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前世の記憶は突然に。
みんなやさしい。
しおりを挟む「ううん。大丈夫。おいしいもの食べて、ああ、私、生きてるんだなって思ったら、すごく、うれしくて」
ぽろりと、意図せず涙がこぼれた。泣くつもりなんてなかったのに。
「リリ、お前が泣くなんて……」
お父さんがびっくりした顔をしてつぶやいた。
「俺たちも、リリが目を覚ましてくれて、すごくうれしいよ」
ヤッドが背中をなでてくれる。
「ものすごい熱だったもの……つらかったわよね。それを飲んだらゆっくり休んで。きっと朝には元気になるわ」
お母さん、めっちゃ優しい。
前の人生で幼少期から熱を出しても放っておかれた記憶がよみがえって余計泣けてきた。
その隣に座っていたララは、ちょっと泣きそうな困ったような顔をしている。
「もう! 泣かないでよ。調子狂っちゃう」
「そうだよ、泣かなくていいよ、リリ!」
「そうだな! こうして生きていてくれているだけで充分だ!!」
がははははと髭の中の大きな口を開けて、お父さんが笑って、ほかのみんなもつられてちょっとだけ笑う。
そうだ、ティッドとララの間の一人と、私とレットの間の一人。
幼くして死んじゃった姉と弟がいる。
すごい話だけど、お母さんはほぼ毎年一人産んでる。
ここは王国の最北。まだまだ開拓途上のの寒村で、耕作に不向きな痩せた土地。厳しい生活だから、子供はちょっとしたことで簡単に死んじゃうんだ。
どうしよう、リリの家族ほんとにやさしい。これまでの十年の記憶思い出しても、ほんとにいい家族すぎる。
そして、前世の家族がクズ過ぎて泣けてくる。
「……うん、みんなありがとう……」
ぺこりと頭を下げると、大きな手がワシワシと頭をなでてくれた。
「もう! いっつも変なこと言って困らせてくるリリが素直とか! 熱でどこかおかしくなった?」
「ララったらもう」
ララがおどけたように肩をすくめて、そんな様子をお母さんがちょっとだけ諫めて、兄たちがララに同調して笑っている。
うん、ごめんねララ。
確かに私、前世のことしっかり思い出してなかったのに妙な違和感持ってて、あれこれ変なこと言ってたよね……たぶんこれからも変なことする。
前世のことまるッとしっかり思い出したけど、この素敵な家族の一員になれるようにはなりたい。
涙も引っ込んで、引き続きスープを飲む。
いつもより豪勢なスープにはすいとんみたいな小麦粉を溶いた団子みたいなものも入っていて、大きな器一杯飲めばおなかぱんぱんだ。
おなかがいっぱいになれば、当然の生理現象。
「リリ、もしかしてトイレ? やっぱりトイレ、怖い?」
ララが器を片づけるふりをして近づいてきて、こそっと聞いてくれたのでこくんと頷いたら、一緒に行ってくれるという。ええお姉ちゃんや。
「ほら、こっち」
皮のサンダルを履いて、家の外に連れ出される。外はびょうびょうと風が吹いていて寒かった。トイレは外なのだ。家から数メートル離れたところにある掘立小屋。
「待っててあげるから済ませといで」
ギィと扉を開けると、何とも言えないにおい。それもそのはず、穴を掘った上に板を渡しただけだのた。めちゃくちゃ怖い。
「怖くてもここしかないんだから。ほら、さっさと済ませちゃって」
前世思い出したらさらに恐怖が増したよ!
ボットンより悲惨なトイレ事情!
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