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前世の記憶は突然に。
家族だ。
しおりを挟むぱちくり。
一瞬しか寝てないようで、でも体はすっきり回復している。
もぞもぞと毛皮の布団から起きだすと、炉端にいた人たちが一斉にこちらを向いた。
もしゃもしゃのひげを生やした熊みたいに大きな男の人は、お父さんだ。その両隣にいるのは、一番上の兄のヤッドと、その下のティッド。うん、知ってる。お兄ちゃんたち。
「リリ、目が覚めたのね。気分はどう?」
お母さんが優しい声音でそう言いながらこちらにやってくる。
と言っても、家はそんなに大きくない。ざっくりみて十二畳ほど。
昔の日本の家みたいに、三分の一くらいが土間で、囲炉裏は土間と板間の間にしつらえられている。板間の真ん中に寝かされていた。
「昼間お父さんとヤッドとティッドが鳥を捕ってきてくれたのよ。柔らかくなるまで煮込んだの。あっちで食べましょう」
兄たちがお互いの間を開けて、寝ていた場所から一番近いところを開けて、ここにおいでと手招きしてくれる。
案外ちゃんと立ち上がれたので、二人の隙間にちょこんと座る。
足も小さい。あと、着ている服はひざくらいまでのワンピースみたいだ。
その中にズボンをはいていた。違和感があるのはパンツをはいていないからか……
「はい、リリ。熱いから気を付けて」
そう言って器を差し出してくれたのは、ララだ。
「ララは気が利くな!」
お父さんが、そう言ってにこにこしている。
そうだ、お父さんはぱっと見熊みたいで怖いけど、誰にでもすごく優しい人。
前の父親と違って、家族をとても大事にしてくれる人。
心の中でいただきますをしてスープを飲むと、塩味と野鳥のうまみがしみだしていて、すごくおいしかった。
「おいしい」
「だろう! リリのために苦労してとってきたんだからな!」
お父さんの向こうに座ったティッドが得意げに言う。
「ティッドは寒い寒いって言ってただけじゃん。リリ、その鳥は俺が仕掛けた罠にかかってたんだ」
「……ふたりとも、ありが、とう」
なんだか、おなかと一緒に心まで温かい。
そうだ、今の私はリリ。
貧しいけど、優しい家族に囲まれて暮らしている、十歳の女の子だ。
お父さんとお母さんは、たぶんまだ三十歳くらい。ヤッドが十五、ティッドが十四、ララが十二で、私リリが十。弟のレットは八つ。
理由はわからないけれど、たぶん、熱を出して寝込んで、前世を思い出しちゃった感じ?
これはよく読んでいた異世界転生とか言うのかしら。
当然だけどリリの記憶もある。
前世の最後の記憶は趣味の登山に行く途中で途切れている。
山まで到達する前なので、遭難してないと思う。
どうやって死んだか覚えてないから全然実感ないけど。
「リリ、まだしんどい?」
そのまま黙ってスープを飲んでいたら、レットの心配そうな声が聞こえる。
顔を上げたら、家族がみんな、心配そうな顔でこっちを見ていた。
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