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前世の記憶は突然に。
家族? そんなものは幻想だ。
しおりを挟むちょくちょくプレゼントを渡したりはしていたけれど、まだ何もできてなかった。
仕事にも慣れて、何とかもぎ取った長期休暇。祖母と一緒に旅行に行こうといろんな国を調べて、行先をヨーロッパに決めていた矢先だった。
そして、祖母の葬儀の後、親戚一同集まったところで、父の兄──伯父から思いもよらないことを言われた。
祖母が、孫全員にと、同額の定期を作ってくれていたのだ。定期には祖母の字で、孫の名前が書かれていた。額面は一人、三十万。孫は七人いて、みんな同じ。
家は、誰が継いでもいい。家を継いだものが、少ないが普通預金の残高を受け取るようにというのが、祖母の遺言で、父の兄弟で話し合い、伯父が継ぐことに決まった。
私の名前が書かれた定期を見て、枯れたと思っていた涙がまたあふれた。そんな私を見て、妹が、何ともいやらしいにやにやした笑みを浮かべて言ったのだ。
「ふふふ。アンタ、おばあちゃんに自分が一番かわいがられてたつもりだった? ざんねーん。みーんなおんなじでした! 私もね!」
同じ部屋にいた従兄が、妹をたしなめようとするのを止める。
「そんなの、当たり前でしょ。おばあちゃんは孫を差別するような人じゃなかったんだから」
私の言葉に、いとこたちが異口同音で同意したので、妹はそそくさと母のいる部屋に逃げて行った。
私が家族に虐げられていたことは、親戚一同が知るところで、父の兄嫁──伯母などは集まりがあるたびに母にちくちく言ってくれていたけど、私が止めてもらった。
伯母にイヤなことを言われた母のうっぷん晴らしは私に向かうので。
でも気にかけてくれていたのはうれしかった。
ほとんど服を買ってもらえない私に、従兄のだけどお下がりをくれた。
むしろ男の子服は妹に取られる心配もなかったのでありがたかったし、それにそっと挟み込んで、妹が好みそうにないシンプルな新品の下着も入れてくれていた。靴下は地味にありがたかったなぁ
集まっていた誰にも、祖母が学費を出してくれていたことは黙っておいた。
もしかしたら伯父と伯母あたりは、祖母の遺産の額から気づいていたかもしれないけれど、それについて何も指摘されなかった。
どこから情報が洩れて、母や妹が暴れだすかわからないから、気づいていても言わなかったんだろうと思う。
あとから従兄が教えてくれたんだけど、伯父と伯母はあまりにも私の扱いが悪いのを見て、何度か自分たちが引き取ろうとしてくれていたのだが、母が頑として拒否したのでかなわなかったのだそうだ。
成長して働くようになったら搾取するのが目的だったのだろうと言うのが、伯父伯母、従兄、私の統一見解である。
実際、就職するとすぐ『育ててやった恩を返せ』と金の無心をされたけど、奨学金の返済に消えてそっちに回す金などないと着信拒否した。
学費を出してくれた祖母へのお返しのための貯金である。嘘ではない。
祖母の残してくれた三十万を見ながら、ハタと気づいてしまったのだ。
もしも私がお金を残して先に死んだら、私のお金はあいつらの懐に入ってしまうということに。
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