上 下
19 / 64
前世の記憶は突然に。

みんなやさしい。

しおりを挟む
 
 
 
 
「ううん。大丈夫。おいしいもの食べて、ああ、私、生きてるんだなって思ったら、すごく、うれしくて」

 ぽろりと、意図せず涙がこぼれた。泣くつもりなんてなかったのに。


「リリ、お前が泣くなんて……」

 お父さんがびっくりした顔をしてつぶやいた。

「俺たちも、リリが目を覚ましてくれて、すごくうれしいよ」

 ヤッドが背中をなでてくれる。

「ものすごい熱だったもの……つらかったわよね。それを飲んだらゆっくり休んで。きっと朝には元気になるわ」

 お母さん、めっちゃ優しい。

 前の人生で幼少期から熱を出しても放っておかれた記憶がよみがえって余計泣けてきた。

 その隣に座っていたララは、ちょっと泣きそうな困ったような顔をしている。


「もう! 泣かないでよ。調子狂っちゃう」

「そうだよ、泣かなくていいよ、リリ!」

「そうだな! こうして生きていてくれているだけで充分だ!!」

 がははははと髭の中の大きな口を開けて、お父さんが笑って、ほかのみんなもつられてちょっとだけ笑う。


 そうだ、ティッドとララの間の一人と、私とレットの間の一人。

 幼くして死んじゃった姉と弟がいる。

 すごい話だけど、お母さんはほぼ毎年一人産んでる。

 ここは王国の最北。まだまだ開拓途上のの寒村で、耕作に不向きな痩せた土地。厳しい生活だから、子供はちょっとしたことで簡単に死んじゃうんだ。


 どうしよう、リリの家族ほんとにやさしい。これまでの十年の記憶思い出しても、ほんとにいい家族すぎる。


 そして、前世の家族がクズ過ぎて泣けてくる。


「……うん、みんなありがとう……」

 ぺこりと頭を下げると、大きな手がワシワシと頭をなでてくれた。

「もう! いっつも変なこと言って困らせてくるリリが素直とか! 熱でどこかおかしくなった?」

「ララったらもう」

 ララがおどけたように肩をすくめて、そんな様子をお母さんがちょっとだけ諫めて、兄たちがララに同調して笑っている。

 うん、ごめんねララ。

 確かに私、前世のことしっかり思い出してなかったのに妙な違和感持ってて、あれこれ変なこと言ってたよね……たぶんこれからも変なことする。

 前世のことまるッとしっかり思い出したけど、この素敵な家族の一員になれるようにはなりたい。


 涙も引っ込んで、引き続きスープを飲む。

 いつもより豪勢なスープにはすいとんみたいな小麦粉を溶いた団子みたいなものも入っていて、大きな器一杯飲めばおなかぱんぱんだ。


 おなかがいっぱいになれば、当然の生理現象。

「リリ、もしかしてトイレ? やっぱりトイレ、怖い?」

 ララが器を片づけるふりをして近づいてきて、こそっと聞いてくれたのでこくんと頷いたら、一緒に行ってくれるという。ええお姉ちゃんや。


「ほら、こっち」

 皮のサンダルを履いて、家の外に連れ出される。外はびょうびょうと風が吹いていて寒かった。トイレは外なのだ。家から数メートル離れたところにある掘立小屋。


「待っててあげるから済ませといで」

 ギィと扉を開けると、何とも言えないにおい。それもそのはず、穴を掘った上に板を渡しただけだのた。めちゃくちゃ怖い。


「怖くてもここしかないんだから。ほら、さっさと済ませちゃって」

 前世思い出したらさらに恐怖が増したよ!

 ボットンより悲惨なトイレ事情!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...