辺境で厳しめスローライフ転生かと思いきやまさかのヒロイン。からの悪役令嬢入れ替わり?

神室さち

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前世の記憶は突然に。

優しい人はいたけど、それ以上に私の家族はアレだった。

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 一瞬、老後をどうするって考えたけど、自分の老後より、死後とはいえあいつらがウハウハ私の金にたかる想像のむかつき度の方が勝った。


 今こうして転生しているってことは、あの選択は間違ってなかった。


 祖母の葬儀後、私は二年務めた病院を辞めて、ためたお金で旅に出た。

 お金が続く限りの世界旅行。

 バックパックほど切り詰めず、ほどほどの宿に泊まりながら、現地の人と交流し、たまに騙されて小金を巻き上げられたり、バスを乗り過ごして途方にくれたり、知らないおばさんの家に泊めてもらったり、ラテンなノリのお兄さんにナンパされたり、偶然知り合った日本人と日本語を話して懐かしんだりしながら、三年近く旅行した。



 すっからかんになって帰国した私は、一応買ってきたお土産を渡そうと、従兄に連絡を入れた。繋がっている親戚は伯母と彼だけだったから。


 そして知る、衝撃の実家の事情。


 就職先が決まらないまま大学卒業後、しばらくして、妹は大手商社勤務のイケメンと結婚した。

 フーンオメデトウゴザイマス。

 私はふらふら海外をうろついていたので、連絡が取れず披露宴ではいなかったことにされていたが、従兄がちゃっかり酔ったふりして向こうの家族に虐げられて育った姉がいることをばらしてやったと自慢げに言っていた。


 いいぞ、もっとやれ。


 が、なんと妹、学生時代からの数人の男とまだつながってて、結婚後もヤっちゃってた。しかも、某掲示板伝説のナントカを地で行って、不倫したのは自分なのに慰謝料は女がもらえると思っていたらしい。


 協議離婚になったが、なんと妹、調停をすっぽかした。そしたらどうなるかって、こちらの非を全部認め、向こうが吹っ掛けた額全部支払いますよって意思表示になるとも知らず。


 さすがエリート商社マン。デキる弁護士を雇い、浮気の証拠を取り揃え、ものすごい額を吹っ掛け……請求金額としては妥当なギリギリの金額を請求され、父は早期退職し、退職金を得て、家を売って、それらの金を持って失踪した。

 私にとっての父は、空気である。母にとってはおそらくATMだったんだろう。母が私に必要以上にきつく当たり、時にしつけと称して体罰をふるっていても、黙って酒を飲み、プロ野球中継を見ているような人だった。

 妹にもそこまで関心があったようには思わないけれど、学校行事には母に言われて参加していたように記憶している。

 さすがに耐えきれなくなったんだろうけど、うまいこと逃げたな。

 というわけで、妹はちょっとヤバ目の金融取扱業者に多額の借金を負った。妹と母の贅沢に、貯金はほとんどなかったらしい。この時点の私にも、そんなものはなかったけどね。



 それでな、と、従兄の声音が一段階下がった。

 今、母と妹が血眼になって私を探している。育ててやった恩を金で返せってことらしい。

 看護師ならきっと儲けているはずって鼻息も荒く。

 何と二人とも、夜のお仕事にトライしたけど、すぐに辞めて現在に至るまでどんな仕事も長続きしておらず、おそらく借金は膨らむばかりだろうってのが従兄の見解だった。

 夜の仕事はなー あれは接待する側だから、ちやほやされたい側の妹には絶対不向きだし、あの母にも、誰かをもてなす能力があるかと言うと微妙。と言うか、あの二人は壊滅的に『仕事』に向いてないから無理だろう。

 どうやら母と妹だけでなく、妹の元夫側も父や私を探しているらしい、とのこと。そっちの方が捜査能力高そうだし見つかったらヤバそうだ。

 慰謝料むしり取れないのは気の毒だけど、そもそもなんであんな女に引っかかっちゃったんだよ。


 とにかく、どこからアシが付くかわからないので、会わない方がいい、という結論に至り、空港から一人暮らしをしている従兄の家に偽名でお土産を送るにとどめた。


 その後も従兄とは定期的に実家情報を教えてもらうという意味で連絡を取り合い、帰国後別の病院で働いて、お金がたまったら辞めて旅に出る生活。

 外国ばかり行っていた私だが、ある時就職した先で、登山の魅力に取りつかれた登山仲間に出会い、しっかり私も登山に取りつかれた。

 その後は国内の山を登りまくり、お金がたまったら仕事を辞めて、時々外国の山登りツアーに参加したり。やっぱり宵越しの金は持たない感じで楽しく生きていたんだ。


 そして、たぶん、死んだ。


 通帳の残高、いくら残ってたかな……一応、死んだら永代供養してもらえるプランでお寺と提携してる葬儀屋の会員になってたし、渋る従兄に若干の現金を預けていたので、金銭的な面で死後あまり迷惑をかけていないと思いたい。


 連絡先になってた従兄よ……すまぬ。預けていたお金では労力に見合わなかったかもしれない。


 あいつらに私の金をとられるのも嫌だけど、あいつらの金で死後弔われるのもごめんだからね。きっと従兄と伯母ならさらっとやってくれたに違いない。



 ほんとごめん。


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