辺境で厳しめスローライフ転生かと思いきやまさかのヒロイン。からの悪役令嬢入れ替わり？

前世の記憶は突然に。

思いついたことは色々やってみる。

　
　
　
　
　私はというと、これまたお父さんに、庭の隅に一畳分ほどを三方囲う高さ五十センチくらいの高さの板を設置してもらい、そこに庭の木のはっぱを集めて踏んだ。

　集めては踏み、芋や豆の茎や葉も混ぜて踏む。

　たぶんそのうち発酵する。

　希望的観測である。

　麦穂はほかに使い道があるのでこちらには回ってこなかった。


　収穫が終われば冬の準備だ。

　男たちは森に行って狩りをする。

　割と大きな獣も取ってきて、皮を剥いで敷物や布団にするし、肉は内臓まで干す。

　空っ風がすごいからあっという間に乾く。

　そんな風に冬支度に追われているうちに、冬が来る。


　うちは、お父さんが大工なだけあって、なかなかしっかりした家である、というのは、だいぶたってから知った。けれど、そこそこ隙間風は入ってくる。


　村の端っこ、森とは反対側のあたりに川があって、そのあたりにはちょっと粘土質っぽい土があったので、それを持って帰ってきて細かすぎて使えない麦穂と混ぜて隙間をふさいでみる。

　田舎のおばあちゃんちの壁がそんな感じだったんだよね。土に藁が入ってるの。


　そしたら一応、風が防げるようになった。

　素晴らしい！　と思ったのもつかの間、冬が来る前に必ず数回ある台風みたいな暴風雨のあと、私が塗った壁は強い風とたたきつける雨によって無残に溶けていた。


　またしてもしょんぼりである。



　しょんぼりしていた私の頭を数回なでて、お父さんは何か考えていた。



　農閑期の冬の間、村の子供たちは教会に集まって勉強を教わる。

　厳密に何歳からとは決まってないけれど、大体十歳くらいから。

　リリはちょうど今年から行く予定だったらしく、お父さんに勧められて行くことにした。

　ララも誘ったけど、去年行ったからもういいと断られてしまった。

　家でお母さんと縫物をしたりする方が楽しいみたい。

　代わりというかなんというか、レットがついてきた。


　この国の共通語は英語みたいな文字で、なかなか難解だったけど、いつも喋ってる言葉だからか前世で英語を習った時よりは何とかなった。

　計算は足し算と引き算のみ。それでも、繰り上がり、繰り下がりはみんな難しいようでつまずく子が多かった。

　紙はないので、木の板にチョークより少し硬い石でガリガリ書く。

　さすがに足し算と引き算はそれなりにできた。気づいたら神父さんに頼まれて教える立場になっていた。


「リリ！　お勉強楽しいね！」

　レットが本当に生き生きとお勉強している。二桁くらいなら暗算で足し算も引き算もできる。この子、天才じゃなかろうか。


　と。まあ、レットが別格なだけで、大体みんな勉強は嫌いらしい。


　どう頑張っても繰り下がりの引き算が苦手って子が多かったので、お父さんに道具を借りて細い枝を一センチくらいに切り、ブロックを作って持って行って、それを使って教えたところ、躓いていたのがウソみたいにみんな引き算マスターになった。

　レットはあっさり掛け算と割り算を覚えた。すごい。


　ただ、ほかのみんなについても十歳と言えば前世で小学四年生くらいだもんね、理解したら早いのは当たり前か。

　枝を切っただけのブロックは、はじいたりして遊ぶ道具にもなっていた。面白そうだから地面に双六を書いて、ブロックを駒にみんなでやったら大流行だった。


　そんなみんなを横に見て、私がはまったのは聖書である。

　この世界の神について書かれた本しかこの教会にはなかったからだ……紙は貴重だし、写本するのも大変だろうから仕方ない。

　わからない言葉を神父さんに教えてもらいながら、私はレットと一緒に熱心に本を板に書き写して文字を覚えた。


　この情熱、前世でも欲しかった。