乱を防ぎたかったからだ。
彼女は何より国内の安定が大事だと考えている。余計な争いは少しでも避けるべきという思考の持ち主だ。
原作では偽聖女のレッテルが貼られていたアリソンより、真なる聖女と自他共に認めるデボラを選んだ方が問題が少ないと判断したのだ。例え能力がアリソンの方が上だとわかっていても。
「貴女だって、ちゃんとやれるんでしょうね!? 例え神殿内と世間が私を次期聖女と認めても、イザベラ様の指名がないとどうにもならないのよ!?」
「やだ~そんな風に言われたらプレッシャー感じちゃ~う」
ここをクリアする為にこれまで積み重ねてきたのだ。勝算は十分にある。
(イザベラ様の性格と好み、それから原作でデボラを選んだ決定的な理由が今も変わってなければ大丈夫……のはず!)
◇◇◇
「それで……本当に次期聖女の座を辞退するというの?」
「はい。散々目をかけていただいたのに申し訳ありません」
身体は弱っているはずだというのに、聖女イザベラは威厳と自信に溢れる姿だった。白銀の椅子に背筋を伸ばして座り、美しい動作で紅茶を口に含む。
アリソンは国王を前にするよりよっぽど緊張していた。彼女には全て見透かされているのではないかと不安になる。
「頭のいい貴女ならわかるわね。そんなこと、罷り通らないということを」
ゆっくりと、しかしキッパリとアリソンの目を見ながら。
どうやら聖女イザベラは、原作とは違いアリソンを後継者と考えたようだ。今のアリソンの世間の評価なら問題ないと判断した。
「貴女の現状を知らないわけではないわ。だけど貴女は予言通り歴代最高峰の力を持っている……」
現状とは主にアーロンのことだ。彼の女癖の悪さに苦労させられることが誰の目に見ても明らかなのだから。
「それでも、私がなるべきではありません」
今度はアリソンがイザベラの目を見つめてハッキリと告げる。
「……あのデボラ嬢の力を高めたのも貴女でしょう。後進を育てる力がもうあるだなんて」
「ご存知でしたか」
これに関しては、アリソンは敢えてバレるように特訓していた。デボラはプライドから可能な限り隠したがっていたが……。
(イザベラ様も努力でのし上がった人よ。天才型の私より、心情的にはデボラを応援したいはず)
が、同時に自分の気持ちだけで動かないイザベラには好感が持てる。
「デボラ様、それは一生懸命でした。あの負けん気はある種の才能です。次期王妃としても、それは必要になるかと」
姑息な手を使ってでも望みを叶える我の強さ、それがあればあのアーロンとやっていけるかもしれない。
(かも、だけど……)
「今の貴女でもそれは可能ではなくて?」
記憶が戻る前だったら到底無理だったが、今のアリソンならあの王太子すらコントロール可能だとイザベラは見破っている。
「愛があればもしかすれば……ですがもう……」
少し困ったように笑って見せる。
「……聖女の栄誉を捨てるというの」
今度は伏し目がちだった。イザベラも最初から答えはわかっているのだ。
「私は身勝手な女です。国民に愛されるより、自分自身に愛されたいのです。そのために、私はその栄誉を捨てなければなりません」
それを聞いてイザベラは小さな微笑みを浮かべ、それから大袈裟にため息をついた。
「はぁ~~~しばらくは荒れそうね……」
「大丈夫です。次期預言者はあのローガン様ですわ!」
「でもまだマレリオは若いのよ。世代交代はまだ……」
その言葉の途中、ハッと表情を変えた。
「アハハ! そうなの! 抜かりはないってことね」
「さぁなんのことでしょうか?」
とぼけながら微笑むアリソンに、イザベラはいつもの彼女からは考えられないほど大声をあげて笑っていた。
「デボラ嬢を呼んでちょうだい。少し脅しておきましょうかね」
イザベラとのお茶会の部屋へ向かうデボラはかつてないほど真っ青な顔になっていた。
(あ~就活を思い出すわね……)
アリソンはデボラを追いかけ、バチンと背中を軽く叩いた。
そして親指を立てて、
「グッドラック!」
ウィンク付きで励ます。
「はぁ? 意味不明なんだけど!」
そういつもの調子でぷりぷりとしながら、また元通り廊下を歩いて行った。
少しだけ足取りは軽くなったようだ。
37
お気に入りに追加
1,423
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました
あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢
しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。


そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる