辺境で厳しめスローライフ転生かと思いきやまさかのヒロイン。からの悪役令嬢入れ替わり？

前世の記憶は突然に。

諦めてはいなかったのである。

　
　
　
　
　リリの家族が住んでいるのは、大きな大陸のほぼ真ん中にあるレイヤード王国という、大陸で一番大きな国。

　私たちが住むのは、北の方。

　そこに先に住んでいた蛮族を打ち負かし、奪った土地。そこに開拓民として移住してきたのは五年ほど前。

　別に蛮族が攻め込んできたとかではなく、その奥の山から出る岩塩を独占したかったから、塩を出し渋る北の民を蛮族と蔑んで滅ぼしたってのが正解だと思う。

　王都は南寄りにあって、南北に広いらしく、南の方には海があるんだって。


　この村よりさらに北に三つ村がある。村と村の間は丸一日馬車移動するくらいの距離。塩の運搬と、それらを掘る奴隷運搬の中継点兼北方開拓として村が置かれている。


　塩の産地が近いおかげで、この村では砂混じりの低級品だけど、塩はそれなりに入手できる。

　ここは、風が強いから雪はそれほど積もらないけれど、一年の半分くらいが寒くて、土地も痩せていてなかなか作物が育たない。主たる農産物は芋、豆、そして麦。


　芋はジャガイモに似ていて、豆は大豆に似ている。麦は小麦。

　開拓民は移住から十年は税が軽減されるらしいけど、それでもカツカツの生活。

　うちは他よりちょっと余裕があるように見えるけど、育ち盛りの子供が四人。その実、カツカツ。


　リリたちが暮らす村は人口三百人くらい。ログハウスの簡易版みたいな家と、畑、森。森は動物のほかに魔獣もいて、子供は絶対近づいてはいけないと言われている。


　そんな村で、リリのお父さんは大工をしている。お兄ちゃんたちもお父さんの手伝いをしながら大工見習中。畑は、税を治めたら自分たちが食べる分ぎりぎり作っている。広めだけど、収穫量が低いからだ。


　村には突然どこからともなく開拓民になろうって家族が来るから、ほかにも数人大工さんはいるみたいだけど森から木を切りだしてくるところからなのでお父さんの仕事は結構忙しい。

　そんな忙しいお父さんに、私はどうしてもやってほしいことがあって、数日悩みはしたものの、お願いしてしまった。


　トイレの改修を。

　私の当初の不安通り、この村では結構子供やお年寄りがトイレに落ちる事故が起こっていた。

　しかも、年に数人は亡くなっているのだ。


　そもそも、衛生面もよろしくない。

　夏場にはよく食中毒らしい流行り病もあって、これまた子供やお年寄りが亡くなることも少なくない。辺境スローライフと言えば聞こえがいいけどこの世界、割と簡単に人が死ぬ。


　以前読んだことがあったんだ。

　発展途上の国に、安価でトイレを設置して衛生面を向上させるプロジェクトのことを。



　ただ、あれはプラスチックでできた簡易トイレの設置。この世界には当然だけど、プラスチックなどない。

　錬金術的な便利魔法もない。

　現在使える材料木材。それにぱったんと開閉する装置には錘が使われているんだろうとは想像できても詳しい構造まで覚えていない。


　なので、ここで調達できる材料を使って、似たようなものが作れないか、家の手伝いをしながら考えた。木材の端切れならあったので、それで模型を組んだりしながら。何とか形になったところでプレゼンテーションである。