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前世の記憶は突然に。

対、芋。

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 そんなこんながありながら、北の地にもやっと遅い春が来て、我が家も芋と麦と豆を植える段取りを始めていた。

 硬くてかさついた土を木の鍬で何とか掘り返し、畝を作る。

 そこに冬間ためにためた人糞を撒く。

 原始的だけど肥料はこれしかない。

 撒いたところで何とも栄養のなさそうな土……そして、三十分ほども歩けばたどり着くであろう位置にある、森。


 森は子供が行っていい場所じゃない。

 でもあの森には、絶対腐葉土がある。


 取りに行きたいけど、無理か。村長さんちでやらかしたばっかりである。家の周りに広葉樹が二本植わっているので、この秋にでもはっぱを集めておくよりほかにない。

 そうやって畑仕事を手伝っていて、いざ芋を植える時、お父さんもお母さんも、芋を丸々一個、土の中に埋めているではないか。なぜ切らない。

「え? お母さん、なんで、お芋切らないの? 一個ずつ植えたら、もったいないよ」

 エプロンの前を結わえた中に入れた芋を一つずつ埋めていくお母さんに聞くと、切った芋は腐りやすく、なかなか芽がでないんだとか。

 そうか、腐りやすいのか。

 田舎に住んでたおばあちゃんは切って埋めてたけどどうしてたっけ?

 切ってたよね、畑に芋を切るためだけに柄の折れた包丁が置いてあったくらいだし。


 なんかつけてた気がする。白っぽい粉。畑で刈り取った草や、収穫が終わった実のなる野菜の茎を燃やす場所のもの。



 灰だ!!!

 灰ならある。かまどに売るほどあるじゃないか!!

 お母さんにひと畝の半分くらいをもらって、私が芋を育てたいとお願いして、芋を分けてもらう。

 なんだっけ、芽が出そうなところをきちんと振り分けないとダメっておばあちゃんが言ってた気がする。


 もらった芋を台所に持って行って、場所を見ながら二つか三つに分けて、切った面にかまどから取った灰を付ける。

 そういえば、おばあちゃんはこの灰も畑にまいてなかったっけ。

 はなさかじいさんみたいだねって笑ったのを覚えてるぞ!


 灰を集める木製の塵取りを持って、畑に戻り、私がもらったところに撒いて、鍬を借りて混ぜる。

 あんまり混ざらないけど気分の問題である。


 そして、切って灰を付けた芋も埋める。そんな私をあきれた顔で家族が見ていたけれど、トイレを改善したおかげか、このくらいのエリアなら全滅してもなんとかなるのか、私の奇行をとがめる人はいなかった。ええ家族や。



 十日ほどしたあと。


 私が埋めた芋は全部芽吹いた。

 ちゃんと芽吹いた。


 しかも、芋を丸々一個植えたところより元気に。


 お父さんにやったことを説明したら、バンバン灰を撒いていた。

 あれって撒く時期があったような気がするけど……というのは杞憂で、そもそもやせこけた土地だからか、芋はそれなりにちゃんと育った。



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