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前世の記憶は突然に。
トイレの衛生はとても大事なので!
しおりを挟む「あのね! お父さん!! お願いがあるの!」
夕方、仕事を終えて家に帰って来たお父さんに、必死で組み立てた模型を見せる。
「トイレなんだけどね、まずね、出したものをためとく穴を掘るでしょ。今のは、その上に板を渡すけど、それだと時々落ちちゃう人がいて危ないじゃない? だから、穴の上に乗らないようにする方法を考えたの!」
壁に見立てた板には穴が開いている。その穴には、斜めにした板と、その両脇にも板を取り付ける。そこに用を足すと、自然と隣の穴の方に流れるって寸法だ。
落ち損ねた大きい方を押すためのT字型の棒もミニチュアを作った。
「水魔法が使えない人はこれで押したらいいし、水魔法が使える人は、出した水で流したらいいと思うの!」
この世界、平民の八割がたは水魔法を使えるけど、魔力量が少ないから出せても両手いっぱい程度。でも、流せないことはない。
「ここのとこにね、こんな感じでぱかぱかする板を付けといたら、溜まったものからの匂いもこっちに来ないと思うんだけど、どうしたらいいのかわからなくて……」
要するに上部固定のスイングドアなんだけど、前世で猫用の出入口とか、何度も見たことがあったはずなのに構造が全然わからなかったので、模型の穴側で、上固定のイメージで板をぱたんぱたんする。
お父さんは私が作った模型を難しい顔で縦横斜め、丹念に見てすぐに動いてくれた。
まずは我が家のトイレである。
今使っているトイレの横に、新しい掘立小屋を建て、私の模型よりちょっと角度がついた斜めの板を取り付け、数日使ってみる。
結構な角度だと思ったけど、素材が木だからか、思ったよりブツが流れなかった。
おしりを拭く綿も引っかかった。
何回か角度を上げて行って、六十度くらいにして、やっと流れやすくなった。
でもそれだと用を足すスペースが減るから板を長くしたり、下の方だけスイングするようにしたりと、お父さんは真剣にトイレを改良してくれた。
後ろ向きに座って安定するような便座も、なんとお父さんが思いついた。私、そこまで思い至らなかったのに。
試行錯誤の末、我が家のトイレは劇的に改善した。
もう全然怖くない! ほとんどくさくない! くさくないから隙間もいらないので、上の方に換気用のこちらもスイング式つっかえ棒で開けるタイプの窓までつけた。
「リリ、あんた、すごいの考えたね」
「うん、ずーっと考えてたんだ。トイレ怖いから」
夕食の手伝いをしながらララに言われて、そう答えておく。実際、記憶が戻る前のリリのトイレ嫌いは家族の中でも有名だったから。
家のトイレで、その使い勝手の良さを確認したお父さんは、これを村長さんのうちや教会につけていいかと私に聞いてきた。
「一回村長さんや神父さんにうちの使ってもらって、いいって言われてからだが。なんでってお前、リリが考えたもんだろうが」
「作ったのはお父さんだよ。便座も画期的!!」
「俺にはこんなもん考えもつかんかった。こういうのはな、考えたもんに権利ってもんがあるんだよ」
「そうなの? うん、じゃあいいよ! って言うか、ほかのお家でも使ってもらってよ。危なくないのが広まるのはいいことだよ!」
村長さんのお家はちょっとした村役場も兼ねてて、大勢の人が出入りしているし、教会も毎週のお祈りの日はもちろん、農閑期である冬には村の子供たちに無料の学校を開いてくれている。
今年のはもう終わっちゃったけどね。もうすぐ春だし、準備もあってだんだん忙しくなってくる。機械など何もないので子供も大事な労力なのだ。
そう言うところでいろんな人が使って、いいものだ、うちも欲しいって思ってくれて、この村の、いや、世界のトイレ事情がよくなればいい。
私はアウトプットしただけで、もともと地球の誰か頭のいい人が考えてくれたことだしね。
お父さんは私の頭をゴリゴリ撫でて、すごいやさしい顔をしていた。
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